「年俸制だから残業代は出ない」と会社に言われ、残業代なしの状態に納得できない方もいるでしょう。
結論からいえば、年俸制でも労働基準法は適用されるため、残業代は原則として発生します。
残業代が出ないのは、固定残業代や管理監督者など一部の例外にあたる場合だけです。
本記事では、残業代が出ない例外のケースや年俸制の残業代の計算方法、未払い残業代を請求する流れまでをわかりやすく解説します。
年俸制で残業代が出ない状況に疑問を感じている方は、ぜひ参考にしてください。
年俸制とは賃金を1年単位で決める制度
年俸制とは、従業員の業績や成果に応じて、1年単位で給与の総額を決める制度です。
給与を決める単位が1年になるだけで、実際の支給は毎月分割しておこなわれるのが一般的です。
導入されるのは、外資系企業や専門職、管理職などが多くみられます。
年俸額は1年ごとの評価で見直され、前年の成果次第で上がることも下がることもあります
支給方法は会社によって異なり、年俸を12回に分けるほか、賞与を含めて14回や16回に分けて支払うケースもあるようです。
なお年俸制であっても、労働基準法が定める「1日8時間・週40時間」の法定労働時間は適用されます(労働基準法第32条)。
年俸制でも残業代は原則受け取れる
年俸制でも、法定労働時間を超えて働けば会社には割増賃金を支払う義務があるため、一律に「残業代なし」とするのは違法です(労働基準法第37条)。
会社が従業員に残業をさせるには、あらかじめ36協定を結ぶ必要があります。
36協定とは、労働基準法第36条にもとづき、時間外労働の上限などを労使で取り決める協定のことです。
ただし、36協定はあくまで残業をさせるための手続きにすぎないため、協定を結んでいても、実際に発生した残業には割増賃金を支払う義務があります。
年俸制は給与の決め方のひとつにすぎないため、残業代を支払わなくてよい理由にはなりません。
たとえ雇用契約書に「残業代は支払わない」という記載があったとしても、労働基準法を下回る契約は無効になります(労働基準法第13条)。
自分のケースが違法にあたるか判断に迷う場合は、早めに弁護士へ相談してみましょう。
年俸制で残業代が出ない例外4つ
年俸制でも、固定残業代・裁量労働制・管理監督者・業務委託契約のいずれかにあたる場合は、例外的に残業代が発生しません。
本章で解説するケースに当てはまらなければ未払い残業代を請求できるため、自分が該当しないかを順に確認していきましょう。
1.固定残業代(みなし残業)の場合
固定残業代(みなし残業代)とは、一定時間分の残業代をあらかじめ毎月の給与に含めて支払う仕組みです。
設定された時間を超えて働いた場合は、超えた分の差額を残業代として請求できます。
たとえば、月30時間分の固定残業代が含まれている場合、残業が月25時間なら追加で残業代が支払われることはありません。
しかし設定時間を上回り、月40時間働いた場合は、超えた10時間分の残業代が支払われます。
ただし、下記のような場合は、固定残業代の定めそのものが無効と判断され、支払い済みとされている分も含めて残業代を請求できる場合もあります。
- 基本給と固定残業代が区分されておらず、基本給の中に固定残業代がいくら含まれているかわからない
- 手当の名目があるだけで、実際は残業代として機能していない
給与明細や雇用契約書から、自分に固定残業代が支給されているのかを確認してみてください。
2.裁量労働制の場合
裁量労働制とは、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ労使で決めた時間を働いたものとみなす制度です。
仕事の進め方を働く人の裁量に任せる代わりに、みなし労働時間分の年俸を支払う形になります。
裁量労働制の場合は、みなし労働時間の範囲で働いたと扱われるため、原則として残業代は発生しません。
システムエンジニアやデザイナー、新聞記者など、進め方を本人に委ねやすい職種で導入されています。
ただし、みなし労働時間が法定労働時間の8時間を超えて設定されている場合は、超えた分に残業代が発生します。
たとえば、みなし労働時間が10時間なら、8時間を超える2時間分は割増賃金の対象です。
また、深夜労働(22時~翌5時)や法定休日に労働した場合などでも、割増賃金が支払われます。
3.管理監督者の場合
管理監督者とは、経営者に近い立場で働く一部の役職者のことです(労働基準法第41条第2号)。
労働時間や休日の規定が適用されないため、時間外労働や休日労働をしても残業代は発生しません。
管理監督者にあたるかは、肩書きではなく下記のような実際の働き方で判断されます。
- 経営に関わる権限をもつか
- 出退勤を自分で決められるか
