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基本給は、法律用語ではないので明確な定義はありません。
一般的には労働の対価のうち核となる給料のことを指し、残業手当や休日出勤手当、役職手当といった諸手当を含まない給与のことを指します。
基本給の決め方は企業に異なりますが、厚生労働省が2008年に中小企業向けに調査した「個々の社員の基本給の決め方」によれば、以下を評価項目にしている企業が多いようです。
今回のトピックは、基本給はいくらを下回ると低いと言えるのか?というものですが、一点前提として申し上げます。
「基本給」は一般的に使われている用語ですが、法律用語ではなく、定義もありません。
また、「基本給」が低くても、その他手当が高いため全体の賃金が高いという場合は十分にありえますし、逆に「基本給」が高くても、その他手当がほとんどないため全体として賃金が低いということも十分にあり得ます。
要するに、賃金とは基本給+手当の全体額が重要なのであり、基本給が高いとか低いという議論ははっきり言って無意味です。
したがって、今回の記事は内容的に大きな意味があるものではなくて、単に「基本給」という目線で賃金を検討してみたこと自体に意味があるとお考えください。
まず、基本給についてネット上の意見を紹介します。
社会人5年目で手取り13万円というのは低いと思うのは私だけでしょうか。当方、社会人5年目(27歳)の男です。最近、部署異動があり手取りがめっきり減りました。以前は基本給の他に営業手当と、特殊な部署であったため職務に対する手当が支給され手取りは26万ほどありました。他にも営業成果としての歩合給もあり、年収は一般よりは高く頂けておりました。ただ、最近の部署異動で手取り額が約-13万ほどになり驚いています。
引用元:Yahoo!知恵袋
求人サイト見てたけど、給料がやたら低い現状(基本給13万とか)をなんとかならないかなと思う。最低20万にして欲しい。
— よっちゃ (@hatatatedai03) 2018年12月16日
このように13万円程度の基本給では低いという意見がありました。しかし、上記のとおり、賃金は基本給だけではありません。
もし他の手当により全支給額の合計が30万円を超えていれば、低いという評価は該当しないといえそうです。
この点からも基本給が高いか低いかのみに着目することがいかに無意味であるかがよくわかりますね。
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基本給について明確な定義はありません。
一般的には支給される給与の中でコア・根本となる賃金を意味する場合が多いと思われます。
多くの企業では、賃金を「基本給」と「手当」に分けて支給しています。
両者は「基本給」とされるものが基本給で、その他の賃金が「手当」という整理が簡単でよいかと思います。
しかし、法律的には「基本給」も「手当」も基本的には同じ「賃金」であり、特段の区別はありません(これが残業手当や休日手当などの割増賃金である場合は別です)。
したがって、「基本給」であろうが「手当」であろうが、基本的な法的保護の範囲は代わりありません。
すなわち、「基本給」は法的保護が厚いので会社が自由に操作することができないが、「手当」ならそれができるということは全くありません。
よって、「手当」であっても、一度、支給基準や支給額を明確に決めたものは容易には動かせませんので、注意しましょう。
基本給や月給といった言葉を日常的に耳にしていても、「基本給と月給の違いが明確にはわからない」という方は多いのではないでしょうか。
それは、基本的も月給も俗語であって法律用語ではなく、明確な定義がないためです。
単なる用語の違いであり、区別する実益はあまりないかもしれません。
一般的には基本給は上記のようなコア賃金を意味します。他方、月給は月に支払われる賃金全体を意味する事が多いです。
そのため、1か月分の基本給や各種手当の合計額を併せて「月給」と呼ぶのが通常でしょう(ここに残業代を含めるかどうかは、文脈次第でしょう)。
では、基本給と固定給の場合にはどのような点が異なるのでしょうか。
これも単なる用語の違いであり、違いをクリアにする意味がどこまであるかは疑問です。
基本給は上記のとおりコアとなる賃金です。
他方、固定給は月に実績や労働内容に関わらず定額で支払われる賃金部分を意味する事が多いでしょう。
対となる概念は歩合給です。
