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同一労働同一賃金とは|非正規・派遣社員の待遇に関するルールをわかりやすく解説

更新日:2021年05月12日
ゆら総合法律事務所
阿部由羅
このコラムを執筆
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同一労働同一賃金(どういつろうどうどういつちんぎん)とは、『同じ労働に対しては同じ賃金を支払うべき』という考え方で、正社員と非正規社員・派遣社員の契約期間や雇用形態を理由とする不合理な待遇差別を禁止するためのルールです。

 

同一労働同一賃金とは
同一労働同一賃金の導入は、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。

同一企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消の取組を通じて、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにします。

●パートタイム・有期雇用労働法:大企業2020年4月1日、中小企業2021年4月1日より施行
●労働者派遣法:2020年4月1日より施行

引用元:厚生労働省

 

 

2021年4月1日より、中小企業に対しても「同一労働同一賃金」のルールが全面的に適用されました。企業にとっては従業員とのトラブルを防ぐため、非正規社員や派遣社員にとっては不合理な待遇差の是正を求めるため、同一労働同一賃金に関するルールを正確に理解しておく必要があります。

 

 

【あすから変わる】「同一労働同一賃金」 中小企業にも適用

正社員と非正規雇用で働く人の待遇格差を是正するための「同一労働同一賃金」が、4月1日から中小企業にも適用されます。新型コロナウイルスの影響で対応が遅れている中小企業も多いとみられ、待遇の改善をどのように進めていくのかが課題となっています。

 



総務省の労働力調査によりますと、非正規雇用で働く人は去年1年間の平均で2090万人に上っていて働く人全体の37.2%となっています。

「同一労働同一賃金」は同じ内容の仕事に対して同じ水準の賃金を支払うという考え方で、「パートタイム・有期雇用労働法」では正社員と非正規雇用で働く人の間の不合理な待遇の格差を禁止しています。

引用元:NHK|【あすから変わる】「同一労働同一賃金」 中小企業にも適用

 

これまで労働関連の法律によって一定の基準は規定されていましたが、同一労働同一賃金を含めた「働き方改革関連法」が成立したことで内容がより明確になりました。

 

また、同一労働同一賃金に密接に関わる労働契約法、パートタイム・有期雇用労働法、労働者派遣法が改正されたことによって「業務の内容や責任の程度等を踏まえて、支給される賃金や手当内容だけではなく福利厚生や教育研修等を含めた全ての待遇を均等・均衡にしなければならない」という旨が明確に記載されました。

 

この記事では、同一労働同一賃金の考え方・最高裁判決・違反事例などについて詳しく解説します。

 

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この記事に記載の情報は2021年05月12日時点のものです
目次

同一労働同一賃金とは?

「同一労働同一賃金」とは、正社員と比較した場合に、非正規社員に対する待遇面での不合理な格差を禁止する原則です。日本の会社では、依然としていわゆる「正社員」を優遇する考え方が根強く残っています。

 

正社員と非正規社員は、実際に行っている仕事の内容がほとんど同じというケースもよくあります。しかしその場合でも、正社員の方が多くの賃金・手当を受け取っていたり、正社員にのみ賞与が支給されていたりする事例はよく見られるところです。

 

こうした正社員と非正規社員の待遇差は、能力や貢献度を重視して従業員を評価するという現代的な考え方を前提とすると、決して好ましくありません。

また、「非正規社員だから待遇は低く抑えられて当然」という固定観念を定着させ、非正規社員の方に低賃金・低待遇での労働を強いるという負の側面もあります。

 

そこで「同一労働同一賃金」の考え方を法律上採用して、正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差をなくし、非正規社員の待遇を改善することが意図されているのです。

 

同一労働同一賃金による保護の対象は?

