労災で後遺障害が残ってしまった場合、障害(補償)給付申請(労災の申請)をすることで、補償として労災保険から給付金を受けることが可能です。
第七条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
一 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
二 複数事業労働者(これに類する者として厚生労働省令で定めるものを含む。以下同じ。)の二以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡(以下「複数業務要因災害」という。)に関する保険給付(前号に掲げるものを除く。以下同じ。)
三 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
四 二次健康診断等給付
引用:労働者災害補償保険法
後遺障害とは、治療を受けても症状について改善の見込みがなく固定された状態(一定の後遺症が残っており、それ以上の回復は期待できない状態)のことを指します。
症状が固定されている状態のことを「治癒した」と言うこともあります。このように一般的な「治癒」という言葉の意味とは使われ方が異なる場合もありますので注意しましょう。
また、労災からの障害(補償)給付を受ける前提として、労働基準監督署長による後遺障害の障害等級認定が必要になります。たとえ症状があったとしても、障害等級認定を受けられなければ労災からの給付を受けることは出来ません。
第十四条 障害補償給付を支給すべき身体障害の障害等級は、別表第一に定めるところによる。
引用:労働者災害補償保険法施行規則
では、残っている症状がどの程度のものならば、後遺障害として認定されるのでしょうか。
指先に少々の痺れが残っている場合や、常時酷い頭痛がしている場合、足が欠損している場合など、人によって症状の程度や種類は異なります。
一定の後遺症があり、後遺障害認定を受けたいという方でも、実際に後遺障害として認定される可能性のある範囲を深く理解している方は少ないのではないでしょうか。
こちらの記事では、後遺障害の認定の範囲、後遺障害が認定された場合の補償の内容、後遺障害として認定されるための要点をわかりやすくご紹介します。
労働災害による後遺障害認定を受けたい方へ
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この記事に記載の情報は2023年01月24日時点のものです
後遺障害の認定範囲
後遺障害として認定されるにはどのような基準が設けられているのでしょうか。
こちらの項目では、後遺障害の認定範囲について簡単にご説明します。
障害等級の概要
障害等級とは、後遺障害による労働能力喪失率(労働能力の低下の程度を数値化したもの)に基づき障害の程度に応じて細かく定められた等級のことを言います。
以下は、身体、精神に関する障害等級表になります。
障害等級第1級
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身体障害
- 両眼が失明したもの
- そしゃく及び言語の機能を廃したもの(流動食以外は摂取できない状態及び4種の語音(口唇音、歯舌音、口蓋音、喉頭音)のうち、3種以上の発音不能がある状態。言語では意思の疎通ができない状態)
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの(呼吸器など)
- 両上肢をひじ関節以上で失ったもの
- 両上肢の用を全廃したもの(完全麻痺など。物を持ち上げて移動させることが出来ない状態)
- 両下肢をひざ関節以上で失ったもの
- 両下肢の用を全廃したもの(完全麻痺など。歩行や立位が不可能な状態)
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神経機能及び精神障害
- 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの(高次機能障害、身体性機能障害、せき髄障害)
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※高次脳機能障害とは認知、行為、記憶、思考、判断、言語、注意などが障害によって阻害された状態のこと。全般的な障害として意識障害や痴呆も含みます。
障害等級第2級
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身体障害
- 一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇二以下になったもの
- 両眼の視力が〇・〇二以下になったもの
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
- 両上肢を手関節以上で失ったもの
- 両下肢を足関節以上で失ったもの
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神経機能及び精神障害
- 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの(高次機能障害、身体性機能障害、せき髄障害)
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※随時介護を要するとは、必ずしも他人の介助を必要としている訳ではないが、日常生活を送ることが困難であり、労働によって収入を得ることが出来ない状態のこと。
障害等級第3級
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身体障害
- 一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇六以下になったもの
- そしゃく又は言語の機能を廃したもの
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
- 両手の手指の全部を失ったもの
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神経機能及び精神障害
- 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
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※終身労務に服することが出来ないとは、障害によって労働することに極めて高い制限を受けている、または労働に極めて高い制限を加えられており、働くことが出来ない状態のこと。
障害等級第4級
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身体障害
- 両眼の視力が〇・〇六以下になったもの
- そしゃく及び言語の機能に著しい障害を残すもの(粥食またはこれに準ずる程度の飲食物以外は摂取出来ない状態であり、4種の語音のうち、2種以上の発音不能がある状態。言語のみでは意思を疎通することはできない)
- 両耳の聴力を全く失ったもの
- 一上肢をひじ関節以上で失ったもの
- 一下肢をひざ関節以上で失ったもの
- 両手の手指の全部の用を廃したもの(手指に著しい運動障害が残っている。深部感覚及び表在感覚が完全に失われた状態などを指す)
- 両足をリスフラン関節以上で失ったもの(リスフランとは、足の甲のアーチの頂上に当たる場所)
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神経機能及び精神障害
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障害等級第5級
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身体障害
- 一眼が失明し、他眼の視力が〇・一以下になったもの
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 一上肢を手関節以上で失ったもの
- 一下肢を足関節以上で失ったもの
- 一上肢の用を全廃したもの
- 一下肢の用を全廃したもの
- 両足の足指の全部を失ったもの
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神経機能及び精神障害
- 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの(問題解決能力において著しく困難が大きい状態)