具体例として、基本給、職務手当、業務手当、固定残業代など労働時間や労働内容に左右されない定額の賃金は全て固定給です。
他方、営業成績手当、歩合賞与などの一定の営業成績等により変動する手当は歩合給です。
固定給 | 歩合給 |
|
|
賃金の内訳は会社によってさまざまです。会社が支給する賃金項目について特段の法律上の規制はありません。
会社は独自に手当を設定することができますが、法律的にはどのような名称でも「賃金」に変わりはありません。
例えば、給与18万円のうち基本給10万円、職務手当5万円、業務手当3万円と設定したとしても、その全体が一つの「賃金」です。
一般的には、月の総支給額とは、労働者に対して1か月に支払われる給与全体を意味しますが、総支給額の中に月々で変動のある残業代を含むのか、インセンティブの賞与を含むのかなどは、文脈次第です。
特にルールはありません。
また、手取り給与とは、この総支給額から所得税、住民税、社会保険料などの源泉徴収分を控除した残額(実際に労働者の手元に入ってくるお金)のことをいいます。
このような源泉控除には、上記のような法令に基づくものもありますし、会社内で締結されている労使協定に基づいて控除される確定拠出・確定給付年金保険料、社内積立金、組合費などの私的に控除されるものもあります。
この他、欠勤控除(欠勤して働かなかった分の賃金を給与から差し引くこと)もあります。
基本給が低い・安いとされる目安はどの程度の金額なのでしょうか。
結論から言えば、目安は特にありません。法律は「基本給」とその他「手当」を区別していないからです。
厚生労働省や国税庁が賃金についての統計を年度毎に発表していますが、基本給について特段の調査はされていません。
実益がないからでしょう。
なお、厚生労働省で発表された賃金構造基本統計調査における所定内給与額は、月に支給される固定給であり、基本給とは別です。
したがって、これも特に参考とはなりません。
ただ、何も指針がないのも不親切であるため、一応、賃金統計に従って月の所定内給与の平均値がどのようなものかを知ってもらいたいと思います。
平成30年度の調査によると、所定内給与額の全体平均はおおよそ30万6000円となっています。
所定内給与額を25〜29才において男女、学歴別で見ると以下のようになっています。
女性 | 男性 | |
大学・大学院卒 | 247,500円 | 263,800円 |
高専・短大卒 | 225,220円 | 236,200円 |
高校卒 | 197,000円 | 227,900円 |
年齢や業種によって差は生じますが、学歴により月の固定給与額が左右されることがわかります。
また、性別によっても金額が左右される傾向にあります。
要するに、学歴が高ければ基本給その他手当の金額が高くなる傾向にあり、男女では男の方が高くなる傾向にあるということですね。
月の固定給が13万円であった場合、安いことは誰が見てもわかります。
では、実際このようなケースで月給を時給換算するとどうなるのでしょう。
例)
1日の所定労働時間:8時間
年間所定労働日数:240日
月給総額:130,000円
時給=13万円÷(240日×8時間÷12か月)=812.5円
東京都の場合、令和元年10月1日から最低賃金が1,013円となっていますので、上記給与は取り敢えず東京の最低賃金を割っています。
安すぎることがよくわかりますね。
なお、上記のような事例で最低賃金を支払う場合は16万2080円以上の支払いが必要です。
なお、最低賃金の計算は、算定に含むべき賃金と除外する賃金について明確なルールがありますので、上記のように単純に計算できるものではありません。
もし自身の賃金が最低賃金の観点から大丈夫か不安であれば、労働局等に相談してみてはいかがでしょうか。
タウンワークの発表によると、東京都のアルバイト・パートの平均時給は1,148円であり、最低賃金を若干上回る程度のようです。
日本の賃金がいかに低く抑えられているのかがよくわかりますね。
なお、最低賃金を下回る給料の支払いは違法であるとともに、労働者は当然にその差額を請求できるとされています。
要するに、最低賃金以下の給料で契約しても、当該賃金の合意は無効であり、賃金は最低賃金以上の金額を支払わなければならないということです。
第四条 使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