同一労働同一賃金による保護の対象となっているのは、以下の3種類の労働者です。

 

  1. 短時間労働者
    一週間の所定労働時間が、同一の事業主に雇用される通常の労働者(正社員)よりも短い労働者をいいます。
  2. 有期雇用労働者
    事業主と期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を締結している労働者をいいます。
  3. 派遣労働者
    他の会社(派遣会社)から派遣されて働く労働者をいいます。

 

短時間労働者と有期雇用労働者についてはパートタイム・有期雇用労働法(※1)8条以下、派遣労働者については労働者派遣法(※2)30条の3以下において、それぞれ同一労働同一賃金の原則が規定されています。

※1:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律

※2:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

 

あらゆる待遇について不合理な差別が禁止される

同一労働同一賃金の対象となる待遇の種類に制限はなく、あらゆる待遇が適用対象となります。

よく問題になる待遇の例は、以下のとおりです。

 

(例)

  • 基本給
  • 賞与、退職金
  • 各種手当
  • 福利厚生
  • 教育訓練 など

参考:日本労働組合総連合会|雇用形態間における均等待遇原則(同一労働同一賃金)の法制化に向けた連合の考え方

 

労働契約法やパートタイム労働法では、契約期間やパートタイマーであることを理由とする不合理な差別を禁止しています。例えば、通勤手当などは、制度設定の目的が『通勤にかかる費用負担』なので、雇用形態で差をつける合理的な理由はありません

 

不合理な待遇差の例

基本給

【問題となる例】

能力・経験に応じて基本給を支給している会社において、正社員が有期雇用労働者より多 くの経験を有することを理由に、より高い基本給を支給しているが、正社員のこれまでの 経験は現在の業務に関連が無い。

【問題とならない例】

業績・成果に応じて基本給を支給している会社において、所定労働時間が正社員の半分の 短時間労働者に対し、その販売実績が正社員の販売目標の半分に達した場合には、正社員 が販売目標を達成した場合の半分を支給している。

賞与(ボーナス)

【問題となる例】

正社員には職務内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給し ているが、短時間労働者・有期雇用労働者には支給していない。

違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。

通勤手当

 

短時間労働者・有期雇用労働者にも正社員と同一の支給をしなければならない。

福利厚生施設

 

正社員と同一の事業所で働く短時間労働者・有期雇用労働者には、正社員と同一の ①給食施設、②休憩室、③更衣室の利用を認めなければならない。

 

そのため、同一労働同一賃金では、非正規雇用であっても正社員と同じように通勤手当を支払う必要があります。同一労働同一賃金が実現された場合、各企業は厚生労働省が発行した『同一労働同一賃金ガイドライン案』が参考として就業規則の変更などを行うことが考えられます。

 

第二十条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

引用元:労働契約法

詳しくは後述の「合理的な待遇差と「不合理な」待遇差の具体例」で解説します。

 

同一労働同一賃金が適用されるタイミングは?

同一労働同一賃金が適用されるのは、労働者の種類に応じて、以下のとおりです。

 

  1. 短時間労働者・有期雇用労働者
    大企業は2020年4月1日から、中小企業は2021年4月1日から
  2. 派遣労働者
    一律2020年4月1日から

 

現在ではすでに同一労働同一賃金の規定が全面的に施行されており、すべての企業が適用対象となっています。

 

同一労働同一賃金で明確化されている3つの規定

同一労働同一賃金とは、同じ業務をする労働者に対して雇用形態などによる待遇の差をなくそうという考え方で、正規雇用労働者と非正規雇用労働者で均等待遇が期待されます。

 

具体的には以下のような箇所が規定されました。

 

  1. 不合理な待遇差を解消するための規定を明確にする
  2. 労働者の待遇について説明義務を強化する
  3. 行政による履行確保と裁判外紛争解決手続の整備をする

 

企業には基本給や福利厚生、賞与、教育訓練などの労働者の待遇について具体的に規定する決まりがあります。それらは均衡待遇規定、均等待遇規定というものにまとめることになっていましたが、社員間にどのような待遇差があるのかは明確にしていませんでした。

 

しかし、今回の改正によって「どのような待遇差が不合理となるか」を明確に規定することが求められます。また、非正社員が正社員との待遇差について事業主に説明を求めることができるようにもなりました。

 

不合理な待遇差を解消するための規定

均衝待遇規定とは

不合理な待遇差の禁止を定めた規定で

 

  1. 職務内容
  2. 職務内容・配置の変更の範囲
  3. その他の事情

 

の内容を考慮して不合理な待遇差を禁止する規定です。基本給や賞与、役職手当、食事手当、福利厚生など、個々の待遇ごとに待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべきということが明確化されています。

 

例えば基本給であれば、下記のようなないようが「同一労働同一賃金ガイドライン」で明文化されています。

 