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※用を全廃したとは、対象部位が完全に動かなくなったか、あるいはそれに近いような状態にあることを指します。
障害等級第6級
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身体障害
- 両眼の視力が〇・一以下になったもの
- そしゃく又は言語の機能に著しい障害を残すもの
- 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
- 一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
- 一上肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの
- せき柱に著しい変形又は運動障害を残すもの
- 一下肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの(関節の硬直や麻痺など)
- 一手の五の手指又は母指を含み四の手指を失ったもの
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神経機能及び精神障害
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障害等級第7級
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身体障害
- 一眼が失明し、他眼の視力が〇・六以下になったもの
- 両耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
- 一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
- 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 一手の母指を含み三の手指又は母指以外の四の手指を失ったもの
- 一手の五の手指又は母指を含み四の手指の用を廃したもの
- 一足をリスフラン関節(足の甲のアーチの頂上に当たる場所)以上で失ったもの
- 上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
- 一下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
- 両足の足指の全部の用を廃したもの
- 外貌に著しい醜状を残すもの
- 両側のこう丸を失ったもの
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神経機能及び精神障害
- 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの(問題解決能力においてかなりの困難があるが他人からの大きな援助があれば達成できる程度。目安として、平均人の1/2程度の労働能力)
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障害等級第8級
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身体障害
- 一眼が失明し、又は一眼の視力が〇・〇二以下になったもの
- せき柱に運動障害を残すもの
- 一手の母指を含み二の手指又は母指以外の三の手指を失ったもの
- 一手の母指を含み三の手指又は母指以外の四の手指の用を廃したもの
- 一下肢を五センチメートル以上短縮したもの
- 一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの
- 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの
- 一上肢に偽関節を残すもの
- 一下肢に偽関節を残すもの
- 一足の足指の全部を失ったもの
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神経機能及び精神障害
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障害等級第9級
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身体障害
- 両眼の視力が〇・六以下になったもの
- 一眼の視力が〇・〇六以下になったもの
- 両眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの
- 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
- 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの
- そしゃく及び言語の機能に障害を残すもの
- 両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
- 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
- 一耳の聴力を全く失ったもの
- 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
- 一手の母指又は母指以外の二の手指を失ったもの
- 一手の母指を含み二の手指又は母指以外の三の手指の用を廃したもの
- 一足の第一の足指を含み二以上の足指を失ったもの
- 一足の足指の全部の用を廃したもの
- 外貌に相当程度の醜状を残すもの
- 生殖器に著しい障害を残すもの
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神経機能及び精神障害
- 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの(問題解決能力において、困難はあるが多少の援助があれば達成することができる程度)
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障害等級第10級
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身体障害
- 一眼の視力が〇・一以下になったもの
- 正面視で複視を残すもの
- そしゃく又は言語の機能に障害を残すもの
- 14歯以上に対し歯科補てつ(入れ歯)を加えたもの
- 両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
- 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
- 一手の母指又は母指以外の二の手指の用を廃したもの
- 一下肢を三センチメートル以上短縮したもの
- 一足の第一の足指又は他の四の足指を失ったもの
- 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
- 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
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神経機能及び精神障害
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障害等級第11級
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身体障害
- 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
- 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
- 一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
- 十歯以上に対し歯科補てつ(入れ歯)を加えたもの
- 両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
- 一耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
- せき柱に変形を残すもの
- 一手の示指、中指又は環指を失ったもの
- 一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの
- 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの
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神経機能及び精神障害
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障害等級第12級
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身体障害
- 一眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
- 一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
- 七歯以上に対し歯科補てつ(入れ歯)を加えたもの
- 一耳の耳かくの大部分を欠損したもの
- 鎖骨、胸骨、ろく骨、肩こう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの
- 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの
- 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの
- 長管骨に変形を残すもの(手足を構成する細長い形状の骨の全般の総称)
- 一手の小指を失ったもの
- 一手の示指、中指又は環指の用を廃したもの
- 一足の第二の足指を失ったもの、第二の足指を含み二の足指を失ったもの又は第三の足指以下の三の足指を失ったもの
- 一足の第一の足指又は他の四の足指の用を廃したもの
- 局部にがん固な神経症状を残すもの
- 外貌に醜状を残すもの
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神経機能及び精神障害
- 抑うつなどの精神症状があり、能力に関する判断項目において時に援助が必要だが概ね達成できる
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障害等級第13級
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身体障害
- 一眼の視力が〇・六以下になったもの(片方の眼の視力が0.6以下になったことを指し、ここでいう視力とは眼鏡による矯正視力のこと)
- 一眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの(視野に欠損や暗点が見られる場合)
- 正面視以外で複視を残すもの(正面以外を見たときに物が二重に見える)
- 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
- 5歯以上に対し歯科補てつ(入れ歯)を加えたもの
- 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの(胆のうを失った場合。ひぞうを失った場合など)
- 一手の小指の用を廃したもの(片方の小指において、指先(末節骨)の1/2以上を失ったもの。指節間関節に著しい運動障害が残った場合)
- 一手の母指の指骨の一部を失ったもの(片方の手の親指の一部を失った場合)
- 一下肢を一センチメートル以上短縮したもの
- 一足の第三の足指以下の一又は二の足指を失ったもの(中足指節関節以上を失った場合)
- 一足の第二の足指の用を廃したもの、第二の足指を含み二の足指の用を廃したもの又は第三の足指以下の三の足指の用を廃したもの
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神経機能及び精神障害
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障害等級第14級
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身体障害
- 一眼のまぶたの一部に欠損を残し、又はまつげはげを残すもの
- 三歯以上に対し歯科補てつ(入れ歯)を加えたもの
- 一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
- 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
- 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
- 一手の母指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
- 一手の母指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
- 一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの
- 局部に神経症状を残すもの
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神経機能及び精神障害
- 抑うつなどの精神症状があり、能力に関する判断項目において適切あるいは概ね達成できる
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参考:障害等級表|厚生労働省
:精神障害等級
ちなみに、労災保険で定められている障害等級と厚生年金、国民年金で定められている障害等級は全くの別物となります。
日本年金機構によると、厚生年金、国民年金の障害等級2級が労災保険の障害等級の第5級〜第7級に相応しているようです。
後遺障害認定の基準
冒頭リンクでも述べた通り、後遺障害として障害給付の対象であるか否かの判断は労働基準監督署長が行うことになっています。
認定においては、担当の医師が作成した診断書(医学証明書)の内容に基づいて障害等級が決定されます。
労災における後遺障害の認定は、障害等級表リンクで定められた基準に則って審査が行われます。つまり、原則として、障害等級表で定められている基準通りの認定が行われるということです。
(障害補償)
第七十七条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、治つた場合において、その身体に障害が存するときは、使用者は、その障害の程度に応じて、平均賃金に別表第二に定める日数を乗じて得た金額の障害補償を行わなければならない。
引用:労働基準法
なお、障害等級第7級以上に該当して年金の給付を受けている場合には、定期報告書(労災の受給要件を確認するために提出を求められる書類のこと)を毎年提出することが定められています。
定期報告書の提出がなければ、労災の支給が差し止められることになります。
定期報告書の提出日は被災した労働者の生年月日によって定められており、具体的には以下のようになっています。
- 1月〜6月生まれの場合、5月末までに提出
- 7月〜12月生まれの場合、10月末までに提出
定期報告書において、障害の程度が悪化あるいは軽快したと判断された場合には、該当する障害等級が変更される可能性もあります。
労働基準監督署に後遺障害認定の申請を行い、後遺障害等級の認定を受けた場合には、障害補償給付(原因となった事故が通勤災害の場合には障害給付)の支給がなされます。
第二十二条の三 障害給付は、労働者が通勤により負傷し、又は疾病にかかり、なおつたとき身体に障害が存する場合に、当該労働者に対し、その請求に基づいて行なう。
○2 障害給付は、第十五条第一項の厚生労働省令で定める障害等級に応じ、障害年金又は障害一時金とする。
○3 第十五条第二項及び第十五条の二並びに別表第一(障害補償年金に係る部分に限る。)及び別表第二(障害補償一時金に係る部分に限る。)の規定は、障害給付について準用する。この場合において、これらの規定中「障害補償年金」とあるのは「障害年金」と、「障害補償一時金」とあるのは「障害一時金」と読み替えるものとする。
引用:労働者災害補償保険法
支給される金額などの内容は、認定された後遺障害の等級によって大きく異なります。
上記の表の通り、労災の後遺障害には第1級から第14級までがあります。第1級が最も重い障害とされていて、第14級は最も低い障害とされています。
これに応じ、障害補償給付の内容は第1級が最も高額となり、第14級は最も低額となります。障害特別支給金も同様に、障害等級の第1級が最も高額となり、第14級が最も低額になります。
労災で持病が悪化してしまった場合
持病や先天性の障害などの既往症のある方が労災事故に遭うと、元々負っていた障害が悪化してしまうことがあります。
このようなケースの場合には、既往症があった分の補償は減額されることになっています。