2 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。
3 次に掲げる賃金は、前二項に規定する賃金に算入しない。
一 一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
二 通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
三 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金
4 第一項及び第二項の規定は、労働者がその都合により所定労働時間若しくは所定労働日の労働をしなかつた場合又は使用者が正当な理由により労働者に所定労働時間若しくは所定労働日の労働をさせなかつた場合において、労働しなかつた時間又は日に対応する限度で賃金を支払わないことを妨げるものではない。
引用:最低賃金法
残業代や休日手当、深夜手当を算出する場合も、算定基礎とするべき賃金と除外するべき賃金があります(例えば、家族手当、通勤手当、住宅手当、子女教育手当等は除外賃金です)。
もっとも、ここでは単純に17万円を算定基礎として計算します。
例)
1日の所定労働時間:8時間
年間所定労働日数:240日
1か月の時間外労働時間:25時間
1か月の法定休日労働時間:10時間
月額固定給(基準内賃金):17万円
上記の場合、以下のように計算します。
時間外労働割増賃金:1時間あたりの賃金基礎額 ×割増率 (1.25)× 時間外労働時間
法定休日労働割増賃金:賃金基礎額×割増率(1.35)×法定休日労働時間
実際に計算すると以下のとおりです。
時間外労働割増賃金:17万円÷(8時間×240日÷12か月)×1.25×25≒3万3203円
法定休日労働割増賃金:17万円÷(8時間×240日÷12か月)×1.35×10≒1万4344円
法定労働時間を超えた労働に対しては、一定の割合以上の割増率で計算した割増賃金を支払わなければならないとされています。法律上、時間外労働の割増賃金の割増率は1.25以上、法定休日労働の割増賃金の割増率は1.35以上、深夜労働の割増賃金の割増率は0.25以上とされています。
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
引用:労働基準法
種類 | 支払う条件 | 割増率 |
時間外 |
※ 中小企業についてはこの60時間超割増率は2022年4月1日まで適用が猶予されます。 |
|
休日 | 法定休日(週1日)に勤務させた時 | 35%以上 |
深夜 | 深夜22時から5時までの間に勤務させた時 | 25%以上 |
参考:割増賃金の計算方法
基本給の決定についてルールは特にありません。そのため、基本給をどのように定めるか、どのような金額にするかは会社の裁量により決めることができます。
一般的には、以下のような考慮要素の全部又は一部を複合的に考慮して基本給を決めている場合が多いと思われますが、そもそも、どの部分がどの金額に対応するという明確なルールがある会社はごくわずかと思われます。
仕事給型とは、仕事の内容、業績や成果によって基本給を決める賃金体系のことです。
学歴、年齢、勤続年数に左右されず、純粋に業務内容や職責に応じて賃金を定めるというものです。
建前としては、仕事に対する対価が賃金としてそのまま支払われるということとなり、実力主義的な色合いの濃い賃金の決め方と言えます。
属人給型とは、学歴、年齢、勤続年数などの個人の属性により基本給を決める賃金体系のことです。
仕事の内容や成果ではなく、労働者の個人的能力を基本給決定の考慮要素とするものです。
所謂、年功序列の賃金体系はこれに該当します。
基本給を決める要素は上記に限定されるものではなく、生活地域や業種に係る賃金情勢、前職賃金水準、退職金の有無・水準などいろいろな事項が考慮対象となり得ます。
企業はこのような賃金に影響しうる諸般の事情を総合的に考慮して、基本給を決めているケースが多いと思われます。
ただし、基本給のこの部分が仕事給、この部分が属人給、この部分がその他と明確に区別しているケースはほとんどないのが実態です。
例えば、厚生労働省のアンケートによると、近年では仕事に取り組む姿勢や努力、仕事の責任度合いを踏まえ、これらの事項も基本給決定要素として考える企業が増えているようです。
労働者の賃金には基本給とそれ以外の手当が含まれることは上記のとおりです。
