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ホーム > 労働問題コラム > 職業別の残業代 > 介護職で残業代を正当に受け取るためには|サービス残業分も請求が可能

介護職で残業代を正当に受け取るためには|サービス残業分も請求が可能

弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤康二 弁護士
このコラムを監修
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利用者と直接関わりを持つことでやりがいを感じられる介護職ですが、勤務前の早出や夜勤後の残業など恒常的に長時間の労働を強いられることがあり、法定労働時間を超える残業が発生しやすい業態と言えるかもしれません。

 

法定労働時間とは労働基準法(労働条件の最低基準を定めた法律のこと)で定められた労働時間の上限時間のことです

 

具体的には休憩時間を除いて、1日8時間、1週間で40時間までが原則的な労働時間の上限とされています。

 

法定労働時間

引用:時間外労働の上限規制|厚生労働省

 

※ 保健衛生業や接客娯楽業といった一定の職業は特例として、人員が常時10人未満の場合に限り、1週間の法定労働時間が40時間から44時間に変更されています。

 

(労働時間)

第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

○2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

引用:労働基準法

 

介護職は保健衛生業の中の社会福祉施設に含まれますので、常時使用する人員が9人以下の社会福祉施設の場合、法定労働時間は1日8時間、1週間44時間ということになります

 

上記はあくまで原則的な法定労働時間であり、これを超える労働が一切許されないというものではありません。事業場で時間外・休日労働に関する労使協定(所謂36協定)が締結されている場合、法定労働時間を延長することが許されています。

 

この場合の延長時間については、2019年4月1日の法改正により一定の限度が設けられましたので(中小事業主の場合は2020年4月1日から)、36協定を締結すれば、その限度内に限り残業を命じることが可能です。

 

関連記事:36協定(サブロク協定)とは|仕組み・限度時間・違法時の対処法まで

 

また、労働基準法は、通常の労働時間制度とは異なる変則的な労働時間制を許容しています。

 

そのため、事業場において法令で定める手続を実行して変則的な労働時間制度を採用している場合、法定労働時間を超える労働が行われても、当然には残業代が発生しない(時間外・休日労働とならない)場合もあります

 

例えば、このような変則的な労働時間制度の一つに変形労働時間制(労働時間を1週間、1ヶ月、1年等の一定期間単位で把握・規律する労働時間制度)があります。

 

当該制度を実施する場合、労使協定を締結したり、就業規則等の社内規則で定める等の手続を実行したりする必要があります(労使協定を定める必要がある場合は、これを労働基準監督署に届け出る必要もあります)。

 

このように、職場が変則的な労働時間制度を実施している場合、残業代が発生しているのか、発生しているとして、それがいくらとなるのかは、当該制度を踏まえた慎重な検討が必要です

 

本記事では、介護職の労働時間に注目して基本的事項を簡単に解説します。

 

 

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介護職のサービス残業は業界全体で横行している

サービス残業とは、一般的には正当な残業代が支払われない状態でする残業のことを指し、全労連介護・ヘルパーネットによると、6割以上の介護職員がサービス残業を行っているという報告もされています。

 

介護職のサービス残業

引用:介護施設で働く労働者のアンケート|全労連

 

当該報告内容が正確であれば、介護業界全体で本来支払われるべき残業代が支払われていない状態が蔓延しているといえるかもしれません。

 

以下、サービス残業に関連して問題となり得る事項について説明します。

 

固定残業代制度(みなし残業)の適正な運用がされていないケース

固定残業代制度とは、一般的には、実労働時間の長さに関わらず毎月一定額の残業代を支払う制度のことを意味します

 

例えば、雇用契約書に「月20時間の残業を含む」と記載して、毎月、20時間の残業が行われなくても、これが行われたものとみなして20時間分の残業代を固定で支払う制度がこれに該当します。

 

参考:固定残業代|厚生労働省

 

このような固定残業代制度は、正しく運用されている場合は特に問題はありません。

 

しかし、当該制度を正しく運用するには、雇用契約書や就業規則で通常賃金部分と割増賃金部分(固定残業代部分)を明確に区別して規定し、かつ割増賃金部分を残業行為の対価として支払っていると認められなければなりません

