給与の未払いとは、会社から支払われるべき給料が支払われていない、または支払いが遅延している状態を指し、違法行為に当たります。
未払いの給与は、会社に請求することで回収できる場合がありますが、「会社に請求しづらい」「いつか払ってくれるだろう」「やめる時に請求しようと思っていた」など、積極的に動きづらい問題でもあります。
しかし、給料は労働基準法24条によって支払わなければならないことが明記されており、労働者は給与を受け取る権利があるため、未払い給与に悩んでいる場合は、適切な相談先に相談して、請求手続きを進めることをおすすめします。
本記事では、給与未払いの状態とはどんな状況を指すのかや、未払いの給与を請求する方法などを解説するので、ぜひ参考にしてください。
未払い給料を会社に請求したい方へ
給料未払いについて「労働基準監督署に相談すれば解決する」と思っている方も多いかもしれません。
しかし、労働基準監督署は、明確な根拠や証拠がないと動いてくれないことも多々あります。
また、労働基準監督署が動いてくれたとしても、会社との話し合いの仲介はしてもらえず、是正勧告には強制力がないので、必ずしも解決できるとは限りません。
その点、弁護士であれば以下のような対応が望めます。
- 自分の代わりに会社へ請求してくれる
- 給料未払いの証拠がない場合は証拠の集め方をアドバイスしてくれる
- 労働審判や労働訴訟などの裁判手続きも一任できる
労働基準監督署では対応してくれない案件でも、弁護士であれば解決できることもあります。
労働弁護士ナビには、初回相談無料・土日対応可の事務所も多数掲載しています。
一人で悩まずに、まずはお近くの弁護士にご相談ください。
給与未払いの状態とは
給与未払いの状態とは、具体的に以下のような状況のことを指します。
- 毎月の給料が支払われていない
- 残業代が支払われていない
- 割増賃金が給料に加算されていない
- 退職金・ボーナス・賞与が支払われていない
- 休業手当が支払われていない
- 有給分の給与が支払われていない
そのほか、労働基準法11条で賃金と定められているものが支払われていない状況も給与未払いとなります。
第十一条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
引用元:労働基準法 | e-Gov法令検索
給与未払いが発生している場合は、本来支払われるべき給与に加え、遅延損害金も上乗せして請求することが可能です。
給料未払い期間がある場合は遅延損害金が取れる
このように、未払い賃金を請求することは労働者にとって当然の権利です。
さらに、給料未払いの期間が長く悪質な場合は、通常の未払い額に利息を付けて請求することが可能です。
本来であれば支払われているはずの給料がもらえずに、何かしらの損害を被っているでしょう。
この利息を損害遅延金といい、以下の割合での請求が可能です。
- 会社に在席しているとき:支払日翌日から年6%
- 会社を退職してから:支払日翌日から年14.6%
給料未払いの利息計算例
例)2015年3月末で退職した場合
- 3月給料 25万円:未払い
- 4月給料 25万円:未払い
- 5月中旬 20万のみ支払い(4月給料日分)
残り未払い分=30万円 退職日までは年6%、退職後は年14.6%が遅延利息のため、仮に「賃金支払日から退職日まで30日」「退職日から50日経過」しているのであれば、 【30万円×0.06×30/365が退職日までの遅延利息】=1500円、【30万円×0.146×50/365が退職日以降の遅延利息】=6083円、合計:7583円が利息分になります。
給料未払いには時効がある
すでに未払い給与が発生している場合は、時効に注意しましょう。
(時効)
第百十五条 この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
引用元:労働基準法 | e-Gov法令検索
未払い給与の時効をまとめると、以下のとおりです。
- 支払い期日が2020年4月より前の給与:時効2年
- 支払い期日が2020年4月よりあとの給与:時効3年
- 退職金:時効5年
時効がきてしまった場合は、請求をしても会社に断られてしまう可能性があるので、時効が来る前に請求してください。
時効の停止処置が取れる場合もある
賃金請求の交渉が長引いたがために請求額が消滅してしまうというような理不尽な事態を防ぐために、「時効の停止」という制度が定められています。
「時効の停止」とは、進している時効をある事由をもって停止させると規定されており、時効及び時効の中断(停止)については、主に民法第7章(時効)第1節にて定められています。
(催告による時効の完成猶予)
第百五十条 催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