これまで基本給にフォーカスして説明してきましたが、次に手当について簡単に解説していきます。
「基本給」という法律用語が存在しないことは上記のとおりですが、「手当」についてもやはり法律用語として存在しません。
したがって「手当」についての定義はありません。
「手当」も法律的には「基本給」と同じ「賃金」として整理されます。
一般的には、基本給以外に設定される各種賃金を「手当」と読んでいます。
例えば、職務手当、業務手当、調整手当、通勤手当、家族手当、住宅手当などいろいろな手当がありますが、いずれも法律的には「賃金」です。
なお、残業手当として時間外手当、休日出勤手当、深夜労働手当という言葉を聞いたことがありますが、法律的にはこれらは「割増賃金」と整理されます。
法定時間を超える労働がおこなわれた場合に支払われる特別の手当が「割増賃金」です。
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
○4 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
○5 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。
引用:労働基準法
ここで少し、割増賃金について簡単に解説しておきます。
時間外労働割増賃金とは、法定労働時間(1日8時間、1週間で40時間以上)を超えた労働時間に支払われる割増賃金のことです。
(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
○2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
引用:労働基準法
時間外割増賃金は通常賃金に対して1.25以上の割増率を乗じて計算することが求められています。
休日割増賃金とは、法定休日(労働基準法で定められた最低基準の休日)に労働した場合に支払われる割増賃金のことです。
法定休日ではなく所定休日(会社と労働者の契約により休日とされている日)の労働の場合には法律上は休日労働ではなく、時間外労働になる余地があるに過ぎませんので注意しましょう。
(休日)
第三十五条 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
○2 前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。
引用:労働基準法
休日割増賃金の金額は、通常賃金に対して1.35以上の割増率を乗じて計算することが求められています。
深夜労働割増賃金とは、22時から5時までの深夜時間帯に労働した場合に支払われる割増賃金のことです。
深夜労働割増賃金の金額は、通常賃金に0.25以上の割増率を乗じて計算することが求められています。
また、時間外・休日労働と深夜労働は割増賃金を別で計算する必要があります。
例えば、深夜帯の労働が時間外労働(残業)でもあるという場合、時間外労働分の割増賃金を計算しつつ、深夜労働の割増賃金も別途計算し、両者を合算して支払う必要があります。
そのため、割増率だけを見れば、深夜帯の時間外労働は、通常賃金に1.5以上の割増率を乗じて計算することになります。
仕事給的手当という法律用語はありません。
本記事では、便宜上、仕事に紐付けして支給される「手当」を仕事給的手当と読んで、解説していきます。
仕事給的手当といえる手当には以下のような手当が考えられます。
職務についての手当の典型は役職手当ではないでしょうか。
役職手当とは、一定の役職についている労働者に対して、役職(職務・職責)に応じて固定の手当を支払うケースが典型例です。
なお、営業手当は割増賃金の代替手当として支払われているというケースもあります。
営業職については、事業場外で就労がおこなわれることにより、時間外労働時間を算定しにくいことから、予め一定の固定残業代を営業手当として支払うという考え方です。
このような処理はできないことはないですが、適正に運用されるには、厳格な要件を満たす必要があります。
したがって、営業手当=残業代の支払いということが常にいえるわけではないということに注意してください。
この他、高所作業などの危険な作業をおこなう労働者に対しては特殊業務手当が付与されるケースもこれに該当するでしょう。
労働者の能力や技能に対して手当が付与されることがあります。
能力についての手当で典型的なものとして、資格手当があげられるでしょう。
