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「休憩を十分にとらせてもらえない」「昼休み中なのに何かあれば対応しなければならない」など、職場での休憩の取扱いについて疑問はありませんか。
仮に、形式的には休憩時間とされていても、実質的に休憩時間と認められない場合、当該時間についても賃金支払の対象となりますので、無視できない問題です。
この記事では労働基準法が定める休憩をテーマに休憩時間についての規律について簡単に解説します。
休憩については労働基準法第34条で定められています。その目的は労働者の精神的・肉体的な疲労を回復させることです。
どれくらいの労働に対してどれくらいの休憩を付与する義務があるかについて「6時間」と「8時間」という基準があります。
「超える」とあるとおり、労働時間がちょうど6時間なら休憩を与える必要はありません。労働時間がちょうど8時間なら休憩は45分で足ります。
もっとも、実務的には労働時間に拘らず、休憩時間を1時間と決めている会社が多数であろうと思われます。
会社が労基法第34条に違反して必要な休憩を取らせなかった場合、一応「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」を科される可能性はあります。
もっとも、労基法違反についていきなり刑事事件として立件されるケースはほとんどありません。
多くの場合は労働基準監督署が違反状態を認めてこれを是正するよう指導・是正勧告を行います。刑事事件となるのは、指導や是正勧告に殊更違反することを繰り返すような悪質なケースです。
休憩時間には3つの原則があります。それぞれの内容と注意点を確認しましょう。
休憩は労働時間の途中に与えなければなりません。「途中」とは、労働と労働の合間という意味であり、業務開始前や業務終了後に休息を与えても「休憩」を与えたことにはなりません。
なお、休憩を取らせることは法令上の要請であるため、労働者が「休憩は要らない」と言っていたとしても、会社が休憩を与えない行為は違法です。
なお、休憩時間をどのタイミングで付与するかについて法令上の決まりはありません。一般に休憩時間は昼の12時から付与するケースが多いですが、12時から取らせることに必然性はなく、11時や13時からの休憩を付与しても問題ありません。
休憩時間は事業場において一斉に付与しなくてはならないのが原則です。
そのため、当該原則に従えば、労働者に交代休憩させることや一定の時間帯から任意の60分休憩させることなどの対応はできません。しかし、一斉付与をしなくてもよい例外もあります。
1つは業種による適用除外です。以下の業種は労働基準法において一斉付与の原則が適用外とされており、例えば交代休憩も問題ありません。
(労働基準法40条、労基法施行規則第31条、労働基準法別表第1)
上記の業種に該当しない場合でも、労使協定を結べば一斉付与の原則は適用されず、個別に休憩を取ることができます。
労使協定とは労働者の過半数で組織する労働組合か、労働者の過半数を代表する者と使用者との書面による協定をいいます。労使協定では一斉付与の適用から外す労働者の範囲や、休憩の与え方を定めることになります。なお、労働基準監督署への届け出は不要です。
総務課の社員が一斉に昼休憩をとると、休憩時間を利用して事務手続に訪れた他部署の社員が困ることがあります。こうした場合には労使協定で定めておけば、部署間で異なる休憩時間を設定することも可能となります。
なお、そもそも休憩の規定が適用されない労働者もいます(労基法第41条)。
ただし休憩の規定から除外される労働者に対しても、会社は安全配慮義務の観点から適切に休憩をとらせて過重労働が生じないように留意する必要があります。
会社は休憩時間を付与した場合、労働者を完全に業務から解放し、その自由な利用に委ねる必要があります。たとえば次のようなケースはありがちですが、該当の時間は休憩時間から除外するのが正しい処理です。
ただし、労基法施行規則第33条で定める者については自由利用の原則は適用されません。警察官や消防団員、児童自立支援施設の職員で児童と生活をともにする者などがこれに該当します。
