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従業員に就業規則に違反する重大な不祥事や非行があった場合、従業員を諭して退職を促す「諭旨解雇」がおこなわれることがあります。会社が従業員を諭旨解雇する際には、従業員とのトラブルを避けるため、法律上の要件を踏まえて対応することが大切です。
この記事では、会社が従業員を諭旨解雇するための要件・手続きや、会社側の注意点などについて解説します。
諭旨解雇(ゆしかいこ)とは、従業員に対して事実上退職を強いることになる、懲戒処分の中でも重い処分です。諭旨解雇をおこなう際には、会社は従業員に、不祥事など処分の理由を告げて退職を促します。
諭旨解雇は、従業員の「任意」という形式をとっているものの、実質的な解雇処分であり、従業員が退職を拒否することは事実上できません。ただし後述するように、諭旨解雇は、退職条件の面で懲戒解雇よりも優遇されることがあります。
一般的な懲戒処分の段階は、重い順に以下のとおりとされています。
諭旨解雇は2番目に重い懲戒処分であり、懲戒解雇に準じて、きわめて重大な非違行為の存在が必要となります。
諭旨解雇処分が行われた報道事例をいくつかご紹介します。
※あくまでも報道内容をご紹介するものであり、実際の事実関係について調査は行っておらず、諭旨解雇処分の当否について意見を述べるものでもありません。
規制薬物の使用や教唆によって、逮捕・罰金の略式命令を受けた大学職員が、就業規則に抵触したとして諭旨解雇処分となった。
参考:東大新聞オンライン
ゼネコン会社の従業員が、本来より高い原価計上や架空発注などにより、総額約9億円もの不正会計をおこなっていたとして諭旨解雇処分となった。
参考:YAHOO!ニュース
学生にセクハラ行為をしたとして、大学教授が諭旨解雇処分となった。
参考:神戸大学
大学教授が、学生の人格や尊厳を傷つけるパワハラ発言を繰り返したとして、諭旨解雇処分となった。
参考:読売新聞オンライン
大学教授が、教え子の院生の論文下書きを、別の大学の教え子に依頼したとして諭旨解雇処分となった。
参考:東大新聞オンライン
会社の備品である工具やバッテリーを盗んで、インターネット上で転売していた従業員が諭旨解雇処分となった。
参考:読売新聞オンライン
障がい者施設の看護師7人らが、入所者を虐待していたとして、2人が懲戒解雇処分、2人が諭旨解雇処分、3人が減給・降格処分となった。
参考:中国新聞デジタル
過去数年間に、300回以上・計70万円以上にわたって会社に不正な交通費請求をしていた従業員が諭旨解雇処分となった。
参考:時事ドットコムニュース
免許失効中にもかかわらず、出勤用の自家用車・公用車を無免許で運転していたとして、従業員が諭旨解雇処分となった。
参考:産経新聞
飲酒後に運転をして追突事故を起こし、相手のドライバーにケガを負わせた従業員が、諭旨解雇処分となった。
参考:読売新聞オンライン
諭旨解雇と懲戒解雇には、不祥事等の悪質性の程度や、退職金などの退職条件について違いがあります。
ただし前述のとおり、諭旨解雇は事実上従業員に退職を強いる懲戒処分であり、懲戒解雇にかなり近い性質をもちます。そのため、法律上のハードルはほぼ同等である点に注意が必要です。
懲戒解雇も諭旨解雇も、従業員の重大な就業規則違反や不祥事・非行などがあった場合に、その従業員に解雇を強いる処分です。
ただし諭旨解雇は、
などを踏まえて、懲戒解雇ほどの悪質性は認められないケースについておこなわれることが多いです。
諭旨解雇と懲戒解雇はどちらも「解雇」ですが、諭旨解雇は従業員の「任意」という形式をとっている分、懲戒解雇よりは妥協・和解的な側面があります。そのため、懲戒解雇では一切支給されない退職金が一部または満額支給されるなど、退職条件の面で優遇されていることが多いです。
諭旨解雇は「解雇」に該当するので、法律上は「懲戒解雇」と同じ規制を受けます。
