【弁護士解説】「退職代行モームリ」に何が起きた?退職代行は「今」使っても大丈夫?
会社を辞めたいと思っても、自分からなかなか言い出せない方は多いです。そんなときに役立つのが、退職代行です。
しかし、2025年10月22日(水)に退職代行の最大手である「退職代行モームリ」が弁護士法違反の疑いで家宅捜索を受けたというニュースが報じられました。
退職代行を確実に成功させたいなら、弁護士(法律事務所)への依頼が最も安全です。弁護士による退職代行は違法性のリスクがありません。
費用は約5万円と、民間企業の相場2万円程度と比べるとやや高めですが、会社が退職条件で揉めた場合もそのまま交渉を任せられることを考えれば、この差額は妥当と言えるでしょう。
本記事では、堤法律事務所の中谷 真一郎先生監修のもと、「退職代行モームリ」に何があったのか、その法的な問題点を深掘りしつつ、今、私たちが本当に安心して利用できる退職代行サービスはどれなのか、その見極め方を弁護士が徹底的に解説します。
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「退職代行モームリ」に家宅捜索が入る
2025年10月22日(水)、退職代行サービス「退職代行モームリ」を運営する株式会社アルバトロスなどが、弁護士法違反(非弁行為・非弁提携)の疑いで警視庁の家宅捜索を受けました。
「モームリ」は、「即日退職OK」「LINEで完結」「24時間対応」といった手軽さに加え、「弁護士監修」「労働組合提携」を大々的に打ち出すことで、法的にも安全であるという「安心感」を演出し、多くの利用者を獲得していました。テレビCMなどのメディア露出も積極的に行い、業界の「顔」とも言える存在でした。
その代表的なサービスが、法律違反の疑いで捜査対象となった事実は、業界全体が抱える構造的な問題を浮き彫りにしたと言えます。
捜査関係者によりますと、「モームリ」の運営会社「アルバトロス」が退職の意思を伝える「退職代行」の仕事を違法に弁護士にあっせんし、紹介料を受け取った疑いなどがもたれているということです。
「退職代行モームリ」に何があったのか
今回の退職代行モームリの件で問題となっているのは、弁護士法第72条に違反する行為があったかどうかです。
弁護士法は、法律事務の専門家である弁護士にのみ、報酬を得て法律事務を行うことを許可しています。これは、高度な専門知識を持たない者が他人の法律問題に介入し、かえってその人の権利を害したり、トラブルを助長したりすることを防ぐために定められています。
重要なのは、退職代行サービスそのものが違法とされたわけではないという点です。
具体的には、以下の2点が今後問題になっていくと思われます。
弁護士事務所への紹介料を支払う「周旋」「非弁提携」
報道によると、直接的な容疑とされているのは、「非弁提携(周旋)」です。

自分の顧客を弁護士に斡旋し、その対価としてお金や物を受け取ったり接待を受けていた場合、「違法な非弁行為」として弁護士法第72条違反に問われることになります。今回は、その事実があるかどうかについて、警察の捜査が入ったものです。
これは、民間業者が依頼者(顧客)を特定の弁護士に紹介(斡旋)し、その見返りとして、弁護士から「紹介料」や「広告料」といった名目で金銭などの利益供与を受けることを指します。
民間業者は前述のとおり「交渉」ができません。そのため、「未払い残業代を請求したい」「パワハラの慰謝料を取りたい」といった、明らかに法律事務が必要な相談が依頼者からあった場合、「うちでは対応できません」と断るのが本来の姿です。
しかし、そこで「提携している弁護士を紹介します」と特定の弁護士へ誘導し、その紹介(斡旋)の対価として弁護士側から報酬を得ていたとすれば、それは違法な「非弁提携」にあたります。
「弁護士提携」という言葉は、一見すると利用者に安心感を与えます。しかし、その実態が違法な紹介料のやり取り(=非弁提携)の温床となっていたのではないか、というのが今回の捜査の核心的な部分と言えるでしょう。
弁護士ではない人が法的な交渉を行う「非弁行為」
付随的に問題となるのが、退職代行モームリの代行サービス自体が非弁行為にあたるのではないか、という点です。