毎月の給料日が25日だった場合の時効
時効の中断(停止)をしなければ、2020年4月25日に支給されるはずであった賃金の請求権は、3年後の2023年4月25日に時効を迎え、消滅します。
しかし、2023年4月24日中までに、内容証明郵便による請求が相手方に到達しているなら、到達後6ヵ月間は時効が中断しているため、2020年4月25日に支給されるはずであった賃金について請求することができます。
とはいえ、給料未払い請求の期限は刻一刻と迫ってきているため、「まだ時間があるから大丈夫」だと思っていると、あっという間に請求期限は過ぎてしまいます。
停止期間を活用するためにも、早め早めの対応をしておいたほうがよいでしょう。
給料未払いは労基法違反で罰則の対象になる
給料の未払いは労働基準法第24条に違反する、立派な違法行為だという事を認識しておきましょう。
労働基準法第24条には「賃金支払の5原則」というものが定められており、会社の都合だけで給料未払いがおきたり、支給を遅らせる事は出来ない事になっています。
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
引用元:労働基準法 | e-Gov法令検索
たとえ、就業規則に賃金カットに関する条項があっても、賃金をカットするための合理的な理由と、労働者本人の同意が必要です。
これに違反した場合、企業側には法律上30万円以下の罰則が科せられます。
給料未払いの現状を解消する為の7つの方法
具体的に給料未払いに対抗するのはどうすればよいのでしょうか。
こういった事は職場の同僚や上司には相談しにくく、あなたの立場もありますのであまり大げさにしたくないと思います。
全く表沙汰にしない事は難しいですが、まずは水面下で動けるものから紹介します。
まずは給料未払い請求に必要な証拠を集める
給料未払い請求に必要な証拠は、下記が代表的なものになります。
準備1 |
給与明細書 |
準備2 |
タイムカード(給与計算・労働時間が測定できる資料) |
準備3 |
就業規則・退職金規定 |
準備4 |
会社から配布されている勤怠表 |
準備5 |
その他会社から配布されている給与、勤怠に関する資料 |
準備6 |
雇用契約書(またはそれに代わる書類) |
準備7 |
労働するにあたって提出を求められている書類 |
準備8 |
業務日誌の控え |
もしこういったものが揃えられない場合、代わりになるものとして何があるのか、専門家の判断を仰ぐのがよいかと思います。
会社と話し合う機会を設ける
まずは社長と話をする機会を設ける事を考えてみてください。
直属の上司が絡んでいるケースも考えられるため、最初はできるだけ上司を入れるのは避けて、直接交渉を試みてください。
それでも給料未払いが続くようであれば、直属の上司、あるいは他部署の上司に相談し、上司を交えた交渉をおこないましょう。
あなたが信頼を寄せる上司であれば、邪険に扱われる可能性は低いはずです。
内容証明郵便で請求する
内容証明郵便を書いて会社に請求する方法です。
内容証明というくらいですので、なにか特別なもののような気がしますが、簡単にいうと「ただの手紙」です。
通常の手紙と違う点は、郵便局が郵便物の内容を証明してくれるというところです。
これによって、こちらが未払い賃金請求をおこなっても相手が「知らない」と、白を切ることを防ぎます。
ただ、黙っていても、「こっちの意志が向こうに伝わったことが後日証明できる程度のもの」に過ぎませんので、これで確実に給料未払いが解決するとは思わないでください。
しかし、内容証明郵便を送ることで、今後訴訟を起こそうと思った場合の有利に進む材料の一つになる可能性があります。
送料に1,500円程度がかかりますが、送っておいて損はありません。
労働基準監督署に労基違反として申告する
労基法に違反しているとして、所轄の労働基準監督署に申告すると、労基署が使用者に対して調査して賃金支払いを勧告し、賃金が支払われる場合があります。
その際に、未払賃金額算定の裏付けとなる資料を添付しておくと、労基署に短時間で理解してもらうことができます。
民事調停などを開く
調停は,裁判のように勝ち負けを決めるのではなく,話合いによりお互いが合意することで紛争の解決を図る手続です。調停手続では,一般市民から選ばれた調停委員が,裁判官とともに,紛争の解決に当たっています。
引用元:民事調停 | 裁判所
簡易裁判所に支払督促を申し立てる
支払督促とは、金銭等の請求につき、申立人の申立だけに基づいて裁判所がおこなう略式の手続きです。
「簡単・迅速・安価」に裁判所からの「支払督促」を送ってもらえます。
申立人が相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に支払督促申立書を提出すると、書類に不備がなければ、裁判所は相手方に支払督促を発付します。
