一定期間働いた会社から支給される退職金。円満に退職した人も、少しいざこざがあって退職した人も、少なからず退職金を期待している方も多いのではないでしょうか。
しかし、最後の最後で退職金が未払いになっており、支払ってもらえないことに疑問や不満を持っている方もいるでしょう。
本来支払われるはずの退職金が未払いだった場合、退職金は会社に対して請求することが可能です。
本記事では、退職金の仕組みと、退職金が未払い・出ないことでお困りの方へ対処法を解説します。
退職金の未払い問題にお悩みの方へ
退職金が未払いの場合、退職後の生活にも大きくかかわります。
ただし、退職金は法律で定められたものではありません。そのため、退職金を受け取るには会社が定める支給条件を満たしているかどうかがポイントとなります。
その際、弁護士に依頼することで以下のようなメリットが望めます。
- 退職金を受け取れる可能性があるか判断してくれる
- 会社とのやり取りを一任できる
- 請求時に必要な証拠を確認してくれる
一人では心もとない方にとって、弁護士は心強い味方になってくれるでしょう。一人で悩まずに、まずはお近くの弁護士にご相談ください。
未払い退職金を請求する5つの方法
未払いの退職金があって困っている方に向けて、ここでは未払い退職金を請求する方法を解説します。
支給条件を満たす証拠を集める
退職金は法律上支払いに義務があるわけではありません。
そのため、退職金を請求する前提条件として、以下を満たしているか確認しましょう。
- 就業規則で支払いの旨が記載されていること
- 慣例的に支給されていること
また、実際に請求をおこなう際には、最低限以下のものがあるとよいでしょう。
- 退職金が賃金的要素の必要性があるという証拠
- 勤続年数がわかる書面
- 雇用時の契約書や健康保険証
-
給与明細 など
内容証明郵便などで退職金の請求をする
会社に対して退職金の請求をした事実が残るよう、内容証明郵便で会社に対して退職金の請求書面を送りましょう。
可能性として、会社の手続きが遅れているだけということもありますが、「改めて連絡します」という連絡があったとしても、放置されてしまう危険性もあります。
確実に請求した事実(いつ、だれに、どんな内容をおくったのか)を残す意味でも、内容証明郵便は便利です。
裁判外紛争解決手続 (ADR)を利用
もし請求が無視されたら、いきなり裁判で請求することもできます。
ただ、解決までに時間がかかってしまう可能性も高いですし、少々ハードルも高いでしょうから、まずは裁判外紛争解決手続 (ADR)による解決をおすすめします。
ADRとは、重要消費者紛争の解決を図る国民生活センター紛争解決委員会がおこなう「和解の仲介」「仲裁」の2種類の手続による解決手段のことで、法律や役務取引の専門家が、会社とのトラブルを手助けしてくれます。
和解の仲介とは
紛争解決委員会が行う和解の仲介は、仲介委員が当事者間の交渉を仲介し、和解を成立させることによって紛争解決を図るものです。
参考:国民生活センター|和解の仲介とは
仲裁とは
国民生活センター紛争解決委員会(以下「紛争解決委員会」といいます。)が行う仲裁は、仲裁委員が判断(仲裁判断)を行い、当事者がその仲裁判断に従うことで紛争解決を図るものです。
参考:国民生活センター|仲裁とは
未払い退職金が60万円以下なら少額訴訟も有効
少額訴訟(しょうがくそしょう)とは、60万円以下の金銭の支払い請求を目的とする手続きのことで、簡易裁判所に訴えを提起することで開始されます。
申立費用が安い上に手続きにかかる期間が短く、原則1回の期日で審理が終了し、即日判決が言い渡されます。
訴訟後の強制執行についても、少額訴訟をした簡易裁判所と同じ裁判所でできる「少額訴訟債権執行」が可能なため便利な制度です。
ただ、少額訴訟では審理も短期間で済まされるので、給料未払いの証明をする効果的な証拠をより多く提出する必要があります。
弁護士に退職金請求を依頼する
ADRや少額訴訟は個人でおこなうこともできますが、弁護士に相談して未払い退職金請求の代行を依頼するのも有効な手段です。
退職金請求を弁護士に依頼することで、以下のようなことを代理でおこなってもらうことができます。
- 退職金の支払いが正当である理由の説明
- 未払い退職金に必要な証拠の確認
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証拠がない場合は会社に対する書面の開示請求(文書提出命令など)
- 会社との交渉なども全て一任できる など
また、会社からしても弁護士からの請求という事実は心理的に優位に立てるケースもあるので、検討してみましょう。
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相談料
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1時間5,000円または無料
