会社の不正を労働基準監督署に通報しようか悩んでいる方にとって、心配なのは、その後の会社での犯人捜しでしょう。
自分が通報したことがわかったら、会社をクビになるのではと不安に思っているかもしれません。
この記事では、労働基準監督署に通報しようか悩んでいる方に向け、通報の方法や、通報した後の具体的な流れについて解説します。
記事を読むことで、通報した後に何が起こるのか、どのようなことが調査され、会社にどのような影響を与えられるのかがイメージしやすくなるでしょう。
ぜひ参考にしてみてください。
労働基準監督署に通報しようとしているあなたへ
労働基準監督署に通報したいけど、その後に不当な扱いを受けないか悩んでいませんか?
結論からいうと、労働基準法で通告者に対して不当な扱いをしてはならないと定められています。
もし、労働基準監督署に通報したことで不当な扱いを受けた場合、弁護士に相談・依頼するのをおすすめします。
弁護士に相談すると以下のようなメリットを得ることができます。
- 労働基準監督署に通報するのに必要な証拠の集め方を教えてもらえる
- 依頼すれば、代理人として会社との交渉を任せられる
- 依頼すれば、未払いの賃金の請求もしてもらえる
ベンナビ労働問題では、労働問題の解決を得意とする弁護士を多数掲載しています。
無料相談・電話相談など、さまざまな条件であなたのお近くの弁護士を探せるので、ぜひ利用してみてください。
労働基準監督署に通報すると会社はどうなる?通報したあとの流れ
労働基準監督署に会社の不正を通報すると、どのように動いてくれるのでしょうか。
ここでは、労働者からの通報があったあとの一般的な流れを解説します。
申告・通報内容の精査
労働基準監督署に会社の不正を通報すると、まずは労働基準監督署内で以下のような法令に違反があるか、通報内容が精査されます。
法令違反の可能性がある場合は立ち入り調査が実施されますが、違反なしと判断されれば、調査はこの時点で打ち切りとなります。
会社へ訪問と調査
労働基準監督署による精査の結果、法律違反の疑いがある場合には、立ち入り調査が会社に入ります。
この調査を「臨検監督(通称・臨検)」と呼びます。
第百一条
労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。
②前項の場合において、労働基準監督官は、その身分を証明する証票を携帯しなければならない。
引用元:労働基準法 | e-Gov法令検索
立ち入り調査は隠ぺいや偽装防止のため、原則予告なくおこなわれます。
会社にとっては、抜き打ち検査となるでしょう。
ただし、担当者が不在だった場合には、日程調整後に改めて調査が実施されます。
立ち入り日当日には、労働基準監督署から監督官2名が会社に派遣され、以下のような項目が調査されます。
- タイムカードや賃金台帳など、勤務状況の帳簿類調査
- フレックスタイム制など特殊な労働時間の定めている場合、労使協定の調査
- 雇用契約書、就業規則、有給休暇取得記録などの調査
- 健康診断の実施調査
- 経営者・責任者へのヒアリング
- 従業員へのヒアリング など
調査されるのは、主に労働者の勤務体制や職場環境です。
そのほか、場合によっては就業規則や労働契約書なども調べられることもあります。
是正勧告
立ち入り調査のあと、即日もしくは後日、労働基準監督署より結果が報告されます。
法律に明確に違反するとはいえないものの、労働環境の改善が望ましいと判断された場合、会社に対して「指導票」が発行されます。
また、労働関係諸法令に違反があった場合には、違反内容や是正期日などが記載された「是正勧告書」が会社側に交付され、会社は期限内に是正をおこなったことの報告書を提出しなければなりません。
是正勧告書はあくまでも行政指導であり、法的拘束力はありません。
ただし、勧告書に違反して期限までに是正報告がなされなかった場合、事業主は、違反状態を放置したとして、刑事処分を受ける可能性もあります。
モニタリング
指導票が交付された場合、労働基準監督署によって継続的に状況が改善されているかのモニタリングがおこなわれます。
そのため、会社側には速やかな指摘事項の改善が求められるでしょう。
また、是正勧告書による指導を受けた場合には、会社は違法状態であると指摘された項目を是正し、期日までに是正報告書を提出しなければなりません。
行政処分・刑事処分が科される可能性もある
是正勧告に従わなかった場合、経営者は刑事処分に処せられる可能性もあります。
労働基準監督官は、労働基準法等の違反に対し、司法警察官と同じ権限をもちます。
つまり、捜査のための差し押さえや違反者の逮捕ができるのです。
第百二条
労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う。
引用元:労働基準法 | e-Gov法令検索
そのため、会社側が期限内に是正報告書を提出しなかったり、違法状態が是正されなかったりした場合、経営者や責任者は逮捕・起訴される可能性もあります。
しかし、労働者からの通報によって即座に刑事手続が開始されることは珍しく、あくまでも任意での対応を会社へ求めます。
通報者が誰か会社にバレることはある?
