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パワハラ防止法とは何か|概要や成立背景・違反時の罰則まで詳しく解説

更新日:2021年03月22日
銀座さいとう法律事務所
齋藤健博 弁護士
このコラムを監修
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パワハラ防止法とは、正式名称を「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(略称:労働施策総合推進法)といい、かつての雇用対策法ですが、2019年5月の改正でパワハラ防止のための雇用管理上の措置が義務づけられたことで、パワハラ防止法と呼ばれるようになりました。

 

法改正にともない、厚生労働省はいわゆるパワハラ指針(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針)も公表しています。パワハラ防止法により「パワハラはだめだよ」と法律が明確に述べたことになり、「パワハラの定義」も整理されたといえます。

 

経営者・労働者を問わずパワハラの知識を深めて防止に努めることが義務化されたため、これまで無意識にあるいは悪意的になされてきたパワハラが減ると期待されています。

 

一方でパワハラは適切な教育・指導との線引きが難しい側面があります。何でもパワハラだと決めつけることで、必要な教育・指導がおこなわれない事態は避けなくてはなりません。

 

企業活動に関わるすべての人は、パワハラについての正しい知識を備え、パワハラのない職場環境をつくることを求められているといえるでしょう。

 

そこで本記事では、パワハラを防止するための措置を義務づける本法律が、具体的にどんな措置が必要で、違反した場合にはどうなるのか、パワハラ防止法および指針の内容を整理して解説いたします。

 

 

 

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この記事に記載の情報は2021年03月22日時点のものです

パワハラ防止法の施行日|大企業2020年6月1日・中小企業2022年4月1日から

大企業2020年6月1日から、中小企業は2022年4月1日から施行されます。

 

もちろん、施行前だからといってパワハラをしてもよいわけではありません。パワハラをした人は民法の不法行為責任が問われるほか、刑事罰に処せられる可能性もあります。

 

パワーハラスメント(以下パワハラ)は、労働者の就業意欲の低下や精神的な障害、離職率の上昇などを引き起こす行為です。パワハラの行為者だけでなく、パワハラを放置した企業も社会的なイメージを失墜し、ひいては業績悪化につながる可能性もあります。

 

 

パワハラ防止法(労働施策総合推進法)が成立した背景 

パワハラ防止法が成立した背景のひとつとして、パワハラや関連する行為に対する相談件数が増加したことが挙げられます。

 

2017年4月に公表された「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」では、従業員の悩みや不満を相談する窓口において相談の多いテーマは、パワーハラスメントが32.4%ともっとも多いことがわかっています。

 

引用元:厚生労働省|職場のパワーハラスメントに関する実態調査 主要点

 

2018年度の「個別労働紛争解決制度の施行状況」によれば、いじめ・嫌がらせに関する相談件数は8万2797件と過去最高となっています。

 

引用元:厚生労働省|平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況を公表します

 

これらのデータからは、対人関係に起因する職場環境の悪化が多発しており、環境改善が強く求められているという社会の現状が見てとれます。こうした現状を受け、国がハラスメントを防止するための取り組みとして法制化したものと考えられるでしょう。

 

また2016年12月に厚生労働省が公表した「過労死等ゼロ」緊急対策は、大手広告会社に勤める女性社員の過労自殺が、上司によるパワハラが一因となったとの指摘をきっかけに取りまとめられたという見方があります。

 

若く尊い命が失われたこともパワハラ防止法成立の背景にあるといえるでしょう。

※参照:厚生労働省|「過労死等ゼロ」緊急対策

 

 

パワハラ防止法で規制されるパワハラの定義

パワハラ指針ではパワハラの定義として3要件を示すとともに、典型的なパワハラと呼べる6つの類型を紹介しています。

 

3つの要件

職場におけるパワハラとは、以下の3つの要件をすべて満たすものと定義されています。

 

  1. 優先的な関係を背景とした言動
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

 