第四十条
○5 既に身体障害がある者が、負傷又は疾病によつて同一部位について障害の程度を加重した場合には、その加重された障害の該当する障害補償の金額より、既にあつた障害の該当する障害補償の金額を差し引いた金額の障害補償を行わなければならない。
引用:労働基準法施行規則
これは、加重障害の補償は、加重された障害の該当する障害等級の障害補償の額から、既に持っていた障害に該当する障害等級の障害補償の額を差し引いた額であると労働基準法によって定められているためです。
後遺障害が等級7級以上の場合の給付金
障害等級が第1級から第7級の場合には、障害補償給付を年金形式で、障害特別支給金を一時金形式で受け取ることが可能です。
障害等級第1級から第7級で受け取れる給付
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障害(補償)給付金の場合には年金形式
|
障害特別支給金の場合には一時金形式
|
障害(補償)給付|障害等級第1級から第7級
障害等級が第1級から第7級に該当する場合、障害(補償)給付で受け取れる主な補償は以下になります。
該当する障害等級
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労災保険給付の内容
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障害等級第1級
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当該障害の存する期間1年につき給付基礎日額の313日分
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障害等級第2級
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当該障害の存する期間1年につき給付基礎日額の277日分
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障害等級第3級
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当該障害の存する期間1年につき給付基礎日額の245日分
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障害等級第4級
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当該障害の存する期間1年につき給付基礎日額の213日分
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障害等級第5級
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当該障害の存する期間1年につき給付基礎日額の184日分
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障害等級第6級
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当該障害の存する期間1年につき給付基礎日額の156日分
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障害等級第7級
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当該障害の存する期間1年につき給付基礎日額の131日分
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参考:障害(補償)給付
障害給付の例|障害等級第5級の場合
障害(補償)給付の金額を計算する基準となる計算式は以下のようになります。
障害(補償)給付の金額=給付基礎日額×等級ごとに定められた日数
- 給付基礎日額とは、労働基準法の平均賃金に相当する金額のこと
- 平均賃金とは、直前3ヶ月の1日当たりの賃金額のこと
第十二条 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。
参考:労働基準法
例として、毎月の賃金が20万円で賃金の締切日が月末に設定されているとして、9月に労働災害が発生した場合の給付基礎日額は以下のように計算します。
障害(補償)給付の金額=給付基礎日額×等級ごとに定められた日数
20万円×3ヶ月÷92日(8月:31日、7月:31日、6月:30日)≒6,521.73円(6,521円73銭)
ちなみに、給付基礎日額に1円未満の端数が出た場合には、1円に切り上げるため、この場合の給付基礎日額は6,522円となります。よって、労働災害によって5級の後遺障害が残ったと認定された場合には、障害補償給付金として以下の金額が支払われます。
6,522円×184日=1,200,048円
なお、後遺障害が等級の第1級から第7級に該当する場合には、障害補償給付は年金として支給されることになります。つまり、症状の改善が見られず、定期報告書を提出している限り、毎年支給され続けるということです。
参考:給付基礎日額
障害特別支給金|障害等級第1級から第7級
障害特別支給金の支給金額は障害等級によって金額が定められています。受給者に支給される、障害特別支給金の内容は以下になります。
該当する障害等級
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障害特別支給金の内容
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障害等級第1級
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342万円
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障害等級第2級
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320万円
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障害等級第3級
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300万円
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障害等級第4級
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264万円
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障害等級第5級
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225万円
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障害等級第6級
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192万円
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障害等級第7級
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159万円
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また、障害が2つ以上残った場合には障害等級は1つに併合されることになっています。この時、各障害等級の合算額が併合等級の額に満たない場合には、合算額が支給されます。
1つの労災事故によって2つ以上の後遺障害が残った場合には、併合または併合繰り上げが行われる。
併合とは、障害等級第14級とそれ以外の後遺障害が残った場合、身体障害が2つ以上ある場合に重い方の身体障害の等級をとることをいいます。また、障害等級第14級については等級の繰り上げは起こりません。
併合繰り上げとは、障害等級第13級以上の後遺障害が2つ以上残った場合、最も重い等級が1から3級繰り上がることをいいます。以下は、併合繰り上げの決まりになります。
- 障害等級第5級以上の後遺障害が2つ以上残った場合には3級繰り上げ
- 障害等級第8級以上の後遺障害が2つ以上残った場合には2級繰り上げ
- 上記以外の場合には1級繰り上げ
第四十条 障害補償を行うべき身体障害の等級は、別表第二による。
○2 別表第二に掲げる身体障害が二以上ある場合は、重い身体障害の該当する等級による。