労働基準監督署に会社の不正を通報すれば、立ち入り調査が入り、是正の指導がおこなわれる可能性があります。
ここで心配になるのは、労働基準監督署に通報したことが会社にバレないかということでしょう。
守秘義務があり原則バレない
労働基準監督署長や労働基準監督官には、職務上知りえた情報を漏らしてはならないという「守秘義務」があります。
そのため、通報者の情報が労働基準監督署から会社に伝えられることはありません。
第百五条
労働基準監督官は、職務上知り得た秘密を漏してはならない。労働基準監督官を退官した後においても同様である。
引用元:労働基準法 | e-Gov法令検索
ただし、従業員数が少ない小規模な会社の場合、通報者の候補が限られてしまうため、会社側に気づかれてしまう可能性はあるでしょう。
ですが、会社に通報がバレることを必要以上に恐れることはありません。
なぜなら、労働基準監督署に通報したことを理由に会社が従業員に不利益な扱いをすることは禁止されているからです。(労働基準法第104条)
会社は申告者に対して不利益な取り扱いをしてはいけない
従業員には、労働基準監督署に会社の違反行為を申告し、是正を求める権利があります。
従業員が労働基準監督署に申告したことを理由として、その従業員に対して不利益な取り扱いをすることは、労働基準法により禁止されています。
不利益な取り扱いとは、たとえば以下のようなものが挙げられます。
- 解雇
- 賃金の引き下げ
- 理由のない配置転換
- 降格処分
- 契約を更新しない
- その他ハラスメントに当たる行為など
これに違反し、会社が申告した従業員に対して不利益な取り扱いをしたことが認められた場合、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性もあります(労働基準法第119条)。
労働基準監督署には匿名で通報することもできる
労働基準監督署に対し、匿名で通報することも可能です。
通報の方法には3種類あり、直接訪問以外にも、電話やメールからも通報することができます。
メールの場合、厚生労働省のホームページ内の「労働基準関係情報メール窓口」の送信フォームから各情報を入力して送信しますが、申告者の氏名や電話番号は記載必須項目ではありません。
このように、匿名であれば会社に自分が通報したことがバレずに済むと思うかもしれません。
ただし、匿名の情報では十分に状況を伝えることができず、労働基準監督官も調査すべきか内容を詳しく精査できないでしょう。
立ち入り調査をして会社に是正させることを望むなら、所管の労働基準監督署に直接訪問して申告することをおすすめします。
労働基準監督署に通報してから対応するまでの期間
労働基準監督署に通報した後は、いつ立ち入り調査に入ってくれるのか、違法状態がきちんと是正されるのかが気になるところでしょう。
しかし、残念ながら通報したからといって必ずしも労働基準監督署が対応してくれるわけではありません。
通報から対応までの期間は状況による
通報から労働基準監督署が立ち入り調査をおこなうまでの期間はケースバイケースで、一概にはいえません。
通報後は、労働基準監督署内で立ち入り調査をおこなうか情報を精査する必要があります。
この期間については、ケースによって異なります。
労働基準監督署としても、違法状態が長く放置されることを避けるため、迅速な対応を心がけてはいるでしょう。
しかし、複雑なケースでは通報から対応まで数ヵ月かかるケースもあるようです。
通報しても対応してくれないこともある
労働基準監督署に会社の不正を通報したからといって、必ずしも会社に是正勧告を出してくれるわけではありません。
労働基準監督署内で情報を精査した結果、立ち入り調査やその他の調査をする必要がないと判断されることもあります。
また、立ち入り調査をおこなった場合でも、労働関連法令の違法の証拠が見つからなければ是正勧告や指導はおこなわれません。
なお、労働基準関係情報メール窓口から申告した場合、通報内容に対して個別の照会や相談には対応されません。
そのため、メールで通報した場合は、実際に立ち入り調査がなければどのような結果となったかを確認することはできないので注意しましょう。
労働基準監督署に通報する前に知っておきたい注意点
労働基準監督署は、労働に関する問題なら全て対応できるわけではありません。
通報する前に、以下のような点を知っておきましょう。
証拠が十分ではない場合には労働基準監督署は動いてくれない
法令違反の証拠が不十分だと、労働基準監督署は動くことができません。
特に匿名でのメールや電話での通報は、後追い調査ができないため事実確認がしづらく、調査が打ち切りとなる可能性が高いといえます。
立ち入り調査を望むなら、会社の住所を管轄する労働基準監督署を直接訪問して申告しましょう。
その際、タイムカードや給与明細など、違法行為の証拠となる書類を持参して窓口へいくことをおすすめします。
証拠を持参し、真摯に会社への是正指導を促せば、動いてくれる可能性が高いでしょう。
以下が、労働関連法違反の通報窓口と対応している相談内容です。
労働基準監督署
- 賃金や労働時間、解雇などの法令違反
- 事故、災害の発生
- 労災保険についての相談
- 労災隠しなどの問題
総合労働相談コーナー
- 法令に直接違反しない労働条件変更や解雇
- パワハラやいじめ、不当な賃金引下げ
- 性的指向・性自認に関する労働問題
- その他労働問題をどこに相談したらよいのかわからないとき
労働者個人のために働いてくれない
労働基準監督署は、会社が労働関連法令に違反していないかを監督し、違反があれば是正するための機関であり、労働者個人の権利を守る機関ではありません。