「優先的な関係を背景とした言動」とは

言動を受ける者が行為者に対して抵抗・拒絶できない蓋然性が高い関係を背景におこなわれるものを指します。したがって上司から部下への言動だけとは限らず、同僚や部下による言動でもパワハラになり得ます。

 

たとえば次のようなケースでは職場内での優先的な関係が背景にあるといえるでしょう。

 

  1. 部下が業務上必要な知識や経験を有しており、部下の協力がなければ業務を円滑に進められない場合における部下から上司への言動
  2. 営業成績のよい社員から悪い社員への言動
  3. 経験年数が長いリーダー格の社員から新入社員への言動

 

「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」とは

業務上明らかに必要のない行為や目的を大きく逸脱した行為、業務遂行の手段として不適切な行為をいいます。

 

たとえば、重要な会議に遅刻をした部下に対して上司が一度叱責するような行為は教育として意味合いが強く、通常はパワハラには該当しません。他方で、「遅刻するような人間だからお前はだめなんだ」などと、人格を否定するような言動をともない、それが日常的に繰り返されればパワハラに該当し得るでしょう。

 

教育・指導の名目でも社会通念上許容される限度を超えていればパワハラとなる可能性があるということです。

 

「労働者の就業環境が害されるもの」とは

労働者が能力を発揮するのに重大な妨げとなるような看過できない程度の支障を指します。たとえば就業意欲が低下する、業務に専念できないなどの影響が生じている場合です。

 

6つの類型

典型的なパワハラの類型は以下の6つです。

 

  1. 身体的な攻撃
  2. 精神的な攻撃
  3. 人間関係からの切り離し
  4. 過大な要求
  5. 過小な要求
  6. 個への侵害

 

6つの類型は限定列挙ではありませんので、これに該当しない場合でもパワハラだと認められるケースがある点には注意が必要です。

 

パワハラにあたるか否かは平均的な労働者の感じ方を基準としつつ、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係などさまざまな角度から総合的に判断されるべきものとされています。

 

パワハラの具体例

6つの類型をもとに、何をするとパワハラに該当するのか具体例をチェックしてみましょう。

 

  • 身体的な攻撃……殴る蹴る、物で頭を叩く、物を投げつけるなど
  • 精神的な攻撃……人格を否定する暴言を吐く、他の従業員の前で罵倒する、長時間にわたって執拗に非難するなど
  • 人間関係からの切り離し……別室に隔離する、集団で無視する、他の従業員との接触や協力を禁止するなど
  • 過大な要求……新卒者に対して教育のないまま過大なノルマを課す、私的な雑用を強要する、終業間際に大量の業務を押し付けるなど
  • 過小な要求……役職名に見合わない程度の低い業務をさせる、嫌がらせで仕事を与えないなど
  • 個への侵害……個人用の携帯電話をのぞき見る、センシティブな個人情報を他の労働者へ暴露する、家族や恋人のことを根掘り葉掘り聞くなど

 

自身が受けた言動がどの類型のパワハラにあたるのかは、厚生労働省のハラスメント対策サイト「あかるい職場の応援団」内で設問に答えてチェックしてみてもよいでしょう。

※参照:あかるい職場の応援団|どんなハラスメントかチェック

 

 

パワハラ防止法で事業主に義務づけられる措置

パワハラ指針では事業主が講ずべき措置を次のように定めています。

 

企業にも職場環境配慮義務があるため、パワハラを含む各種ハラスメントを防止するための環境を整え、ハラスメント事案が発生した際には速やかに対処する必要があります。

 

また法改正がおこなわれた事実によってパワハラに対する社会の目がいっそう厳しくなっています。パワハラの行為者およびそれを放置する企業のリスクは高まっていると認識するべきでしょう。

 

社内方針の明確化と周知・啓発

事業主はパワハラを防止するために自社でどのような方針をとるのかを明確にし、管理監督者を含める労働者に周知・啓発しなくてはなりません。

周知・啓発をするには次のような方法があります。

 