○3 次に掲げる場合には、前二項の規定による等級を次の通り繰上げる。但し、その障害補償の金額は、各々の身体障害の該当する等級による障害補償の金額を合算した額を超えてはならない。
一 第十三級以上に該当する身体障害が二以上ある場合 一級
二 第八級以上に該当する身体障害が二以上ある場合 二級
三 第五級以上に該当する身体障害が二以上ある場合 三級
引用:労働基準法施行規則
第十四条
2 別表第一に掲げる身体障害が二以上ある場合には、重い方の身体障害の該当する障害等級による。
引用:労働者災害補償保険法施行規則
例えば、障害等級第8級と障害等級第13級の障害が残っており、併合第7級となった場合の支給金額は以下のようになります。
65万円(第8級)+14万円(第13級)=79万円<159万円(第7級)
よって、合計額の79万円が支給されることになります。
障害特別支給金は障害等級によって支給内容が定められており、労災保険給付の受け取りのみの場合には、労災保険給付と障害特別支給金を満額受け取ることができます。
しかし、自賠責の保険で同様の給付を受けた場合や、厚生年金・国民年金から同様の給付を受けた場合には、障害特別支給金は全額支給されますが、労災保険給付は制限されます(不支給あるいは減額支給)。
障害特別年金|障害等級第1級から第7級
障害等級第1級から第7級までの場合には、障害(補償)給付の他に障害特別支給金、障害特別年金が支給されます。障害特別年金の支給額は、賞与などの特別給与と障害特別支給金の金額を基礎として決定されることになっています。
第四条 障害特別支給金は、業務上の事由又は通勤による負傷又は疾病が治つたとき身体に障害がある労働者に対し、その申請に基づいて支給するものとし、その額は、当該障害の該当する障害等級(労災則第十四条第一項から第四項まで及び労災則別表第一の規定による障害等級をいう。以下同じ。)に応じ、別表第一に規定する額(障害等級が労災則第十四条第三項本文の規定により繰り上げられたものである場合において、各の身体障害の該当する障害等級に応ずる同表に規定する額の合算額が当該繰り上げられた障害等級に応ずる同表に規定する額に満たないときは、当該合算額)とする。
引用:労働者災害補償保険特別支給金支給規則
障害等級
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給付の内容
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障害等級第1級
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算定基礎日額の313日分
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障害等級第2級
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算定基礎日額の277日分
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障害等級第3級
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算定基礎日額の245日分
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障害等級第4級
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算定基礎日額の213日分
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障害等級第5級
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算定基礎日額の184日分
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障害等級第6級
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算定基礎日額の156日分
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障害等級第7級
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算定基礎日額の131日分
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算定基礎日額とは、原則として労災事故が発生した日や診断された日以前の1年間に、労働者が特別給与の総額を365(日)で割った額のことをいいます。
なお、特別給与とは賞与などのことをいい、臨時に支払われた賃金は含まれません。
参考:算定基礎日額について
後遺障害が等級8級以下の場合の給付金
障害等級が第8級から第14級の場合には、障害補償給付と障害特別支給金を一時金形式で受け取ることが可能です。
障害等級第8級から第14級で受け取れる給付(一時金形式)
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障害(補償)給付金
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障害特別支給金
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障害等級の第1級から第7級が年金として支給され続けることに対して、障害等級の第8級から第14級の場合には障害補償給付は一時金となります。つまり、支給されるのは一回きりということになります。
なお、障害等級が第8級以下で一時金給付を受けた場合には、その後に障害の程度が悪化したとしても、原則として障害等級の変更は行われません。
これは、一時金給付を受け取った時点でその障害についての労災保険給付が終結したという取り扱いを受けるためです。
障害(補償)給付|障害等級第8級から第14級
障害等級第8級から第14級に該当した場合には、障害(補償)給付を一時金形式で受け取ることになります。
障害等級が第8級から第14級に該当する場合、障害(補償)給付で受け取れる主な補償は以下になります。
該当する障害等級
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労災保険給付の内容
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障害等級第8級
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給付基礎日額の503日分
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障害等級第9級
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給付基礎日額の391日分
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障害等級第10級
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給付基礎日額の302日分
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障害等級第11級
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給付基礎日額の223日分
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障害等級第12級
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給付基礎日額の156日分
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障害等級第13級
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給付基礎日額の101日分
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障害等級第14級
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給付基礎日額の56日分
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参考:障害(補償)給付