本来、民間の退職代行に許されているのは「退職意思の通知を本人の替わりに行う」ことに限られます。
しかし、実務上は有給消化や退職日の調整が発生するため、非弁行為を避けるのは難しいのが現状です。
弁護士でない人が企業と退職について「話し合い」を行ってしまうと、非弁行為に該当してしまいます。
非弁行為とは、弁護士の資格を持たない者が、報酬を得る目的で、法律相談や交渉、和解といった「法律事務」を行うことを指します(弁護士法第72条)。これに違反すると、「2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」という重い刑事罰が科される可能性があります。
民間業者が適法に行えるのは、あくまで本人の「退職します」という意思をそのまま伝えることのみです。
しかし、実際の退職では、「伝えるだけ」で終わるケースは稀です。会社側からは「人手不足だから退職日を延期してほしい」「有給休暇の消化は認めない」「後任への引き継ぎはどうするのか」といった反論や要望が出てきやすいです。
これに対し、民間業者が「〇〇さんは即日退職を希望しています。法律でも認められていますよね?」「有給休暇は労働者の権利です。すべて消化させてもらいます」などと反論したり、退職日を調整したりすれば、それは即座に「交渉」=非弁行為とみなされる可能性があります。
「退職代行モームリ」以外の退職代行業者はこれからどうなるのか
今回の「モームリ」の件は、氷山の一角である可能性があります。
今後は、警察や弁護士会による業界への監視が格段に強まると予想されます。これまで黙認されてきた「グレーゾーン」が許されなくなり、悪質な業者に対する摘発が強化される流れになるでしょう。
利用者にとっては、違法業者が淘汰されることは長期的にはプラスですが、短期的には「どの業者が安全なのか」を見極めるのが非常に難しくなる過渡期に入ったと言えます。

「モームリ」と同じように弁護士との提携をしている業者は、それだけで、紹介料の名目で違法に報酬を受け取っている可能性はないか?との疑念をもたれてしまいます。
実際に対価が全くなければ問題ありませんが、金銭に限らず何かしらの対価が存在した場合は、調査が入り今後の営業に影響が発生するでしょう。
退職代行には3種類の業態がある
この問題を正確に理解し、違法業者を避けるための最大の鍵は、退職代行サービスの運営主体を理解することです。
退職代行の運営会社には主に3種類あり、それぞれ「法的にできること」の範囲が全く異なります。
運営元は、主に民間企業・労働組合・法律事務所(弁護士)の3つに分類されます。
それぞれ対応できる業務範囲が法律で定められているため、ご自身が置かれている状況(「ただ言い出しにくいだけ」なのか、「会社と交渉が必要」なのか)にあわせて適切に使い分ける必要があります。
| 民間企業 | 労働組合 | 法律事務所 | |
|---|---|---|---|
| 退職意志の意向や連絡事項の伝達 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 退職にともなう事務手続 | 〇 | 〇 | 〇 |
|
条件交渉 (退職日・有給消化など) |
× | 〇 | 〇 |
| 離職票・源泉徴収票の請求 | × | 〇 | 〇 |
| 残業代・未払い給与・退職金などの請求 | × | 〇 | 〇 |
| 損害賠償請求などの法律業務(法律事務) | × | × | 〇 |
表のとおり、民間企業ができるのは、あくまで本人の意思を「伝える」ことだけです。会社側から退職を拒否されたり、条件について何か言われたりした場合に、交渉や反論をすることはできません。これを行えば即「非弁行為」です。
一方、労働組合は団体交渉権を、弁護士は代理人として法律事務全般をおこなう権利を持っており、会社との交渉が適法に可能です。
民間の退職代行は「今」は依頼しないほうが無難
今回問題となった「退職代行モームリ」は、民間企業(株式会社アルバトロス)が運営する退職代行サービスでした。
民間企業は「退職の意思を伝えるだけ」と謳っていますが、前述のとおり、現実には「伝えるだけ」で済むケースは多くありません。会社からの反応に対応する行為が、実質的な「交渉」とみなされ、弁護士法違反(非弁行為)に抵触するリスクを常にはらんでいます。
「モームリ」の件がモデルケースとして捜査されている今、同様のスキーム(弁護士提携をうたう民間企業)は、いつ捜査対象になってもおかしくない状況です。
万が一、依頼した業者が非弁行為で摘発され、サービスが停止した場合、利用者は「支払った費用が無駄になる」「退職手続きが中途半端に中断する」「会社との関係がさらに悪化し、結局自分で弁護士を探し直す二度手間になる」といった深刻な不利益を被るおそれがあります。
確実に、安心して退職するためには、現時点では民間企業の利用は避け、法的に交渉が認められている「弁護士」または「労働組合」が運営する退職代行サービスを選ぶのが無難といえるでしょう。