具体的には、客観的に見て合理的な理由があるか、社会通念上相当であるか、という基準で正当性が判断されます(労働契約法16条)。
諭旨解雇と同様に、「従業員に退職を促す」使用者の行為として、「退職勧奨」があります。しかし、諭旨解雇が事実上退職を強制するものであるのに対して、退職勧奨は退職の判断を従業員に委ねる点で大きく異なります。
諭旨解雇が事実上の強制解雇処分であるのは、後に懲戒解雇が予定されていることが多いからです。従業員が諭旨解雇を拒否した場合、改めて懲戒解雇処分となり、強制的に退職させられるのが一般的です。
そのため従業員としては、諭旨解雇を受け入れても受け入れなくても結局解雇されるならば、より条件が良い諭旨解雇を受け入れるケースが多いと考えられます。
これに対して退職勧奨は、懲戒処分ではなく、あくまでも会社都合によって従業員に退職を「お願いする」行為です。仮に従業員に非違行為が全くなかったとしても、人員整理・経費節減などを理由として、退職勧奨がおこなわれることがあります。
退職勧奨を受け入れるかどうかは、完全に従業員の任意です。したがって、従業員が退職勧奨を拒否しても、原則としてペナルティはありません。
ただし、解雇による紛争を予防するために退職勧奨を試み、従業員に拒否されたら解雇処分へ移行するケースもあります。要するに会社は解雇事由や懲戒事由が存在すると判断しているものの、「労働審判」や訴訟に発展するとコストがかかるので、退職勧奨により合意退職を成立させたい思惑が働いているということです。
会社側としては、退職勧奨を拒否された場合に解雇処分を予定しているときは、解雇に客観的に合理的理由があるか、それが社会通念上相当な処分かを慎重に検討する必要があります。
退職勧奨を従業員に受け入れてもらうためには、従業員側にもメリットを提示する必要があります。よくあるのは退職金の増額で、退職金規程に従って計算された金額よりも、給与の数か月分程度が上乗せされることが多いです。
従業員が退職勧奨に応じて合意退職が成立する場合、退職時に会社と従業員の間で誓約書を締結し、従業員は退職に関して追加の請求等をしない旨を誓約します。会社としては、従業員が不当解雇を主張して労働審判や訴訟を申し立てることを防ぐために、いわば「口止め料」のような形で退職金を増額するという側面もあります。
諭旨解雇はきわめて重い懲戒処分であるため、法律上、以下の厳しい要件が設けられています。
使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において、「懲戒の種別」および「事由」を定めておくことが必要です(最高裁平成15年10月10日判決)。
懲戒の「種別」とは、懲戒処分の種類を指します。会社が諭旨解雇をする場合は、諭旨解雇をおこなうことがある旨を、就業規則に定めておかなければなりません。
また、具体的にどのような場合に懲戒処分をおこなうのか、その要件(懲戒事由)を就業規則に定めておく必要があります。なお、懲戒解雇・諭旨解雇は非常に重い懲戒処分なので、通常の懲戒処分とは別に懲戒事由を定めておくべきでしょう。
最高裁平成15年10月10日判決では、「就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する」と判示されています。また労働基準法上も、就業規則を従業員に周知することは使用者側の義務としています(労働基準法106条1項)。
したがって使用者側としては、諭旨解雇を行う前提として、懲戒の種別・事由を明記した就業規則を確実に労働者に周知しなければなりません。
労働契約法15条および16条では、使用者による懲戒および解雇について、以下のとおり定めています。
(懲戒)
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
上記の規定により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない諭旨解雇は違法・無効となります。特に解雇の違法性の判断基準は、使用者側にきわめて厳しい条件が設定されているので、諭旨解雇の妥当性・合理性を慎重に検討することが求められます。