 

また、固定残業代制度はあくまで定額支払分を支払った範囲で残業代の支払に替える制度に過ぎませんので、実際に支払うべき残業代が定額分を超える場合は、超過分は別途精算する必要があります(固定残業代制度は一定額の支払いをすることで、残りの残業代を免除する制度ではないのです)

 

介護職事業者の中にもこのような固定残業代制度を実施している事業者は少なくないと思われますが、果たして、全ての事業者がこれを正確に理解して、正しく運用できているかは不明です。

 

正しく運用されていない場合には、多額の未払い残業代が発生してしまっているケースも少なくありませんので、注意しましょう。

 

管理監督者の運用が適正に行われていないケース

管理監督者とは、労働基準法において通常の労働者と区別され、時間外労働や休日労働の規律を受けないとされる労働者を言います。

 

法令上の管理監督者に該当する労働者の場合、時間外労働や休日労働に対する労基法上の規律は及びませんので、例えば、当該労働者が残業をしても、時間外労働割増賃金や休日労働割増賃金(残業代)は支払われないのが通常です。

 

介護職の現場では、施設長、ホーム長、事務長、マネージャーなどの役職者を「管理監督者」と整理して、残業代の支払いをしていないケースは少なくないと思われます。

 

しかし、労働者が「管理監督者」に該当するかどうかは、会社に与えられた肩書きではなく実態により判断されます。

 

もっとも、その判断の基準は明確ではなく、労働条件の決定や労務管理について経営者と一体的な立場にある者かどうかを個別具体的に判断するとされています

 

より具体的には、以下のような事項を総合的に考慮して、経営者と一体的立場にあるといえるかどうかが判断されているのが実情です。

 

  1. 企業の意思決定への関与の有無・程度
  2. 人事権そのほか企業内での権限の有無・程度
  3. 業務量や業務時間に対する裁量の有無・程度
  4. 地位と権限にふさわしい待遇の有無

 

したがって、「企業の意思決定に関与することがない」「業務量や業務時間への裁量の余地が乏しい」「地位に相応しい待遇がない」というような実態であれば、いくら「マネージャー」や「施設長」という肩書であっても、法令上の管理監督者と認められる可能性は低いです。

 

そして、法令上の管理監督者に該当しない場合には、当然、時間外労働・休日労働に対する法令上の規律を受けることになりますので、役職者であることを理由に残業代の支払をしないことは許されないことになります

 

管理監督者

引用:労働基準法における管理監督者|厚生労働省

 

管理監督者の取り扱いを巡る事例

スポーツ施設を運営する被告に対して管理監督者として勤めていた原告が、被告は管理監督者制度の適用を誤って長時間労働をさせたとして、割増賃金などを請求しました。裁判所は原告の主張を認め、被告に割増賃金などの支払いを命じました。

 

裁判年月日 平成29年10月 6日

裁判所名 東京地裁

裁判区分 判決

事件番号 平27(ワ)16310号

事件名 未払賃金等請求事件

裁判結果 一部認容

上訴等 控訴

Westlaw Japan文献番号 2017WLJPCA10066001

 

管理監督者に該当するハードルは上記のように極めて高くなります。したがって、企業側としては管理監督者に該当するかどうかは慎重に判断するべきでしょうし、労働者側は本当に自身が管理監督者と評価されるべきなのか慎重に検討するべきでしょう。

 

介護業界の未払い残業代事情

全労連 介護・ヘルパーネットによる終業時間後の仕事時間に関する調査によれば、介護職の場合日勤帯では30分以上の残業を行う人は22.9%、1時間以上1時間半以内の残業を行う人は9.7%とされています。

 

参考:介護施設で働く労働者のアンケート調査|全労連 介護・ヘルパーネット

 

2交代夜勤者の場合でも、残業なしと答えた人が7.3%と低い水準にありますし、それ以外の勤務携帯(深夜勤、準夜勤、日勤)でも、「残業なし」と回答した人は10~20%に留まります。