退職代行サービス利用中に、該当サービスの家宅捜索が行われると、サービスの運営は一時的にストップし、再開も未定になるかもしれません。
もし退職代行をお考えの場合は、一旦無料相談が可能な弁護士をお探しいただくのがおすすめです。
今、最も「安牌」なのは法律事務所の退職代行
退職代行を使って確実に退職したいのであれば、「弁護士(法律事務所)」に依頼するのがおすすめです。
弁護士が退職代行を行う場合、非弁行為や非弁提携といった違法性は一切ありません。
ただし、弁護士に退職代行を依頼する場合、費用は概ね5万円程度。民間企業の退職代行の相場が2万円程度であることを考えると、やや高めです。とはいえ、弁護士法違反の危険がないことや、会社が退職条件を渋ってきたときもそのまま任せることができることを考えれば、その金額の差は大きくないと言えます。

とはいえ、実際のところ、会社がどのように対応してくるかはやってみないと分かりません。
よっぽど会社が素直に応じてきそうな場合や、退職すること以外に解決しておかないといけないことが全くない場合でない限り、民間業者へ即依頼すると後々問題が起こり得ます。
一度弁護士に相談しておいた上で、それでも民間業者で問題なさそうだと判断された場合であれば、民間業者に依頼する分には問題ないです。少しでも不安がある場合は、とりあえず一回、無料で相談できる弁護士を探すことを強くおすすめいたします。
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労働組合の退職代行なら法的な交渉がなければ依頼してOK
もう一つの安全な選択肢が、運営主体が「労働組合」である退職代行サービスです。
労働組合は、労働組合法という法律によって憲法で保障された「団体交渉権」を持っています。これは非常に強力な権利で、会社側は正当な理由なく労働組合からの交渉申し入れを拒否できません(拒否すれば「不当労働行為」という法律違反にあたります)。
そのため、民間業者では違法となる「退職日の調整」「有給消化の要求」「未払い給与の支払い交渉」といった交渉を、会社と適法に行うことができます。
ただし、労働組合の権限はあくまで「団体交渉」の範囲内です。パワハラに対する慰謝料請求や、会社から逆に損害賠償訴訟を起こされた場合など、「裁判」が必要になるケースには対応できません。(※この場合は弁護士の領域となります)
したがって、「裁判沙汰にするつもりはないが、会社が退職日や有給消化でゴネることは確実だ」という場合には、弁護士よりも費用を抑えられる傾向にある労働組合が運営する退職代行も、非常に有効な選択肢となります。
【まとめ】退職代行は弁護士に依頼するのが無難
今回の一件は、退職代行業界の「安易さ」や「グレーゾーン」に警察からメスが入り、業界の健全化が求められる転換点となる事件です。
利用者にとっては、違法な業者に依頼してしまった結果、退職がスムーズに進まないばかりか、交渉を放置され、結局「辞められない」「支払った費用が無駄になった」という最悪の事態も起こりかねません。
このようなリスクを回避するために、私たちは「安いから」「早いから」という手軽さだけで業者を選ぶのではなく、「自分の退職を、法的に安全な手段で、最後まで確実に遂行できるのは誰か」という視点でサービスを選ぶ必要があります。
少しでも会社との間で交渉が必要になる可能性(未払い給与、有給消化、退職日の調整など)がある場合や、万が一のトラブル(損害賠償請求など)に備えたい場合は、最初から全ての法律事務を適法に代理できる弁護士(法律事務所)に相談・依頼するのが、現時点で最も無難であり、賢明な選択です。
退職は労働者に認められた正当な権利です。しかし、その権利を安全に行使するためには、法的な知識や交渉力が必要となる場面があります。まずは弁護士事務所の無料相談などを活用し、ご自身の状況を整理することから始めてみてはいかがでしょうか。
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