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懲戒処分の訓告処分とはどのような内容か、ご存知でしょうか。
法律上は、国家公務員・地方公務員を対象とした処分のひとつであり、懲戒処分に当たらない軽い処分となります。
訓告の処分を受けた場合でも、昇給や昇格への影響はありません。
一方で、会社などの民間の法人においては就業規則にて定められることがあり、この場合、最も軽い処分として定められることが殆どです。なお、会社によっては訓告処分の対象となった従業員の賞与を減額する等不利益に考慮されることがあります。
そのため、場合によっては処分の無効を求めるために従業員から会社等に対して訴訟提起がなされることがあります。
十分な理由に基づかない訓告処分や必要な手続きを経ずに行った訓告処分は、裁判所で無効と判断されることがあります。
この記事では公務員に対する訓告処分と会社における訓告処分の違いを説明した上で、記事の後半では主に会社における訓告処分についてご説明します。
最初に公務員に対する訓告処分についてご説明します。
公務員に対する訓告処分の内容や位置づけ、訓告処分を受けた場合の効果についてご説明します。
また、懲戒処分とは別の分限処分についても簡単にご説明します。
訓告や厳重注意については、以下のように説明されています。
「国家公務員法に基づく懲戒処分ではなく、上級監督者としての部下職員に対する指導、監督上の実際的措置にすぎないもので、これによって直接、法的効果をもたらすところはない」
(引用:日本人事行政研究所『平成24年版 服務・勤務時間・休暇関係関係法令集』日本人事行政研究所、2012、1858p)
訓告処分と似た制度として、戒告処分がありますが、これは懲戒処分のひとつで、訓告処分よりも重い処分となります。
昇給が引き延ばしとなったり、昇格に影響が生じたりします(戒告処分を受けると人事記録に登録され、処分を受けた人の昇格等に影響が生じるようです)。
上から下に向かうにつれて重い処分となります。
戒告は、問題行為に対し口頭又は文書で注意する処分です。
減給は、一定の期間、給与の一定割合が減額される処分です。
停職は、1日1条1年以下の範囲で、対象の職員を職務に従事させない処分です。
免職は、対象者の職を失わせる処分です。退職手当も支給されません。
訓告処分は、そもそも法律に基づく処分ではなく、上記処分のうち最も軽い戒告処分よりも軽い処分となります。
懲戒処分とは別に、分限処分というものがあります。
分限処分は、公務能率の維持や公務の適切な運営確保を目的として行われる処分です。
つまり服務違反等を行った場合に科される懲戒処分とは異なり、懲罰的な意味合いはありません。
分限処分には懲戒処分と同様に免職がありますが、免職となった場合でも退職金が支払われます。
分限処分の種類としては、下記の4種類があります。
もっとも、人事評価の際に一切の影響が生じないとは言い切れません。例えば同じ条件・能力の職員が2人いた場合に、昇格させる人物として適任なのはどちらなのかを選ぶ際、他の者が選択されるということはあり得るでしょう。
以上が公務員における訓告処分です。
以下では、主に会社における訓告処分を念頭にご説明します。
訓告は、会社から従業員に対して、問題行為につき厳重注意がなされる処分です。
各会社で定められる就業規則によって処分の内容は異なりますが、多くは上記趣旨の内容となっています。
訓告ではなく、訓戒と呼ばれることもあります。
公務員に対する訓告処分は懲戒処分には該当しませんでしたが、会社における訓告処分は懲戒処分のひとつとして位置づけられることが多いです。
その他の懲戒処分としては、例えば下記のものがあります。
上から下に向かうにつれて重い処分となります。
戒告や譴責も、問題行為に対して口頭又は文書で注意する処分であり、基本的には訓告と大きな違いはありません。
減給は、非違行為に対する制裁として一定額を賃金から差し引く処分です。
なお労働基準法91条により、差し引くことが出来る金額の上限が定められています。
(制裁規定の制限)
第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
【引用】労働基準法|e-Gov
出勤停止は、労働契約を存続させつつ、労働者の就労を禁止する処分です。
出勤停止期間中は、労働者の帰責性を理由に労務提供ができない状態のため、基本的には出勤停止の期間は賃金が支払われません。
出勤停止期間については、7~10日程度が多いようです。
降格は、労働者の職能資格・等級を引き下げる処分です。
降職は、対象者の職位を解き、引き下げる処分のことです(部長職を解いて、課長職とするなど)。
役職手当や基本給の減額等が生じます。
諭旨解雇は、懲戒解雇に相当する非違行為を行った場合に、本人を諭して解雇する処分です。懲戒解雇を行わない温情措置としての意味合いがあります。
懲戒解雇は、非違行為に対する制裁として行われる解雇処分です。懲戒処分の中で最も重い処分となります。
懲戒解雇となると、対象者が再就職する際に不利益となるため、裁判所で争われた場合は、その有効性について慎重に判断されることになります。
訓告処分を受けたとしても、退職金の減額や不支給など、従業員に不利益な結果は伴わないことが多いです。
ただ、訓告処分により一部の企業では昇給の停止を行うなど従業員に対する不利益な効果を就業規則で定めている企業もあります。
この場合、訓告処分の有効性について慎重な検討が必要になると思われます。
懲戒処分が有効に機能するためには、いくつかの要件があります。
簡単にまとめますと、その内容は下記の通りです。
懲戒処分を行うには、予め就業規則に懲戒の種別と非違行為の事由を定めておく必要があります(労働基準法第89条)。