 

したがって、当該アンケート調査からは、介護職に就く労働者についてはある程度の残業が不可避である場合が多いと言えそうです。

 

また、同組織が行った介護職に対する残業時間に関する別調査(下記)でも、「残業なし」と答えた人は25.3%でした。

 

介護残業時間

引用:全労連 介護・ヘルパーネット

 

両者は別調査であり、調査対象や調査方法が異なるので数値は一致しませんが、いずれの調査からも、介護職に就く労働者の多くはある程度の残業を甘受しているということがいえそうです

 

なお、朝日新聞の2016年12月の記事によると、介護職員の半数近くが正確な残業時間を申告しておらず、そのうちの半数が申告しづらい雰囲気があるという報告もあるそうです。

 

したがって、上記アンケート調査は必ずしも正確なものではない可能性があり、実際はもっと多くの労働者が残業を余儀なくされているのかもしれません

参考:介護職の半数、残業「正確に申告せず」 労組調査:朝日新聞デジタル

 

実際、同調査には「自主的に残業しているから」といった理由で残業として申請しないという回答もあったようです。しかし、企業側には労働時間を正確に把握する義務がありますので、労働者側も残業をしたのであれば、これを正確に申告するべきでしょう。

 

(時間外、休日及び深夜の割増賃金)

第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

引用:労働基準法

 

ここからは、介護職に関する残業時間や残業代の問題にフォーカスして説明していきます。

 

介護業界の残業時間の平均

厚生労働省による調査によると、令和元年6月において、介護職を含む看護・福祉の残業時間の平均は5.3時間となっています。

参考: 毎月勤労統計調査 令和元年6月分結果速報|厚生労働省

 

介護業界の残業代の平均

厚生労働省の調査によると、令和元年6月において、介護職を含む看護・福祉の残業代の平均は14,803円となっています。

参考:毎月勤労統計調査 令和元年6月分結果速報|厚生労働省

 

全業界の平均残業代は約19,735円であるため、介護職を含む看護・福祉の残業代の金額はやや低めになります。

 

介護職で未払い残業代が発生しやすい理由

全労連ヘルパーネットの調査によると、介護職でサービス残業をする人は全体の6割を超えているという報告がされています。

 

当該報告の真偽や正確性は不明ですが、介護職に就く労働者のうち相当数はサービス残業を経験している可能性は否定されないと思われます。

 

10月のサービス残業はどれくらいありましたか
サービス残業はない 38.9
5時間未満 23.7
5〜10時間未満 14.1
10〜15時間未満 10.1
15〜20時間未満 4.5
20〜25時間未満

4.4

25〜30時間未満 0.9
30〜35時間未満 1.3
35〜40時間未満 0.5
40〜45時間未満 0.7
45時間以上 0.9
%ベース 2301

参考:時間外労働|全労連 介護・ヘルパーネット

 

ここからは介護職でサービス残業が多い理由をご紹介します。

 

介護報酬

介護報酬とは、事業者が要介護者や要支援者といった介護保険が適用される利用者に介護サービスを提供した場合にその対価として支払われる報酬のことです。

 

参考:介護保険の介護報酬とは | 健康長寿ネット

 

介護報酬は提供される介護サービスの内容によって金額が定められています。原則として9割は保険から支払われることになっており、残りの1割が利用者負担となっています。

 

介護報酬が福祉施設や事業所の売り上げとなっており、売り上げによって労働者の給与や事業所の経営方針に関わるため、介護報酬改定の動向が介護業界全体で注視されています。

 

また、2015年に行われた介護報酬改定によって介護報酬が減額されました。報酬額が2.27%引き下げられたことにより、介護サービスを提供する介護施設側に経済的余裕がなくなったということがいえるかもしれません。このしわ寄せが労働者にもたらされていると考えることもできるのかもしれません。

 

たとえばツイッター上で以下のような投稿がされています(真偽は不明です)。

 

 

 

名ばかり管理職の問題

名ばかり管理職とは、上記で「管理監督者の適正な運用がされていないケース」に関する問題です。

 