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着手金
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10万円〜20万円前後または無料
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成功報酬
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獲得金額の10%〜15%前後
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通常、退職金が未払いだと気付くのは、退職後すぐでしょうし、そうとわかればすぐに行動に移るか、ずっと未払いのままにしておくかのどちらかでしょう。
しかし、未払い退職金の請求には、労働基準法第115条により5年という時効があります。
(時効)
第百十五条 この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
引用元:労働基準法第115条
退職後しばらく期間が空いている方は、未払い退職金の請求の時効にも気をつけて下さい。
時効を過ぎてしまうと、未払い退職金を取り返すことは難しくなります。
5年近く経っていると証拠も集めにくくなり、会社も「何を今更」と余計な揉め事になる可能性が高まるでしょう。
その他賃金請求の時効は3年間
更に、未払い残業代や労災等の賃金請求は更に時効が短くなり3年間となります。
退職時に給料未払いや残業代の未払いがある方は更にシビアになります。
会社の不況によるリストラや、過酷な労働環境での退職などの場合、退職金未払い以外の諸問題もあり得るでしょう。
未払い退職金があり、支払い義務が生じている場合は、未払い退職金の請求が可能です。
しかし、未払退職金がある場合に何よりも重要になるものは証拠です。
極端な例だと、裁判で「退職金が未払いです」と言っても、全く証拠がないと会社が「いや、払いましたよ」とすっとぼけられれば反論の余地がありません。
ここでは、退職金未払いの際に重要になる証拠について解説します。
重要なのは賃金に値する事を立証する証拠
未払い退職金でもっとも重要になる証拠が、退職金が賃金に相当するかを立証するものです。
退職金は、恩恵的要素をもつほか、支払い義務の生じる賃金的な要素が出てくることもあるため変則的です。
もし、未払い退職金を請求する場合は、退職金が賃金的要素の必要性があるという証拠を集めましょう。例えば、就業規則や雇用契約書などの退職金について記載されている内容などがほとんどでしょう。
それらがない場合、入社を決めた際に退職金に触れている内容や、退職金が支給されると示唆したようなメール、証言などの形になる証拠が必要です。
慣例的に退職金が支払われている場合も、以前の情報や証言などを形に残る証拠として用意する必要性があり、この場合は、証拠集めに苦戦を強いられます。
支給条件を満たしていることを立証する証拠
支給条件を満たさず退職金が支払われていない場合があるので、支給条件を満たしていることを立証する証拠が必要です。
退職金支給の条件は会社によってまちまちですが、通常は勤続年数が条件になるケースが多いです。
勤続年数に関して、そこまで争うこともないとは思いますが、もし争う場合は、雇用時の契約書や健康保険証、給与明細が証拠として必要になります。
退職金が支払われていないことを立証する証拠は不要
退職金が支払われていなかったという事実を証明する証拠は本来不要です。
万一支払ったとするのであれば、会社の方から支払ったという証拠を提示してくるからです。
中には、会社から解雇されて退職金が未払いになった方もいるでしょう。
解雇の経緯もいくつかありますが、解雇の種類によって未払い退職金の請求が可能かどうかは異なります。
整理解雇の場合は退職金の増額も期待できる
この中で、支払い義務のある退職金が支払われない理由として当てはまるのが「普通解雇」と「懲役解雇」です。
一方で、「整理解雇」は、会社の都合(経営不振等によるもの)によるものなので、むしろ退職金が増額される場合もあるほどです。
ですので、懲役解雇のように「やってはいけないと決められている事をやったのでクビにした」というような場合でない限り、解雇の退職金未払いは認められません。
つまり、整理解雇で会社の経営が苦しいからといって、退職金が未払いになっている場合は請求が可能です。
懲戒解雇の人物に退職金を払わない条件
会社からしてみれば、「ダメだと言ったことをやって解雇したのに退職金を払うなんて」と思うでしょう。
普通に働いている労働者にもそのことは理解できるでしょう。たとえば、突然無断欠勤した従業員がいて、1ヵ月間来なかったので解雇にしました。
しかし、2ヵ月後にその従業員が「退職金が未払いだから支払ってくれ」と請求してきた場合、条件を満たしていれば退職金の支払い義務が生じます。(常識的に考えれば滅多にないことですが)
