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ホーム > 労働問題コラム > 職業別の残業代 > 芸能マネージャーにも残業代はある|残業事情と未払い残業代の請求手順

芸能マネージャーにも残業代はある|残業事情と未払い残業代の請求手順

弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤康二 弁護士
このコラムを監修
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芸能人と密接に関わり、常に行動を共にする“芸能マネージャー。精神的・肉体的にとても大変そうな仕事ですが、他の仕事ではなかなか味わえない華やかさとやり甲斐があるのかもしれません。

 

 

そのように一般の仕事とは少し異なる芸能マネージャーも、当然、法律と無縁ではありません

 

2019年2月、東京都のある芸能事務所が芸能マネージャーの残業代未払いを巡り労働基準監督署から是正勧告を受けていたことが明らかになりました。

 

この男性は、残業時間が最大で月200時間を超えるほどの激務でしたが、裁量労働制を理由に残業代がきちんと支払われていませんでした。

 

アシスタントマネジャーを務めていた20代男性への裁量労働制の適用を巡り残業代未払いがあったとして、渋谷労働基準監督署が事務所に是正勧告していたことが14日分かった。労基署は残業が最大月200時間を超えていた男性に業務遂行の裁量がなく、裁量労働制の適用は無効と判断した。勧告は1月18日付。

引用元:日経新聞

 

上記は、男性に対して裁量労働制を適用することはできないと労基署が判断し、是正を勧告した事件ですが、芸能事務所では、このような裁量労働制の悪用が横行しているという噂もあります。

 

 

芸能事務所と契約している芸能人は、事務所に雇用されている場合と、個人事業主として契約している場合のいずれも考えられますが、芸能マネージャーは基本的には事務所に雇用されているケースが多いと言われています。

 

芸能人と非常に距離が近いため誤解されるかもしれませんが、このように雇用契約を締結している芸能マネージャーについては、労働基準法に基づき、労働時間に応じて残業代が発生します。

 

そこで今回は、芸能マネージャーの残業代事情と未払い残業代の請求方法について解説します。

 

 

 

 

 

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芸能界のマネージャー職に残業代は発生するのか?

 

労働基準法に基づいて残業代の請求が可能な「労働者」については、例えば労働基準法第9条には、

 

「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者」

 

と定められています。したがって、会社に対して労務を提供し、対価として賃金を支払われている関係にあれば、「労働者」として残業代の請求等が可能です。

 

『雇用契約』の当事者であることが前提

芸能マネージャーと勤務先の間の契約が雇用契約であるのかそうでないのかは、契約書に記載されている内容だけで形式的に決まるものではなく、仕事の実態に基づいて判断されます。

 

具体的には、 会社との間で“使用従属関係”があるかどうか、会社から支払わえる対価が“賃金”といえるものかどうか、などにより判断します。

 

更に詳細な考慮要素としては、

 

  • 「仕事の指示について諾否の自由があるかどうか」
  • 「仕事の内容について具体的な指示・命令があるかどうか」
  • 「業務を処理する上で時間的・場所的拘束があるかどうか」
  • 「対価が業務時間で算定されるのか、業務成果で算定されるのか」

 

などがあります(これ以外にも、業務への専属性や労働者の代替生・事業者性なども考慮されます。)。

 

裁量労働制の適用の可否

裁量労働制」とは、職務の性質上、労働時間管理になじまない一定の業務(対象業務)について、所定の手続により通常の労働時間制度の適用除外とする制度です。

 

たとえばテレビ番組のプロデューサー・ディレクター、新商品の研究開発担当者、マスコミの編集者、デザイナーなどの専門職などは、厚生労働省令により対象業務として指定されています。

 

 

裁量労働制はみなし労働時間制が適応される

雇用契約を結んでいる従業員であっても、会社が適法に「裁量労働制」を導入し、これを適用している場合、労働時間は実労働時間ではなく、同制度について定めたルールによりあらかじめ定めた一定時間にみなして算定することになります。

 

これを「みなし労働時間」と言います。

 

みなし労働時間制の場合どこから残業代の発生となるか

この「みなし労働時間」が“1日8時間”という法定労働時間の枠内であれば、実労働時間が1日12時間でも15時間でも労働時間は1日8時間とみなされます。

 

そのため、どんなに働いても休日・深夜労働となるような場合でなければ残業代が出ることはありません

 