つまり、介護事業者から、一定の役職を与えられて「管理職」=管理監督者として扱われているものの、法令の定める管理監督者には該当しないようなケースを想定しています

 

(労働時間等に関する規定の適用除外)

第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。

一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者

二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

引用:労働基準法

 

介護職の現場では、事業者の都合で管理職とされながらも、権限や責任が限定的であったり、業務量に裁量がなく過酷な労働環境に置かれていたり、待遇がそれほど高くなかったりということはあるのかもしれません。

 

たとえばツイッター上で以下のような投稿がされています(真偽は不明です)。

 

 

労働時間の計算が正確でない場合がある

労働時間とは、客観的に使用者の指揮命令下に置かれている時間とされています。

 

事業主はこのような労働時間を正確に把握して管理する義務を負っていますが、介護職の現場ではこれが正確になされていない場合があるのかもしれません(そのように把握されない残業時間は、結果的にサービス残業を生みます)。

 

例えば、以下のような時間が労働時間から除外されているのであれば、労働時間が正確に把握されていない可能性があります。

参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン|厚生労働省

 

業務開始前の準備行為の時間

介護職の現場では、業務に従事する前に職場で定められた作業着(白衣等)に着替えることが義務付けられていたり、交代前勤務者からの申し送り事項の伝達が行われたりという、準備行為が予定されている場合があります。

 

このような準備行為も業務に必要な行為として使用者に義務付けられているものであれば、使用者の指揮命令下にある時間として、労働時間と評価する余地は十分あります

参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン|厚生労働省

 

就業時間外の制服への着替えが労働時間であると認められた事例

従業員である原告が、勤め先である被告に更衣室での作業服などの装着や、その他の始業前の業務準備は労働時間であると主張しました。最高裁は作業服の装着は労働時間として認められるという判断を下しました。

 

裁判年月日 平成12年 3月 9日

裁判所名 最高裁第一小法廷

裁判区分 判決

事件番号 平7(オ)2030号

事件名 賃金請求上告事件 〔三菱重工業長崎造船所事件・一次訴訟・組合側・上告審〕

裁判結果 上告棄却

Westlaw Japan文献番号 2000WLJPCA03090003

 

このような準備行為を会社から義務付けられているのに、当該準備行為にかかる時間が労働時間として評価されていない場合、本来労働時間とするべき時間について賃金の支払がされていない可能性があります

 

例えば、全労連 介護・ヘルパーネットの調査によると、日勤帯では始業時間の15〜30分前に仕事に就く介護職員が全体の38.6%を占めています。

 

その詳細は不明ですが、介護従事者が始業開始前に何らかの準備行為を行っていることの結果が現れている可能性は否定できません。

 

参考:介護施設で働く労働者のアンケート調査|全労連 介護・ヘルパーネット

 

休憩時間が適正に運用されていないケース

休憩時間とは、労働からの解放が保障されている時間を意味し、休憩時間中に労働者は会社からの指示・命令を受けることはありません。

 

(休憩)

第三十四条 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。

○2 前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、この限りでない。

○3 使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。

引用:労働基準法

 

しかし、介護の現場では、休憩時間中に利用者家族への連絡帳記入や利用者の緊急見守りなどの作業が発生するケースもあるそうです。このようなケースが頻繁に生じているようであれば、休憩時間中に労働から解放されているとは到底言えません。

 

また、そもそも人手が足りていない事業場では、会社から「うちは休憩時間が取れないから」と一方的に言われて休憩が取れないが、タイムカードや勤怠上では休憩を取っていることになっているというケースも想定されます。

 

これらのケースでは、本来、休憩時間として労働時間から除外されている時間が、実際は労働時間と評価され、これが適正に把握、管理されていないこととなります。結果、当該把握されない労働時間について賃金の不払いが生じている可能性は否定できません。

 

なお、法令上は、以下の休憩時間を事業場で一斉に与えることが必要とされています。

 

  • 労働時間が6時間以上かつ8時間以下の場合は45分以上
  • 労働時間が8時間を超える場合には1時間以上

 

