残業代は、『時間外労働時間×1時間あたりの基礎賃金×割増率』の計算式で算出することができますが、正確な残業代を算出するためには、『1時間あたりの基礎賃金』を求める必要があります。
この『基礎賃金』に含まれる賃金は、労働基準法で除外が許される賃金以外の賃金です。そのため、必ずしも『基礎賃金=基本給』となるわけではありません。
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残業代は労働に対する正当な対価です。残業代が未払いであれば、それを会社に請求するとは当然のことです。
しかし、会社に未払い残業代を請求したところで、素直に認めるでしょうか?
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この記事に記載の情報は2023年01月19日時点のものです
残業代における基本給(基礎賃金)の正しい知識
1時間あたりの賃金単価は、月給制の場合『基礎賃金÷月平均所定労働時間』で計算します。まずは、基礎賃金には何が含まれていて、何を除外すべきなのか、確認しておきましょう。
所定労働時間(しょていろうどうじかん)とは
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『 1日8時間1週間40時間』の労働時間の上限のことを法定労働時間と呼びます(労働基準法第32条)。これに対し所定労働時間は、『法定労働時間を超えない範囲』で会社の就業規則や労働契約書に記載されている、始業時間から終業時間までの時間(休憩時間を除く)のことを言います。
例: 9:00〜18:00(休憩時間1時間)の場合、所定労働時間は8時間
参考:法定労働時間とは|労働時間の定義と所定労働時間で変わる残業代の割増率
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基礎賃金に含まれない諸手当を確認
賃金は会社によって千差万別であり、さまざまな手当が支給されているのが通常です。そして、労働基準法では下記手当は、基礎賃金から除外できることが定められています(労働基準法第37条第5項、労働基準法規則第21条)。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
○5 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。
引用元:労働基準法 第37条 第5項
第二十一条 法第三十七条第五項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同
条第一項及び第四項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。
一 別居手当
二 子女教育手当
三 住宅手当
四 臨時に支払われた賃金
五 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
引用元:労働基準法施行規則 第21条
この7つに該当しないものは『名称の如何に関わらず原則すべて基本給(基礎賃金)に含める』ことになります。
基礎賃金から除外する手当の具体的な範囲
上記でご紹介した1〜7の手当は基礎賃金から除外されますが、名目的にはこれら手当として支給されていても、実態が伴わない場合は除外することはできません。
家族手当
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扶養家族の人数またはこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当
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具
体
例
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除外できる場合
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扶養家族のある労働者に対し、家族の人数に応じて支給するもの。
(例)扶養義務のある家族1人につき、1か月当たり配偶者1万円、その他の家族5千円を支給する場合。
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除外できない場合
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扶養家族の有無、家族の人数に関係なく一律に支給するもの。 (例)扶養家族の人数に関係なく、一律1か月1万5千円を支給する場合。
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通勤手当
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通勤距離または通勤に要する実際費用に 応じて算定される手当。
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具
体
例
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除外できる場合
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通勤に要した費用に応じて支給するもの。 (例)6か月定期券の金額に応じた費用を支給する場合。
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除外できない場合
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通勤に要した費用や通勤距離に関係なく一律に支給するもの。 (例)実際の通勤距離にかかわらず1日300円を支給する場合。
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住宅手当
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住宅に要する費用に応じて算定される手当。
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具
体
例
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除外できる場合
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住宅に要する費用に定率を乗じた額を支給するもの。 (例)賃貸住宅居住者には家賃の一定割合、持家居住者にはローン月額の一定
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除外できない場合
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住宅の形態ごとに一律に定額で支給するもの。 (例)賃貸住宅居住者には2万円、持家居住者には1万円を支給する場合。
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参考:厚生労働省|割増賃金の基礎となる賃金とは
このように、手当の名目は別居手当、家族手当、通勤手当などとされていても、労働者全員に一律に支給されているような場合は除外することはできません。
固定残業代が基本給に含まれている場合