基本給
• 基本給が、労働者の能力又は経験に応じて支払うもの、業績又は成果に応じて支払うもの、勤続年数に応じて支払うものなど、その趣旨・性格が様々である現実を認めた上で、それぞれの趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。
• 昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うものについては、同一の能力の向上には同一の、違いがあれば違いに応じた昇給を行わなければならない。

 

均等待遇とは

業務や配置変更の範囲が同じである場合、給与や福利厚生などの扱いも同等に行うことです。

 

これまで日本の企業文化の中では正社員が非正社員(アルバイト・パート社員・派遣社員)よりも待遇の面で優遇されることが当然であると考えられてきました。支給される給与の額や福利厚生など正社員と非正社員とで大きな差が生じていたのです(参考:厚生労働省)。

 

業務内容の違いや責任の重さに違いがあれば待遇に差があることも納得ですが、それらに違いがないにも関わらず雇用形態によって不合理な差別が生じている場合には納得がいきませんよね。このような状態は日本社会の持続に障害となると考えられるとして想起されたのが同一労働同一賃金です。

 

厚生労働省が提示する同一労働同一賃金のガイドラインには以下のようなことが書かれています。

 

本ガイドラインは、正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保し、同一労働同一賃金の実現に向けて策定するものです。

 同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、待遇差が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理なものでないのかを示しています。
参考:厚生労働省|同一労働同一賃金ガイドライン

 

なお、これらはあくまでもガイドラインとされているため法的な効力はなく破ったとしても罰則や罰金などはありません。

 

労働者の待遇について説明義務を強化

これまで企業はパート労働者に対しては説明責任がありましたが、有期雇用者に対して説明責任がありませんでした。同時に説明を求めた労働者に対して不利益が起こらないような規定を設定する必要もあります。

 

行政による指導と裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備

事業者と労働者とで紛争があった場合、裁判以外の方法で解決する手続きを整備する必要ができました。このような規定を行政ADRといいます。都道府県労働局において、無料・非公開の紛争解決手続きを行います。「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由に関する説明」についても、行政ADRの対象となります。

 

 

パート

有 期

派 遣

行政による助言・指導等

行政ADR

 

これらを整備することによって都道府県労働局管轄のもとで、無料かつ非公開で企業と紛争解決の手続きを行えるようになります。これらの規定は非正社員であってもプライバシーが守られる体制を作るためであるとされています。

 

同一労働同一賃金の基本的な考え方・基準について

「同一労働同一賃金」は、正社員と非正規社員の待遇格差について、その合理性を審査するための考え方です。したがって、待遇格差の合理性がどのような基準によって判断されるかが、実務上重要なポイントになります。

 

合理的な待遇差であれば認められる

同一労働同一賃金の考え方に従うと、正社員と非正規社員の待遇差が一切認められないわけではありません。

 

たとえば正社員の方が激務をこなしており、非正規社員の業務負担が軽い場合には、正社員に高待遇を与えることは認められます。これに対して、正社員と非正規社員がほぼ同じ業務負担であるにもかかわらず、正社員だけを優遇することは認められません。

正社員と非正規社員の待遇差を一律否定するのではなく、その待遇差が合理的なのかどうかを判断すべきというのが、同一労働同一賃金の基本的な考え方です。

 

待遇差の合理性を判断するための着眼点

正社員と非正規社員の待遇差が合理的であるかどうかを判断するための主な着眼点は、以下のとおりです。

 

  • 正社員にその待遇を与える目的
  • その待遇が与えられるための要件
  • 正社員と非正規社員の業務内容、責任などの違い

 

後述する「同一労働同一賃金に関する最高裁判決9つ」でも、主に上記の観点から待遇差の適法性が判断されています。

 

 合理的な待遇差と「不合理な」待遇差の具体例

正社員と非正規社員の待遇差については、厚生労働省が公表している指針によって、合理的な場合と不合理な場合が例示されています。

参考:短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針|厚生労働省告示第430号

 