利用者の送迎後の事務所に戻るまでの時間

デイサービス(要介護認定を持つ高齢者が利用できる日中活動系サービス)などの通所介護には送迎サービスが設けられています。送迎サービスがあることによって車椅子の利用者でも安心して通うことが可能になっています。

 

しかし、施設によっては利用者を送迎して事務所に戻るまでの時間を労働時間に含まないという運用をしているケースもあるというインターネット上の情報もあります(当然、真偽は不明です)。

 

利用者を家に送り届けても、その後、事業所に車を戻すために戻っているのであれば、当然、その戻る間も業務時間として取り扱われるべきです。

 

したがって、そのような運用が本当に行われているのであれば、本来、労働時間として把握・管理されるべき時間が、労働時間として考慮されていないことになってしまいます。

 

 

参考:介護労働者の労働条件の確保・改善のポイント

 

もっとも、このような事業場外の労働については、労働基準法に基づいて所定労働時間働いたものとみなすことが許されるケースもあります。したがって、上記の運用に一律に問題があるということにはなりませんので、注意してください。

 

イベントの準備時間

介護職の現場では利用者の機能訓練の一環として、共同制作やゲームなどといった多くのイベント・レクレーションを企画することがあります。

 

このようなイベント・レクレーションの企画や準備が、事業場で行われればよいですが、中には自宅に持ち帰って企画の検討や準備を行うことを強いられるケースの話もあります。

 

このような持ち帰りの企画・準備に係る時間は、場合によっては労働時間と評価される可能性も否定できません。

 

仮に、このような持ち帰りの作業が労働時間と評価されるような場合、これらが正確に把握・管理されない結果、賃金が適正に支払われていないということになります。

 

なお、全労連 介護・ヘルパーネットで2019年に行われた介護労働実態調査では、不払い残業代の項目にイベント・レクレーション準備が挙げられています。そのため、このような準備行為について、労働時間となるかどうかについて適正な運用がされているかどうかは、一層注意が必要かもしれません。

参考:2019年度版介護労働実態調査|全労連 介護ヘルパーネット

 

関連記事:所定労働時間とは|労働時間の定義と法定労働時間との違い|労働問題弁護士ナビ

 

介護職で残業代未払いが問題になった事例

訪問介護業を営む被告を退職した原告が未払いの割増賃金支払いを請求しました。原告の主張は正当であるとされ、裁判所に認められました。

 

裁判年月日 平成22年 3月12日

裁判所名 東京地裁

裁判区分 判決

事件番号 平20(ワ)38525号

事件名 割増賃金等請求事件

裁判結果 一部認容

Westlaw Japan文献番号 2010WLJPCA03128017

 

介護職で残業が多い理由

介護職で残業が多くなってしまう理由についていくつかご紹介します。

 

介護残業多い

 

人手不足

現在の日本ではどの業界も人手不足に悩まされていますが、介護職の場合はその傾向は顕著と言えるかもしれません。

 

例えば、公益財団法人介護労働安定センターで平成27年に行われた調査によると、介護事業者のうち「従業員が不足している」と感じている事業者は、全体の6割に登ったという報告もあります。

参考:平成27年度「介護労働実態調査」の結果|公益財団法人介護労働安定センター

 

参考元によると、多くの事業所が人手不足に陥る理由を「採用が困難である」としています。なお、採用が困難である原因については賃金が低い、仕事がきついといった理由が挙げられています。

 

また、全労連 介護・ヘルパーネットの調査によると年次有給休暇を全くとれていない状態の介護職員が全体の2割を占めています。5日までしかとれない介護職員は5割に及びます。

 

介護職の年休

引用:介護施設で働く労働者のアンケート調査|全労連 介護・ヘルパーネット

 

以上のように、介護職の場合、ただでさえ人手不足のところに、労働条件や労働環境が過酷であるという理由から採用が困難となり、一層の人手不足となっているという傾向が見受けられます

 

記録など現場作業後のデスクワーク

介護職は、日中勤務はほぼほぼ利用者のケアに充てられており、利用者の介護状況についての報告書作成といったデスクワークは現場業務が終わってからこれを行うことを余儀なくされることが多いようです(真偽は不明ですが、ツイッターでは以下のような投稿があります)。