 

他方、この「みなし労働時間」が1日10時間など法定労働時間を超える場合、当該超える部分(このケースでは1日2時間)については、時間外労働となりますので、残業代が発生します。

 

裁量労働制でも『割増賃金』の支払い義務が免除されるわけではない

なお、上記の通り、休日労働や深夜労働については裁量労働制の下でも割増賃金の支払い義務は免除されません

 

したがって、例えば裁量労働制の適用対象者が夜10時から朝5時まで労働していた場合、会社はこの時間を別途把握した上で、実労働時間に応じて「25%の割増賃金」を支払う必要があります。

 

 

裁量労働制を導入するには労基協定が必要

このような裁量労働制(専門業務型裁量労働制)を導入するためには、法定の手続として、会社と労働者代表者との間で労使協定を締結し、これを所轄の労基署に届け出る必要があります。

 

この処理を行っていない場合、会社が「裁量労働制を適用する」としていても、適正な導入がなく、制度適用はできません

 

【弁護士解説】裁量労働制と働き方の実態が伴っていなければ残業代の請求は可能

難しいのは、会社が裁量労働制を適法に導入しており、かつ対象労働者が一見すると対象業務に該当するような場合です。

 

このような場合、形式的には裁量労働制の導入・適用は適法に行われているため、対象労働者は実労働時間に応じた残業代の請求は困難です。

 

しかし、実態として

 

  1. 労働者側に業務処理や業務管理についてまったく裁量がなく
  2. 業務内容についても専門性や自立性もないという場合

 

裁量労働制の適用ができるのかという問題があります。このような場合、当該労働者は実質的に対象業務に従事していないという理由で、裁量労働制の適用が否定される可能性はあります。

 

どのような業務が専門業務に該当するか

ここで専門業務型裁量労働制の対象となる業務について梅澤弁護士にご説明頂きました。

 

梅澤弁護士


本記事で記載した芸能マネージャーと関係のある対象業務として、厚生労働省令は「放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務」については、専門業務型裁量労働制の適用が可能であると定めています。

そのため、芸能事務所の中には、芸能マネージャーをこの「プロデューサー又はディレクターの業務」に該当するとの整理のもとで専門業務型裁量労働制を適用しているというケースがあるようです。

しかし、厚生労働省の通達では、このような「プロデューサー又はディレクターの業務」とは、以下のような業務であるとされています。

 

●「放送番組、映画等の制作」には、ビデオ、レコード、音楽テープ等の制作及び演劇、コンサート、ショー等の興行等が含まれるものであること

●「プロデューサーの業務」とは、制作全般について責任を持ち、企画の決定、対外折衝、スタッフの選定、予算の管理等を総括して行うことをいうものであること。

●「ディレクターの業務」とは、スタッフを統率し、指揮し、現場の制作作業の統括を行うことをいうものであること

 

したがって、専門業務型裁量労働制の適用対象とされていても、実際の業務内容について上記のような通達で指定されるような実態が伴わない場合は、そもそも同制度の適用が可能である対象業務に当たらないという整理も可能ということです。

 

裁量労働制とは|今話題の自由な働き方に隠れた5つの問題点と対処法

裁量労働制の本来は、労働者が効率的に働き、正当に成果を評価される制度ですが、実労働時間に応じた残業が認められないことから、不当な長時間労働等の問題も出てきています。

今回は、裁量労働制の仕組みと決まり、また、裁量労働制で働く方の労働環境が良くなるよう、対処法などもを解説していきます。

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芸能マネージャーの残業代時間と残業代の実態

次に、芸能マネージャーの残業代事情と残業時間について調べました。

 

芸能マネージャー職の平均残業代

就職転職情報サイト「Vorkers」が実施した残業時間についての調査レポートによれば、「職種別残業時間ランキングTOP30」の第4位は「プロデューサー・ディレクター(その他)」(72.89時間)。芸能マネージャーもこのカテゴリに分類されると考えられます。

 

参考:2018年の「業界別残業時間(月間)ランキングTOP30」

 

冒頭でもご紹介した芸能マネージャーの男性のケースでは、月200時間を超えることもあったようです。

 

労基署が専門業務型裁量労働制の適用困難と判断したのも、このように実労働時間が長すぎるため、業務時間について裁量の余地が乏しいと評価されたことも理由としてあるのかもしれません。

