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問題社員の存在が社内に与える影響は少なくないことから、どうにか解雇できないかと悩まれている経営者(人事担当者)は少なくないかもしれません。
退職勧奨をしてもおそらくすんなりと辞めてはくれず、揉める可能性は高いでしょう。かといって、放置し続ければ他の社員が嫌気をさして辞めてしまうかもしれません。
どう対処すれば…?と多くの経営者を悩ませる問題です。
結論から言えば、問題社員を解雇する方法はあります。ただし、解雇するにしても慎重に対応を進めなければ、逆に会社が問題社員に訴えられてしまう可能性が高いでしょう。
この記事では、解雇の基礎的なルールをはじめ、問題社員を解雇する際のポイントや手順、有効性が争われた事例などについて解説します。
ご存知の方も多いかもしれませんが、日本は解雇規制が厳しく、下手に従業員の解雇に踏み切ると訴えられてしまうかもしれません。
そのため、問題社員であろうと解雇を行うのであれば、正しく法律を理解しておく必要があります。
この項目では、解雇に関する基礎的な知識を確認していきましょう。
解雇は会社から一方的に雇用関係を解消する手続きです。
解雇により労働者が被る不利益は非常に大きいため、日本では労働者保護の観点から、解雇について以下のような制限を定めています。
まず大前提として、企業が解雇を行うためには、あらかじめ就業規則等でどのような場合に解雇するか(解雇事由)を示しておかなければなりません。
仮に明示があり該当するように思える場合でも、解雇が合理的・常識的に考えて妥当といえるだけの理由が必要です。例えば、解雇事由に職務懈怠について明示があったとしても、一度の遅刻や欠席を理由での解雇は認められません。
また急に会社から解雇を告げられた日から職を失えば、労働者は非常に不安定な生活を強いられてしまうので、最低でも30日前には解雇予告するよう定められています。
これらの要件は問題社員を普通解雇、懲戒解雇のどちらを行うにしても、当然適用されるので注意しましょう。
前述したように原則即日での解雇は認められませんが、一部例外的に認められるケースがいくつかあります。
一つは短期雇用労働者を解雇するケースです。
以下に該当する労働者を解雇する場合は、原則として予告が必要ないとされています。
参考:労働基準法第21条
二つ目は天災などのやむを得ない事由により事業継続が不可能となった場合です。
ただし、労働基準監督署の認定(解雇予告除外認定)を受ける必要があります。
三つ目が労働者の責に帰すべき事由がある場合の解雇です。この場合も労働基準監督署の認定を受ける必要があります。
認定が受けられるのは、以下のようなケース。
(昭和 23.11.11 基発第 1637 号、昭和 31.3.1 基発第 111 号)
参考:労働基準法・労働安全衛生法関係事務の手引|和歌山市人事委員会
ただし、上記はあくまで例示であり、実際の判定には労働者の地位、職責、継続勤務年限、勤務状況等を総合的に考慮にしたうえで判断がなされる点に留意が必要です。
四つ目は解雇予告手当を支払うケース。
通常、解雇を行う場合は少なくとも解雇する日の30日前までに通知が必要です。しかし、解雇までの日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払えば、即日での解雇も認められます。
もし問題社員を解雇するのであれば、自社に解雇ができるだけの状況が整っているのか確認する必要があります。
あとさき考えずに不用意な解雇を行えば、手痛いしっぺ返しを受けてしまうでしょう。
この項目では、問題社員の解雇を行う前に確認すべきポイントを解説します。
前述したように、解雇を行うためには、解雇事由があらかじめ明示されていなくてはなりません。
労働基準法および労働基準法施行規則では、就業規則と労働契約書(労働条件通知書)に解雇事由を記載しておくよう求めています。
解雇の際にはまず就業規則等を確認する必要があります。もちろん、ただ解雇事由の記載が就業規則等にあるだけでは不十分。就業規則に関しては、以下のことにも注意が必要です。
もし就業規則に不備があるなら、解雇よりも社内体制の整備を優先したほうがよいかもしれません。
問題社員の解雇方法には、以下の二つがあります。
普通解雇は、能力不足やケガや病気による就業不能など、社員の労務提供が不十分な場合に行われます。懲戒解雇とは、起業秩序に違反した社員に対して行う制裁的意味合いを持つ解雇です。
解雇という結果だけみると普通解雇・懲戒解雇それぞれに大きな違いはありません。
しかし、懲戒解雇の場合、退職金の全部又は一部が受け取れない場合がある、失業給付の受給が遅くなるなど、普通解雇に比べて社員に与える影響は大きくなります。
そのため、懲戒解雇のほうが処分の正当性は厳しく判断されます。
下手に問題社員を見せしめ目的で懲戒解雇にしてしまうと、逆に不当解雇で会社が訴えられてしまうかもしれないので注意が必要です。
解雇を行う際は、原則として30日以上前の解雇予告が必要です。
フィクションでよく見られるような「明日から来ないでよい」という対応は、解雇予告手当を支払わない限りは基本的に違法な対応なので注意しましょう。
他方で、解雇予告手当を必要日数分支払い、即日退職してもらうという手も考えられます。