自由利用の原則がある以上、休憩時間に外出するのも基本的には労働者の自由です。ただし、事業場の規律を保持したり、施設管理をする観点から、最低限必要な制限を加えることは構わないとされています。
たとえば「外出する際は上司にひとこと伝えておく」というルールは、休憩中に事故などに遭った場合などを想定すれば、最低限必要な範囲内におさまっていると考えられます。「休憩中に会社のパソコンでゲームをしてはいけない」と決めるのも、会社の施設管理の観点から許容されるでしょう。「昼休憩に飲酒をしてはいけない」と決めるのも、会社の評判やその後の業務への支障を考えれば当然の規制です。
そもそも休憩時間とは「労働者が労働から離れることを保障された時間」をいいます。
したがって休憩と称しながら、実際には業務から解放されていない場合は法律上の休憩を与えたことにはならず、その時間は労働時間として賃金支払いの対象となります。具体的なケースを交えて見ていきましょう。
昼休みという名目でも、電話が鳴ったり来客があったりすれば、即時対応しなくてはならないような場合、その時間帯は休憩時間であることが否定される可能性があります。
このような来客や受電がそれほど頻繁ではなく、ほどんど無い場合には休憩であることが否定されない可能性はありますが、日常的に対応を余儀なくされることが頻発していれば、休憩時間であることは否定される可能性が高いでしょう。
すし処「杉」事件(大阪地裁昭和56年3月24日)では、客がいない間を見計らって適宜休憩をとるという決まりは、来客があった際にはすぐに対応する必要があれば休憩時間にはあたらないとされました。
※参照:全基連
警備業務や宿直業務は、拘束時間が長時間となりがちであり、拘束時間中の一定時間について仮眠時間を設けられている場合もあります。このような仮眠時間についても、仮眠のとり方や仮眠中の対応状況によっては、休憩時間であることが否定される可能性があります。
例えば、仮眠時間が与えられていても、仮眠場所と就労場所が特段区別されておらず、仮眠も制服を来たまま取るのが通常であり、警報や呼出があれば仮眠中でも即時対応が求められるという場合は、たとえ仮眠による不活動時間があったとしても、仮眠時間は休憩とは認められず、労働時間と評価される可能性が高いと言えます。
リーディングケースとしては、大星ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日判決)があります。警報や電話などにただちに対応することが義務づけられている仮眠時間は、対応の必要性が皆無に等しいなどの事情がない限り、実作業に従事していない時間も含めて労働からの解放が保障されていないとされました。
※参照:裁判所
他方、
仮眠時間が休憩であることは否定されにくいと思われます。
昼食を兼ねて職場内で仕事の打ち合わせをする所謂「ランチミーティング」というものがあります。
これが参加自由の自主的な試みであれば、ランチ中に業務の話をしたからといって直ちに休憩であることが否定されるものではありません。しかし、参加が強制されるような場合には、もはや休憩とはいえず、ランチを食べながらであってもこれは労働時間というべきでしょう。
ここで、休憩に関してよくある誤解を紹介します。
労働基準法は労働者を事業や事務所などに使用され、賃金を支払われる者と定義しているのみであり、正社員、契約社員、アルバイトなどの雇用形態で特段区別していません。
そのため、雇用形態の別に拘らず、労働者であれば休憩に対する規律は共通です。そのため、正社員には休憩を与え、パートやアルバイトには与えないといった、雇用形態のみを理由とする区別を設けることはできません。
なお、アルバイトの場合は1日の労働時間が4時間、5時間という場合があります。この場合は、法令上休憩を付与する必要がないので、特に休憩を与えなくても問題ありません。しかし、アルバイトの勤務時間が6時間を超える場合には、少なくとも45分の休憩が必要になります。
労働基準法では6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間の休憩を付与すべきことのみが求められていますので、残業を含めてその日の労働時間が10時間、20時間となったとしても、1日の休憩時間は1時間で足ります。
もっとも、会社には労働者の職場環境や安全に配慮する義務があるので、当該観点から長時間の残業が見込まれる場合には、一定時間の休憩を余分に与えるという対応はあり得るかもしれません。
