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過去の一定期間にアスベストによる健康被害を受けた場合、国が定める和解手続きに基づいて賠償金の支払いを受けることができます。
アスベスト訴訟における和解手続きは大まかな流れが決まっているので、実際にアスベスト訴訟・和解手続きに臨む際には、事前に全体像をきちんと把握しておきましょう。
この記事では、和解が成立するまでの手続きの流れを中心に、アスベスト訴訟の全体像について解説します。
国に対するアスベスト訴訟では、当初から和解成立を目指した準備や主張・立証活動を行う必要があります。実際にアスベスト訴訟を提起する前に、和解が成立するまでの手続きの全体的な流れを掴んでおきましょう。
まずは訴訟を提起する前の準備として、アスベストによる健康被害の経緯・内容を踏まえ、どのような法律構成でいくらの賠償金を国に対して請求するかを検討することが必要です。
またアスベスト訴訟では、健康被害の内容や経緯について、証拠を用いた立証を行う必要があります。
そのため、主張内容に対応する証拠収集を徹底的に行うことも大切です。
随時弁護士に相談をしながら充実した訴訟準備をすることが、アスベスト訴訟において適切な和解金を受け取ることに繋がります。
事前準備が完了したら、実際に裁判所に対して訴状を提出して、国家賠償請求訴訟を提起します。管轄裁判所は「被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所」となるのが原則です(民事訴訟法4条1項)。
(普通裁判籍による管轄)
第四条 訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。
2 人の普通裁判籍は、住所により、日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所により、日本国内に居所がないとき又は居所が知れないときは最後の住所により定まる。
3 大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人が前項の規定により普通裁判籍を有しないときは、その者の普通裁判籍は、最高裁判所規則で定める地にあるものとする。
4 法人その他の社団又は財団の普通裁判籍は、その主たる事務所又は営業所により、事務所又は営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
5 外国の社団又は財団の普通裁判籍は、前項の規定にかかわらず、日本における主たる事務所又は営業所により、日本国内に事務所又は営業所がないときは日本における代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
6 国の普通裁判籍は、訴訟について国を代表する官庁の所在地により定まる。
引用元:民事訴訟法4条1項
しかしアスベスト訴訟の場合は、以下の裁判所にも管轄が認められます。
裁判所によって訴状が受理されると、第1回口頭弁論期日が指定されますので、それまでに主張・立証の準備を整える必要があります。具体的には、訴状よりも詳しい主張内容を記載した準備書面を作成し、裁判所に提出することになります。
口頭弁論期日では、最高裁判例をベースとして定められている和解要件についての主張・立証を行います。(立証すべき事項については後述)。
アスベスト訴訟における立証は必ず証拠を用いて行う必要があるため、すべての和解要件をカバーできるだけの証拠を揃えておくことがきわめて重要です。
口頭弁論期日は、おおむね1か月おきに繰り返され、和解要件に関する立証の成否が明らかになるまで続きます。
和解要件がすべて立証されれば、国が裁判上の和解に応じ、アスベスト訴訟は終結です。裁判上の和解が成立した場合、その旨が和解調書に記載され、確定判決と同一の効力をもって当事者を拘束します(民事訴訟法267条)。
(和解調書等の効力)
第二百六十七条 和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。引用元:民事訴訟法267条
なお、和解によって原告(被害者)が受け取ることができる賠償金は、健康被害の内容によって決まっています。具体的な賠償金額については、後の項目(および別の記事)で解説しているので、併せてご参照ください。
裁判上の和解が成立すると、国は和解内容に従って、原告(被害者)に対して和解金を支払います。
アスベスト訴訟における裁判上の和解は、「泉南アスベスト国家賠償請求訴訟」の最高裁判例に基づいて制度化されています。
(泉南アスベスト国家賠償請求訴訟については、以下の記事をご参照ください。)
【関連記事】アスベスト訴訟の裁判例3つ|最高裁判例や泉南訴訟・建設アスベスト訴訟についても
立証すべき和解要件についても、和解制度の中で以下のとおり決められているので、全ての和解要件を立証できるように充実した準備を整えましょう。
昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿(アスベスト)工場内において、石綿(アスベスト)粉じんにばく露する作業に従事したことが必要です。
参考:厚生労働省|粉じん作業等における粉じんばく露リスクの調査研究
