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アスベスト訴訟とは?訴訟の背景と概要・手続きの流れ・賠償金支給要件などを解説

更新日
ゆら総合法律事務所
阿部由羅
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アスベスト訴訟とは?訴訟の背景と概要・手続きの流れ・賠償金支給要件などを解説

1950年代後半から1970年代前半にかけて、石綿工場内での作業を原因として、アスベストによる多数の健康被害が報告されました。

石綿工場内での作業により健康被害を受けた場合、アスベスト訴訟を提起することによって、国から損害賠償を受けられる可能性があります。もしご自身が賠償金支払いの対象ではないかと思い至った場合には、弁護士と協力して、アスベスト訴訟を提起する準備を始めましょう。

この記事ではアスベスト訴訟とは何かについて、手続きの流れや和解成立の要件などを中心に、弁護士が解説します。

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アスベスト訴訟とは何か|石綿被害に関する国の責任と経緯について

かつてアスベストは、全国各地の建築物に資材として使用されていましたが、現在では人体に対して悪影響を生じることが判明しています。このアスベストを生産する工場で働いていた人に対して、国の損害賠償責任が最高裁の判例上認められています

まずは国の損害賠償責任が認められた背景について、その概要を知っておきましょう。

肺がん・悪性中皮腫などの健康被害が発生

肉眼で確認できないほど細い繊維状の物質であるアスベストは、防火・防音・断熱用の資材として重宝されてきました。しかし近年になって、人が吸引すると肺組織に滞留し、肺がんや悪性中皮腫などの原因になることが判明しました。

その裏で、過去に石綿(アスベスト)の生産工場で働いていた労働者が多数死亡するなど、深刻な健康被害が報告されていたのです。アスベストの有害性は長年明らかになってなかったこともあって、アスベスト被害は当事者の知らないところで際限なく拡大しており、大きな社会問題となりました。

現在では、労働安全衛生法に基づき、一定量のアスベストを含有する製品などの製造・輸入・譲渡・提供・使用が全面的に禁止されています。

最高裁が国の規制権限不行使を違法と認定

最高裁平成26年10月19日判決の事案では、大阪の石綿工場で働いていた元労働者や遺族などが原告として、アスベストによる健康被害について国を提訴しました。

原審の高裁判決では国の責任が否定されましたが、最高裁は局所排気装置の設置を義務付けることをしなかった国の規制権限不行使を違法と認定し、原判決を破棄して高裁に差し戻しました。

該当裁判要旨

昭和33年当時、(1)石綿製品の製造等を行う工場又は作業場における労働者の石綿肺り患の実情が相当深刻なものであることが明らかとなっていたこと、(2)局所排気装置の設置が上記の工場等における有効な粉じん防止策であったこと、(3)我が国において局所排気装置の設置等に関する実用的な知識及び技術の普及が進み、局所排気装置の製作等を行う業者及び局所排気装置を設置する工場等も一定数存在していたこと、(4)労働省の委託研究の成果として局所排気に関するまとまった技術書が発行。

労働省労働基準局長が同年5月26日付けで石綿に関する作業につき局所排気装置の設置の促進を指示する通達を発していたことなど判示の事情の下では、労働大臣が昭和46年4月28日まで労働基準法(昭和47年法律第57号による改正前のもの)に基づく省令制定権限を行使して罰則をもって局所排気装置を設置することを義務付けなかったことにつき、上記の工場等の実情に応じて有効に機能する局所排気装置を設置し得るだけの実用的な工学的知見が確立していなかったことを理由に上記の省令制定権限の不行使が国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえないとした原審の判断には、違法がある。

裁判年月日 平成26年10月 9日

裁判所名 最高裁第一小法廷

裁判区分 判決

事件番号 平23(受)2455号

事件名 損害賠償請求事件

裁判結果 一部破棄差戻、一部上告棄却

文献番号 2014WLJPCA10099004

参考:westlawjapan

原告と国が和解して賠償金制度が確立

その後、差し戻し控訴審において原告と国の和解が成立し、以降は和解内容をベースとした賠償金制度が設けられました。現在では、石綿工場で業務に従事していた労働者は、上記の和解内容に沿った一定の要件を満たせば賠償金を受け取ることができます。

国に対する賠償金請求は、アスベスト訴訟を通じて行いますので、次の項目で詳しい手続きについて解説します。

アスベスト訴訟とは?賠償金請求の手続き・流れ

アスベストによる健康被害を理由とする国への賠償金請求は、訴訟手続きを通じて行うことが必要です。以下では、アスベスト訴訟による賠償金請求の手続き・流れについて解説します。