合理的な待遇差の例

①基本給

  • 能力が高い正社員の基本給を高く、能力が低い非正規社員の基本給を低く設定する
  • 非定型的で複雑な業務に従事する正社員の基本給を高く、定型的で簡単な業務に従事する非正規社員の基本給を低く設定する
  • 転勤や配置転換がある正社員の基本給を高く、転勤や配置転換がない非正規社員の基本給を低く設定する
  • 販売実績が多い正社員の基本給を高く、販売実績が少ない非正規社員の基本給を低く設定する

 

②賞与

業務上の責任が重く、ミスに対しては一定のペナルティが課される正社員に対しては賞与を満額支給する一方で、業務上の責任が軽い非正規社員に対しては、正社員に比べて減額された賞与を支給している

 

③手当

  • 正社員と非正規社員が同一の役職に就いているが、非正規社員は所定労働時間が正社員よりも短いため、非正規社員に対して、所定労働時間に比例して減額された役職手当を支給している
  • 欠勤を人事評価上マイナスに評価される正社員に対して、一定の日数以上出勤した場合に精皆勤手当を支給する一方で、欠勤がマイナス査定とならない非正規社員に対しては精皆勤手当を支給しない

 

④福利厚生

  • 正社員には慶弔休暇を与える一方で、週2日勤務のパートタイム労働者については原則として勤務日の振替で対応し、振替が困難な場合のみ慶弔休暇を付与する
  • 長期勤続者を対象とするリフレッシュ休暇を、パートタイム労働者については、所定労働時間に比例した日数のみ付与する

 

不合理な待遇差の例

①基本給

  • 正社員の方が非正規社員よりも多くの業務経験を有することを理由として、正社員の基本給をより高く設定しているが、その業務経験は現在の業務と関連性がない
  • 一定の販売実績をクリアした場合に上乗せする基本給を、正社員に対しては支給する一方で、同じ水準をクリアした非正規社員に対しては支給しない
  • 勤続年数に応じて上乗せされる基本給に関して、非正規社員ついては、勤続年数を契約更新時にリセットして評価している

 

②賞与

  • 会社の業績への貢献が同程度である正社員と非正規社員について、正社員には賞与を支給する一方で、非正規社員には正社員に満たない賞与しか支給していない
  • 正社員には全員に何らかの賞与を支給する一方で、非正規社員に対しては一切賞与を支給していない

 

③手当

同一の役職に就いている正社員と非正規社員について、「非正規社員だから」という理由だけで、非正規社員に支給する役職手当を正社員よりも減額している

 

④福利厚生

  • 正社員と同一の事業所で働く非正規社員に、正社員が利用できる福利厚生施設の利用を認めない
  • 正社員と同一の要件(転勤の有無、扶養家族の有無など)を満たす非正規社員に、転勤者用社宅の利用を認めない

 

同一労働同一賃金に関する最高裁判決9つ

2020年には、同一労働同一賃金との関係で、正社員と非正規社員の待遇差を問題とした5件の最高裁判決※が言い渡されました。(※最高裁令和2年10月13日判決(2件)、最高裁令和2年10月15日判決(3件)の計5件)

 

同一労働同一賃金の考え方に照らして、どのような待遇差が適法(合理的)とされ、どのような待遇差が違法(不合理)とされたかについて紹介します。

 

適法とされた待遇差についての判例3つ

同一労働同一賃金に関する一連の最高裁判決において、適法とされた正社員と非正規社員の待遇差は、以下のとおりです。

 

①アルバイト社員に対する賞与の不支給

ある医科大学において、正職員・契約職員には賞与(ボーナス)が支給されていた反面、アルバイト職員には賞与が一切支給されていませんでした。最高裁は、賞与支給の目的を「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図ること」と認定し、短期雇用のアルバイト職員には賞与の目的が当てはまらないことを示唆しました。

 

さらに、正職員とアルバイト職員の間には、業務の難易度・責任の重さ・配置転換の有無(範囲)などに差があったことを指摘しました。

上記の理由から最高裁は、アルバイト職員に対して賞与を支給しないことは、不合理とまでいえず適法と判断しました。

 

②アルバイト社員に対する私傷病手当の不支給

①と同じ事案で、医科大のアルバイト職員に対しては、正職員に対して支払われる私傷病手当が一切支払われていませんでした。最高裁は、私傷病手当支給の目的を「長期雇用を前提とした生活保障・雇用の確保にあると認定しました。

 

