国の集団予防接種を原因として、B型肝炎ウイルスに持続感染した場合、B型肝炎訴訟によって給付金を受け取れます。

現在のところ、被害者全体に対して、給付金を受給済みの方が占める割合は非常に小さい状況(10~20%)です。

そのため、集団予防接種によるB型肝炎ウイルスへの感染に心当たりがある方は、一度弁護士への相談をおすすめします。

本記事では、B型肝炎給付金を受け取るための手続き・受給資格・和解要件・給付金額などについて、詳しく解説します。

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この記事を監修した医師
阿部由羅
阿部由羅
阿部 由羅(ゆら総合法律事務所)
西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て、ゆら総合法律事務所代表弁護士。不動産・金融・中小企業向けをはじめとした契約法務を得意としている。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。

B型肝炎訴訟とは|訴訟に発展した経緯と概要

B型肝炎訴訟は、国が実施していた集団予防接種等を原因として、B型肝炎ウイルスに持続感染した患者を救済するための給付金審査をおこなう訴訟です。

集団予防接種を原因とするB型肝炎ウイルスへの持続感染被害が発生

かつて国によっておこなわれていた集団予防接種では、注射器の使いまわし(連続使用)がおこなわれていました。

その結果、B型肝炎ウイルスに汚染された注射針・注射筒を用いて接種を受けた児童が、B型肝炎ウイルスに持続感染する事態が発生しました。

※持続感染=感染した病原体が体内から排除されず、感染状態が継続すること

さらに集団予防接種による一次感染者からの母子感染・父子感染によって、その子どもにまで感染が拡大し、B型肝炎患者が大幅に増加する事態となりました。

集団訴訟の結果、被害原告団と国が和解

このような集団予防接種によるB型肝炎ウイルスへの持続感染被害につき、被害者が国の責任を主張し、国家賠償を求めて提訴しました。

平成18年6月16日に、最高裁が国の責任を肯定したことを受けて、B型肝炎訴訟を提起する動きは全国に波及しました。

その後、札幌地方裁判所において和解案が提示され、国と全国の原告団は和解案を互いに受け入れます。

この和解案をベースとして、国と全国の原告団の間で、和解に関する基本合意書、基本合意書の運用について定めた「覚書」を締結し、基本的な合意がなされました。

参考:厚生労働省|基本合意書

現在は和解制度に基づき、国から給付金を受給できる

現在は、国と全国の原告団が締結した基本合意書に沿った和解制度が確立されています。

集団予防接種等によってB型肝炎ウイルスに持続感染した方は、B型肝炎訴訟で所定の和解要件を立証することで、国から給付金を受け取れるようになったのです。

B型肝炎訴訟によって得られる給付金額は最大3600万円

B型肝炎訴訟で得られる給付金は、病態の内容・程度と、除斥期間の経過の有無によって、以下のとおり決まっています。

 除斥期間が経過していない場合除斥期間が経過した場合
死亡・肝がん・肝硬変(重度)3600万円900万円
肝硬変(軽度)2500万円600万円(治療継続中の場合)300万円(それ以外の場合)
慢性B型肝炎1250万円300万円(治療継続中の場合)150万円(それ以外の場合)
無症候性キャリア600万円50万円

死亡・無症候性キャリア以外の場合、病態の内容・程度について、医師の診断書を用いて立証することが必要です。

「除斥期間」とは、不法行為に基づく損害賠償請求権が消滅する期間として、旧民法で定められていたものです(現行民法では消滅時効。民法724条2号)。

本来であれば、除斥期間が経過すれば、国の被害者に対する損害賠償義務は消滅します。

しかし和解の基本合意書では、被害者救済の観点から、除斥期間経過後であっても給付金の支払いが認められています。

ただし、除斥期間経過後の給付金額は大幅に減額されてしまうので、できる限り早めに対応しましょう。

なお、新たな症状を発症した場合には、その時点から新たに除斥期間が進行します。

症状別の除斥期間は以下のとおりです。

  • 無症候性キャリア:集団予防接種を受けた日(二次感染者については出生時)から20年
  • 肝がん・肝硬変・慢性B型肝炎:発症日から20年
  • 死亡:死亡日から20年