つまり、相手方の言い分を聞くことなしに、即座に支払命令を出してくれます。
額が少額なら少額訴訟債権執行を起こすのも検討
未払い賃金が60万円以下の少額の場合、「少額訴訟」をおこなうことも検討してください。
訴訟後の強制執行についても、少額訴訟をした簡易裁判所と同じ裁判所でできる「少額訴訟債権執行」が可能なため便利な制度です。
ただ、少額訴訟では審理も短期間で済まされるので、給料未払いの証明をする効果的な証拠をより多く提出する必要があります。
「差押」「仮差押」を実行する
裁判所では「差押」と「仮差押」をおこなうことができますが、給料未払い請求の訴訟が進行している間に会社の預金が使い果たされたり、故意に預金を隠したりなどをして差押を妨害された場合、労働者は対抗のしようがありません。
そこで、訴訟の結果を待っている間に財産の移動や売却、処分を禁止するのが「仮差押」という手続きです。
仮差押は、訴訟で結果がでているわけではない状態でおこなわれる手続きですので、たとえば会社名義の銀行預金の仮差押なら会社にとっては預金の引き出しが不可能になるだけで、会社名義の預金は債権者(労働者)の手にわたるのではなく銀行に保管されることになります。
給料未払い問題を裁判所に訴える場合の流れ
話し合いが進まない場合は裁判を起こすことも検討する必要がありますが、裁判を優位に進めるには弁護士の力が必要なので、その弁護士費用がいくらかかるのか把握しておきましょう。
少額訴訟か地方裁判所を利用するかの判断基準
未払金が60万円以下の場合:少額訴訟制度を利用
給料の未払金が60万円以下の場合は少額訴訟制度を利用することができます。
弁護士費用もかからず、費用も8,000〜9,000円程度で申し立てることができるため、給料未払い分がそこまで高額でない場合は検討してみてはいかがでしょうか。
図:少額訴訟の流れ
未払金が140万円を超える場合:地方裁判所の利用
どちらも手順は一緒ですので、ここでまとめて説明します。
訴状を裁判所に提出する
所定の金額(請求する未払い賃金の金額に応じて決まります)の収入印紙を貼り、所定の枚数と金額の郵便切手を予納します。
簡易裁判所には訴状のひな型があります。
自分の住所・氏名と被告である使用者の住所・氏名を記載
使用者が法人の場合は、法人の所在地と名称と代表者名を記載し、法人の資格証明書(登記事項証明書)を添付します。
「請求の趣旨」という見出しをつける
- 被告は原告に対し、金〇〇万〇〇〇〇円及びこれに対する
- 平成×年×月×日から支払い済みまで年△%の割合による金員を支払え
- 訴訟費用は被告の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求める
「平成×年×月×日から支払い済みまで年△%の割合による金員」というのは、賃金支払期日を過ぎて以降の遅延損害金です。
「請求の原因」:未払賃金を請求できる理由を書く
具体的には、以下について書きます。
- 被告である使用者が何を業としているのか
- 原告である労働者がいつから労働契約関係を締結して就労していたのか ※退職している場合にはいつ退職したのか
- 賃金の支払いは毎月何日締めで何日払いなのか
- 賃金額はどのように計算されるのか など
未払賃金額を裏付ける証拠資料も訴状に添付して提出
裁判所に証拠を提出しますが、証拠資料としては主に以下があります。
- 給料支払いの規定が書かれたもの(就業規程など)
- 実際に給料が支払われたことを証明するもの(給与明細など)
- 実際に働いた時間を証明するもの(タイムカードなど)
提出する証拠資料はコピーで構いませんが、被告分の証拠資料も用意するので合計2部必要になります。
裁判期日には、原本があれば提示もしますので、保管しておくようにしましょう。
給料未払い請求に必要な金額と用意すべき書類
ただでさえ給料をもらっていないのに、請求するのにお金がかかるのは誰だって避けたいことだとは思います。
ここでは、実際に給料未払い請求をおこなう場合、いくらかかるものなのかを紹介します。
民事調停を開く場合
民事調停の特徴としては下記のような手順になります。
1:手続きが簡単
申立用紙とその記入方法が簡易裁判所の窓口に備え付けてあるので、それを利用して申し立てをすることができます。
終了までの手続きも簡易です。
2:円満な解決ができる
当事者双方が話し合うことが基本なので、実情に合った円満な解決ができます。
3:費用が低額
10万円程度の貸金の返済を求めるための手数料は、訴訟では1,000円、調停では500円とされています。
4:秘密が守られる
調停は非公開の席でおこなうため、第三者に知られたくない場合にも安心です。
5:早期解決が望める
調停では、ポイントを絞った話合いをしますので、解決までの時間は比較的短くて済みます。