そのうえで、アルバイト職員は長期雇用を前提としておらず、原告自身も同医科大への在籍期間が長くないことを指摘しました。上記の理由から最高裁は、アルバイト職員に対して私傷病手当を支給しないことは、不合理とまではいえず適法と判断しました。

 

③契約社員に対する退職金の不支給

ある鉄道会社の契約社員に対して、勤務年数が10年以上に及んでいたにもかかわらず、退職金が一切支給されませんでした。

 

同鉄道会社には正社員向けの退職金制度が設けられていたところ、最高裁は「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図る」ことなどに制度目的があると認定しました。そのうえで、正社員と契約社員の業務内容・配置転換の範囲などに関する違いを認定し、退職金の不支給は不合理とまではいえず適法と判断しました。

 

不合理・違法とされた待遇差についての判例4つ

①契約社員に対して夏期休暇・冬期休暇を付与しなかったこと

郵便会社の契約社員に対して、正社員に与えられていた夏期休暇および冬期休暇が一切与えられませんでした。最高裁は、夏期休暇・冬期休暇の目的を「年次有給休暇や病気休暇等とは別に、労働から離れる機会を与えることにより、心身の回復を図る」ことにあると判示しました。

 

また、夏期休暇・冬期休暇は勤続期間にかかわらず一律で与えられるため、契約社員が短期雇用であることは付与対象外とする根拠にならないことを示唆しました。上記を前提として、最高裁は、契約社員に対して夏期休暇・冬期休暇を付与しないことは違法・不合理であると判断しました。

 

②契約社員に対する年末年始勤務手当・祝日給の不支給

郵便会社の契約社員には、年末年始の勤務に対して「年末年始勤務手当」および「祝日給」が支給されず、通常の賃金が支給されるにとどまりました。

 

最高裁は、「年末年始勤務手当」および「祝日給」が最繁忙期における休日出勤の対価であり、支給金額も勤務時期と時間に応じて一律であることを指摘しました。上記を前提として最高裁は、「年末年始勤務手当」および「祝日給」の趣旨は契約社員にも当てはまるため、これらを不支給とすることは違法・不合理と判断しました。

 

③契約社員に対する扶養手当の不支給

郵便会社の契約社員には、扶養家族がいる正社員に支給される「扶養手当」が一切支給されていませんでした。最高裁は、扶養手当の目的について、正社員の長期継続雇用を確保する点にあると認定しました。

 

その一方で、当該契約社員については契約期間が複数回更新されており、長期継続勤務が期待できる状況がある旨が指摘されました。上記を前提として最高裁は、扶養手当の目的は当該契約社員にも当てはまり、扶養手当を不支給とすることは違法・不合理と判断しました。

 

④契約社員に対して有給の病気休暇を認めなかったこと

郵便会社の契約社員には、正社員に対して与えられる有給の病気休暇が一切与えられていませんでした。この論点は、医科大のアルバイト職員のケースにおける「私傷病手当の不支給」の問題と似ています。

 

しかし本件では、原告の勤続年数が長かったことなどが指摘され、結論としては有給の病気休暇を付与しないことが違法・不合理と判断されました。

 

ハマキョウレックス事件

運送会社において正社員と契約社員の待遇差があることについて、契約社員が損害賠償請求を会社に求めました。前提としてこの会社では正社員であっても契約社員であっても仕事内容は変わりませんでしたが、正社員は全国転勤があることに対して契約社員には全国転勤がないといった違いがありました。

 

最高裁は、通勤手当、作業手当、休職手当、無事故手当、皆勤手当といった各手当が正社員に支給されているのに対して契約社員に支給されていないことは違法であると判断しました。

一方、住宅手当については正社員には全国転勤があるが契約社員には全国転勤がないことから、正社員にのみ支給することは不合理とは言えないとの判断を下しています。

 

裁判年月日 平成30年 6月 1日 裁判所名 最高裁第二小法廷 裁判区分 判決
事件番号 平28(受)2099号 ・ 平28(受)2100号
事件名 未払賃金等支払請求上告事件 〔ハマキョウレックス事件・上告審〕
裁判結果 附帯上告に基づき原判決一部破棄差戻、上告棄却 文献番号 2018WLJPCA06019002

 