参考:厚生労働省|給付金等の内容

B型肝炎訴訟で給付金を受け取るための手続き

B型肝炎訴訟を提起して、実際に給付金を受け取るまでの大まかな流れは、以下のとおりです。

1.国に対して国家賠償請求訴訟を提起する

B型肝炎給付金の請求は、国家賠償請求訴訟の枠組みを通じておこないます。

国家賠償請求訴訟とは、国の行為によって生じた損害について、国に賠償を求める訴訟手続きです。

裁判所に対して、国の責任を基礎づける事実などを記載した訴状を提出することで、国家賠償請求訴訟(B型肝炎訴訟)を提起することができます。

訴状の例

訴状の例

ダウンロード:提出編掲載の訴状例[Word形式:35KB]

訴状の作成方法がわからない場合は、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

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2.訴訟の中で和解要件を立証する

国家賠償請求訴訟では、原告の請求を基礎づける事実について、証拠を用いて立証する必要があります。

B型肝炎訴訟の場合、基本合意書の中で和解要件は類型化されているので、基本合意書の規定に沿って和解要件を立証すればよいことになっています。

和解要件の立証に必要な証拠についても、要件ごとにある程度パターン化されています。

官公庁の公表資料である「B型肝炎訴訟の手引き」も併せてご参照ください。

参考:B型肝炎訴訟の手引き 第5版|厚生労働省

3.国との和解が成立する

所定の和解要件をすべて立証することに成功した場合、国との間で和解が成立します。

得られる和解金(給付金)の金額は、後述するように、病態の重さや除斥期間の経過有無によって決まります。

和解の結果は「和解調書」に記載され、原告と国の双方に対して法的拘束力を生じます。

4.社会保険診療報酬支払基金に給付金を請求する

国との和解が成立した場合、被害者は和解調書の正本を用いて、社会保険診療報酬支払基金に対して給付金の支払いを請求できます。

請求先や請求書の様式などは、以下の社会保険診療報酬支払基金ホームページをご参照ください。

参考:特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等支給に関するもの|社会保険診療報酬支払基金

B型肝炎訴訟で給付金を受け取る資格のある人は?

B型肝炎訴訟で給付金を受け取ることができるのは、「一次感染者」「二次感染者」「三次感染者」と、これらの者の「相続人」です。

一次感染者

自身が集団予防接種を受け、その結果としてB型肝炎ウイルスに持続感染した場合には、B型肝炎給付金を受け取れます。

一次感染者は、国による集団予防接種の直接的な被害者といえるので、当然B型肝炎給付金を受け取る資格があります。

二次感染者(一次感染者からの母子感染・父子感染)

B型肝炎ウイルスは、出産時に母子感染することで知られています。

そのため、一次感染者から母子感染した者も、B型肝炎給付金の対象とされています。

また、乳幼児期に口移しで食べ物を与えたりした場合などには、唾液中のB型肝炎ウイルスが子に感染することがあります。

そのため、平成26年1月24日以降は、父子感染者についてもB型肝炎給付金の対象となりました。

三次感染者(二次母子感染者からの母子感染・父子感染)

平成28年6月16日に、二次母子感染者である父親からの三次感染者に対して、国が3600万円の和解金を支払う内容の和解が成立しました。

参考:B型肝炎訴訟、母子・父子の三次感染で初の和解|朝日新聞デジタル

この和解をきっかけとして和解制度が改正され、現在では二次母子感染者からの三次感染者も、B型肝炎給付金の対象となっています。

上記対象者の相続人

一次感染者・二次感染者・三次感染者が、給付金を受け取らないまま亡くなった場合、相続人が給付金請求権を相続します。

この場合には、相続人にB型肝炎給付金の受給資格が認められます。

B型肝炎訴訟で給付金の受給資格を満たすための要件と必要な証拠

B型肝炎給付金を受け取るための要件は、受給資格ごと(一次感染者・二次感染者・三次感染者・相続人)に類型化されています。

また、各要件の立証に必要な証拠も類型化・定型化されているので、以下を参照して対応する証拠を集めましょう。

なお、具体的な事情によっては、下記以外に証拠の提出を求められることもあります。

その場合には、弁護士に相談しながら対応しましょう。

一次感染者の場合

一次感染者がB型肝炎給付金を受け取るための要件と、各要件の立証に必要な証拠は、以下のとおりです。

(1)B型肝炎ウイルスに持続感染していること

医療機関で血液検査を受け、その結果が記載された書面を提出します。

結果書面には原則として、以下の2つのいずれかの検査結果が記載されている必要があります。

  1. 6か月以上の間隔を空けた2時点における、以下のいずれかの検査結果
    ・HBs抗原陽性
    ・HBV-DNA陽性
    ・HBe抗原陽性
  2. HBc抗体陽性(高力価)を示す検査結果