懲戒解雇などの場合に退職金の支払いが発生しないのは、事前に就業規則や雇用契約書に「懲戒解雇にあたる者には退職金は支給しない」といった内容が記載されている場合です。
長年働いている会社であれば、途中で退職金の制度が変わる場合もあるでしょう。
たとえば、バブル期には、会社も高額の退職金を売りに有名大学からの求人を集めていた会社もあるかもしれません。
しかし、年数と共に退職金の相場も下がり、今のままでは経営を圧迫することも考えられます。そこで、退職金の制度を変更しようとします。
確かに、会社の言い分も分かりますし、少なからず退職金に魅力を感じていた従業員が不満に思うことにも理解ができます。
退職金の変更には妥当な範囲内と、労使の話し合い、誠実な対応が必要
結論を言うと、退職金の変更は可能ですが、妥当な範囲内と、労使での話し合い、誠実な対応が必要になります。
ですので、突然会社が一方的に退職金を無くすようなことはできません。
事前に話し合いをおこない、労働者に理解を得たうえで変更をしなればなりません。
未払い退職金の請求におすすめの相談先3つ
会社の就業規則に退職金規程がある場合、会社は規程どおりの退職金を支給しなければなりません。
退職金規程で支払額や支払基準が明記されていれば、退職金の支給は会社の契約上の義務となるからです。
なお、明確な退職金の規定がない場合でも、退職金の支払額・支払基準が労使慣行として明確となっていれば、退職金を請求可能な場合があります。
会社から退職金が支払われないで困っているなら以下の相談先を利用してすることをおすすめします。
- ベンナビ労働問題
- 日本弁護士連合会
- 労働基準監督署
ベンナビ労働問題(旧:労働問題弁護士ナビ)|未払い賃金・退職金請求に注力する弁護士を掲載
未払い賃金・退職金・残業代の解決にもっとも有効といえるのは「弁護士」です。
弁護士に相談すると、退職金の請求方法や時効、現在の労働環境が違法かどうかを法的な観点から指摘してくれます。
ベンナビ労働問題(旧:労働問題弁護士ナビ)では、全国で労働問題に実績のある弁護士・法律事務所を数多く掲載していますので、お住まいや職場の近くの事務所もきっと見つかるでしょう。
自分で退職金請求を続けるのが難しい場合、弁護士に依頼して代わりに会社と交渉をしてもらったり、「労働審判」や労働訴訟を起こして退職金を請求してもらったりできます。
賃金請求・退職金・残業代請求について、初期費用のかからない「完全成功報酬型」の事務所も存在しますので、ご自身に合った事務所を探してみてください。
日本弁護士連合会
日本全国の弁護士が全員加入している「日本弁護士連合会」でも、労働問題を含む法律相談を受け付けています。
弁護士会で相談を受けるときには、日弁連の下位団体である「都道府県の弁護士会」に相談の申込みをします。
弁護士会では、随時有料の法律相談(相談料30分5,000円(税抜))を実施しています。
退職金未払いなどの労働問題は「弁護士」が取り扱っていますので、各都道府県にある弁護士会に相談しに行けば、何かしらの解決につながるでしょう。
全国どこにでもあるので便利ではありますが、必ずしも労働問題に詳しい弁護士に相談できるわけではないことに注意が必要です。
労働基準監督署
会社に退職金を支払ってもらえないときは、労働基準監督署に相談する方法もあります。
労働基準監督署は、管轄している地域の企業が適切に労働基準法令を遵守しているかどうかを監督する機関です。
退職金規程がはっきり策定されており、退職金計算方法や支給時期などが明らかにされている場合、退職金は「賃金」と同等に扱われます。
賃金支払いは労働基準法に基づく企業の義務であり、違反すると罰則も適用されます。
そこで退職金を不払いにされた労働者が労基署に不正を申告すれば、労基署は該当企業に指導勧告したり立入調査をおこなったりします。
このことで、適正に退職金が支払われるようになるケースもあります。
以下の記事では、労働基準監督署に相談できる労働問題について詳しく解説しているので、参考にしてみてください。
関連記事
- 労働基準監督署に相談できる10の労働問題|メリット・デメリットと相談前の準備
退職金の未払いについて相談できるその他の相談窓口
未払い退職金についての相談できるのは、上記の相談先だけではありません。
「ベンナビ労働問題、日本弁護士連合会、労働基準監督署」以外にも、退職金の未払いについて相談できる相談窓口を4つ紹介します。
- 総合労働相談コーナー
- 各市区町村の役所
- 社労士
- 法テラス
総合労働相談コーナー
総合労働相談コーナーとは、厚生労働省が全国各地に設置している労働問題に関する相談窓口です。
総合労働相談コーナーでは、残業代や退職金の不払い、解雇やセクハラ、パワハラなどの労働トラブル全般について、相談にのってくれます。
全国各地の労働基準監督署や労働局にコーナーが設置されているので、お近くの場所に連絡して、アドバイスをもらいましょう。
