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「未払いとなっている残業代を請求しようと思い、雇用契約書を見返してみたが、どうも残業代(時間外労働)の記載がないようである。」
今回の記事は上記のようなケースを想定して記載しています。記事が参考になれば嬉しいです。
会社は労働契約を結ぶにあたって、労働者に対して一定の労働条件を書面で明示しなければならないとされています。
このような書面は労働条件通知書と呼ばれますが、雇用契約書を作成することで当該通知書の代わりとすることもよくあります。
(なお、雇用契約書の作成までは法律上義務付けられてはいません。)
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
引用「労働基準法第15条」
本記事では、雇用契約書をもって労働条件通知書としているケースを想定しています(なお、雇用契約書も労働条件通知書も作成されていないという場合も、本記事は参考になると思われます。)。
そのため、本記事の「雇用契約書」は労働条件通知書と読み替えていただいても大丈夫です。
労働基準法第15条は、上記の通り、一定の労働条件について書面で明示することを会社に義務付けています。
具体的には、法令上、以下の6つの内容が書面で明示される必要があります。
|
上記のとおり
は労働条件として書面で明示される必要があります。
そのため、残業代について雇用契約書に一切記載がないというような場合は、そもそも労働基準法第15条に違反している可能性があります。このような場合、会社は30万円以下の罰金刑を受ける可能性もあります。
もっとも、このような労働条件明示義務違反があるかどうかと残業代が請求できるかどうかは無関係です。
そのため、上記の点は残業代を請求するにあたってはあまり気にするポイントではないかもしれません。
上記の通り、雇用契約書等に残業についての定めがあるかどうかと、労働者が残業代を請求できるかどうかは全くの別問題であり、関係ありません。
残業代は法律上支払義務があるものであり、雇用契約書で定めているかどうかはあまり問題とならないためです。以下、簡単に説明します。
労働基準法は、以下の通り、企業に時間外・休日労働についての割増賃金支払義務を定めています。
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
引用「労働基準法第37条」
このような法令上の義務は、雇用契約書の合意で排除することはできません。それは、労働基準法に以下のような定めがあるためです。
(この法律違反の契約)
第十三条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。
引用「労働基準法第13条」
そのため、会社が雇用契約書に残業について定めを置かなかったり、「残業代は発生しない」旨の定めを置いたとしても、これにより会社の割増賃金支払義務が消えることはありません。
したがって、このような場合であっても、労働者が実際に残業(時間外労働、休日労働、深夜労働)をしていれば、会社には一定の料率以上で計算した割増賃金支払義務が発生します。
なお、この一定の料率とは、時間外労働の割増賃金は通常の賃金の1.25倍以上、休日労働の場合は1.35倍以上と定められています。
そのため、例えば、雇用契約書にこれを下回る割増率が記載されていたとしても、労働者は法令の定めに基づく割増率で計算した金額を請求することができます。
労働基準法は、労働者の多種多様な働き方を念頭に、一定の場合には通常労働時間制と異なる労働時間制度を適用して残業代計算をすることを認めています。
このような変則的な労働時間制度を変形労働時間制と呼びますが、法令上は以下のような制度が挙げられています。
労働形態 |
内容 |
日々の労働時間を一定期間(月、年)単位で変則的に定めることを可能とする制度。 |
|
労働者自身が出社時間と退社時間を決め、その労働時間を一定期間単位で把握することを可能とする制度 |
|
労働時間を実労働時間ではなく一定の時間でみなして計上することを可能とする制度 |
このような制度の下では、通常の労働時間制度の下では残業代が発生するような場合でも残業代が発生しないということがあり得ます。
したがって、この制度が正しく導入・運用されている場合は、必ずしも法定労働時間(1日8時間、1週40時間)以上の労働が会ったから残業代が支払われるということにはなりません。