ただし、上記の検査結果が得られていなくても、医学的知見を踏まえた個別判断により持続感染の事実が認定される可能性があります。

(2)満7歳になるまでに集団予防接種等を受けていること

(3)集団予防接種等における注射器の連続使用があったこと

和解の基本合意書において、国の責任期間は昭和23年(1948年)7月1日から昭和63年(1988年)1月27日までとされています。

よって、上記の期間に集団予防接種等を受けたことを示すために、(2)および(3)の事実を立証する必要があります。

(2)および(3)の事実の立証には、「母子健康手帳」か、市区町村に保存されている「予防接種台帳」を証拠として用いるのが原則です。

もしいずれも提出できない場合には、以下の証拠をすべて提出する必要があります。

  1. 母子健康手帳を提出できない旨の陳述書
  2. 集団予防接種等に関する陳述書
  3. 接種痕意見書
  4. 満7歳になるまでの居住歴が確認できる住民票または戸籍の附票の写し
    ※④が提出できない場合、以下の2点で代用可能
    ・戸籍の附票の不存在証明書
    ・幼稚園、小学校の卒園、卒業証明書

(4)母親からの感染(母子感染)でないこと

母子感染者もB型肝炎給付金を受給できますが、一次感染者とは別の和解要件が設定されています。

よって、一次感染者として和解するためには、母子感染でないことを立証することが必要です。

具体的には、母親の血液検査結果から、母親がB型肝炎ウイルスへの持続感染者でないことを立証します。

そのためには、以下の両方の検査結果が必要です。

  1. HBs抗原陰性
  2. HBc抗体陰性または低力価陽性

母親が死亡していて、血液検査の結果が得られない場合には、年長のきょうだいの血液検査結果を用いることが認められています。

年長の兄弟の血液検査結果も得られない場合には、医学的知見を踏まえた個別判断となりますので、母親の医療記録をできる限り集めて提出しましょう。

(5)その他集団予防接種等以外の感染原因がないこと

B型肝炎被害に関する国の責任を主張するには、集団予防接種等による感染以外に、B型肝炎ウイルスへの持続感染を引き起こし得るルートの可能性を否定する必要があります。

具体的には、以下の3つの事実を立証しなければなりません。

  1. 集団予防接種等とは異なる原因の存在が窺われる資料がないこと
    原則として、以下の4つの証拠によって立証します。
    ・肝疾患に関する、提訴日前の1年内の医療記録
    ・持続感染判明時以降1年分の医療記録
    ・肝炎発症時以降1年分の医療記録
    ・肝疾患に関する、入院中のすべての医療記録または退院時要約
  2. 父親からの感染(父子感染)でないこと
    父親の血液検査結果から、父親がB型肝炎ウイルスへの持続感染者でないことを立証すれば、父子感染は否定されます。
    父親がB型肝炎ウイルスへの持続感染者でないことを示すには、以下の両方の検査結果が必要です。
    ・HBs抗原陰性
    ・HBc抗体陰性または低力価陽性
    父親が持続感染者である場合は、さらに一次感染者と父親のB型肝炎ウイルスの塩基配列を比較し、同定されないことを確認します。
    この場合、HBV分子系統解析検査の結果を提出することが必要です。
    もし父親が死亡しており、血液検査の結果が得られない場合には、その旨の陳述書を提出します。
  3. 持続感染しているB型肝炎ウイルスが、ジェノタイプAe型でないこと
    ジェノタイプAe型については、幼少期以降でも10%前後が持続感染化するため、和解制度の対象外とされています。そのため、HBVジェノタイプ判定検査(+サブジェノタイプ判定検査)の結果を提出して、持続感染しているB型肝炎ウイルスがジェノタイプAe型でないことを立証する必要があります。