解雇予告の実施後は、問題社員の業務意欲低下や情報漏えいのリスクなどがあるため、場合によっては手当の支払いも検討したほうがよいでしょう。
問題社員の解雇を行う際には、いくつか注意すべきことがあります。
一つは、解雇制限期間においては、仮に労働者の責めに帰すべき事由があった場合でも、原則解雇は行えません。
解雇制限期間は以下の通り。
ただし、解雇制限期間であっても、「打切補償を支払う」もしくは「天災事変その他やむを得ない事由のために事業継続が不可能」のいずれかに該当する場合は解雇が可能です。
二つ目は、問題社員への対応だろうと、他の社員と同様に手順通り解雇手続きを行うことです。
恣意的な運用をすれば、のちに訴えられるリスクはが高まりますし、他の社員に対しても、会社運営がまともにできない印象を与えてしまうでしょう。
厳格な規制があるなかで解雇を行うのであれば、適切な手順での対応が不当解雇のリスクを最小限に抑えるうえで重要です。
この項目では、問題社員の処分を行う際、不当解雇とならないための具体的手順を解説します。
問題社員の解雇を行うにあたって、まずすべきは現状の把握です。
どのようなタイプの問題社員がいて、どういった影響が会社に起きているのか把握しなければなりません。
問題社員のタイプの一例は以下のとおりです。
【問題社員のタイプ】
社員にどのような問題があるのかはケースごとに異なりますが、解雇したい社員がどういったタイプなのかを見定めることは、対処方法を考えるうえで参考になるでしょう。
社内の現状、問題社員のタイプが把握できたら、次は対処方法の検討です。
就業規則と照らし合わせながら、問題社員のタイプに即した対応を決めていく必要があります。
あくまでも、この段階での目標は問題社員に対して改善を促すことです。解雇ありきで対応を進めないよう注意しましょう。
勤怠不良タイプであれば、勤怠状況のデータをまとめるとともに、会社の管理体制に落ち度がないことを確認しましょう。
勤怠管理に落ち度があれば、問題社員だけでなく会社にも非があるといえます。
対応にあたっては、遅刻や欠勤などは労務提供義務違反に該当し、軽微であろうと繰り返し起こる場合は懲戒処分も免れないと、きちんと注意指導を行いましょう。
それでも改善が見られない場合は、軽い懲戒処分から段階的に対応を進めてください。
「社交的でない」、「協調性がない」というのは極めて評価的な概念です。
まず、問題があると思われる社員に、具体的にどのような言動があったのか、他の社員からヒアリングをするなどして確認・記録しておきましょう。
確認後、やはり問題ありとされる社員への対処法は、基本的には注意・指導を行い改善を促すことです。
性格的なものは注意や指導で直るものではないため、無意味と感じる人もいるかもしれません。
しかし、注意・指導をしていた事実の有無により、不当解雇となるかどうかの判断が分かれる可能性があるため、必要不可欠だといえます。
指導以外の対応としては、社員の配置換えも有効です。
なお配置転換については、就業規則等に記載があれば、必ずしも対象者の同意は必要ありませんが、事情の説明はすべきでしょう。
能力不足タイプの問題社員については、まず業務に必要な能力を身につけるための指導や研修を行いましょう。
改善が見られない場合は、本人に向いていない業務の可能性があるため、配置換えを検討すべきです。
なお問題社員を業務に必要なスキルや経験を持っている前提で採用していた場合、指導や研修を経ず、経歴詐称を理由に解雇できる可能性があります。
問題社員が在籍する限りは、他の社員への影響は避けられません。
問題社員への対応に手を取られているうちに、他の社員が退職してしまうのが一番最悪なシナリオです。
また問題社員への対応にあたり、他の社員の力が必要なこともあります。
必要な人材に残ってもらうためにも、他の社員との間に1on1を設定するなど、フォローもしっかりと行っておきましょう。
検討していた内容をもとに処分を行い、問題社員の経過を観察していきましょう。
改善が見られるようであれば、解雇する理由はないでしょう。
今後同様の問題が起きたとき、または、起こさないために、今回の対応で得られた効果を組織づくりに反映させてもよいかもしれません。
万が一改善が見られない場合は、②のときと同じように更なる処分の検討を行いましょう。
再三注意・指導を行い、解雇よりも軽微な懲戒処分をしても、改善が見られないという状況になってはじめて解雇が現実の選択肢に入ってきます。
ただ、いきなり解雇となると、問題社員が被る不利益も少なくないことから、根強い抵抗に遭うかもしれません。
そのため、まずは退職勧奨を行い、合意退職の形で解決できないか話し合うことをおすすめします。
残念ながら合意が得られない場合は、粛々と解雇の手続きを進めていくことになるでしょう。
問題社員の解雇は、最終的に裁判まで発展するケースも少なくありません。
裁判では解雇が有効と認められたケースもあれば、不当解雇で無効と判断されたケースもあります。
そうした事例は自社で解雇を行う際に大いに参考となるので、有効・無効のケースをそれぞれ確認していきましょう。