資格手当は、一定の資格を有する労働者に対し、資格に応じた固定給を支払うケースが該当します。
この他、習熟した技能を持つと認められる労働者に対して技能手当を支払うこともあります。
仕事の成果に対して手当を支払うというケースもあります。典型的なものとしては歩合給(個人の成績に応じて算出された給与のこと)等が挙げられます。
この他、運送業などで、一定期間、無事故無違反を守って業務をこなした場合に付与される無事故手当や所定労働日に欠勤することなく勤務を続けたことに対する皆勤手当もこれに含まれると考えることもできます。
なお、歩合給について一つ留意しておきたいのが、法律上、完全歩合給は認められていません。
労働者の給与は一定の限度(賃金全体の6割程度と考えられています。)で保障されている必要があり、完全歩合は労働者の生活を著しく不安定にするので禁止されているのです。
(出来高払制の保障給)
第二十七条 出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
引用:労働基準法
生活給的手当という法律用語もやはりありません。
本記事では、労働者の生活保持のために支払われる手当を「生活給的手当」と呼んで説明することとします。
生活給的手当には以下のような手当がありうると思われます。
私生活に対する手当として典型的なものは家族手当や住宅手当ではないでしょうか。
家族手当は、扶養に入っている家族の人数に応じて一定の支払いをする場合の手当がこれに該当します。
住宅手当は、住宅ローン物件や賃貸物件に居住している場合にローンや家賃の一部を補填するために一定の支払いをする場合の手当がこれに該当します。
これら手当の設計は、各企業に委ねられていますので、支払われる基準や金額はケース・バイ・ケースです。
企業の都合で転勤となった場合に、転勤のための費用や物価の違いを考慮した地域手当が支払われることもあります。
転勤貧乏だわ
— ゆうは (@yuha_livefreely) 2019年3月2日
2〜3年おきに引っ越し
手当は距離に応じて支払われるんだけど300キロで10万円ぐらい
時期的に初期費用+引っ越し業者代でだいたい40万ぐらいかかる
また、単身赴任者に対して、本拠地と就労地の二箇所に拠点を構えることによる負担を回避するために単身赴任手当が支払われることもあります。
海外勤務の場合には、別途海外勤務手当が支払われるケースも多く見受けられます。
実費手当という法律用語もありません。
本記事では労働者が業務に従事するに当たり支出した費用について補填する手当を実費手当と整理して説明します。
実費手当には以下のような手当が該当し得ます。
通勤手当は多くの企業で支払われていますが、必ずしも企業に支払義務があるものではありません。
また、通勤手当のカバー範囲も企業の設計に委ねられています。
厚生労働省の調査によると2009年には86.3%の企業が通勤手当を支払っており、現在ではもっと多いかもしれません。
(%)
1950年 | 19.3 |
1960年 | 55.3 |
1970年 | 80.2 |
1980年 | 88.5 |
1990年 | 87.9 |
1999年 | 86.6 |
2009年 | 86.3 |
会社の近辺に居住しており、公共交通機関を使わずに通勤する労働者に対して、近距離手当を支払うケースもあるようです。
ただ、あまり一般的ではありません。
通勤手当が支払われる労働者との公平を実現する趣旨で支払われることがあるのかもしれません。
労働者が自家用車を使って出勤している場合に、ガソリン代等を補填する趣旨でマイカー手当が支払われることもあるようです。
一般的には、1Lあたりのガソリン単価と燃費をもとに計算されて金額が決まります。
上記のとおり、法律上は、基本給が特別扱いされているわけではありませんので、基本給が低くとも他手当で給与の底上げがされているのであれば、特段不都合はなさそうです。
ただ、基本給が他の賃金計算に連動している場合には、基本給が低いことで、結果的に他賃金が低くなってしまうということはあるかもしれません。
例えば以下のようなケースです。
残業代、休日出勤手当、深夜勤務手当の額は時間単位の賃金基礎額に基づいて計算されます。
賃金基礎額に計上する賃金は基本給だけでなく、各種手当も含まれますので、基本給が低くても各種手当が高ければ特に影響はありません。