長澤運輸事件

運送会社において定年後に再雇用された嘱託社員が、正社員との待遇差は不当であるとして会社に対して損害賠償を求めました。前提として、この会社では正社員であっても嘱託社員であっても仕事内容や転勤の有無に違いはありませんでした。

 

最高裁は、正社員に支給されている精勤手当が定年後の嘱託社員に支給されていないことは不合理な待遇格差であるとして違法と判断しました。一方で、正社員に支給されている住宅手当、家族手当、賞与が嘱託社員に支給されていない点は合法であるとの判断を下しています。また、定年後の嘱託社員の年収が、定年前よりも21%減少していることも違法とはいえないと判断を下しています。

判決では、すでに定年しており正社員と異なり長期勤務が想定されないことや、将来的に老齢年金の受給が想定されることを理由としてあげています。

 

裁判年月日 平成30年 6月 1日 裁判所名 最高裁第二小法廷 裁判区分 判決
事件番号 平29(受)442号
事件名 地位確認等請求上告事件 〔長澤運輸事件・上告審〕
裁判結果 一部破棄自判、一部破棄差戻、一部上告棄却 文献番号 2018WLJPCA06019001

 

あくまでも事案ごとの判断|詳細な事実関係の分析が必要

非正規社員・派遣社員と正社員の待遇差は、あくまでも事案ごとの事情に着目して、実質的に合理性が判断されます。

 

そのため、最高裁判決の結論だけに着目するのは適切でなく、その理由を正確に分析することが大切です。たとえば、非正規社員にはボーナスと退職金を一切支給しなくてよい、と常に結論づけられるわけではありません。そうではなく、長期継続雇用の見込みや正社員との役割・責任の差などに着目して、実質的に妥当と思われる待遇を与える必要があるということです。

 

同一労働同一賃金に違反した場合の企業側のリスク

使用者が同一労働同一賃金に違反した場合、従業員からの損害賠償請求や、行政処分・行政指導を受けるおそれがあります。損害賠償請求や行政処分・行政指導への対応には費用と労力を要するので、使用者としては、同一労働同一賃金に違反する状況が生じていないかをよくチェックすることが大切です。

 

従業員からの損害賠償請求など

正社員と非正規社員の間に不合理な待遇差が生じている場合、非正規社員から会社に対して、待遇差を補填するための金銭補償を請求される可能性があります(民法415条1項、709条)。

 

最高裁判決の事案でも、待遇差の補填が現に問題となり、実際に従業員側の請求の一部が認められています。

 

厚生労働省・労働局による行政処分・行政指導

短時間労働者または有期雇用労働者について、正社員との間に不合理な待遇差が生じた場合には、労働局長から使用者に対して助言・指導・勧告が行われる場合があります(パートタイム・有期雇用労働法24条1項)。

 

また派遣社員について同一労働同一賃金への違反が生じた場合には、厚生労働大臣からの指導・助言・勧告等に加えて、改善命令や公表などのより厳しい措置がとられる可能性もあります(労働者派遣法48条以下)。

 

 

労働者にとって同一労働同一賃金のメリットとデメリット

この項目では、同一労働同一賃金について労働者側のメリットをご紹介します。

 

メリット

非正規雇用労働者の賃金が上がる

パートやアルバイト、契約社員などの非正規雇用労働者は、年々増加しています。

 

同一労働同一賃金のメリット/非正規雇用労働者の増加

 

引用:厚生労働省

同時に正社員と非正規雇用労働者との賃金格差も広がっています。しかし、同一労働同一賃金が実現されれば、この格差が解消され、非正規雇用労働者にとっては基本給などの賃金が上がる可能性があります。

 

「仕事を頑張っているのに評価されない」「会社に貢献して実績を残しているのに昇給も賞与もない」といった不満も解消される可能性があります。働いた分だけ評価されることで仕事に対するやりがいが生まれる可能性もあるでしょう。

 

一方で労働者の賃金が上がることで人件費の負担に耐えられないといった企業側の意見もあるようです。特に新型コロナウイルス感染拡大によって打撃を受けている中小企業も少なくなく、その中での人件費負担は厳しいものなのかもしれません。

 

働き方の選択肢が広がる

正社員と非正雇用労働者の格差が是正されることで、業務量や勤務時間帯の分担ができるようになるでしょう。在宅勤務や時間差出勤等個人のライフスタイルに合った働き方ができるかもしれません。