旅行業等を営む会社の社員である原告が出向先で計23万8,400円の出張旅費を不正受給したことを理由に懲戒解雇されたことの有効性が争われた。原告が行った不正受給は、被告である出向元会社の就業規則上の懲戒事由に当たり、加えて、原告の出向先での営業所長という地位や、不正受給を繰り返していた点、原告が主張する出張旅費を交際費に流用する必要性が高くないことなどを考慮した結果、当該懲戒解雇は有効とされ、原告の解雇無効確認等請求は退けられました。
裁判年月日 平成17年 2月 9日 裁判所名 札幌地裁 裁判区分 判決
事件番号 平15(ワ)2540号
事件名 解雇無効確認等請求事件 〔ジェイティービー事件〕
裁判結果 棄却 文献番号 2005WLJPCA02096002
健康保険組合である被告の原告社員に対する能力不足を理由とした解雇有効性が争われた事件の控訴審。第一審では、能力不足によって原告の執務に支障が生じていること自体は否定できないとしても、その支障が雇用関係の維持が相当でないとは直ちに認め難いとして、原告に対する解雇を無効とした。控訴審では判断が一転。被告は原告に対して再三の指導や配置換え等で雇用継続の努力を尽くしたものとみることができ、加えて15名ほどの職員しかいない小規模事業所であることなどを考慮すると、原告社員の雇用継続が困難な状況に至っていたといわざるを得ず,解雇は客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であると認められるとし、有効であるとの判決を下した。
裁判年月日 平成27年 4月16日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ネ)2976号 ・ 平26(ネ)6389号
事件名 地位確認等請求控訴事件、同附帯控訴事件 〔海空運健康保険組合事件〕
裁判結果 認容(原判決取消し)、附帯控訴棄却 上訴等 上告受理申立(上告不受理) 文献番号 2015WLJPCA04166001
オートバイの販売等を業とする会社に従事する原告社員が通勤経路の変更により安価な運賃で通勤するようになったにもかかわらず、会社に届け出をせず通勤手当を不正受給したことを理由とする懲戒解雇の有効性が争われた。原告の行為は就業規則の懲戒事由に該当するものであり、対応に不誠実な点はあるものの、不正受給の動機や金額等の事情を鑑みると懲戒解雇は重すぎるとして、解雇無効の判決が下された。
裁判年月日 平成18年 2月 7日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)1031号
事件名 地位確認等請求事件 〔光輪モータース事件〕
裁判結果 一部認容、一部棄却 文献番号 2006WLJPCA02076003
原告の営業職社員に対する勤務成績不良や職場規律違反等を理由とする解雇の有効性等が争われた事例。解雇事由に該当するほどの成績不良や服務規律違反があったとはいえないとして、当該解雇は無効との判決が下された。
裁判年月日 平成15年 2月 5日 裁判所名 名古屋地裁 裁判区分 決定
事件番号 平14(ヨ)469号
事件名 日本オリーブ解雇事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2003WLJPCA02059001
法律を理解しないまま解雇を行えば不当解雇となるリスクがある一方で、問題社員が居続ければ損失ばかりが出ていきます。理不尽な状況を我慢し続けなければいけないのかと、不安になる会社もあるでしょう。
不必要なリスクを負うことなく、解雇手続きを行いたいのであれば、弁護士の力を借りるのがおすすめです。
この記事では、問題社員の解雇に関して弁護士に相談すべき理由を解説します。
解雇が正当となりうるかどうかの判断は、法律の専門家である弁護士でも難しいものです。
となれば、一般の方が判断するのはなおのこと難しいといえます。
他方で、明らかに問題がある対応か否かについては、弁護士であれば容易に判断できるでしょう。
そのため。不当解雇のリスクを避けたいのであれば、弁護士に相談することをおすすめします。
社員に対して解雇の対応が今回限りになるとは限りません。
今後また対応に迫られる可能性を考えると、この機会に人事制度や就業規則等を見直し、適切な解雇手続きのフローを定めておくべきといえます。
弁護士に相談していれば、会社の将来を見据えた対策を取ることが可能です。
場合によっては、問題社員の解雇が裁判までもつれることもあります。
その場合、訴訟対応まで合わせて任せられるのも、解雇で弁護士に相談するメリットです。
日本では解雇規制が厳しく、問題社員相手であろうと、解雇以外に取れる対応がないくらいの状況でないと基本的には認められません。
あくまでも最終手段の位置付けです。
なので、問題社員に対していくら不満があったとしても、まずは注意や指導などの対応から始めましょう。
そうした対応を繰り返しても、問題社員に改善が見られないという状況になってはじめて、解雇の選択肢が現実味を帯びてきます。
ただ慎重な対応をするがあまりに、他の社員が辞めはじめては元も子もありません。適切かつ素早く対処するためにも、解雇を行う際は弁護士に相談したほうがよいでしょう。
弁護士が持つ知識や経験は社内の人事制度や規則の見直しにも役立つはずです。
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