- 地位に見合う待遇があるか
たとえば飲食店の店長でも、アルバイトの採用権限がなく出退勤も会社に管理されているなら、実態は名ばかり管理職に該当する可能性があります。
管理監督者にあたらなければ、過去にさかのぼって残業代を請求できます。
ただし、管理監督者にあたる場合でも、深夜労働(22時~翌5時)の割増賃金は支払う義務があります。
4.業務委託契約の場合
業務委託契約とは、会社に雇われるのではなく、個人が独立して仕事を請け負う契約のことです。
労働契約ではないため労働基準法が適用されず、残業代は発生しません。
個人事業主やフリーランス、自営業者として仕事を受注する働き方が業務委託にあたります。
もっとも、契約書の名称が業務委託でも、実際の働き方が会社員と変わらないケースは少なくありません。
会社の指揮命令を受け、勤務時間も拘束されている場合は、契約の名称にかかわらず、実態から労働者かどうかが判断されます。
働き方の実態が労働者と認められれば「偽装請負」にあたり、年俸制の会社員と同じく残業代の請求が可能です。
年俸制の残業代の計算方法
年俸制の残業代は、賞与やみなし残業の有無によって、基礎賃金の求め方は変わってきます。
本章では、基本の場合・賞与が含まれる場合・みなし残業制が採用されている場合の計算方法を解説します。
年俸700万円のモデルケースでのシミュレーションも解説するので、参考にしてください。
基本的な計算方法
年俸制で残業代がある場合の基本的な計算方法は下記のとおりです。
- 年俸額 ÷ 12ヵ月 = 1ヵ月あたりの賃金
- 1ヵ月あたりの賃金 ÷ 所定労働時間 = 1時間あたりの賃金
- 1時間あたりの賃金 × 割増率 × 残業時間
年俸を16分割で受け取っている場合でも、ステップ1は12分割で受け取っていると仮定して計算しましょう。
割増率については、下記表を参考にしてください。
| 残業の種類 | 割増率が発生する条件 | 割増率 |
| 時間外 | 時間外労働(1日8時間・週40時間を超えた分) | 25%以上 |
| 時間外労働が限度時間(1ヵ月45時間、1年360時間など)を超えたとき | ||
| 時間外労働が1ヵ月60時間を超えた分 | 50%以上 | |
| 休日 | 法定休日(週1日)に勤務したとき | 35%以上 |
| 深夜 | 22時~5時までの間に勤務したとき | 25% |
年俸に賞与が含まれる場合の計算方法
通常の賞与は、基礎賃金から除いて計算します(労働基準法施行規則第21条第4号)。
しかし、年俸制で金額があらかじめ確定している賞与は、除外できる賞与にあたらず、基礎賃金に含めて計算します。
年俸にあらかじめ金額が確定した賞与が含まれる場合は、賞与も年俸の総額に含めたうえで、基本と同じ下記手順で計算します。
- 確定賞与を含む年俸額 ÷ 12ヵ月 = 1ヵ月あたりの賃金
- 1ヵ月あたりの賃金 ÷ 1ヵ月の所定労働時間 = 1時間あたりの基礎賃金
- 1時間あたりの基礎賃金 × 割増率 × 残業時間 = 残業代
ポイントは、ステップ1で確定賞与を差し引かない点です。
たとえば、確定賞与を含む年俸700万円(月々50万円+賞与100万円)で、1ヵ月の所定労働時間が160時間のケースを考えてみましょう。
賞与を含めて計算すると、基礎賃金は「700万円 ÷ 12ヵ月 ÷ 160時間 ≒ 3,645円」です。
一方、会社が賞与100万円を除いて計算すると「600万円 ÷ 12ヵ月 ÷ 160時間 ≒ 3,125円」となり、1時間あたりの基礎賃金が520円低くなります。
基礎賃金が下がれば残業代も減るため、賞与がある場合は計算に含めるのを忘れないようにしてください。
固定残業(みなし残業)制も採用されている場合の計算方法
年俸に固定残業代が含まれる場合は、固定残業代分を差し引いてから基礎賃金を計算します。
計算の手順は下記のとおりです。
- (年俸額 - 固定残業代) ÷ 12ヵ月 = 1ヵ月あたりの賃金
- 1ヵ月あたりの賃金 ÷ 所定労働時間 = 1時間あたりの賃金
- 1時間あたりの賃金 × 割増率 × (実際の残業時間 - みなし残業時間)
固定残業代に含まれる残業時間を超えて働いた場合は、超過分の残業代を別途支払わなければなりません。
自分がいくらの残業代を請求できるのか、計算してみてください。
年俸900万円・賞与あり・残業代含む場合の計算シミュレーション
| 年俸総額:900万円(確定賞与を含む) 1ヵ月の平均所定労働時間:160時間 みなし残業代:月15万円分分(年180万円分) 実際の残業時間:60時間 |
上記のケースで、実際の計算の流れを確認しましょう。
- 900万円 - 180万円 = 720万円