使用者が労働者を諭旨解雇する場合、想定される主な手続きの流れは以下のとおりです。
前述の「懲戒権の濫用」および「解雇権の濫用」に関する規定により、誤認された事実をもとにおこなわれた諭旨解雇処分は無効です。
事実誤認によるトラブルを防ぐためにも、処分対象者が本当に諭旨解雇に相当する懲戒事由が存在するかどうか、事前に十分な調査をおこなうことが重要です。
諭旨解雇を行う際の手続きの適正を確保するために、従業員の言い分を聞くプロセスも大切になります。「解雇権濫用の法理」との関係で、弁明の機会が十分付与されていたかどうかは、適法・違法の判断の重要な考慮要素となるためです。
人事担当者と一対一など、労働者が自由に弁明できるような状況を確保して面談を行い、面談記録を作成・保存しておきましょう。
上記の手続きを経た後、会社側の調査結果・従業員の言い分その他一切の事情を総合的に考慮して、諭旨解雇処分が適切であるかどうか改めて精査して最終的な判断を行います。最終決定にあたっては、諭旨解雇処分が重すぎないか、事実誤認がないかなどを今一度精査しましょう。
諭旨解雇をおこなう際の手続きの適正を確保するために、従業員の言い分を聞くプロセスも大切です。弁明の機会が十分付与されていたかどうかは、適法・違法の判断の重要な考慮要素となるからです。
人事担当者と一対一など、労働者が自由に弁明できるような状況を確保して面談をおこない、面談記録を作成・保存しておきましょう。
諭旨解雇を従業員が受け入れれば退職届が提出されます。その後、予定された退職日をもって、従業員は退職します。
従業員が諭旨解雇を拒否した場合、使用者は改めて機関決定をおこない、従業員を懲戒解雇するのが一般的です。そのため使用者は、諭旨解雇をおこなう段階で、懲戒解雇に相当する非違行為が存在するかどうかを検討・判断しておくべきでしょう。
諭旨解雇を適法におこなうためには、会社側は以下の各点に留意する必要があります。
いきなり重い懲戒処分である諭旨解雇をおこなってしまうと、労働者にとって不意打ちであると評価されるおそれがあります。
たとえば戒告→けん責→減給→出勤停止→降格というように、段階的に懲戒処分の程度を引き上げていく方が、従業員に改善の機会が与えられているため、合理的な懲戒処分であるといえるでしょう。
諭旨解雇が適法であると判断されるためには、従業員に対して改善の機会が与えられていたかが重要な考慮要素となります。
そのため上司や人事部などが主導して、従業員に対して改善指導をおこない、それでも改善しなかったから諭旨解雇をしたと説明できるようにしておくことが大切です。改善指導のプロセスは、メールや文書などで証拠として残しておくとよいでしょう。
諭旨解雇が適正な手続きに則って決定・実行されたかどうかも、諭旨解雇の適法性を判断するに当たって重要なポイントです。
たとえば労働者の弁明の機会を十分に設ける・懲戒処分に関する社内規程に従い適切な機関で決定するなど、諭旨解雇の決定プロセスが合理的であるときちんと説明できるようにしておきましょう。
次の項目で解説するように、諭旨解雇に対して従業員が反論をしてくる可能性も十分考えられます。そのため、会社が従業員を諭旨解雇する場合には、事前に弁護士に相談をして法的な理論武装を行うことをお勧めいたします。
諭旨解雇は、従業員にとってきわめて大きな不利益を課す懲戒処分なので、従業員側が何らかの反論をしてくることも考えられます。会社としては、諭旨解雇の適法性に関する検討や従業員の主張内容などを踏まえて、状況に合わせて適切に対応することが大切です。
従業員が諭旨解雇の違法性を争う構えを見せつつ、労働審判や訴訟などの法的手続きをとらないことの交換条件として、退職金の満額支給や上乗せなどを提案してくることがあります。