しかし、基本給しか支払っていない会社や基本給以外の手当が全て基準外賃金(家族手当、住宅手当、通勤手当など)である場合には、基本給が低くなれば、当然賃金基礎額も低くなり、算定される残業代の金額も低くなってしまいます。
基準内賃金 | 基準外賃金 |
|
|
賞与や退職金の算出方法は事業主が自由に設定できるため企業ごとに異なりますが、多くの企業では基本給をベースにして賞与や退職金を算出しています。
例えば、賞与が基本給の4か月分程度と定められていた場合に月給が40万円であっても、基本給が10万円であれば、賞与額は160万円ではなく、40万円ということになります。
賞与、退職金の算出方法は会社ごとに設定されているため、必ずしも算定基礎に基本給しか含まないわけではありませんので、一概に上記のように断定できるものではありません。
ただ、基本給を基準として賞与・退職金が決まるような会社では、基本給が低くなれば、賞与・退職金もこれに連動して低くなるということは当然の理ですので、その点注意してください。
厚生年金の保険料は、基本給に基づいて計算されていません。
社会保険の保険料は月額給与に基づいて予め国が定める標準報酬月額(報酬を所定の区分に分類し、その区分に応じた額)にあてはめ、そこから保険料を算出します。
そのため、基本給が低くても、その他手当が高ければ、月額給与は高額となり、当然、標準報酬月額も高くなって、保険料も上がります。
したがって、基本給と社会保険料の間には特段の相関関係はありません。
そして、社会保険の一つである厚生年金の支給額は保険料に応じて決まりますので、当該支給額と基本給との間にも何らの相関関係もないということになります。
したがって、基本給が低いからもらえる厚生年金の金額も低くなるということはありません。
基本給が低い場合に労働者に与える影響を概括的に説明しましたが、結論から言えば、基本給の高い・低いと労働者の待遇はあまり関係がないということです。
法律は基本給とその他手当を特に区別していません。
単に、企業側の整理として賃金の一部が基本給とされたり、手当とされたりするだけです。
労働者の待遇は、賃金の多寡が重要なのであり、賃金の一部の区分けに過ぎない「基本給」で労働者の待遇が決まるわけではないのです。
したがって、自身の基本給が高いとか低いとかを逐一気にする必要はありません。
基本給が高かろうが、低かろうが、重要なのは賃金全体の内容であり、当該多寡により労働者が直接利益・不利益を受けることはほとんどありません。
もちろん、上記事例で、残業代や賞与・退職金に影響があるのではとお考えになる方もいるかもしれません。しかし、上記説明をよく見てください。残業代は、基本給以外の手当も算定基礎として計算します。
また、賞与・退職金はそもそもこれを支給していない企業もたくさんありますし、支給している企業も必ずしも基本給だけをベースに計算するわけではありません。
したがって、基本給が低いから、必ず残業代・賞与・退職金に悪影響があるということでもありません。
全ては全体の設計次第です。
長々と書いてきましたが、冒頭で記載のとおり、基本給が高いとか低いとかを気にする必要はまったくないということを理解頂ければと思います。
上記で少し触れましたが、ここで最低賃金法について簡単に触れておきます。
最低賃金法では、地域別に最低賃金を定めることとし、企業は労働者に対して最低賃金以上の賃金を支払う義務があることを定めています。
もしも、最低賃金法に基づく計算方法による「賃金」の額が、各都道府県で定められた最低賃金よりも低くなる場合、当該賃金の定めは無効となるとともに、最低賃金での合意があったものとみなされます。
したがって、この場合、企業は最低賃金に満たない分を遡って支給する義務を負うこととなります。
(算入しない賃金)
第一条 最低賃金法(以下「法」という。)第四条第三項第一号の厚生労働省令で定める賃金は、臨時に支払われる賃金及び一月をこえる期間ごとに支払われる賃金とする。
2 法第四条第三項第二号の厚生労働省令で定める賃金は、次のとおりとする。
一 所定労働時間をこえる時間の労働に対して支払われる賃金
二 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金
三 午後十時から午前五時まで(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第三十七条第四項の規定により厚生労働大臣が定める地域又は期間については、午後十一時から午前六時まで)の間の労働に対して支払われる賃金のうち通常の労働時間の賃金の計算額をこえる部分