- 720万円 ÷ 12ヵ月 = 60万円
- 60万円 ÷ 160時間 = 3,750円
- 3,750円 × 125% × 60時間 - 15万円=13万1,250円
したがって、このケースでは13万1,250円の残業代を請求できます。
仮に6ヵ月間、まったく同じ条件で残業していた場合は「13万1,250円 × 6ヵ月」で、78万7,500円を未払い残業代として請求可能です。
注意!未払い残業代の請求には時効がある
未払い残業代の請求権は、支払われるべきであった日を起算点として、3年です(令和8年8月現在)(労働基準法第115条・第143条)。
3年をすぎると、残業代の請求ができなくなる点に注意してください。
たとえば2025年11月30日の給与で未払い残業代があった場合、2028年12月1日に請求の時効を迎えます。
未払い残業代は毎月発生するため、時効も1ヵ月ずつ進んでいきます。
請求を後回しにするほど、回収できる金額は少しずつ減る点を理解しておきましょう。
時効を止める手段はあるものの、内容証明の送付や労働審判などは準備の時間も必要です。
未払い残業代に心当たりがある方は、1日でも早く弁護士に相談し、回収できる金額を確認しておきましょう。
年俸制の方が未払い残業代を請求する流れ5ステップ

本章では、年俸制の方が未払い残業代を請求する流れを5ステップにわけて解説します。
1.証拠を集める
未払い残業代を請求するには、実際の労働時間を客観的に示せる証拠が必要です。
証拠がないと会社に労働時間を否定される恐れがあるため、下記のような証拠をできるだけ多く集めましょう。
- タイムカードや勤怠システムの打刻履歴
- パソコンのログイン・ログオフ記録
- 業務メールやチャットの送信時刻
- 交通系ICカードの乗車履歴
- 手帳や日報などの業務記録
なかでもタイムカードや打刻履歴は、客観性が高く有力な証拠になります。
退職後は社内システムの記録にアクセスしにくくなるため、残業代の請求を考えている方は在職中から集めておくと安心です。
2.会社に内容証明郵便を送付する
集めた証拠をもとに未払い分の残業代を計算し、請求書を内容証明郵便で会社に送ります。
内容証明郵便とは、誰が・誰に・いつ・どのような内容の文書を送ったかを、郵便局が証明してくれる制度です。
請求は法律上の催告にあたるため、送った時点から6ヵ月間は消滅時効の進行を止められます(民法第150条)。
内容証明郵便の送付は、時効の完成が迫っているときの、有効な手段です。
書面で正式に請求すると、会社に本気度が伝わり、交渉に応じてもらいやすくなるでしょう。
3.会社と残業代について話し合う
内容証明郵便を送ると、多くの場合は会社から何らかの返答があります。
返答を受けたら、会社や会社の代理人弁護士と、未払い残業代の支払いについて話し合いを進めます。
話し合いでは、法的な根拠や証拠をもとに、支払うべき金額を主張するのが基本です。
会社が金額や残業時間を争ってくるケースもあるため、証拠をそろえておくほど交渉を有利に進められます。
ただし、労働者一人で交渉すると、会社側に少額での和解を迫られたり、言いくるめられたりする恐れがあります。
交渉の進め方に不安がある場合は、弁護士に代理を依頼するのもおすすめです。
交渉がまとまったら、あとで「言った・言わない」の争いにならないよう、必ず合意書(示談書)を取り交わしましょう。
4.労働審判を申し立てる
話し合いで解決に至らない場合は、裁判所に労働審判を申し立てます。
労働審判とは、裁判所で原則3回以内の期日で解決を図る法的手続です。
労働審判の特徴は、スピードと費用の負担の軽さです。
通常の訴訟より費用も時間もかからず、7~8割ほどが労働審判の段階で解決(調停成立)に至ります。
短期間で結論が出るため、早期の解決を望む方に向いた手続きです。
ただし、審判の結果に当事者の一方が異議を申し立てた場合は、自動的に訴訟へ移行します。
5.訴訟を提起する
労働審判で異議が出た場合や、はじめから争点が複雑な場合は、最終的な手段として訴訟(裁判)を起こします。
訴訟は労働審判と違って期日の回数に制限がなく、双方が納得いくまで主張を尽くせるのが特徴です。
審理を尽くす分、解決まで1年以上かかるケースもありますが、判決が確定すれば財産の差し押さえなどの、強制執行に進めます。
会社が支払いに応じない場合でも、未払い残業代があると認められれば強制的に回収できるのが訴訟の強みです。
訴訟の段階では専門的な法律知識が欠かせないため、弁護士に代理人を依頼するのが一般的です。
年俸制の残業代に関するトラブルは弁護士に相談しよう
年俸制の未払い残業代の請求は、労働問題にくわしい弁護士へ相談するのがおすすめです。