通常、調停が成立するまでには2,3回の調停期日が開かれ、調停成立などで解決した事件の約80%が3か月以内に終了しています。
【民事調停の流れ】
内容証明郵便を送る場合
事前に用意するもの
- 送付する文書1通
- 保存用の文書2通(郵便局と差出人用)
- 封筒1通(形式自由)※封はしない
- 印鑑
- 郵便料金
内容証明郵便の料金
- 内容証明の加算料金:430円
- 郵便物の料金(定形郵便物):82円(25gまで)
- 一般書留の加算料金:430円(請求額が10万円を超えて5万円ごとに21円追加)
- 速達料金:280円(250gまで)
- 配達証明:310円(差出後430円)
郵便局から送付する
内容証明を差し出すことができる郵便局は、集配郵便局や支社が指定した郵便局に限られています。
どの郵便局からでも差し出せるわけではありませんので、差し出す前にお近くの郵便局に問い合わせるようにしましょう。
電子内容証明郵便で送る場合
内容証明が差し出せる郵便局がお近くにない場合は、電子内容証明サービス(e内容証明)を利用しましょう。
パソコンで文書を作成することができ、内容を送信すればあとは郵便局が文書を印刷し、封筒に入れ、差し出してくれる非常に便利なサービスです。
労基違反として申告する場合
厚生労働省の「主要様式ダウンロードコーナー」に詳しいサンプルや書式が揃っておますので、そちらをご確認頂ければと思います。
支払督促を申し立てる場合
こちら側にきちんとした証拠がそろっており、なおかつ相手が請求に応じないような場合は、支払督促を検討しましょう。
手続きが比較的に簡単で、早期解決にも向いています。
審査の方法も書類審査だけですので、審査が通れば裁判所から支払督促が送られます。
ただ、相手が異議を申し立てた場合は、訴訟にまで発展してしまうことは覚悟しておいてください。
会社が倒産している場合は未払賃金立替払制度を利用する
すでに会社が倒産していることが前提ですが、その場合、「未払賃金立替払制度」の利用を検討しましょう。
未払賃金立替払制度を利用することで、最大8割の未払い賃金を政府が立て替えてくれます。
詳しくは、以下のリンク先を確認ください。
無事に給料が支払われた後の就業について
あらゆる手を尽くして給料未払い分が返ってきたとして、その後のあなたの動きはどういったものになるでしょうか。
同僚や上司にバレなかった場合、何事もなく働くことができるかもしれませんが、一度でも給料が規定の日に支払われなかった会社で、継続して働きたいと思うでしょうか?
おそらく多くの場合は早急にその会社を立ち去るはずですし、そうすべきだと考えられます。
一度あることは2度目があると考えてまず間違いないですし、あなたの能力や今後の人生を左右する事項ですので、会社にお金があるうちに、給料の支払いがおこなわれた直後に退職することをおすすめいたします。
弁護士へ給料未払いについて相談するメリット
会社に対して、自分で未払い分の給料を請求することはもちろん可能性ですが、何かと交渉が難しくなるのが予想されます。
そんな時は労働問題に詳しい弁護士や専門家に相談して、どういったアプローチ方法があるのかを聞いてみるのも有効な手段です。
得られるものとして多いものは金銭的なメリット |
未払い賃金の回収でいうと、厚生労働省の平成23年度労働基準監督署の指導により、100万円以上の未払い賃金を払った会社は1,312企業。
100万円以上の未払い賃金を受け取った人が11万7,002人。合計145億9,957万円でした。
これほど多くの未払い賃金考えているうことは、労働者側から訴えかけることで、未払い賃金を回収できるケースが多いのです。
弁護士は法律にも精通しており、交渉力も持ち合わせていますので、未払い賃金の回収の強い味方になってくれます。
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弁護士に頼らずに自分で給料未払いを取り返す手段をいくつか紹介しましたが、もしどうしようもない場合は弁護士に相談するのが、やはり無難です。
請求期限が迫っている、内容証明も効かないといったことがありましたら、あなた自身のためにも、早急に判断頂ければと思います。
未払い賃金を取り返したいと考えている場合は、弁護士への相談をおすすめします。
さいごに|給与未払いがある場合は早めに弁護士に相談を
給与未払いがすでに発生している場合、時効を過ぎると本来受け取れるはずだった給与を回収できなくなってしまいます。
給与の受取は労働基準法でも定められている権利ですので、支払われていない給与がある場合は早めに弁護士に相談するようにしましょう。
弁護士に相談・依頼することで、正確な請求額を計算してもらえることはもちろん、請求手続きなどもすべて任せることができます。
ベンナビ労働問題では、未払い給与の回収を得意とする弁護士を多数掲載しているので、ぜひ以下から相談してみてください。