会社側にとっては、このような従業員側の要求に応じることで、その後の紛争を回避できるメリットがあることは事実です。そのため会社側としては、従業員側の態度や法的手続きに発展した場合のコストなどを考慮して、従業員側の提案を受け入れるかどうかを判断することになるでしょう。
従業員が諭旨解雇の違法・無効を前提として、復職を要求してくる場合もある。この場合、労働審判や訴訟を通じた激しい対立に発展することが多いので、弁護士を代理人として対応することをお勧めいたします。
従業員が復職は希望しないものの、違法な不当解雇によって経済的・精神的損害を受けたとして、会社に対して損害賠償を請求してくるケースもあります。この場合、復職を主張されるケースよりは会社としての負担は軽くなりますが、いずれにしても法的手続きを通じての争いになる可能性が高いといえます。
よって、従業員から不当解雇を理由とした損害賠償請求を受けた場合にも、弁護士に相談しながら対応することをお勧めいたします。
最後に、従業員目線で気になる諭旨解雇に関する以下の疑問点について、回答をまとめました。
諭旨解雇は、退職届を出す「任意」退職の形をとっているため、退職金が出ることが多いです。
諭旨解雇処分は、これまでの本人の会社への貢献度・反省度・情状酌量の余地などをふまえて、懲戒解雇よりも本人の利益に配慮した形の懲戒処分です。
そのため、退職金については一部または満額支給となる場合が多いです。
ただし、退職金が支給されるかどうかは、就業規則や退職金規程などの定めによるため、該当する社内規程をご確認ください。
転職活動の際の履歴書に、前職の退職理由を詳しく書く必要はありません。
そのため諭旨解雇でも懲戒解雇でも自主退職でも、履歴書の退職理由は「一身上の都合」などと書けばOKです。
しかし、
などの犯罪によって刑罰を受けた場合には、履歴書の「賞罰」欄に記載が必要です。
懲戒解雇と諭旨解雇は、従業員の重大な契約違反や不祥事によって、事実上の「クビ」となる処分です。
違反行為の悪質性の程度などによって、懲戒解雇と諭旨解雇のどちらが選択されるかが異なります。
■懲戒解雇の事例 → 極めて悪質で、情状酌量の余地がない
詐欺容疑で逮捕された従業員が、その事実を会社に報告しないまま1ヶ月勤務し続けていた。警察からの連絡で、逮捕の事実が発覚。逮捕歴と、その事実の報告がなかったことによって、従業員は即時懲戒解雇となった。
■諭旨解雇の事例 → 悪質だが、情状酌量の余地がある
従業員が詐欺容疑で逮捕された。会社としては就業規則にのっとり、解雇せざるを得ない。本人は反省しており、これまでの勤務態度も良好だったため、諭旨解雇として退職金の一部を支払った。
退職勧奨は、あくまでも従業員に対して任意の退職を促すものです。従業員に懲戒処分相当の行為は認められないものの、能力不足や経営不振などのため退職してもらいたい場合に、退職勧奨がおこなわれることがあります。
懲戒解雇や諭旨解雇とは異なり、退職勧奨を受け入れるかどうかは、従業員の自由です。
諭旨解雇(ゆしかいこ)は、懲戒解雇に次ぐ2番目に重い懲戒処分であり、その適法性・有効性は法的に厳しく審査されます。
使用者が労働者を諭旨解雇する場合には、処分が重すぎないか、適正な手続きによって処分が決定されているかを精査しなければなりません。また、諭旨解雇は労使間の紛争に発展する可能性が高いため、検討段階から弁護士に相談することをお勧めいたします。
弁護士に相談すれば、労働者の非違行為の内容や過去事例などに照らして、諭旨解雇処分の相当性や必要な手続きにつきアドバイスを受けられるでしょう。従業員の諭旨解雇を検討中の企業担当者の方は、お早めに弁護士までご相談ください。
弁護士への相談で残業代請求などの解決が望めます
労働問題に関する専門知識を持つ弁護士に相談することで、以下のような問題の解決が望めます。
・未払い残業代を請求したい
・パワハラ問題をなんとかしたい
・給料未払い問題を解決したい
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