本章では、弁護士に依頼する主なメリットを3つ解説します。
1.正確な残業代を計算できる
弁護士に依頼すると、賞与の扱いや固定残業代の有効性などを精査し、正確な残業代を計算してくれます。
年俸制の計算は複雑なため、自分で計算すると、本来もらえる額より低く見積もりがちです。
弁護士であれば、タイムカードなどの証拠から労働時間を分単位で集計し、正確な割増賃金を算出できます。
適正な請求額を示すことで、会社側もごまかしが通じないと認識しやすくなります。
2.請求に関する手続きを依頼できる
弁護士に依頼すると、証拠の精査から内容証明の作成、会社との交渉や労働審判まで、代理人として進めてくれます。
上司や社長と直接やり取りする精神的な負担も軽くなるため、依頼者本人は仕事や転職活動に集中したまま、法的な手続きを進められます。
労働審判や裁判になった場合も説得力のある主張をしてくれるため、弁護士は心強い味方です。
3.付加金や遅延損害金まで含めた回収を見込める
弁護士が介入して裁判などに発展すると、未払い残業代そのものだけでなく、上乗せのお金まで請求できる場合があります。
代表的なのが、遅延損害金と付加金の2つです。
遅延損害金は、本来の支払日を過ぎたことに対する利息にあたります。
在職中は年3%ですが、退職後は年14.6%と高くなるため、退職から時間が経つほど請求できる総額が大きくなります。
付加金は、会社の未払いが悪質だと裁判所が判断した場合に、制裁として上乗せされるお金です(労働基準法第114条)。
未払い残業代と同じ金額まで命じられる場合があり、最大で本来の2倍の金額を受け取れる可能性もあります。
遅延損害金や付加金の回収ができれば金額が大きく変わるため、裁判を見すえるなら弁護士に相談しておくと安心です。
年俸制の残業代に関する相談は「ベンナビ労働問題」へ!
年俸制の未払い残業代を請求するなら、労働問題に強い弁護士を「ベンナビ労働問題」で探すのがおすすめです。
ベンナビ労働問題は、全国の労働トラブルに対応する弁護士を、地域や相談内容から検索できるポータルサイトです。
「初回相談無料」「休日・夜間対応」などの条件でしぼり込めるため、自分に合った弁護士を見つけやすくなります。
未払い残業代の請求権の時効が成立する前に、まずは無料相談を利用して、弁護士に回収の見通しを聞いてみましょう。
「ベンナビ労働問題」に残業代の依頼をした解決事例
「ベンナビ労働問題」の弁護士は、年俸制の残業代に関する多くの実績があります。
年俸制を理由に残業代を諦めていた方が、実際に回収に成功した事例を2つ紹介します。
1.元勤務先から残業代400万円の回収に成功
40代の医療関連で働く男性が、元勤務先へ残業代を請求し、400万円の回収に成功した事例です。
男性は正社員として働いていましたが、年俸制を理由に残業代を半ば諦めていました。
長時間の残業が続いた末に自主退職したものの、「何か請求できないか」とベンナビ労働問題で労働問題に強い弁護士を探して相談。
弁護士が調べたところ、在職中のタイムカードで出退勤が管理されていたため、打刻記録を証拠に労働審判を申し立てました。
会社は「管理監督者にあたる」「年俸に残業代が含まれる」と反論したものの、裁判所には認められず、400万円の回収に成功しました。
2.外資系企業から残業代1,000万円の回収に成功
50代の男性が、勤務先の外資系企業へ残業代を請求した事例です。
男性は年俸制の管理職として深夜まで残業を続けていましたが、年俸制を盾に残業代は一切支払われていませんでした。
内心では納得できず、ベンナビ労働問題で外資系の労働問題に対応できる弁護士を見つけて相談します。
オファーレターや就業規則、相手からの文書は全て英文でしたが、弁護士は書類を読み解き、「実態は名ばかり管理職であり、残業代を請求できる」と主張しました。
会社が支払いに応じなかったため訴訟を提起した結果、最終的に1,000万円を回収できました。
まとめ|年俸制でも残業代は請求できる
年俸制でも、労働基準法は適用されるため残業代は原則として発生します。
「年俸制だから残業代なし」という会社の説明は、違法です。
残業代が出ないのは、固定残業代・裁量労働制・管理監督者・業務委託契約等の例外にあたる場合に限られます。
自分のケースが例外にあたらなければ、基礎賃金を計算し、時効の3年が過ぎる前に請求へ進みましょう。
年俸制で未払い残業代がある方は、労働問題に強い弁護士を「ベンナビ労働問題」で探し、まずは無料相談を利用してみてください。
弁護士への相談で残業代請求などの解決が望めます
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