  • 社内報、社内ホームページなどに「パワハラを行ってはならない」と明記し、発生原因や背景、トラブル事例なども併せて紹介する
  • 社内方針やパワハラの発生原因・背景を理解させるための研修や講習、説明会などをおこなう

 

加えて、パワハラの加害者に対して厳しく対処する方針や、懲戒処分などの対処内容を就業規則や服務規定に定め、周知・啓発しなくてはなりません。

 

トップが明確に意思表示をし、企業としての方針を知らせることで、労働者は自らの問題として「パワハラはいけないことなのだ」と認識します。周知・啓発においては、パワハラが発生する原因や背景について労働者の理解を深め、原因があれば解消していくことでパワハラを防止する効果が高まるとされています。

 

相談に適切に対応するための体制づくり

労働者から相談があった際に適切に対処するために必要な体制の整備として、相談窓口を設けて事前に労働者へ周知することが必要です。

 

たとえば相談に対応する担当者を決める、相談への対応を弁護士などへ外部委託するなどの方法が挙げられます。企業規模が小さく窓口や担当を決める余裕がない中小企業などでは、とくに外部委託は有効な方法でしょう。

 

また相談窓口の担当者が適切に対応できるよう、担当者へ対する研修の実施や人事部との連携をあらかじめ整えておくことなども求められます。

 

パワハラが発生した場合の迅速・適切な対応

事業主はパワハラについて労働者から相談があった際には、次の措置を講じる必要があります。

 

  • 事実関係を迅速かつ正確に把握する
  • 事実関係が確認できた場合にはパワハラを受けた被害者に対する配慮措置をおこなう(例:休暇を与える、必要な補償をするなど)
  • 事実関係が確認できた場合には加害者に対する必要な措置をおこなう(例:注意、配置転換、懲戒処分など)
  • 再発防止に向けて、改めて事業主の方針を周知・啓発するなどの措置をおこなう

 

そのほか併せて講ずべき措置

上記(1)~(3)までの措置をおこなう際には、併せて次の措置も実施する必要があります。

 

  • 相談者や相談を受けた者、行為者、目撃者などの第三者のプライバシーを保護するために必要な措置
  • 労働者が相談したことや相談された者が調査したことなどを理由として、解雇・降格その他不利益な取り扱いをしないように定め、労働者に周知・啓発すること

 

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パワハラ防止法の対象となる範囲

パワハラ防止法の適用を受ける職場や労働者の範囲を確認しておきましょう。

 

職場の範囲とは       

職場とは「事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所」を指します。したがって会社の事務所など毎日出勤するような場所でなくても、労働者が業務を遂行する場所であれば職場に含まれます

 

また時間の制限はないため、勤務時間外におこなわれたものであってもパワハラに該当します。

 

労働者の範囲

いわゆる正社員に限らずパート・アルバイト、派遣社員、契約社員など雇用される労働者はすべてパワハラ防止法の適用を受けます。派遣社員の場合、労働者と雇用契約を結ぶ派遣会社はもちろん、実際に労働者が働く派遣先についても同様の配慮、措置が求められます。

 

業務委託をする個人事業主やインターンシップの学生、求職者などは労働者の範囲に含まれません。

 

しかし、パワハラ防止法の趣旨に照らし、これらの人に対しても注意や配慮をすることが望ましいとされています。労働者と同様の方針を示し、実際にパワハラがあった場合には同じく必要な対応をするのがよいでしょう。

 

パワハラ防止法に違反した場合の罰則

パワハラそのものに罰則規定が設けられているわけではありません

 

しかし、厚生労働大臣による助言・指導および勧告の対象となり、勧告にしたがわない企業名の公表もあります。措置義務が定められている以上、従業員から「相談先がない」「相談しても何もしてくれなかった」などの通報があれば助言・指導・勧告の対象となることは十分に考えられるでしょう。

 

加えて昨今はSNSで情報が一気に広まる時代です。被害者や被害者が加入する労働組合がパワハラ防止法違反を世間に大々的にアピールすることで、企業の信用失墜につながる可能性があります。

 