以下の記事では、総合労働相談コーナーについて詳しく解説しているので、参考にしてください。
関連記事
- 総合労働相談コーナーとは|公的相談窓口の活用法
だいぶ前ですが、退職日を伸ばされてボーナスを貰う1週間前に退職させられたことがあります。
頑張ってくれたからボーナスぐらいは貰えるようにしてやると言われたのが馬鹿でした。
納得出来ない事は総合労働相談コーナー、ポランティアの相談窓口に相談してみてください。
引用元:休日引きこもり (@kyuhikikomori)
厚生労働省の総合労働相談コーナーとか、行政の活用も良いかも。
もしかしたら、時間の無駄になるかもしれないけど…
引用元:モロキュー白熊 (@moroq3w3b)
各市区町村の役所
各市区町村の役所でも、定期的に弁護士による法律相談を受け付けています。
月に1、2回程度で予約制となり、相談時間は20~30分程度に限定されますが、無料で弁護士に労働相談ができます。
自治体のWebサイトや広報誌などで相談実施日を確認し、電話で申込みをしてください。
社労士
全国の社会保険労務士事務所でも、労働相談を受け付けています。
社労士のなかでも「特定社会保険労務士(特定社労士)」は、労働関係のトラブルを解決するための「あっせん(第三者を介した話し合い)」手続きの代理人となることが可能です。
自分一人で会社と退職金問題を話し合うのが難しいとき、労働局や労働委員会、社労士会のあっせんを利用して、特定社労士に代理をしてもらうと解決できるケースがあります。
ただし、社労士にはあっせん以外の労働審判や労働訴訟、会社との直接交渉を依頼することはできません。
法テラス
労働トラブルは「法テラス」で相談することも可能です。
法テラスは、経済的に余裕のない人に対する法的支援をおこなう国の機関です。
収入が一定以下の方が弁護士による無料相談を受けられる仕組みとなっており、以下の資力基準を満たしている方は、相談ができます。
- 単身者:手取り月収18万2000円以下
- 2人家族:手取り月収25万1000円以下
- 3人家族:手取り月収27万2000円以下
- 4人家族:手取り月収29万9000円以下
【参照元】無料の法律相談を受けたい|法テラス
また弁護士費用を法テラスが立て替えることによって利用者が気軽に弁護士に依頼できる「民事法律扶助制度」も利用可能です。
収入と資産がない方であれば、法テラスで弁護士による無料相談を受けたり、低価額で弁護士に示談交渉や労働審判をおこなってもらったりできます。
費用を月々1万円からの分割払いにすることもできます。
一方で不満も一定数ある
退職金の不払い問題でお悩みであれば、法テラスの利用も検討すべきかと思いますが、よく思われていない一面もあるようですので(法テラスに限った話ではないですが)絶対的な信頼を寄せてお任せしてしまうスタンスは、避けていただくのがよいかもしれません。
自分が法テラスをやめた一番の理由は、報酬が安いからでも手続が煩雑だからでもなく、「法テラスを信用できないから」に尽きる。依頼者の利益になることをやっても報酬減らされるかも、依頼者と話し合った結論でも着手金返せと言われるかもetc...
信用できない相手と一緒に仕事はできんよ。
引用元:中村剛(take-five) (@take___five) / Twitter
扶助で自己破産申立を受任したが依頼者と音信不通になり、辛抱強く手を尽くして連絡を取ろうとしたものの結局できず、やむなく辞任すると法テラスから8割返還を求められたことが3回もあった。こちらへの労いや敬意の欠片もない法テラスの態度。本当に悔しくてやりきれなかった。二度とやらん。
引用元:T. E. Heauton (@massuekyoto) / Twitter
これ、法テラスあるある。 https://t.co/gJMqG1v6oC
引用元:芝原章吾 (@shogoshibahara) / Twitter
退職金は通常、恩恵的部分があるため支払い義務がありませんが、明記されていたり、慣例的に支払われている場合は、支払い義務が生じてきます。その場合は、未払い退職金の請求が可能です。
ただ、なかなか一人では立ち向かうことも難しいでしょう。まずは「労働問題を得意とする弁護士」に状況をまとめた上で相談してみてください。
退職金の未払い問題にお悩みの方へ
退職金が未払いの場合、退職後の生活にも大きくかかわります。
ただし、退職金は法律で定められたものではありません。そのため、退職金を受け取るには会社が定める支給条件を満たしているかどうかがポイントとなります。
その際、弁護士に依頼することで以下のようなメリットが望めます。
- 退職金を受け取れる可能性があるか判断してくれる
- 会社とのやり取りを一任できる
- 請求時に必要な証拠を確認してくれる
一人では心もとない方にとって、弁護士は心強い味方になってくれるでしょう。一人で悩まずに、まずはお近くの弁護士にご相談ください。