そのため、労働環境の改善などではなく、個人的な労働問題を解決してほしい場合には、労働基準監督署ではなく労働問題に詳しい弁護士に相談しましょう。
個人的な労働問題に対して誰に相談していいかわからないという方は、「ベンナビ労働問題(旧:労働問題弁護士ナビ)」で最寄りの法律事務所を検索し、無料相談を予約することをおすすめします。
通報できる内容は労働関係の法令に違反する可能性があるものだけ
労働基準監督署に通報できる内容は、労働基準法などの労働関係の法令に違反する事項のみです。
たとえば、以下のような事項が通報内容に該当します。
- 賃金や残業代の未払い
- 1ヵ月に100時間程度の著しい長時間残業
- 労働条件が雇用契約書と異なる
- 有給休暇が取得できない
- 職場の安全配慮義務違反
一方、以下のような内容は労働基準監督署の是正勧告には馴染みません。
- パワハラ、セクハラなどのハラスメント問題
- 退職勧奨
- 職場内でのいじめ
- 性差別による不当な扱い
- 損害賠償請求 など
このような職場での個人的な不利益取り扱いについては、労働基準監督署ではなく弁護士に相談しましょう。
労働問題を弁護士に相談・依頼するのがおすすめな理由
労働基準監督署は、個人的な労働トラブルを解決する機関ではありません。
個人的な問題を相談するなら弁護士に依頼しましょう。
弁護士は、個人の権利を守るのが仕事です。
労働問題を弁護士に相談することには、以下のようなメリットがあります。
さまざまな労働問題に対してアドバイスがもらえる
弁護士に相談することで、労働基準監督署ではカバーできないさまざまな問題に対してもアドバイスをもらえます。
労働基準監督署に通報すべき内容でも相談できますので、場合によっては代理人として通報してもらうことも可能です。
また、雇用保険や生活保護など、会社と交渉している間の生活保障で使える制度を紹介してもらうこともできるでしょう。
自分の利益のために働いてもらえる
弁護士に依頼すれば、自分の権利侵害問題に対して会社に働きかけてもらうことができます。
たとえば、以下のような相談が挙げられます。
- 職場でのパワハラでうつ病になった
- 能力不足を理由として解雇された
- 不当な退職勧奨を受けた
- 特定の同僚から悪質ないじめを受けている
このようなケースは、労働基準法などの法令に明確に違反していない限り、労働基準監督署では会社に是正勧告ができません。
また、労働基準監督署は是正を求めるだけで、権利侵害に対して損害賠償請求などを命じる権限はありません。
このように、職場で権利侵害が発生した場合、弁護士は依頼者の利益のために働き、権利を守ってくれるでしょう。
過去の未払い賃金に対して請求の協力を得られる
労働基準監督署はあくまで未払い状態の是正を勧告するのみで、個別の未払い賃金を遡って支払うよう、会社に請求することはありません。
しかし、従業員には、未払い賃金を遡って支払うよう会社に請求する権利があります(労働基準法第115条)。
2020年に労働基準法が改正され、未払い賃金の時効が2年から5年に変更されました。
ただし、当分の間経過措置が設けられているため、未払い賃金の請求は過去3年まで遡って請求できます。
(時効)
第百十五条
この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
(経過措置)
第百十五条の二
この法律の規定に基づき命令を制定し、又は改廃するときは、その命令で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要と判断される範囲内において、所要の経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)を定めることができる。
引用元:労働基準法 | e-Gov法令検索
会社が過去の未払い賃金を支払わない場合、労働者自身で未払い賃金の支払いを求めなければなりません。
ただし、未払い賃金の請求をおこなうには法律の知見や交渉力、時間的負担がかかることが考えられます。
そこで、弁護士に相談・依頼することで、未払い賃金の請求を円滑におこなうことができるでしょう。
会社と対等に交渉することができる
弁護士が代理人となれば、会社と対等に交渉することができます。
従業員と雇用主という関係がある以上、弱い立場の従業員が会社と対等に交渉することは難しいでしょう。
労働問題に注力している弁護士であれば、専門知識や実績もあるため、会社との交渉を有利に進められる可能性もあります。
また、示談交渉では話がまとまらずに労働審判や裁判に発展した場合でも、法令や手続きに詳しいことは有利に働きます。
まとめ|具体的な解決を望んでいる方は弁護士に相談を!
労働基準監督署に通報すると、その後内容を精査され、必要に応じて立ち入り検査がおこなわれます。
立ち入り検査で会社の法令違反が発覚すれば、是正を促してもらえるでしょう。
しかし、労働基準監督署に通報したからといって、必ずしも動いてくれるとは限りません。
また、労働基準監督署は労働者個人の利益のためには動いてくれません。
パワハラやセクハラに対して慰謝料を求めたい、未払い賃金を遡って請求したいという場合は、弁護士に相談しましょう。
労働基準監督署への通報と合わせて弁護士に相談しておくことで万が一、通報がバレて会社から不利益取り扱いを受けた際にも、弁護士が労働者の権利を守ってくれます。
労働関係のことで具体的な解決を望んでいるなら、労働問題に精通した弁護士に相談しましょう。