 

また、スキルはあっても結婚・出産・子育てなどでフルタイム勤務が困難だった主婦の方や、持病や怪我など身体の都合上で通勤困難だった方でも納得のいく賃金で働くことが可能となるでしょう。

 

デメリット

同一労働同一賃金は、非正規雇用労働者にとって賃金が上がる可能性がある法案です。一方で、会社側からすると総人件費が高騰するなどの課題もあります。この項目では、同一労働同一賃金が抱えるデメリットについてご紹介します。

 

結果的に賃金が低下する可能性がある

同一労働同一賃金が実現した場合、労働賃金を業務能力で判断することになります。そのため、求められる能力も高く、厳しくなることが予想されます。

 

また、非正規雇用労働者の賃金をあげた場合、総人件費が高くなります。会社側の財源も限られているので、労働賃金自体が相対的に下がる可能性もあります

 

派遣等を受け入れる企業が減少する可能性がある

同一労働同一賃金の導入で非正規社員に対する賃金が適正になることで全体的な賃金の上昇が考えられます。人件費の負担が大きくなると企業は非正規社員の雇用人数を規制する可能性が出てきます。

 

また、人件費削減のために派遣労働者が担っていた単純作業を減らす方向へと働くかもしれません。導入が完了した企業はまだ少ないものの、これからどのような影響が出るか状況を正確に把握する必要があるかもしれません。

 

同一労働同一賃金の対応が完了した企業の割合引用:PRTIMES

 

もし同一労働同一賃金に反する待遇を受けた従業員側の対処法

非正規社員の方が使用者から受けている待遇が、同一労働同一賃金に違反していると思われる場合には、以下の方法によって待遇の改善に向けた行動を起こしましょう。

 

厚生労働省・労働局への申告

同一労働同一賃金に違反した待遇差別を受けている非正規社員の方は、違反内容を行政庁に申告し、行政処分や行政指導を求めることができます。

行政処分または行政指導が行われれば、使用者がその内容に従い、かなり高い確率で待遇改善が期待できるでしょう。

 

同一労働同一賃金に関する問題については、厚生労働省が相談窓口を設けているので、お近くの窓口へ相談してみてください。

参考:働き方改革推進支援センター|厚生労働省

 

弁護士に相談して補償請求を行う

行政庁を通じて間接的に待遇改善の働きかけを行うよりも、会社に対して直接補償請求を行う方が、迅速な解決に繋がりやすい側面があります。

弁護士に相談すれば、同一労働同一賃金の考え方や事例などを踏まえて、会社に対して法的な裏付けを持った主張を展開できるでしょう。

 

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同一労働同一賃金の事例

同一労働同一賃金は一部の企業ではすでに導入されています。この項目では、同一労働同一賃金の先行事例をご紹介します。大手家具メーカーであるイケア・ジャパンは、労働者を雇用形態関係なく『コワーカー』と呼び、同じ業務である場合は同じ賃金が適応される制度を導入しています。

 

大手家具販売の「イケア・ジャパン」(本社・船橋市)は2014年9月、全社員の7割を占めるパートを短時間勤務の正社員に転換した。パートだった人も、時給換算した賃金や、福利厚生、会社も保険料を負担する厚生年金・健康保険への加入など全て正社員と同じ待遇とした。契約期限のある有期雇用を廃止し、65歳定年制も適用された。

引用:毎日新聞

りそな銀行では正社員とパート社員に共通の人事評価制度を導入しています。

 

従業員約1万5000人を有する銀行大手の「りそな銀行」は、2008年10月に人事制度の改定を行い、正社員とパートナー社員(パート)に共通の「職務等級・人事評価制度」を導入した。同制度は、役職や職務等級が同じであれば、パートナー社員は時給換算で正社員と同じ基本給が得られる仕組みだ。

引用:公明党

株式会社クレディセゾンでは、全従業員正社員化を目指し人事制度改革に取り組んでいるそうです。

 

同社では、2017年9月16日、全社共通人事制度を導入し「同一労働同一処遇」を実現した。
具体的には、
 ・三種あった雇用形態を「正社員」で統一し、処遇も統一
 ・「役割等級制度」と「行動評価」の導入
 の二点である。