しかし、これはあくまで変形労働時間制度が正しく導入・運用されていることが前提です。会社の中には、このような導入・運用が正しくない場合も往々にしてあります。
したがって、会社が「変形労働時間制だからよいのだ」という説明をしていても、その説明の当否は慎重に検討するべきでしょう。
上記の通り、雇用契約書に記載があるかどうかは残業代の支払をする・しないの理由になりません。
では、実際に雇用契約書の文言などを盾にして残業代が払われないという場合、どう対応すればよいでしょうか。
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「未払い残業代を自分で請求/獲得する為の証拠と手順を徹底解説」
会社が残業代を正当な理由なく支払わないことは労働基準法違反であり、労基署の指導・是正勧告等の対象となります。
そのため、労働基準監督署に事実を申告して、調査・指導を求めるという処理が考えられます。
当該指導に対する是正措置の一環として、未払いとなっている残業代が一定程度支払われるということはあり得ます。
もっとも、労働基準監督署もリソースに限りがありますので、迅速かつ適切に対応してもらいたいのであれば、それなりに証拠を集めてから相談・申告をする方が適切です。何も証拠がないと、労基署も対応するべき事案かどうかを判断しかねるためです。
もちろん、未払残業代について、弁護士に相談して対応を一任することも可能です。
実際に依頼するかどうかは別にして、就業規則やタイムカード等の資料を持参して検討してもらえば、どのくらいの残業代を請求できそうかという確度の高いアドバイスを受けることもできるかもしれません(そのような対応をしている事務所であればですが。)。
弁護士に一任してしまえば、ご自身では難しいことも全て任せることができますし、さらに訴訟などの法的手続を取る場合にも力になってくれるでしょう。
もちろん、残業代を請求するうえで労基署の協力や弁護士への依頼が必須というわけではありませんので、頑張って独力で残業代を計算して請求することもできます。
しかし、残業代の計算にあたっては、労働時間をどう考えるべきか、変形労働時間制の適用はないか、残業代計算の基礎時給をどのように算定するべきかなど、色々と専門的な知識・判断を要することも多いです。
そのため、全て独力でできる場合とそうでない場合がありますので、注意しましょう。
雇用契約書の記載の有無と残業代請求権の有無は無関係であることがおわかり頂けたと思います。
雇用契約書に明記されていようがいまいが、従業員が残業をしたのであれば、会社はきちんと残業代を支払うのが原則です。
もし会社から「雇用契約書に記載がない」という理由で支払を断られており、埒が明かないという場合は、労基署や弁護士への相談も検討してみて下さい。
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タイムカードはもちろん、PCの起動ログから残業時間を立証できた事例もございますので、証拠が手元に無くても泣き寝入りせず弁護士に相談しましょう。
確かに労働基準法では、「管理監督者」には残業代を支払わなくても良いと明記されておりますが、会社で定める「管理職」が労働基準法で言う「管理監督者」に当たらないケースもあります。
この場合は会社側が労働基準法違反となり、残業代を支払う義務を負います。このような名ばかり管理職問題についてまとめた記事がございますので、詳しくはそちらをご覧ください。
固定残業時間以上の残業を行った場合、その分の残業代は適切に支払われる必要があります。また、36協定の都合上、基本的に固定残業時間の上限は45時間とされております。
固定残業時間を上回る残業を行ったり、会社が違法な固定残業代制度をとっていた場合はもれなく残業代請求が可能です。直ちに弁護士に相談しましょう。
残業代請求に対する企業からの報復行為は、そのほとんどが違法とみなされているため積極的にされることはありません。
ただし、少なからず居心地が悪くなる懸念もあります。一般的には在職中に証拠を集めるだけ集め、その後の生活を守るために転職先を決めてから残業代請求を行うのがベターと言えるでしょう。
残業代請求の時効は3年となっております。
退職してからゆっくり残業代請求を行う場合、どんどん請求可能期間が短くなってしまいますので、一早く請求に対して動き始めましょう。
また、弁護士に依頼して内容証明を会社に送ることで、時効を一時的にストップさせることが出来ます。