今回の法改正でパワハラそのものへの罰則規定は見送られましたが、今後の改善状況などによっては罰則が設けられる可能性はあると思っておくべきでしょう。

 

なお当然ですが、パワハラが暴行罪や脅迫罪など刑法に規定された犯罪の成立要件を満たして有罪になった場合には、行為者には罰則が適用されます。

 

【関連記事】

パワハラの訴訟実例と勝訴・慰謝料請求する3つのポイント

 

 

パワハラが発生した際の企業側の対応とは

ご自身が人事やコンプライアンス部門などに所属し、パワハラ対策を講ずべき立場にある場合の、対応のポイントをまとめます。

防止策はここまでお伝えした通りですので、実際にパワハラ事案が発生した後の対応に絞って紹介します。

 

事実関係の調査

まずは相談を受けた後、事実関係を確認するために速やかに調査をおこないます。被害者とされる人の話だけでなく加害者とされる人の話も聞き、関係者へも聴き取りをおこなうなどし、公平な調査となるよう気を付けることが大切です。

 

パワハラが事実だった場合、パワハラの内容に応じて加害者に対する処分を検討します。

 

加害者側の処分を検討

一律に同じ処分とするのではなくパワハラの様態や回数、パワハラの経緯や目的、反省の有無などを総合的に判断しなくてはなりません。

 

懲戒処分は就業規則にもとづいておこなわれる必要があり、安易な懲戒処分はパワハラ加害者から訴えられかねませんので慎重におこないましょう。

 

被害者へのフォローや謝罪、パワハラが発生してしまった原因の究明も重要です。社内規定の見直しや体制の強化、経営者からのメッセージ発信などを通じて再発防止に努めましょう。

 

誤解だった場合

調査の結果パワハラには該当しない、誤解だったといった場合でも、行為者に対して誤解を招く行為やその原因に関して注意や指導をおこないます。

 

また相談者に対してはパワハラに該当しない理由を理解してもらえるように丁寧に説明し、行為者へどのような指導をおこなったのかも伝えるなど、納得して業務に専念できるよう配慮するのが望ましいでしょう。

 

 

パワハラを受けた労働者ができること

パワハラ防止法の施行によって労働者がパワハラを相談しやすい環境が整うことになるため、パワハラを受けた場合はすぐに相談しましょう。

 

相談窓口がない、相談しても軽くあしらわれたといった場合には、パワハラ防止法に違反していることになります。人事部などへ違反している旨を伝える、労働局へ通報するなどの方法をとることができます。

 

ただし経営者自身によるパワハラが横行して誰にも相談できない、企業規模が小さいため相談窓口の担当者とパワハラ加害者が同一であるなど、どうにもできない状況もあるでしょう。

 

その場合は個別の相談に乗り対策を考えてくれる弁護士への相談も検討してみてください。パワハラの証拠収集の方法や今後とり得る手段などを法律の観点からアドバイスしてくれるため、今何をするべきか見えてくるでしょう。

 

ご自身の代理人となって企業へ防止を求めることや、労働審判・裁判の対応を任せることもできます。

 

【関連記事】

パワハラの相談窓口一覧と解決のために今からできること

 

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まとめ              

パワハラ防止法はパワハラのないよりよい職場環境をつくるための法律です。法の趣旨や指針が示す内容を理解して実行するとともに、職場ではお互いが思いやりの心をもってコミュニケーションをとることも重要です。

 

指導する側は相手の成長を促すよう努めること、指導される側は適正な指導かどうかをしっかり見極める冷静さが必要となるでしょう。

 

 

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この記事の監修者
銀座さいとう法律事務所
齋藤健博 弁護士 (東京弁護士会)
女性のセクハラ被害解決を得意とする弁護士。慰謝料請求や退職を余儀なくされた際の逸失利益の獲得に注力。泣き寝入りしがちなセクハラ問題、職場の女性問題に親身に対応し、丁寧かつ迅速な解決を心がけている。
編集部

本記事は労働問題弁護士ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※労働問題弁護士ナビに掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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