引用:厚生労働省

 

同一労働同一賃金導入の流れ

同一労働同一賃金に対応する必要があるか否か以下の表で確認することができます。該当した場合には計画的に対応する必要があるでしょう。

 

同一労働同一賃金対応表

引用:厚生労働省|パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書

同一労働同一賃金導入で企業が意識すべきことは以下の二点です。

 

  • 企業内で働く社員と非正社員の不合理な待遇差をなくすこと
  • 労働者から待遇差について説明を求められたら対応すること

同一労働同一賃金を取り入れることによって、これまで企業が守ってきた労働に関する仕組みを根本から整備する必要が出てくるでしょう。

 

簡単に終わることではありませんので、時間をかけて整備していくことが望まれます。

 

この項目では同一労働同一賃金を導入する際の大まかな流れを解説します。

 

手順1|労働者の雇用形態を確認する

企業内に同一労働同一賃金の対象となる従業員が在籍しているかを確認します。社内でアルバイト・パートなどの短時間労働者や派遣などの有期雇用労働者を雇用していれば該当します。

 

短時間労働者とは:厚生年金、健康保険などの社会保険への加入対象者であり勤務時間・勤務日数が常時雇用者の3/4未満である者のこと。

有期雇用労働者とは:事業主と半年や1年といった期間を定めた労働契約を締結している者のこと。

 

手順2|労働者の待遇状況を確認する

短時間労働者と有期雇用労働者の区分それぞれに賞与・手当、賃金や福利厚生などの待遇について正社員と差が生じていないか確認します。

 

手順3|待遇差が不合理ではないかを確認する

短時間労働者・有期雇用労働者と正社員では働き方や役割が異なる企業がほとんどでしょう。その場合、賃金や福利厚生などの待遇に差が出てくることはあり得ます。

 

待遇の違いがそれぞれの働き方や役割に見合った者であるか、不合理ではないかを確認しましょう。また、どのような理由でその待遇差を設けているのか改めて考えておくとよいかもしれません。

 

手順4|待遇差が不合理ではないことを説明する

労働者から説明を求められた場合、事業主は待遇の内容や待遇の決定に関して考慮した事項、正社員と非正社員の待遇差の内容や理由などを説明することが義務付けられます。雇用別の待遇について整理しておく必要があるでしょう。

 

労働者に説明する内容をあらかじめ文書にまとめている企業も多いかもしれません。

 

手順5|法違反と疑われないようにする

現時点で短時間労働者・有期雇用労働者と正社員との待遇差があり、その待遇差が不合理ではないと言い切れない場合には改善に向けた検討を始めるべきです。

 

不合理ではないと言える状況であっても、より望ましい雇用管理に向けて改善の必要はないか検討してみましょう。

 

手順6|改善計画を立てる

改善の必要がある場合、労働者の意見を取り入れながら、法施行までに計画的に取り組みます。

 

パートタイム・有期雇用労働法の施行日は2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)です。法の施行までまだ時間があるしなんとかなるだろう…と感じている場合もあるかもしれません。

 

就業規則や賃金規定を見直すためには短時間労働者・有期雇用労働者を含む労使の話し合いが必要となります。また、検討の結果として改善するために考慮・検討すべきことはたくさんありますので、対応は計画的に進めるべきでしょう。

【参考】厚生労働省|パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書

 

 

まとめ

「同一労働同一賃金」により、「非正規社員だから待遇を低く抑えてもよい」という考え方は一切通用しなくなりました。使用者側は、労働者とのトラブルを防ぐためにも、同一労働同一賃金を踏まえた賃金・待遇の体系を構築・維持する必要があります。

 

一方、非正規社員の方が同一労働同一賃金に違反する待遇を受けている場合には、弁護士に相談して補償請求を検討しましょう。

 

同一労働同一賃金の考え方は、今後の使用者・非正規社員の関係性を規律するスタンダードになりますので、労使ともに強く意識しておく必要があります。

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この記事の執筆者
ゆら総合法律事務所
阿部由羅 (第二東京弁護士会)
西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て、ゆら総合法律事務所代表弁護士。不動産・金融・中小企業向けをはじめとした契約法務を得意としている。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。
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本記事は労働問題弁護士ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※労働問題弁護士ナビに掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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