給付基礎日額とは、労働基準法の平均賃金に相当する金額のことをいいます。ここでいう平均賃金とは、原則として、労働事故が発生した日の直前3ヶ月に労働者に支払われた金額の1日当たりの賃金額のことをいいます。
なお、賃金には臨時で支払われた賃金や賞与などは含まれません。
参考:給付基礎日額
障害(補償)給付の例|障害等級第13級の場合
給付金を求める計算式は、障害等級第1級から第7級までの場合と同様になります。障害(補償)給付の金額を計算する基準となる計算式は以下のようになります。
障害(補償)給付の金額=給付基礎日額×等級ごとに定められた日数
例として、月の賃金が20万円で賃金の締切日が月末に設定されているとして、9月に労働災害が発生した場合の給付基礎日額は以下のように計算します。
20万円×3ヶ月÷92日(8月:31日、7月:31日、6月:30日)≒6,521.73円(6,521円73銭)
ちなみに、給付基礎日額に1円未満の端数が出た場合には、1円に切り上げるため、この場合の給付基礎日額は6,522円となります。
よって、労働災害によって13級の後遺障害が残ったと認定された場合には、障害補償給付金として以下の金額が支払われます。
6,522円×101日=658,722円
なお、こちらの計算式は概算となっていますので、あくまで参考としてご覧になってください。
障害特別支給金|障害等級第8級から第14級
障害等級第8級から第14級に該当する場合の障害特別支給金は、以下のように定められています。
該当する障害等級
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障害特別支給金の内容
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障害等級第8級
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65万円
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障害等級第9級
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50万円
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障害等級第10級
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39万円
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障害等級第11級
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29万円
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障害等級第12級
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20万円
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障害等級第13級
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14万円
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障害等級第14級
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8万円
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なお、特別支給金の支給は社会復帰促進等事業として行われています。
第二十九条 政府は、この保険の適用事業に係る労働者及びその遺族について、社会復帰促進等事業として、次の事業を行うことができる。
一 療養に関する施設及びリハビリテーションに関する施設の設置及び運営その他業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害を被つた労働者(次号において「被災労働者」という。)の円滑な社会復帰を促進するために必要な事業
二 被災労働者の療養生活の援護、被災労働者の受ける介護の援護、その遺族の就学の援護、被災労働者及びその遺族が必要とする資金の貸付けによる援護その他被災労働者及びその遺族の援護を図るために必要な事業
三 業務災害の防止に関する活動に対する援助、健康診断に関する施設の設置及び運営その他労働者の安全及び衛生の確保、保険給付の適切な実施の確保並びに賃金の支払の確保を図るために必要な事業
② 前項各号に掲げる事業の実施に関して必要な基準は、厚生労働省令で定める。
③ 政府は、第一項の社会復帰促進等事業のうち、独立行政法人労働者健康安全機構法(平成十四年法律第百七十一号)第十二条第一項に掲げるものを独立行政法人労働者健康安全機構に行わせるものとする。
引用:労働者災害補償保険法
障害特別一時金
障害等級第8級から第14級までの場合には、障害(補償)給付の他に障害特別支給金、障害特別一時金が支給されます。
障害特別一時金の支給額は、障害特別年金と同様に、賞与などの特別給与と障害特別支給金の金額を基礎として決定されることになっています
障害等級
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給付の内容
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障害等級第8級
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算定基礎日額の503日分
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障害等級第9級
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算定基礎日額の391日分
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障害等級第10級
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算定基礎日額の302日分
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障害等級第11級
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算定基礎日額の223日分
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障害等級第12級
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算定基礎日額の156日分
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障害等級第13級
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算定基礎日額の101日分
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障害等級第14級
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算定基礎日額の56日分
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障害特別一時金の場合には、一度の支払いで支給は終了します。障害等級第1級から第7級の場合に支払われる障害特別年金とは異なり、毎年給付される訳ではありませんので注意しましょう。
障害(補償)年金前払一時金
障害(補償)年金前払一時金とは、一度だけ年金の前払いを受けることができます。これは、まとまった額の金銭が必要になる被害者がいることを想定して、認められている権利です。
原則として、障害(補償)年金前払一時金の請求は障害(補償)年金の請求と同時に行わなければなりません。
しかし、障害(補償)年金の支給を決定する通知があった日の翌日から1年を経過する日までの間に限っては、障害(補償)年金の請求の後で請求を行っても良いとされています。
参考:障害(補償)年金前払一時金
前払一時金の金額は、等級ごとに定められた一定額から希望するものを選択できます。
障害等級
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前払一時金の金額
