12月といえば「忘年会シーズン」。お酒好きな人にとっては、ついつい飲み過ぎてしまう時期ですよね。
あなたが勤める会社の同僚や上司の中にも、三度の飯よりお酒が大好きという人がいるかもしれません。
そんなお酒好きな同僚や上司が忘年会で泥酔。
意識もあまりはっきりしてないような状態だったけど、自己管理ができない本人の責任と介抱せずに放置して帰ったら、翌日亡くなったと連絡が…。
このような場合、放置して帰った社員は何かしらの責任が問われるのでしょうか?
楽しいはずの忘年会に潜む法的なリスクについて、確認しておきましょう。
酔いつぶれた人を介抱せずに放置したら罪になる?
2017年に男子大学生が飲み会で、一気飲みを行って泥酔し死亡するという事件があったことを覚えている方は多いかもしれません。
死亡した男子学生には、急性アルコール中毒の疑いがあったものの、「いびきをかいているし大丈夫」と、そのまま放置した結果亡くなってしまいました。
参考:近大飲酒死亡で学生ら12人を書類送検 大阪府警|産経新聞
酔いつぶれた人を介抱せずに死亡させた場合、どのような罪に問われる可能性があるのでしょうか。
弁護士法人若井綜合法律事務所新橋オフィスの澤田剛司弁護士に聞いてみました。
Q.酔いつぶれた人を放置して死なせた場合、どんな罪に問われる?
【澤田剛司弁護士の回答】
保護責任者遺棄致死罪(刑法219条)に問われる可能性があります。
Q.保護責任の範囲はどのくらい?(泥酔者の放置が保護責任者遺棄罪に当たるとして、周囲の人間はどこまで介抱しなければならないのでしょうか)
【澤田剛司弁護士の回答】
判例から保護義務の発生根拠は,法令・契約・事務管理・慣習・条理と考えられています。
泥酔者の保護義務は慣習・条理,場合によっては事務管理から導かれるでしょう。
そうすると,どこまで介抱しなければならないかは、個々の具体的事情から判断されることになります。
例えば、泥酔者を家まで送り届ける必要があるかどうかは,泥酔者の酒量,状態,飲酒の場所,時間,保護義務者の先行行為,保護義務者と泥酔者の関係等、諸般の事情を考慮して判断されることになるでしょう。
Q.泥酔者を放置して死亡させたことが、保護責任者遺棄罪に当たるとして、忘年会参加者の責任の重さに違いはありますか?(直前まで一緒にいた等の理由で責任に違いはでる?)
【澤田剛司弁護士の回答】
保護義務を負う程度は,一律ではないので,責任の軽重に差は出ます。
保護の引き受けがあったといえるか,保護を要する状況を作出したかどうかという点が責任の軽重の判断基準となるでしょう。
Q.急性アルコール中毒を本当に寝ていると誤信していても保護責任者遺棄罪に問われる?
【澤田剛司弁護士の回答】
遺棄又は保護しない故意がない場合には,保護責任者遺棄致死罪に問われない可能性があります。
ただし、その場合でも重過失致死罪に問われる可能性はあります。
Q.介抱しなかった人は遺族等に損害賠償請求される可能性はある?
【澤田剛司弁護士の回答】
判例によれば,生命侵害の場合も被害者自身に損害賠償請求権が帰属し,相続人がそれを相続すると考えるので,遺族から損害賠償請求される可能性があります。
また,遺族自身の損害について賠償請求される可能性もあるでしょう。
忘年会を開いた会社に責任はないのか?
酔いつぶれた人を介抱しなかった社員は、罪に問われてしまう可能性がある一方で、忘年会を開いた会社に責任はないのでしょうか。
この疑問についても、澤田剛司弁護士に聞いてみました。
Q.仮に酔いつぶれた人が放置されて死亡した場合、会社に損害賠償請求はできますか?その場合鍵となる部分はどこですか?
【澤田剛司弁護士の回答】
会社に使用者責任(民法715条1項本文)を追及できる可能性はあるでしょう。
もっとも,使用者責任を追及する要件として,保護義務を負った従業員損害賠償責任が認められる必要があります。
鍵となるのは,当該飲み会が,会社の「事業」に該当すると認められるかどうかです。
Q忘年会が強制参加だった場合、会社に損害賠償請求はできますか?
【澤田剛司弁護士の回答】
会社への損害賠償請求が認められるには,当該忘年会が「事業」に該当すると評価される必要があります。
一般的に取引先との会食は事業と評価されやすいと思いますが,同僚との飲み会は事業とは評価されにくいでしょう。
もっとも,同僚との飲み会等でも参加が任意ではなく上司からの強制の場合や,会社の事業と密接に関連している場合には,事業と認められやすいと思います。
事業に該当するか否かは,忘年会の主催者,会費の負担の有無,目的,場所,態様,時間,参加者により総合的に判断されるでしょう。
Q忘年会が強制参加だった場合、労災申請することはできますか?
【澤田剛司弁護士の回答】
会社の飲み会が,事業(業務,職務)に関するものと言える場合には,労災申請ができるでしょう。
まとめ
いい歳をした大人であるにもかかわらず、自分の限界をわきまえずに酔いつぶれるなんて、と思うかもしれないですが、酔いつぶれた社員を放置するのはよくありません。
酔いつぶれて放置された人が亡くなってしまった場合、本人の責任ではなく、解放しなかった周りの人の責任となる可能性があります。
面倒だと思う気持ちはわかりますが、きちんと介抱をしてあげてください。なんか変だなと感じたら、迷わず救急車を呼びましょう。
お酒好きな人が会社にいる場合、飲み過ぎないように注意しておくのも、楽しい忘年会を過ごすためには必要かもしれません。
【弁護士紹介】
弁護士法人若井綜合法律事務所新橋オフィス 澤田剛司 弁護士 (東京弁護士会所属)
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