そして、作成された就業規則は、労働者へ周知されていなくてはなりません(労働基準法106条1項)。
懲戒処分が有効とされるためには、労働者の非違行為が就業規則で定められた懲戒事由に該当する必要があります。
懲戒処分が、社会通念上相当(労働契約法15条)である必要があります。
労働者が行った非違行為に対する処分として、相応のものかどうか(重すぎないかどうか)という点も、懲戒処分が有効となるための条件の一つです。
処分が社会通念上相当かどうかは、行為態様・動機、業務への影響、損害の程度、反省の態度や過去の懲戒処分等の諸事情を総合考慮して判断されます。
処分が重すぎず、かつ処分を行う際の手続きが適正であることが必要となります。
会社が訓告処分を含めた懲戒処分を行う場合に、注意すべきポイントがあります。
以下では、そのポイントを説明します。
懲戒処分を行う場合には、適切な手続きを経て行うことが重要となります。
具体的な流れは下記の通りです。
懲戒事由に該当する事由があるのか否か、事実関係の調査を行う必要があります。
例えばハラスメントが行われたと疑われる場合は、被害者・目撃者等から聞き取りを行い、当該聞き取りの内容を記した書面に、被害者・目撃者の署名捺印を行い証拠化します。
その後、ハラスメントを行ったと疑われる者からも聞き取りを行い、その事実を認めた場合は、同様に聞き取りの内容について書面でまとめ、その者から署名捺印を得て証拠化します。また、事実関係を認める内容を記した反省文の提出等をさせることで証拠化することもできます。
懲戒事由に該当する事実があるときは、改めて下記の点を参考に就業規則を確認します。
就業規則に訓告処分が規定されているかを確認します。
非違行為が生じた後に、事後的に訓告処分を就業規則で定めたとしても、非違行為の時点で訓告処分が就業規則に定められていなければ、懲戒処分を行うことはできません。
訓告処分の定めがないのであれば、別の処分の検討を行います。
問題となった行為が、訓告処分に該当する事由となっているかを確認します。
判例では、会社は就業規則で定められた懲戒事由に該当する場合のみ、当該懲戒処分を従業員に対して行うことができるとされています(フジ興産懲戒解雇事件 最高裁平成15年10月10日判決)。
就業規則にて、懲戒処分を行う場合の手続きが定められている場合があります。また、労働協約にて、懲戒処分を行う場合は労働組合と事前に協議する必要のある定めがされている場合があります。
こうした場合は、これらの定めに従い手続きを行わないと適正な手続きを経ない不当な処分として訓告処分が無効となる可能性があります。
手続の適切性の観点から、処分対象の従業員に弁明の機会を与えることも重要です。
例えば、対象者と直接面談して事情聴取を行ったり、弁明内容を書面にして提出させたりする方法が考えられます。
弁明内容を踏まえた上で、処分の内容を決定します。
処分内容の相当性は、過去の懲戒事例や、同種事案の裁判例等を参考に、事案ごとに判断することになります。
訓告処分が懲戒処分の中で最も軽い処分であっても、非違行為についての反省を真摯に促すという意味では書面にして交付することが望ましいでしょう。書面には、処分の種類(訓告処分)と、処分の原因となった事実(非違行為)を正確かつ具体的に明記しておくと良いでしょう。
鉄道会社の管理職(以下、管理職Aとします)が、管理者として乗務員を指導する立場にあったにもかかわらず、前日深夜まで飲酒したことを原因として複数の職員より酒臭を指摘され、帰宅するよう指示を受けた事実について、訓告処分となった事案です。
(東京地方裁判所平成23年1月28日判決)
Aは、いったんは事実を認めて反省文を会社に提出しました。しかし、訓告処分を受けて出向を命じられたことを契機に、酒気帯びの事実はないとして、訓告処分の無効確認を求めて訴訟提起しました。
裁判所は、訓告処分を有効としました。
Aが訓告処分を受ける前に反省文の提出を行っていたこと、複数の職員からの酒臭の指摘の事実などを根拠に有効と判断しています。
本事案では、処分を受けたAが、非違行為があった旨の書面を提出して事実を認めていたことがポイントとなりました。
企業が訓告処分を行う場合には、書面で訓告書を交付するだけでなく、反省文などの書面を処分対象者から提出させることも後の紛争リスクを回避する意味で重要ということがわかる事案です。
処分対象者Bが、特定の女性職員に対して、交際を明確に拒絶されているにもかかわらず交際の要求を繰り返し、つきまとい等の行為を行ったことから、訓告処分がBに対してなされました。
(東京地方裁判所平成19年7月10日判決)
これに対してBは、訓告処分の原因となった事実はないとして、訴訟を提起しました。
裁判所は、他の職員の証言などから、訓告処分の原因となった事実はあると認定し、訓告処分を有効と判断しました。
本事案のように、ハラスメントの事実に基づいて懲戒処分を行う場合には、事前に入念な調査と証拠の確保が必要になります。
また万全を期すためにも、問題となる事実がハラスメントになるのかどうか、弁護士にも相談することもおすすめします。
訓告処分の内容やこれを行う場合の注意点などについて説明しました。
会社における訓告処分は、懲戒処分の中でも軽い処分ではありますが、懲戒処分の一つである以上は適切な方法で処分がなされる必要があります。
企業側としては、訓告処分の事由にあたるのか、処分の内容として相当なのか等について慎重な判断が求められるため、必要に応じて弁護士に相談することをおすすめします。
また、訓告処分を受けた側としても、処分の内容や手続きに疑問がある場合は、弁護士に相談されると良いでしょう。
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