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通勤災害とは?労災保険の補償対象となる事例や通勤災害の様式を解説

更新日
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤康二 弁護士
このコラムを監修
通勤災害とは?労災保険の補償対象となる事例や通勤災害の様式を解説

「通勤中に転んで怪我をした」

「忘れ物を取りに自宅へ戻る途中で怪我をした」

「得意先へ向かっている途中に事故にあって怪我をした」

 

上記のような状態に陥った場合、労災保険による補償を受けることができます。

 

業務による労働災害や通勤による労働災害が原因で起こった病気、怪我、障害、または死亡した場合には、労災保険(労働者災害補償保険)による補償が行われます

 

第一条 労働者災害補償保険は、業務上の事由、事業主が同一人でない二以上の事業に使用される労働者(以下「複数事業労働者」という。)の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由、複数事業労働者の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。

引用:労働者災害補償保険法

 

労働災害とは、業務中や通勤中に傷病などを負うことを指します。労働災害は、大きく分けると『業務災害』と『通勤災害』の2種類になります。

 

  1. 業務災害 → 労働者が業務中に被った傷病や障害、死亡のこと
  2. 通勤災害 → 労働者が通勤中に被った傷病や障害、死亡のこと

 

業務災害とは業務中に発生した労働災害のことを指し、通勤災害とは通勤中に発生した労働災害のことを指します。(参考:労災とは?労働災害があった場合の補償内容)

 

では、通勤災害とは主にどのような場合に認められるのでしょうか。

 

通勤途中に起きた災害で労災保険給付をスムーズに受け取るために、通勤災害について正しく理解しておくと良いかもしれません。

 

こちらの記事では、通勤災害についての概要や、通勤災害として認定されるために重要な条件などを簡単にご紹介します。

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労災における通勤災害とは

通勤災害とは、労働者が通勤中に被った傷病、障害、死亡のことをいいます。傷病などが通勤災害として認められた場合には、労災による保険給付が事例に応じて行われることが定められています。

 

第七条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
一 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
二 複数事業労働者(これに類する者として厚生労働省令で定めるものを含む。以下同じ。)の二以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡(以下「複数業務要因災害」という。)に関する保険給付(前号に掲げるものを除く。以下同じ。)
三 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
四 二次健康診断等給付

引用:労働者災害補償保険法

 

通勤災害であると認定されるには、一定の条件を満たす必要があります。この条件は労災保険法で定められています。

 

② 前項第三号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。
一 住居と就業の場所との間の往復
二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
三 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
③ 労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第一項第三号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。

引用:労働者災害補償保険法

 

また、通勤災害における「通勤」といえるのは以下の3つのみです。

 

通勤災害における通勤の態様について

  1. 住居と就業場所との間の移動

 住居 ↔︎ 就業場所

  1. 厚生労働省で定める就業場所から他の就業場所への移動

 住居 → (最初の)就業場所 → (次の)就業場所 → 住居

  1. 住居と就業場所の間の往復に先行、または後続して行う住居間の移動

 赴任先(帰省先)住居 ↔︎ 帰省先(赴任先)住居

 

通勤災害の経路

引用:通勤災害の経路|厚生労働省

 

ここからは、通勤災害の定義の詳細についてわかりやすくご紹介します。

 

「通勤」の定義

通勤災害においての通勤とは就業に伴い、以下の3つの移動を合理的な経路及び方法で行うことをいいます。

 

  1. 住居と就業場所との間の往復
  2. 就業場所から他の就業場所への移動
  3. 住居と就業場所との間の往復に先行し、または後続する住居間の移動

 

このような移動の経路を逸脱した場合、または移動を中断した場合には、逸脱または中断の間及びその後の移動は「通勤」として認められません。

 

ただし、逸脱または中断が日常生活上に必要な行為であり、厚生労働省令で定めるやむを得ない事由により行うための最少限度のものである場合には、逸脱または中断の間を除いた移動行為は「通勤」として認められます。

 

なお、「通勤」のうち業務の性質を有するものを除かれますが、これは一見「通勤」のように見える行為であっても、これが業務の性質を有する場合は、通勤災害ではなく、業務災害として処理することになるからです。

参考:通勤災害について | 東京労働局

 

通勤災害とされるためには、労働者の就業に関する移動が労働者災害補償保険法リンクにおける通勤の要件を満たしている必要がある。

 

業務災害と通勤災害の相違点

業務災害、通勤災害共に労災保険の給付対象となる事故は、負傷、疾病、障害、死亡とされており、だいたいは同じ内容の保険給付がなされます。

 