二次感染者の場合

二次感染者がB型肝炎給付金を受け取るためには、母子感染(父子感染)の事実を立証するために、以下の証拠を提出する必要があります。

(1)母親(父親)が一次感染者の要件を満たすことを証明する資料

親が一次感染者であることを示すために、親について4.1で掲げた証拠を提出します。

もし親が死亡している場合には、資料が不足することが多いです。

その場合の対応は、弁護士にご確認ください。

(2)自分のB型肝炎ウイルス検査の結果

二次感染者自身が、B型肝炎ウイルスに持続感染していることを示すため、直近の検査結果を提出する必要があります。

検査結果に関する書面には、原則として以下のいずれかの記載が必要です。

  1. 6か月以上の間隔を空けた2時点における、以下のいずれかの検査結果
    ・HBs抗原陽性
    ・HBV-DNA陽性
    ・HBe抗原陽性
  2. HBc抗体陽性(高力価)を示す検査結果

(3)母子感染(父子感染)であることを示す証拠

一次感染者である親から母子感染(父子感染)したことを示すために、以下の2つの証拠を提出します。

  1. 二次感染者が、出生直後にB型肝炎ウイルスに持続感染していたことを示す資料
  2. HBV分子系統解析検査の結果(二次感染者と親のB型肝炎ウイルスの塩基配列を比較)

三次感染者の場合

三次感染者がB型肝炎給付金を受け取るための要件も、基本的には二次感染者のものとパラレルになっています。

  1. (1)母親(父親)が二次感染者の要件を満たすことを証明する資料
    親が一次感染者であることを示すために、親について4.2で掲げた証拠を提出します。もし資料が不足する場合は、やはり弁護士に相談して、対処法を検討することをお勧めいたします。
  2. (2)自分のB型肝炎ウイルス検査の結果
  3. (3)母子感染(父子感染)であることを示す証拠
    二次感染者の場合と同様に、自身がB型肝炎ウイルスに持続感染しており、それが母子感染または父子感染であることを立証する必要があります。

相続人の場合

相続人がB型肝炎給付金を受け取るためには、その前提として、被相続人の受給資格(一次感染者・二次感染者・三次感染者)を示す証拠を提出する必要があります。

それぞれの受給資格を立証するために必要な証拠は、4-1から4-3をご参照ください。

さらに、自らが相続人であることを示す証拠(戸籍全部事項証明書など)を併せて提出し、相続人としての受給資格を立証することになります。

B型肝炎訴訟における注意点

B型肝炎訴訟を提起する場合、立証の方法や提訴の時期について、以下の各点に留意しながらご対応ください。

医学的な立証が必要

B型肝炎ウイルスへの感染経緯や病態については、医学的な立証が求められます。

法律上の立証が成功するかどうかという観点を踏まえて、医師とコミュニケーションをとりながら、診断書などの必要書類を集めることが必要です。

追加資料の提出を求められる場合もある

和解制度によって、証拠資料は大部分が類型化されています。

しかし何らかの事情によって証拠が不足してしまう場合や、立証上の疑義がある場合などには、追加で証拠の提出を求められる可能性があります。

その際には、裁判所の指示に従いながら、臨機応変の対応が必要です。

除斥期間・提訴期限に注意|早めの対応を

20年の除斥期間を経過すると、被害者が受け取れる和解金は大きく減ってしまいます。

また、現状の制度では(延長される可能性はあるものの)2022年1月12日が提訴期限とされています。

上記の除斥期間や提訴期限を考慮すると、B型肝炎被害に心当たりがある場合には、早めに提訴の準備へと着手することが大切です。

B型肝炎訴訟は弁護士へのご相談がおすすめ|弁護士費用も一部国が補助

B型肝炎訴訟は、被害者ご自身でも提起することが可能ですが、弁護士に依頼する方がスムーズに手続きを進められます。

弁護士は、感染経緯や病態に関する医学的な立証のポイントを踏まえながら、適切に証拠収集をおこなうことができます。

その結果、適正な額の給付金を受給できる可能性が高まるでしょう。

また、国の和解制度の定めにより、給付金の4%相当額が弁護士費用として補助されることになっています。

さらに、B型肝炎訴訟については着手金なし・完全成功報酬制を採用している法律事務所も多いので、費用面での不安は少なくなっています。

国の集団予防接種等を原因とするB型肝炎被害にお悩みの方は、ぜひお早めに弁護士までご相談ください。

さいごに

B型肝炎ウイルスに持続感染している方は、国の集団予防接種等が原因ではないかを疑いましょう。

もし国の集団予防接種等が原因である場合には、B型肝炎訴訟を提起して、国から給付金を受け取れる可能性があります。

B型肝炎訴訟の準備や手続きは、弁護士に依頼することでスムーズに進められますので、ぜひお気軽に弁護士までご相談ください。

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