引用:最低賃金法施行規則
(最低賃金の効力)
第四条 使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
引用:最低賃金法
また、最低賃金法違反については50万円以下の罰金が科されることもあります。
第四十条 第四条第一項の規定に違反した者(地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金に係るものに限る。)は、五十万円以下の罰金に処する。
引用:最低賃金法
なお、地域ごとの最低賃金は毎年審議されるため、変更される可能性があります。お住いの地域の最低賃金は毎年確認するべきでしょう。
みなし残業代(固定残業代)制度は、企業が労働者による実労働時間の有無・程度に関わらず、毎月の給与に一定の残業代を予め支払う制度です。
当該制度では、主に、基本給とは別に固定割増手当のような手当を支給する場合と、基本給に固定割増賃金を組み込む場合の2パターンがあります。
このような制度は、正しく導入・運用されている限りは適法であり、当該固定の割増賃金支給は、割増賃金の支払いとして許容されます。
具体的には、雇用契約や就業規則において通常賃金部分と割増賃金部分が明確に区別されており(労働者として両者の区別が容易・可能であり)、かつ固定支給分が残業行為の対価として支給されていることが必要です。
この点、基本給に固定割増賃金が組み込まれているケースでは、別途支給型に比べてこれら明確区分性の要件や対価性の要件をクリアしているかどうか微妙なケースも多いと思われます。
したがって、基本給に固定割増賃金が組み込まれている場合には、固定割増賃金制度が正しく導入・運用されているか、一層慎重な検討が必要と言えるかもしれません。
関連記事:固定残業代(みなし残業)とは?未払い分がある場合の対処法も解説
基本給が低い場合にはどのような対策をとればいいのでしょうか。結論から言えば、対策は不要です。
上記のとおり、基本給の高い・低いは労働者の待遇とはあまり関係がないことです。
したがって、基本給が低いからなにか対策が必要ということもありませんし、対策の手段があるということもありません。
しかし、例えば基本給を含めた賃金総額が、最低賃金を割っていたとか、一度決まった基本給が会社に一方的に減額されたという場合は話が別です。
このような場合は、労働者として何らかのアクションを起こすことも検討するべきでしょう。
以下、簡単に説明します。
上記のとおり、労働者が支払われる「賃金」(最低賃金法に基づき算定される賃金)が最低賃金を割っているような場合には、労働者はその差額を会社に対して請求できます。
また、当該給与支給は明確な法律違反となりますので、企業に対して是正を求めることもできます。
(最低賃金の効力)
第四条 使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
引用:最低賃金法
具体的な対応としては以下のような対応が考えられます。
労働基準監督署とは、企業が労働基準法等を遵守しているかどうかをチェックする監督機関です。
仮に企業において法律違反があれば、その調査をおこない、認めた違反について是正のための指導・勧告をおこないます。
例えば、最低賃金法違反は明らかな法令違反ですので、労基署はこれを認めた場合是正の指導・勧告をおこないます。
したがって、労働基準監督署に報告することで、問題が是正される可能性があります。
また、当該是正の過程で、過去の一定期間について差額賃金を支払うよう勧告されることもあり、結果、一定の補填を受けることができるかもしれません。
上記を参考にして、基本給を元に算出した賃金がお住いの地域で設定されている最低賃金よりも低い場合には、労働基準監督署に相談してみるとよいかもしれません。
労働審判は、裁判所の労働審判委員会が主催する、事業主と労働者の間に生じた民事的な紛争・トラブルを、迅速・適切・実効的に解決することを目的とした手続きです。
通常の裁判とは違い、低い費用(民事調停と同じ費用で通常の裁判よりも低額)と短い期間(原則3回の以内の期日で終結する)でおこなえます。
引用:裁判所|労働審判手続
参考:裁判所|労働審判のQ&A
また、訴訟手続は、私人間の民事的紛争・トラブルについて裁定し、一定の権利・法律関係の有無を確定させる手続です。