アスベスト工場での作業従事歴が上記の期間外に重なっていない場合には、アスベスト訴訟による和解制度の対象になりません。ただし、健康被害が生じた経緯などによっては、国や企業に対する損害賠償請求が認められるケースもあります。
この場合、案件に応じた個別具体的な立証が必要となるため、弁護士に相談しながら対応しましょう。アスベスト工場における作業従事歴の立証には、日本年金機構が発行する「被保険者記録照会回答票」を用いるのが有効です。
引用元:全国市議会議長会
アスベスト訴訟によって得られる和解金額は、原告に発生している健康被害の症状によって変わります。そのため、適正な賠償金を得るためには、健康被害の内容を正しく立証しなければなりません。
健康被害の症状を立証するために必要な証拠は、以下のとおりです。ご自身の健康被害の症状について、適切に立証できる証拠を揃えましょう。
アスベスト訴訟における和解金請求権は、法的には不法行為に基づく損害賠償請求権として位置づけられます。したがって、国に対して和解金を請求するためには、不法行為の消滅時効(民法724条、724条の2)が完成していないことが必要です。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条の二 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。
引用元:民法724条、724条の2
消滅時効の起算点は、もっとも重い症状が新たに見つかった時点です。また、起算点が民法改正の前か後かによって、以下のとおり時効期間が異なります。
消滅時効の起算点 |
時効期間(いずれか早い方) |
2020年3月31以前 |
損害および加害者を知った時から3年 不法行為の時から20年 |
2020年4月1日以降 |
損害および加害者を知った時から5年 不法行為の時から20年 |
消滅時効が完成してしまうと、国に対して和解金を請求することができなくなってしまいます。
そのため、早めに弁護士に相談をして、消滅時効の完成を阻止しましょう。
消滅時効の完成を阻止する方法などについては、以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご参照ください。
【関連記事】アスベスト訴訟では消滅時効は何年?民法改正も踏まえた時効期間・更新方法を解説
アスベスト訴訟における和解金額は、症状の重さ・合併症の有無・死亡の有無によって、550万円から1300万円までの範囲内で以下のとおり定められています。
管理2で合併症がない場合 |
550万円 |
管理2で合併症がある場合 |
700万円 |
管理3で合併症がない場合 |
800万円 |
管理3で合併症がある場合 |
950万円 |
管理4で肺がん・中皮腫・びまん性胸膜肥厚の場合 |
1150万円 |
石綿肺(管理2・3で合併症なし)による死亡の場合 |
1200万円 |
石綿肺(管理2・3で合併症ありまたは管理4)で肺がん・中皮腫・びまん性胸膜肥厚による死亡の場合 |
1300万円 |
各カテゴリの詳細や、賠償金請求時のポイントなどについては、以下の記事を併せてご参照ください。
【関連記事】アスベスト訴訟の賠償金は最大1300万円|症状別の金額と増額請求のポイント
アスベスト訴訟を弁護士に依頼すると費用がかかるため、ご自身で訴訟手続きを進めたいとお考えの方もいらっしゃるかと思います。実際のところ、アスベスト訴訟における和解を、被害者ご本人だけで実現させることは可能なのでしょうか。
アスベスト訴訟では、前述のとおり、最高裁判例に基づいて和解制度が整備されており、立証が必要な内容や証拠もおおむねパターン化されています。そのため通常の訴訟に比べると、被害者ご自身でも、訴訟提起から和解の成立までの手続きに対応しやすいという側面があります。
ただし、和解要件の中でも、健康被害の症状については医学的な立証が必要になります。特に賠償金のどの区分に該当するかの判断が微妙なケースでは、医師とコミュニケーションを取ったうえで、精緻に医学的な立証を行うことが求められる。
その場合には、被害者ご本人だけで主張・立証活動を行うことが困難になるケースがあるかもしれません。
アスベスト訴訟の和解手続きを弁護士に依頼することには、専門的な立証にも対応できる・被害者の負担が軽減されるなど、多くのメリットがあります。
訴訟手続きに不慣れな方は、弁護士にアスベスト訴訟の提起を依頼する方が、スムーズに和解金の受け取りを実現できる可能性が高まるでしょう。アスベスト訴訟を弁護士に依頼するメリットについては、以下の記事も併せてご参照ください。
【関連記事】アスベスト訴訟を弁護士に依頼する4つのメリット|選び方や弁護士費用も解説
アスベスト訴訟でスムーズに和解を実現するためには、事前の訴訟準備を充実して行うことが必要不可欠です。
アスベスト訴訟の和解手続きは制度化されているため、被害者ご自身でも対応しやすい側面がありますが、医学的な立証などについては専門的な対応が必要になります。
そのため、アスベスト訴訟に関して少しでもご不安をお持ちの場合は、弁護士にご相談ください。弁護士は、訴訟準備・訴訟手続きの遂行・和解の成立に至るまで、被害者の方にご負担をかけることのないようサポートをご提供いたします。
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