賠償金請求には訴訟内での和解が必要

国が設けているアスベスト被害の賠償金制度では、賠償金の支払いは「裁判上の和解」に基づいて行うことになっています。つまり、裁判の中で一定の要件(後述)を原告側が立証することにより、国が和解に応じて賠償金が支払われるという仕組みになっているのです。

そして裁判上の和解を成立させる前提として、アスベストによる健康被害を受けた被害者は、国に対して訴訟を提起する必要があります。

国に対して国家賠償請求訴訟を提起する

アスベスト訴訟は、国に対して損害賠償を求める「国家賠償請求訴訟」に当たります。国家賠償請求訴訟とは、国による違法な公権力の行使・不行使が原因で、市民が損害を被った場合に用いられる手続きです。

アスベストによる健康被害は、国の規制権限不行使が原因とされているので、国家賠償請求訴訟を提起すべき場面といえます。

アスベスト訴訟の主な流れ

アスベスト訴訟の主な流れについて、手続きの順を追って見てみましょう。

 

①訴訟提起

アスベスト訴訟を提起するには、裁判所に対して「訴状」を提出します(民事訴訟法133条1項)。訴状には、国の違法行為(規制権限の不行使)によってアスベスト被害を受けたという事実や、請求する賠償金の金額などを記載することになります。

②準備書面の作成・提出

訴状を提出した後、口頭弁論に備えて、訴状の記載よりもさらに詳しい事実関係などを記載した「準備書面」を作成して裁判所に提出します。準備書面では、どのような経緯でアスベスト被害を受けたか、どのような具体的な症状が発生しているのかなどについて詳しく記載します。

③口頭弁論期日|和解要件を主張・立証

「口頭弁論」は、裁判所の法廷において、当事者双方がそれぞれの主張・立証を展開する手続きです。

原告は、基本的には準備書面に記載の内容に沿って、賠償金の支払いが認められるために必要な要件を主張・立証することになります。

④裁判上の和解・賠償金の支払い

国の賠償金制度に基づき、賠償金支払いのために必要な要件の立証に成功した場合には、国が裁判上の和解に応じます。

裁判上の和解が成立する場合、裁判所によって和解調書が作成され、その内容に従って賠償金が支払われることになります。

アスベスト訴訟における和解の要件は?立証に必要な証拠も解説

アスベスト訴訟では、前述の最高裁判決を踏まえて、国が和解に応じるための要件が決められています。具体的には、以下に掲げるすべての要件を満たすことが、裁判上の和解が成立するための要件とされています。

それぞれの要件について、立証に必要となる証拠と併せて解説します。

一定期間に石綿工場内で作業に従事したこと

昭和 33 年 5 月 26 日から昭和 46 年 4 月 28 日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したことが必要です。

前述の最高裁判決では、上記の期間において国が石綿工場に局所排気装置の設置を義務付けなかったことが違法とされました。その判示を踏まえて、上記の期間要件や業務内容の要件が設定されています。

石綿工場での勤務歴を立証するには、日本年金機構が発行する被保険者記録照会回答票が有効な証拠となります。

石綿による一定の健康被害を被ったこと

石綿工場における作業の結果として、石綿(アスベスト)による一定の健康被害を被ったことが必要です。具体的には、石綿肺・肺がん・中皮腫・びまん性胸膜肥厚などの症状を、医学的な証拠を用いて立証する必要があります。

健康被害を立証するために有効な証拠としては、以下のものが挙げられます。

  • 都道府県労働局長が発行する「じん肺管理区分決定通知書」
  • 労働基準監督署長が発行する「労災保険給付支給決定通知書」
  • 医師の発行する診断書 など

損害賠償請求権の消滅時効が完成していないこと

アスベスト被害に関する賠償金請求権には、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効が適用されます(民法724条、724条の2)

(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)

第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。

二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。

(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)

第七百二十四条の二 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。

引用元:民法

2020年4月1日施行の民法改正により、他人の生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求権の時効期間が変更されました。

そのため、消滅時効の起算点に応じて、時効期間が以下のとおり異なります。

消滅時効の起算点

時効期間(いずれか早い方)

2020年3月31以前

損害および加害者を知った時から3年

不法行為の時から20年

2020年4月1日以降

損害および加害者を知った時から5年

不法行為の時から20年

消滅時効の起算点は、もっとも重い症状が新たに見つかった時点となります。

たとえば、2020年3月31日以前にもっとも重い症状が見つかった場合には、そのことが判明してから3年で消滅時効が完成します。

しかし、その後2020年4月1日以降に新たにもっとも重い症状が見つかった場合には、時効期間が5年に延長されます。

アスベスト訴訟により受け取れる賠償金の金額は?