 

 

このように、介護職では日中は利用者のケアに追われ、夕方以降はデスクワークに追われるというように、作業そのものが多く、過酷な勤務に陥りやすいのかもしれません。

 

委員会・カンファレンスへの出席

介護職の現場では、情報や問題意識の共有のために、定期的なケアカンファレンス(ケアに関する会議)やミーティングが行われるのが通常です。

 

上記のように、ただでさえ作業が多い中で、カンファレンスや報告に時間が取られることで、その勤務実態がますます過酷となる可能性があります。

 

緊急事態への対応がある

介護サービスの利用者である要支援者や要介護者は様々な身体の機能が低下しているために、様々な病気を抱えており、思いがけない怪我や急変を起こすことがあります。

 

看護師が常駐している施設において、介護施設でサービスを受けている利用者の容態が急変した場合、介護士は看護師の補助という役割を担うことになります。病院へ救急搬送となった場合には、介護士は利用者に同行することもあります。

 

このような緊急事態への対応の必要性も、介護職労働者の勤務状況を過酷なものとしている一因といえるかもしれません。

 

残業代が支払われなかった場合の対処法

残業代とは、正確には時間外労働・休日労働・深夜労働に対する割増賃金のことです。それぞれの労働の意味は以下のとおりです。

 

  • 時間外労働:法定労働時間を超えて行われる労働
  • 休日労働:法定休日に行われる労働
  • 深夜労働:22時~5時の時間帯に行われる労働
  • ※ 法定労働時間は、1日8時間、1週40時間の労働時間。

 

第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

○2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

引用:法定労働時間

 

このような時間外・休日・深夜労働に対しては、法律で定める料率以上の割増賃金が支払われる必要があります。

 

割増賃金は時間外労働、休日労働、深夜労働によって割増率が異なります。

 

時間外労働 125%(場合によっては150%)
休日外労働 135%
深夜労働 25%

 

関連記事:残業代とは|基本ルール/計算方法/未払い請求の進め方|労働問題弁護士ナビ

 

なお、このような時間外・休日・深夜労働の算定方法ですが、会社によってはこれを10分、15分単位で計算して、単位未満の数字を切り捨てているということも珍しくありません。

 

しかし、このような切り捨ては法令上許されていません。労働時間は1分単位で計算するのが原則であり、少なくとも一律で切り捨てることは違法とされています。

参考:労働基準法|東京労働局

 

ここからは、残業代の計算方法や残業代の請求方法をご紹介します。

 

残業代の計算方法

割増賃金(残業代)を求める計算式は以下になります。

 

割増賃金=1時間あたりの賃金※×割増率×残業時間

 

例えば、1時間あたりの賃金が1,600円で30時間の時間外労働を行った場合には以下のように計算します。

 

残業代 = 1時間あたりの賃金※×割増率×残業時間

    = 1,600円×1.25%×30時間

    = 60,000円

 

※1時間あたりの賃金は基本給だけでなく役職手当や職務手当などの手当も計上した上で、これを月平均所定労働時間で割ることで計算します。もっとも、以下のような賃金は除外されます。

 

  • 家族手当
  • 子女教育手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 住宅手当
  • 賞与

など

 

残業代を正確に計算したいという場合には以下の記事をご覧ください。

正確な残業代を計算する5つのステップ|労働問題弁護士ナビ

 

未払い残業代を請求するために必要な証拠

未払い残業代を請求する場合、残業代が発生していることは労働者側で主張・立証する必要がありますので、請求したい場合は、まず証拠集めをすることになります。

 

具体的には、タイムカード・勤怠表などの記録から残業時間を証明しつつ、就業規則・雇用契約書・給与明細から支払われるべき残業代の金額を証明するのがセオリーです。

 

未払い残業代の請求方法

残業代を請求したいとは思っても、実際にはどういった方法で請求すればよいのでしょうか。

 

残業代が未払いである場合の請求方法をご紹介します。

 