「休憩中であっても一定の拘束はされているのだから賃金がほしい」と考える方もいるかもしれません。しかし、休憩時間は労働時間ではなく賃金支払の対象とはなりません。
もっとも、上記の通り、名目的な休憩時間が「休憩」とは認められない場合には、使用者の指揮命令下にある「労働時間」と認められますので、賃金を別途支払うよう求めることはできます。
1時間の休憩を45分と15分、30分を2回などの形で分割して付与するケースもあります。
休憩を分割で与えること自体はただちに違法ではありません。もっとも労働者を休息させてその心身を健全に保つという休憩の趣旨からすれば、過剰に休憩時間を細分化することは適切ではなく、場合によっては休憩とは認められないこともあり得ます。
例えば、休憩を1日3分×20回与えるとか、5分×12回与えるなどは、休憩を与える趣旨に沿わないものとして、休憩時間性が否定される可能性があります。注意しましょう。
最後に、職場における休憩時間の取り扱いに疑問を覚えた場合に何ができるのかを解説します。
まずは労働契約書や就業規則に記載された休憩の規定を確認してください。休憩時間は、採用時の交付書面書面(労働条件通知書)やですし、就業規則の必要的記載事項ですので、通常はこれら書面に何かしらの定めがあるはずです。
そのうえで以下の対応を検討しましょう。
職場の上司が必ずしも休憩の法的知識をもちあわせているとは限りません。
これに対し、人事や給与担当の部署であれば休憩時間についての法的な理解があるケースが多いと思われますので、まずはこれらの部署に相談するのが優先的に行うべき方法です。
人事などの部署が機能している会社であれば、休憩時間の正しい与え方について上司に指導してくれる可能性がありますし、会社も積極的に是正するでしょう。
担当部署が機能していない場合やそもそも担当部署がない場合、上司がルールを守らず違法に休憩を与えないなどの場合は労働基準監督署への相談・通報が考えられます。
労働基準監督署は会社の労働法規に違反を取り締まる行政機関であり、会社による違法状態を認めた場合、会社に対して是正のための指導や是正勧告を行います。公的機関なので、労働者からすれば費用がかからず相談しやすいでしょう。
もっとも、労働者からの通報・相談に対してどのように対応するかは労働基準監督署の裁量的判断に委ねられます。そのため、労基署において違法状態があるか明確ではない、緊急性が高くないと評価した場合、会社に対する調査等の具体的アクションまではなかなか進まないかもしれません。
また、指導や是正勧告はあくまで会社に任意の改善を促す行政指導であり、会社が必ずしもこれに従って是正措置を講ずるとは限りません。
そのため、労基署に相談しても必ずしも問題解決には至らないこともありますので、留意しましょう。
なお、労基署に具体的アクションを促すという意味では、会社の対応が違法であることの根拠資料を集めてから相談することが望ましくあります。
休憩時間が名目的なもので就労を余儀なくされており、当該就労分については賃金を請求したいという場合には、弁護士へ相談されるのがよいでしょう。
弁護士と聞くといきなり裁判になるとイメージされる方は多いですが、裁判外の交渉や請求で解決できるケースも少なくありません。
弁護士に相談すれば、休憩時間が適正に取られているか実態を踏まえてある程度高い確度で判断してもらえると思われますし、これに従って、別途精算されるべき賃金についても算定してくれます。実際に会社に請求をすることまで検討しているのであれば、弁護士のサポートは必須でしょう。
労働基準法が定める休憩のルールについて解説しました。休憩は6時間を超える労働をした場合に必ず付与されるものです。正しい時間や方法で付与されていない場合は違法なので会社に改善を求めるべきでしょう。
そのためには正しい知識をもっておく必要がありますので、今回の記事を参考に休憩時間のルールを知っておいてください。
自分のケースでは休憩時間にあたるかわからない、休憩中に働かされたため賃金を請求したいなどのお悩みがあれば弁護士への相談も検討しましょう。
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