 

芸能マネージャー職の平均残業時間

一方厚生労働省が2018年10月に発表した『毎月勤労統計調査-平成30年10月分結果速報』によると、おそらく芸能マネージャーが含まれていると思われる「その他のサービス業」現金給与総額286,723円に占める所定外給与(残業代など)は25,834円。

 

所定外労働時間(残業時間)は15.2時間でした。

 

表:業種別の残業代平均額

産業

現金給与総額(円)

所定外給与(円)

所定外労働時間

鉱業,採石業等

324,411

26,648

14.9

建  設  業

361,258

29,589

16.4

製  造  業

346,196

39,356

18.5

電気 ・ ガス業

465,697

63,803

17.2

情 報 通 信 業

417,087

33,560

14.7

運輸業,郵便業

350,088

50,560

27

卸売業,小売業

354,082

18,672

11.5

金融業,保険業

409,787

23,836

11.9

不動産・物品賃貸業

366,140

22,133

14.1

学 術 研 究 等

445,608

29,434

15.4

飲食サービス業等

265,958

22,094

15.8

生活関連サービス等

284,935

17,034

10.9

教育,学習支援業

400,265

8,743

15.6

医 療,福 祉

317,069

18,877

6.9

複合サービス事業

348,667

19,944

10.4

その他のサービス業

286,723

25,834

15.2

平均

358,998

28,132

14.8

参考:厚生労働省|毎月勤労統計調査-平成30年10月分結果速報

 

全産業で比較すると、「その他のサービス業」はやや労働時間が長めなようです。

 

裁量労働制でも残業代は請求可能|計算方法と請求手順

裁量労働制はあらかじめ決まった金額を労働賃金として支払う制度で、残業代は出ないと思われていますが、必ずしもそうではないのです。

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芸能マネージャー職に未払い残業代が発生する理由

 

芸能人の業務時間が変則的であること

冒頭でも述べましたが、芸能マネージャーは有名人や芸能人と行動を共にすることの多い職業です。

 

このような芸能人は、早朝や休日・深夜帯の仕事や、連続での移動を伴う仕事など、普通の人とは仕事時間が異なる変則的な働き方をしているケースも多いと聴きます。

 

勤務時間も深夜帯になるなど変則的

これに帯同する芸能マネージャーも、当然、その勤務時間は長時間となったり、深夜帯となったりということは往々にしてあるでしょうし、この場合、実労働時間ベースで時間外・休日・深夜労働についての割増賃金が発生することが考えられます。

 

労務・コンプライアンスが軽視されがち

しかし、芸能事務所には小規模・零細型の事務所も多く、そのような事務所では業界の風潮として労務コンプライアンスが軽視されていることもあると言われています。

 

そのため、一方手では変則的勤務により割増賃金債権が蓄積していく一方、事務所側の労務コンプライアンス軽視の風潮からこれが適正に処理されていないということは、伝統的に起こり得る事態といえるのかもしれません。

 

裁量労働制の導入・適用が適正に行われていない

上記の通り、裁量労働制(専門業務型裁量労働制)の導入・適用は、厳格な法定の要件をクリアする必要がありますし、また同制度が予定する対象業務に従事しているといえる実態も必要と考えられています。

 

しかし、同制度を導入、適用している芸能事務所の全てがこの条件をクリアしているとは限りません(上記で紹介した記事も、労基署は対象業務に該当するような業務実態がないと判断し、行政指導を行ったようです。)。

 

このように、適正な導入・適用がなされていないまま、芸能事務所側の都合で「裁量労働制である」と整理され、本来支払われるべき割増賃金が支払われていないというケースは十分考えられます。

 

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芸能マネージャー職の方が未払い残業代を請求するには

 

裁量労働制の芸能マネージャーが未払い残業代を請求できる範囲としては、裁量労働制が適正の導入・適用されているのであれば実労働時間のうち

 

  1. 「夜10時から朝5時までの時間帯の労働」
  2. 「法定休日に就労していれば、その労働」
  3. 「1日のみなし労働時間が法定労働時間を上回る場合は、その超過時間の労働」

 

についての割増賃金ということになります。

 

他方、裁量労働制の導入・適用が不適正であり、そもそも裁量労働制の適用不可ということであれば、実際の労働時間に基づき算定される割増賃金のうち、未精算となっている割増賃金ということになります。