会社に任意での支払いを求めて交渉

会社が話し合いに応じてくれそうな場合には、使用者である会社に未払い残業代の支払いについて、直接交渉してもよいでしょう。

 

交渉をご自身で行い、弁護士に依頼をしない場合には費用もかかりません。穏便に話し合いが進んだ場合には早期の解決を望めるかもしれません。

 

他方、会社が話し合いに応じてくれそうにないという場合は交渉では難しいかも知れませんので、この場合は法的手続も視野に入れて検討しましょう。

 

関連記事:自分でできる!残業代を内容証明郵便で請求する際の書き方と例文|労働問題弁護士ナビ

 

労働基準監督署へ相談

労働基準監督署に違反申告(残業代未精算の事実を申告)することにより、労働基準監督署から是正の指導や勧告がなされ、未払いとなっている残業代の一部が支払われるということもあります。

 

もっとも、この方法では未払分全額の精算がされることは稀です。

 

関連記事:労働基準監督署と未払い残業代請求|相談・申告・斡旋は有効?|労働問題弁護士ナビ

 

法的手続き

最終的には会社に対して法的手続を実行して請求する方法があります。

 

この場合は訴訟手続と労働審判手続がありますが、いずれを選択してもOKです。いずれを選択するべきか、弁護士等の専門家に相談して判断してもらいましょう。

 

労働審判とは平成18年4月から始まった、労働者と事業主との間で起きた労働に関する紛争を、迅速かつ適正に解決するための制度のことです。

 

労働審判の流れ

 

 

労働審判については以下の記事を参考にしてください。

関連記事:労働審判とは|申立ての流れや期間をわかりやすく解説|労働問題弁護士ナビ

    :残業代請求の裁判例5つと労働審判・訴訟で未払い残業代を取り戻す手順|労働問題弁護士ナビ

 

 

介護職でホワイトな職場を見分ける方法

厚生労働省は2019年度から、職場環境の改善などに取り組んでいる介護事業所の認定制度を開始することを発表しました。

 

介護事業所における、長労働時間の削減や休暇の取得のための取り組みを評価することで、働きやすい介護事業所を明らかにして、介護職員の離職を防ぐことが目的とされています。

 

この制度が今後の介護職におけるホワイトな職場の目安になることを期待できます。

 

参考:人材育成等に取り組む介護事業者の認証評価制度の実施について|厚生労働省

 

その他にも介護職で労働環境の整った職場を見分けるポイントをご紹介します。

 

在籍年数の長い職員が多数いる

厚生労働省の調査によると、介護職は全産業の中では離職率が高いとされています。

 

介護職の離職率

引用:介護労働の現場|厚生労働省

 

厚生労働省の調査によると、介護職をやめた人のうちの24.7%が職場の人間関係に問題があったためと答えており、23.3%が事業所の運営のありかたに不満があったためだと答えています。

 

そのため、離職率が低く、在籍年数の長い職員が多い職場は人間関係が良好で、施設の運営も適正な労働環境の整った働きやすい施設であることが多いと推測できます。

 

面接の際に、勤めている職員の在籍年数を確かめておくのも一つの手になるかもしれません。

 

兼業主婦が多数在籍している

前項の調査によると、結婚・出産・妊娠・育児のために介護の仕事を辞めている人は全体の9.1%も存在します。

 

これは、結婚や出産といった当たり前のライフイベントが起きた際に、働き続けることができない劣悪な職場が少なからず存在していることを示しています。

 

反対に、兼業主婦が活躍している介護施設や事業所では、各々のライフスタイルに合った柔軟な働き方を選択できるホワイトな職場であると期待でるかもしれません

 

まとめ

介護職では、「残業は20時間までしかつけられない」「うちでは残業はつかない」といったように施設のルールを振りかざし、残業があった事実すら有耶無耶になってしまうこともあります。

 

しかし、労働基準法において、発生した分の残業代は正当に支払われる必要があります。

 

ご自身の残業代が正確に支払われているのか、きちんと確認しておきましょう。

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この記事の監修者
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤康二 弁護士 (第二東京弁護士会)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。
編集部

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