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障害等級第1級
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給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分、1200日分、1340日分
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障害等級第2級
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給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分、1190日分
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障害等級第3級
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給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分、1050日分
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障害等級第4級
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給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、920日分
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障害等級第5級
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給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、790日分
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障害等級第6級
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給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、670日分
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障害等級第7級
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給付基礎日額の200日分、400日分、560日分
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参考:障害年金前払一時金|共済センター
この一時金は前払いとなっているので、受給した場合には障害(補償)年金は毎月分の合計額が、前払一時金の金額に達するまでの間は支給されません。
また、中間利息の関係によって、各月分の金額は1年を経過した以降の分は年5%の単利で割り引いた金額となります。
労災による後遺障害として認定されるまで
労災による後遺障害としての大まかな流れは以下のようになります。
- 医師による診断
- 障害(補償)給付の申請
- 労働基準監督署による審査及び面接
- 審査結果の通知
- 障害等級に応じた給付

参考:障害(補償)給付申請の流れ
以下で、申請の流れについて簡単にわかりやすく解説します。
症状固定の診断
医師によって症状固定の診断を受けてから、障害(補償)給付などの後遺障害に関する申請を行います。
症状固定の状態とは、治療を続けてもこれ以上の大幅な症状の改善を認められなくなった状態のことをいいます。
障害(補償)給付は後遺障害が残った場合の給付になるので、給付のためには症状固定の状態になることが前提となります。診断を受けた後には後遺障害診断書の作成を依頼します。
診断書を取得して請求書を提出する
医師による症状固定の診断の後に、レントゲン写真や医師による診断書などの資料と作成した請求書を労働基準監督署に提出します。以下は障害補償給付の請求書の記入例となります。

引用:障害(補償)給付請求書記入例
請求書は最寄りの労働基準監督署でもらうか、あるいは厚生労働省のホームページでダウンロードすることも可能です。
なお、障害(補償)年金前払一時金の請求をする場合、障害(補償)給付の請求と同時に提出する必要があります。
参考:障害(補償)年金前払一時金
以下は障害補償金年金前払一時金請求書の記入例になります。

引用:障害年金前払一時金記入例
なお、障害給付の請求書について、通勤災害の場合には通勤経路の詳細や労災の発生状況などを別紙の請求書に詳しく書く必要があります。
労働基準監督署による審査
事前認定や被害者請求といわれる一般的な後遺障害等級認定の場合には、審査の際に面談を行いません。
しかし、労災の後遺障害認定の場合には、提出した診断書などの資料に基づき面談を行います。
面談では、診断書だけでは把握できない部分の状態などを伝えることになります。そのため、面談には入念な準備をして挑むことが重要になります。
通知書が届き後遺障害として認定
面談の後日、後遺障害認定の結果が通知され、該当する障害等級に応じた給付が行われます。
給付の内容については上記をご覧ください。
労災による後遺障害として認められた例
労災による後遺障害であるとして認められた判例をご紹介します。
労災による高次機能障害であると認定された判例
通勤途中に交通事故に遭ったAが、身体に高次機能障害が残ったにも関わらず、淀川労働基準監督署長が労災保険による障害補償給付を行わないという判断は違法であるとして、判断の取り消しを求めました。
Aの請求には正当な理由があると裁判所に認められ、淀川労働基準監督署長による障害補償の給付を行わないという判断は取り消され、後遺障害であると認められました。
裁判年月日 平成28年11月30日
裁判所名 大阪高裁
裁判区分 判決
事件番号 平28(行コ)206号
事件名 障害給付不支給処分取消請求控訴事件
裁判結果 原判決取消・認容
上訴等 確定
Westlaw Japan文献番号 2016WLJPCA11306001
労災による左上下肢不全麻痺であると認定された判例
業務中に脳出血を発症したBは左上下肢不全麻痺となり、疾病は従事する業務の過重負荷に起因するものであるとして、橋本労働基準監督署長に労災保険法に基づく障害補償給付の請求を求めました。しかし、障害補償給付の対象とは判断されず、Bはその判断は違法であるとして判断の取り消しを求めました。
Bの請求には正当な理由があると裁判所に認められ、橋本労働基準監督署長による障害補償の給付についての判断は取り消されることとなり、Bは後遺障害を負った状態であると認められました。
裁判年月日 平成22年 1月12日
裁判所名 和歌山地裁
裁判区分 判決
事件番号 平19(行ウ)9号
事件名 障害補償給付等不支給処分取消請求事件
裁判結果 認容
上訴等 控訴、上告(後上告棄却、上告申立不受理)
Westlaw Japan文献番号 2010WLJPCA01126004
労災による後遺障害認定のポイント
後遺障害として認定されるには労働基準監督署長による認定が必要であり、却下された場合には後遺障害としては認められず、労災の給付を受けることはできません。
では、後遺障害の認定の要点はあるのでしょうか。こちらの項目では、労災において後遺障害の認定のために要点となり得る事項をご紹介します。
医師の診断書が重要
後遺障害として障害(補償)給付の請求をする場合、認定には医師の診断書が極めて重要になります。医師の所見によって作成された診断書に基づき、後遺障害の認定、障害等級の認定がなされるからです。
申請後、労働基準監督署において、障害の程度を知るための面接や計測などが行われます。負った障害によって、重要視される検査所見は異なります。
診断書の作成を医師に依頼する際、過不足や虚偽が生じないように被災した労働者側も注意しておくべきでしょう。
診断書について、どのような点に気をつければ良いのかを弁護士に相談することも一つの手です。
後遺障害認定までの期間
労災の後遺障害認定までの期間について、はっきりとした統計は出ていません。しかし、厚生労働省の労災保険のパンフレットによると、後遺障害認定までのおおよその期間は3ヶ月であるようです。

参考:労災保険のパンフレット
ただし、こちらの期間はあくまで目安であり、症状によっては3ヶ月以上必要な場合もあるようです。
後遺障害として認められなかった場合には