 

これらについて請求するため(特に後者の請求をするため)には、専門家の力が不可欠ですが、自分でできることとして、最低限以下のようなことは行っておきましょう。

 

残業の事実を証明する証拠を集める

どのような形であれ、未払い残業代を請求するためには、自身が時間外・休日・深夜の労働を行ったことを立証する必要があります。

 

すなわち、自身の実労働時間について立証するための証拠が必要なのです。

 

 

通常の会社であればタイムカードや勤怠表でこれを立証しますが、芸能マネージャーの場合そのような所定の記録による労働時間管理がされていないケースも多いと聞きます。

 

このような場合は、例えば、1日の業務スケジュールを記録した資料、タクシーの領収書、メールの送信時刻など、日々の業務で作成されるもので、かつ始業・終業時刻を推認できるものを集めておく必要があると思われます。

 

残業代請求時に認められやすい証拠と、証拠がない時の対処方法

この記事では、「残業代請求の証拠となるものは何か?」「証拠がなかった場合どうすればいいか?」について、詳しく説明します。

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会社に対して請求し、協議する

会社とことを荒立てたくないのであれば、弁護士に依頼する前に、自身で収集した証拠に基づいて労働時間を計算し、これをもとに会社と協議・交渉するということあり得ます。

 

しかし、裁量労働制の適用・不適用が問題となるケースでは、このような協議・相談で問題が解決する可能性は極めて低いです。

 

会社は、裁量労働制の適用を前提とした議論をするでしょうし、これを打ち崩すには専門的な知識・経験が不可欠であるからです。

 

ダメ元で早期解決を狙うのであれば、この方法もあり得ますが、きちんと処理したいのであれば、素直に弁護士に相談しましょう。

 

労働基準監督署に申告・相談

労働基準監督署に申告・相談するのもひとつの方法ですが、個人が救済される可能性は低いかもしれません。

 

冒頭で紹介したケースでも、労基署から指導がされたことはあるようですが、残業代の支払・精算まで命じられたかは不明です。

 

労基署はあくまで法令違反状態を是正するよう求めるだけであり、民事的な権利義務の精算についてはそれほど強い関心を有していません。

 

なお、上記のケースは、実際には労働者が「裁量労働制ユニオン」という労働組合に駆け込み、同組合と事務所との交渉過程の中で労基署による是正指導が行われたようです。

 

ユニオン側の情報発信には以下のような記載があります(真偽は不明です。)。

 

「パワハラ指導」に開き直る

 Aさんは、ユニオンに加盟して労働者の権利を学ぶ中で、自分の受けた指導に問題があったことに改めて気づくようになった。2019年1月からは●●と団体交渉を行い、未払い残業代の支払いを求めると同時に、上記の発言についても会社に事実調査を行うよう求めた。

 

●●は要求どおり事実調査を実施した。しかし、発言の事実こそ認めたものの、次のように弁解した。「業務を改善してもらいたいとの思いから諭そうとしてなされた発言であり指導の範囲と考えられますので、パワーハラスメントには該当しない」。

 

当然だが、何十連勤もしていれば、労働基準法に抵触するし、体やメンタルだって壊してしまう。

 

しかも、繰り返すが、Aさんは最大49連勤、月の残業時間も200時間も働いていた。

 

労働基準法に違反し、過労死ラインを大幅に超える長時間労働・未払い労働を黙って従わせようとする発言を、「指導の範囲」といえてしまうのが、人気アーティストの所属する芸能事務所の「感覚」なのである。

引用元:芸能事務所で相次ぐ労基違反 業界の体質と脱法の「構図」

※企業名は黒塗りで記載

 

弁護士に相談

上記の通り、会社との交渉が難しいと感じた場合、速やかに弁護士に相談しましょう。労働事件の実務経験が豊富な弁護士を選ぶのが、ポイントです。

 

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まとめ

芸能マネージャーは特殊な仕事です。

 

したがって、通常の労働者とは異なる観点から、残業代の有無や金額を判断する必要もあるかもしれません。

 

もし、自身の残業代が気になる場合は、弁護士への相談も検討しましょう。

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この記事の監修者
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤康二 弁護士 (第二東京弁護士会)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。
編集部

本記事は労働問題弁護士ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※労働問題弁護士ナビに掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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