いずれの手続も労使間の民事的紛争に対応していますので、例えば最低賃金法違反の事例で、差額賃金を請求したが、会社が支払おうとしないというような場合に、これら手続を利用して、会社に支払いを求めていくということも考えられます。
労働者の基本給、手当などの賃金は、雇用契約で一度決まった場合、企業側の都合で一方的に下げることは原則としてできません。
このような労働条件の変更は、労働者と使用者の双方の合意によって決まることが原則とされています。
したがって、企業が一方的な都合で何らかの手続もなく基本給を突然カットするような場合、その対応は原則として違法であり、労働者はカットされた分を支払うよう請求できます。
(就業規則による労働契約の内容の変更)
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
引用:労働契約法
もっとも、上記原則にも例外があり、企業は就業規則(賃金規程)を変更することで、労働者の労働条件やその他の待遇を画一的に変更することができる場合があります。
しかし、当該変更の権限も絶対無制限ではなく、労働契約法の定める不利益変更(企業が労働者の合意を得ずに労働条件を現在よりも不利益に変更する場合のこと)の要件を満たす必要があります。
(就業規則による労働契約の内容の変更)
第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
引用:労働契約法
例えば、賃金規程の中で労働者の賃金テーブルが定められ、これに基づいて基本給が定まっている場合に、企業が経営状況の逼迫を理由として、当該テーブルを変更し、これに基づいて基本給が一律で変更されるような場合、当該テーブル変更が就業規則の不利益変更として許容されるのであれば、当該基本給の低下も合法ということになります。
しかし、基本給は賃金の核となるものであり、その不利益変更については司法的に極めて厳格な審査を受けます。
そのため、単にコストカットのためだとか、利益率の向上のためという単純な理由で、基本給を低くさせるような不利益変更をおこなうことは一般的に難しいとされています。
また、高度の必要性があったとしても、基本給が相当減額となり労働者に与える影響が著しいような場合も不利益変更として許容されない可能性は高いです。
就業規則の不利益変更が許容されるかどうかは、完全に事案次第ですので一概に何がOK、何がNGということはいえません。
もし、自身の賃金が就業規則の不利益変更の結果低下したという場合、納得できないのであれば弁護士に相談することも検討しましょう。
なお、就業規則の不利益変更について争い、差額の賃金を求めたいのであれば訴訟手続をおこなうのが通常です。
法文上、労働審判で取り扱うことが不可能ではありませんが、就業規則の不利益変更については慎重な審査が必要となるため、簡易迅速な手続である労働審判はなじまないと考えられています。
基本給が低いことは特に気にするような問題ではないことはお伝えしましたが、それでも基本給が高い会社がよいとか、基本給だけでなくて給与全体が低いという場合には、転職も検討するべきかもしれません。
このように転職する場合、やはり労働条件や待遇についてステップアップするための転職であるため、就職活動をする場合には、当然、年収や月収について吟味するべきでしょう。
しかし、労働条件その他待遇は賃金だけでなく、休日日数、福利厚生、退職金制度など検討すべき事項はさまざまあります。
単に年収・月収がよいからと飛びついたものの、職場環境や福利厚生が最悪であったということは避けたいところです。
この点については、例えば転職エージェントを利用するなどアドバイザーの力を借りることも検討した方がよいかもしれませんね。
以上、基本給や手当についてざっと説明してきましたが、結論としては労働者の賃金で重要なのは賃金総額であって、個別の基本給や手当にフォーカスする意味はとくにないということです。
基本給や手当はあくまで企業側が独自に設けるカテゴリーにすぎません。
いずれも法律上は「賃金」であり、同じような法的保護を受けられます。
また、企業側の賃金システムも、必ずしも「基本給」のみをベースに構築されているわけではありません。
したがって、基本給が高いからよい、低いから悪いということは全くありませんので、誤解のないようにしたいですね。
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