会社によっては、毎月一定の固定支給額を残業代として支給するという『固定残業制』を実施している場合があります。しかし、固定残業代制度を適正に実施するためには、
- 通常の労働時間に該当する基礎賃金にあたる部分はいくらか
-
時間外労働・深夜労働に対する残業代にあたる部分はいくらか
これらが雇用契約上、明確にされている必要があります。近年の最高裁判例で以下のような判示がされています。
医療法人と医師との間の雇用契約において時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていたとしても,当該年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分が明らかにされておらず,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができないという事情の下では,当該年俸の支払により,時間外労働等に対する割増賃金が支払われたということはできないとされた事例。
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裁判年月日 平成29年 7月 7日
裁判所名 最高裁第二小法廷
裁判区分 判決
事件番号 平28(受)222号
事件名 地位確認等請求事件
裁判結果 一部破棄差戻
Westlaw Japan文献番号 2017WLJPCA07079001
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被控訴人との間で雇用契約を締結していた控訴人が、被控訴人に対し、時間外労働に対する割増賃金、付加金の支払を求めたところ、原審で請求を一部認容とされたため控訴した事案。
本件営業手当の全額が割増賃金の対価としての性格を有すると認めることはできないことは明らかであって,他にこれを認めるに足りる証拠はない。そして,本件営業手当は,割増賃金に相当する部分とそれ以外の部分についての区別が明確となっていないから,これを割増賃金の支払と認めることはできず,本件営業手当の支払により割増賃金の支払義務が消滅したとの被控訴人の主張は採用することができない
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裁判年月日 平成26年11月26日
裁判所名 東京高裁
裁判区分 判決
事件番号 平26(ネ)3329号
事件名 割増賃金等請求控訴事件
裁判結果 原判決変更 上訴等 確定
Westlaw Japan文献番号 2014WLJPCA11266001
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一方で、『通常の労働時間の賃金にあたる部分』と『時間外労働・深夜労働に対する残業代にあたる部分』が明確に判別できる場合、固定残業代制度の適法性は直ちには否定されません。
なお、固定残業代制度の下で固定支給される残業手当は、割増賃金として支給されるものですので、基礎賃金からは当然除外されます。
給与体系・働き方別|1時間あたりの基礎賃金を算出する方法
1時間あたりの基礎賃金は、一般的には下記の計算式で算出できます。
- 年俸制の場合:【1年間の基礎賃金】÷【1年の所定労働時間】
- 月給制の場合:【1ヶ月の基礎賃金給】÷【1ヶ月の平均所定労働時間】
- 週給の場合:【1週間の基礎賃金】÷【1週間あたりの平均所定労働時間】
- 日給の場合:【日給】÷【1日あたりの所定労働時間】
- 時給の場合:【1時間あたりの賃金】
- 歩合給の場合:【1件あたりの成約金】÷【契約期間の総労働時間】
給与体系別の基本給(基礎賃金)を算出する場合
年俸制の場合
計算式=【1年間の基礎賃金】÷【1年あたりの所定労働時間】
例えば、
年俸:650万円
1日の所定労働時間:8時間
1年間の勤務日数:250日
1年あたりの所定労働時間 = 8時間×250日=2,000時間
1時間あたりの基礎賃金=650万円÷2,000時間=3,250円
月給制の場合
計算式=【1ヶ月の基礎賃金】÷【1ヶ月あたりの平均所定労働時間】
例えば、
月給:35万円
1日の所定労働時間:8時間
1年間の勤務日数:250日
1年あたりの所定労働時間 = 8時間×250日=2,000時間
1ヶ月あたりの平均所定労働時間=2,000時間÷12ヶ月≒166時間
1時間あたりの基礎賃金=35万円÷166時間≒2,100円
週給の場合
計算式=【1週間の基礎賃金】÷【1週間あたりの平均所定労働時間】
例えば、
週給:48,000円
1年間の勤務日数:250日
1日の所定労働時間:8時間
1週間あたりの平均所定労働時間:250日×8時間×365日/7≒38時間
1時間あたりの基礎賃金=48,000円÷38時間≒1,263円
日給の場合
計算式【日給】÷【1日あたりの所定労働時間】
例えば、
日給:7,000円
1日の所定労働時間:5時間
1時間あたりの基礎賃金=7,000円÷5時間=1,400円
歩合給の場合
計算式=【歩合金】÷【総労働時間】
例えば、
歩合給:40万円
総労働時間:170時間
1時間あたりの基礎賃金=40万円÷170時間=2,352円
裁量労働制の場合
裁量労働制の場合、残業代は【1時間あたりの基礎賃金×みなし労働時間を超えて働いた時間×割増賃金】で計算できますが、裁量労働制は、例えば10時間働いても5時間は働いたとしても、8時間働いたとみなすので、1時間あたりの基礎賃金は就業規則で定められた規定に従うことになります。
変形労働時間・フレックスタイム制の場合
変形労働時間制の場合、労働時間を1日単位ではなく、月・年単位で計算しますので、毎日10時間働いたとしても月・年単位で決めた時間内に収まっていれば残業代は発生しないことになります。
フレックスタイム制も決められた労働時間のなかであれば、出社時間や退社時間を自由に決めることができ、残業代は月単位で精算することになります。
正しい残業代の計算・請求は弁護士に相談しよう
残業代請求について弁護士に相談すると、正確な請求金額の計算や会社との交渉において心強い味方となってくれますし、自分で計算した際に気づかなかった労働賃金を請求することができることもあります。
弁護士に依頼するメリット |
- 法的に対処することもできる
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- 会社側の対応が変わる
- 手間と時間が削減できる
- 早い解決が見込める
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弁護士事務所によっては無料相談が可能な場合もありますので、相談しようか迷っているという方は弁護士を探して相談してみましょう。
まとめ
残業代の計算における基本給(基礎賃金)の算出方法についてご紹介してきましたが、もし残業代が支払われていない場合は、未払い分を請求しましょう。
労働者の側から動かなければ、未払いの残業代はそのまま見過ごされてしまう可能性が非常に高いです。未払い残業代を取り返したいと思った方は、まず残業代を計算してみてはいかがでしょうか。
未払い残業代を請求したいと考えている方へ
残業代は労働に対する正当な対価です。残業代が未払いであれば、それを会社に請求するとは当然のことです。
しかし、会社に未払い残業代を請求したところで、素直に認めるでしょうか?
労働審判・訴訟に発展したら、未払い残業代があったことを明確に示す証拠が必要になります。
未払い残業代を請求したい方は弁護士への相談・依頼がおすすめです。
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