障害(補償)給付の請求をしても、後遺障害として認められなかった場合にはどのような手を取れば良いのでしょうか。
こちらの項目では、労働基準監督署長への申請で後遺障害として認められなかった場合の対処法をご紹介します。
審査の請求
後遺障害の認定を受けたとしても、思っていたような結果を得られないこともありますし、後遺障害に該当しないという判断を下されることもあります。
労働基準監督署が下した後遺障害の処分について納得がいかない場合には、「労働者災害補償保険審査官(各都道府県の労働局に配置され、労災についての審査を行う)」に審査の請求を申し立てることが可能です。
第三十八条 保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服のある者は、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができる。
引用:労働者災害補償保険法
なお、審査の請求は処分のあった日から90日以内に行う必要があります。
第三十八条 ○2 前項の審査請求をしている者は、審査請求をした日から三箇月を経過しても審査請求についての決定がないときは、労働者災害補償保険審査官が審査請求を棄却したものとみなすことができる。
引用:労働者災害補償保険法
審査の決定にも納得がいかない場合には、「労働保険審査会(労災保険の給付処分に関して第2審行政不服審査を行う国の機関のこと)」に再審査請求をすることが可能です。
しかし、審査や再審査においての決定内容を覆すことは難しいとされていますので、可能であれば当初の認定で最善の対応をとることが重要になるかと思われます。
参考:労働保険審査会|厚生労働省
セカンドオピニオン
後遺障害の認定において、医師の診断書の内容は非常に重要です。
作成された診断書に納得がいかない場合や、診察内容に不服がある場合にはセカンドオピニオン(担当医以外の医師からの考えを聞くこと)を検討してみても良いでしょう。
弁護士に相談
労災の後遺障害等級認定の申請について、申請方法や仕組みなどを深く理解できていないという方が通常であると思われます。
労災による傷病の治療のみの場合には、請求書の提出などの比較的簡易な手続きで労災の申請は終了します。しかし、後遺障害の認定には請求書の他に医師に診断書の作成を依頼する必要があり、より煩雑です。
専門的な知識を有した弁護士に相談してみることで、後遺障害認定までの道筋がはっきりとするかもしれません。
後遺障害について知っておくべきこと
こちらの項目では、後遺障害の認定や障害(補償)給付の申請をする際に念頭に入れておくべきことをご紹介します。
症状の再発や悪化した場合
障害等級第1級から第7級を受けた場合には、年金給付を受けることになり、定期報告書を毎年提出する必要があります。
この定期報告書によって、後遺障害の症状が回復または悪化していたと認められた場合には、障害等級が変更され、支給される年金額が増減することがあります。
なお、障害等級第8級から第14級の認定となって一時金を受給した場合には、後日後遺障害の症状が悪化したとしても、原則として等級は変更されません。
症状が再発した場合には、療養(補償)給付が認められます。療養(補償)給付として認められるためには以下の条件を満たす必要があります。
- 症状の悪化が当初の業務上または通勤による傷病と相当の因果関係があると認められること
- 症状固定の時の状態から明らかに症状が悪化していること
- 治療を行えばその症状の改善が期待できると医学的に認められること
障害(補償)給付の場合には症状が固定した場合に給付を受けることができます。療養(補償)給付が認められるかどうかは、治療が期待できるかどうかというところにポイントがあります。
労災の二重支給について
労災で後遺障害として認定された場合、特別障害支給金と傷病特別支給金(傷病(補償)年金の受給者が受け取ることができる支給金のこと)を二重で受け取ることはできません。
傷病(補償)年金とは、労働災害における傷病が療養を開始して1年6ヶ月経過して、障害の等級が傷病等級に該当している場合に支給される支給金のこといいます。
参考:傷病(補償)年金について
傷病(補償)年金を受け取っている場合に症状固定が認められた場合には、障害(補償)給付への切り替えが必要です。
その際、障害(補償)給付や障害特別年金あるいは障害特別一時金はそのまま受け取ることが可能です。しかし、特別障害支給金については、傷病特別支給金との差額しか受け取れません。
ただし、その他の任意保険については労災の補償と関係なく、保険会社から保険金を受け取ることができます。
後遺障害について慰謝料を請求したい場合
労働災害で傷病を負った場合には労災保険の給付を受けることができます。それ以外にも会社や加害者に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
会社に対して後遺障害の損害賠償を請求する場合には、労災事故の原因が雇用主であることが前提条件です。
会社には労働者を安全に働かせる義務を負っており、これを「安全配慮義務」といいます。
裁判において、この安全配慮義務を会社が怠ったことが原因で、労災事故に巻き込まれたということを明確に立証することで、会社に対して後遺障害の慰謝料の支払いの判決が下されるかもしれません。
労災請求の時効について
労災保険の請求にはそれぞれ時効が設けられています。
第四十二条 療養補償給付、休業補償給付、葬祭料、介護補償給付、複数事業労働者療養給付、複数事業労働者休業給付、複数事業労働者葬祭給付、複数事業労働者介護給付、療養給付、休業給付、葬祭給付、介護給付及び二次健康診断等給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から二年を経過したとき、障害補償給付、遺族補償給付、複数事業労働者障害給付、複数事業労働者遺族給付、障害給付及び遺族給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から五年を経過したときは、時効によつて消滅する。
引用:労働者災害補償保険法
時効
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労災給付の種類
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2年
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療養補償給付
休業補償給付
葬祭料
介護補償給付
複数事業労働者療養給付
複数事業労働者休業給付
複数事業労働者葬祭給付
複数事業労働者介護給付
療養給付
休業給付
葬祭給付
介護給付及び二次健康診断等給付
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5年
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障害補償給付
遺族補償給付
複数事業労働者障害給付
複数事業労働者遺族給付
障害給付及び遺族給付
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参考:労災保険の時効
障害(補償)給付の権利は、5年で失効することになっています。労災の申請は先延ばしにせず、受けとるべき給付を失わないようにしましょう。
後遺障害で労災を受けるには認定される必要がある|まとめ
後遺障害として一時金や年金といった労災の給付を受けるためには、労働基準監督署による認定が必要です。
認定のためには、医師による診断書の内容や面談での症状の明確な説明などが重要になってきます。
障害等級や認定についてのポイントなど、障害(補償)給付についてしっかりと理解をして労災の給付申請を円滑に行いたいですね。
労働災害による後遺障害認定を受けたい方へ
後遺障害認定をされれば、その分補填金が手に入ります。
ただ後遺障害の認定には請求書の他に、医師に診断書の作成を依頼する必要があり、複雑なものになっています。
労災による後遺障害認定を受けたい方は、弁護士に相談・依頼するのがおすすめです。
弁護士に相談・依頼するメリットは、以下の通りです。
- 後遺障害認定までの道筋が分かる
- 後遺障害認定が認められるために必要な診断書について理解できる
- 各種手続きを任せることができる など
また労災の状況によっては、会社に損害賠償請求をできる可能性もあります。
初回相談が無料の弁護士事務所も多数掲載しているので、まずはお気軽にご相談ください。
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