アスベスト訴訟により受け取ることができる賠償金は、じん肺管理区分・合併症の有無・死亡したかどうかの3つの要素によって決まります。

表:症状別の賠償金額一覧

管理2で合併症がない場合

550万円

管理2で合併症がある場合

700万円

管理3で合併症がない場合

800万円

管理3で合併症がある場合

950万円

管理4で肺がん・中皮腫・びまん性胸膜肥厚の場合

1150万円

石綿肺(管理2・3で合併症なし)による死亡の場合

1200万円

石綿肺(管理2・3で合併症ありまたは管理4)で肺がん・中皮腫・びまん性胸膜肥厚による死亡の場合

1300万円

管理2・3・4とはじん肺管理区分を示しており、数字が大きくなるほど症状が重くなります(管理1は無所見)。

合併症については、じん肺の進展経過に応じてじん肺と密接な関係があると認められる疾病として、じん肺法および施行規則に列挙されているものが該当します(じん肺法2条1項2号、同法施行規則1条)。

アスベスト訴訟における賠償金の詳細は、以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご参照ください。

【関連記事】アスベスト訴訟の賠償金は最大1300万円|症状別の金額と増額請求のポイント

アスベスト訴訟は弁護士に相談するのが安心

アスベスト訴訟を提起して、国から賠償金を受け取るためには、弁護士に相談して手続きを進めてもらうのが安心です。

弁護士にアスベスト訴訟を依頼」することには、以下のメリットがあります。

証拠収集について有効なアドバイスを受けられる

アスベスト訴訟では、健康被害を受けた経緯や具体的な症状などについて、医学的な証拠に基づく立証を行うことが必要になります。立証すべき要件ごとに、必要となる証拠はある程度決まっていますが、場合によっては非定型的な立証が必要となるケースも考えられます。

適切な賠償金を受け取るためには、利用可能な証拠を漏れなく収集して、和解要件の立証を確実に成功させることが大切です。弁護士に相談すれば、必要な証拠をスムーズに収集することができます。

手間のかかる訴訟準備を代行してもらえる

訴状や準備書面の作成、主張・立証戦略の検討など、アスベスト訴訟に臨むための準備には多大な手間がかかります。弁護士に依頼をすれば、これらの訴訟準備の大部分を任せることができるので、依頼者の時間的・精神的な負担は大きく軽減されるでしょう。

初期費用が準備できない場合でも相談可能

アスベスト訴訟の場合、相談料・着手金なしでアスベスト訴訟の代理人を引き受ける法律事務所も比較的多く存在します。

アスベスト訴訟では和解要件が確立されているため、訴訟結果が事前に見通しやすく、弁護士にとっても初期費用なしでの受任がしやすくなっているのです。初期費用が掛からない場合、成功報酬一本での依頼になりますので、依頼者としては赤字になることを心配する必要がありません

また、初期費用としてまとまった金額を準備できない場合でも、気軽に依頼できるメリットがあります。

さらに、明示的に成功報酬制を謳っていない法律事務所であっても、弁護士費用の支払い方法は比較的柔軟に相談可能なケースが多くなっています。たとえば着手金の分割払いや後払い、着手金・成功報酬の配分変更など、依頼者の経済的事情や案件の内容に応じて支払い方法を調整してもらえる可能性があります。

もし初期費用の準備が難しいという場合には、依頼する弁護士に事情を話して、支払い方法の調整ができないか相談してみましょう。

まとめ

アスベスト訴訟では、最高裁判決に基づき確立された賠償金制度により、症状に応じて賠償金を受け取ることができます。

アスベスト訴訟を提起する場合、事前に和解要件を立証できるだけの十分な証拠を揃えて訴訟に臨むことが大切です。訴訟では医学的な立証も必要になるので、弁護士に相談して万全の訴訟準備を整えることをお勧めいたします。

アスベスト訴訟については、相談料や着手金を無料としている弁護士も多いため、初期費用が準備できなくても依頼できる可能性が大いにあります。

アスベストによる健康被害に長年悩まされている方は、国から賠償金を受け取れる可能性がありますので、お近くの弁護士までお早めにご相談ください。

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この記事の執筆者
ゆら総合法律事務所
阿部由羅 (埼玉弁護士会)
西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て、ゆら総合法律事務所代表弁護士。不動産・金融・中小企業向けをはじめとした契約法務を得意としている。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。
編集部

本記事はベンナビ労働問題(旧:労働問題弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ労働問題(旧:労働問題弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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