しかし、通勤災害の場合には給付の内容やその他の取り扱いについて、少々内容が異なる部分があります。

 

通勤災害において業務災害との相違点

  • 療養給付受給者に対する一部負担金の制度がある(初回のみ)
  • 保険給付の名称に「補償」という文言が入らない
  • 休業給付の待機3日間に対して使用者の補償義務がない
  • 労働基準法の解雇制限の適用がない

 

通勤災害に関して知っておくべき『就業』や『住居』の概要

ある災害が通勤災害であると認められるためには、通勤と災害との間に相当の因果関係が必要です。

 

では、通勤と災害との間に必要な相当因果関係とはどのようなものなのでしょうか。通勤災害として認められるための要件を以下に提示します。

 

就業に関しとは

第7条2項の定める「就業に関し」とは、同条項各号の定める「通勤」に当たる行為が、就業との関連性を有する(例えば、就業を開始するため又は就業を終えたために行われるなど)必要があるという趣旨です

 

就業との関連性の有無を判断するにあたり、『労働者が被災当日に業務に従事することになっていたか否か』または、『実際に業務に従事したか否か』が重要になります。

 

また、移動行為と業務との時間的関連性も重要な事項であり、原則として、所定の就業時間から大きく外れた時刻に出勤または退勤をした場合には業務との時間的関連性が希薄となり「就業に関し」という要件が認められなくなる可能性があります。

 

ただし、所定の就業日に所定の就業開始時刻をめどに住居から就業場所へ向かう場合にはラッシュアワーを避けるための早出や、遅刻を避けるための早出などは、時刻に若干の前後があったとしても就業との関連性は否定されないと思われます。

 

住居の規定

「住居」とは、労働者が居住して日常生活の用に供する家屋などの場所で、労働者の就業のための拠点となる場所のことです。

 

例えば、家族と住む家から離れた場所に転勤し、就業場所の近くに単身アパートを借りてそこから通勤している場合には、そこが「住居」となります。

 

また、長時間残業といった勤務上の事情がある場合や、台風などの自然現象などといった止むを得ない事情によって、一時的に通常の住居とは異なる場所に宿泊する場合には、『止むを得ない事情で就業のために一時的に居住場所を移している』と認められるため、その一時的に宿泊する場所も「住居」として認められます。

 

ただし、至って私的な理由で友人の家に宿泊してそこから出勤するといった場合には止む終えない事情ではなく、その場所は就業の拠点とはなっているとは認められないため、「住居」として否定される可能性があります。

 

就業場所

「就業場所」とは、業務を開始あるいは終了する場所のことをいいます。

 

本来の業務を行う場所の他にも、顧客回りをした後に直接帰宅する場合の顧客先や、会社主催で参加が義務付けられているイベントなどの会場も「就業場所」として含まれます。

 

合理的な経路及び方法

「合理的な経路及び方法」とは、住居と就業場所との間を往復する場合に、労働者が一般的に用いるものと認められる経路及び手段などのことです

 

経路については、乗車定期券に表示されている、または会社に届け出ているような、鉄道・バスなどの通常時に利用する経路及びこれに代替することが考えられる経路などが「合理的な経路」に該当すると考えられます。

 

また、「合理的な経路」とは必ずしも一つだけとは限りません。例えば、タクシーなどを利用する場合に通常利用する経路が複数ある場合、その経路の全てが「合理的な経路」として認められます。

 

他にも、道路工事などの当日の交通事情によって通常の経路を迂回してとる経路、マイカー通勤者が車庫を経由して通る経路も「合理的な経路」となります。

 

なお、経路は手段と合わせて合理的なものでなければならないため、鉄道線路、自動車専用道路などを歩いて通る場合には、「合理的な経路」とは認められません。

 

業務の性質を有するもの

「業務の性質を有するもの」とは、発生した災害が業務上の災害として扱われる通勤のことを指します。

 

例えば、会社(事業主)が提供する専用交通機関を利用しての通勤や、休日または休暇中に呼び出しを受けて予定外に緊急出勤する場合も「業務の性質を有するもの」として認められます。

 

逸脱、中断

「逸脱」とは、通勤の途中で就業または通勤と関与しない目的で合理的な経路をそれることを言います。「中断」とは、通勤経路上において通勤とは関係のない行為を行うことを言います。通勤の途中で「逸脱」または「中断」があった場合、原則としてそれ以降の行為は通勤とは認められません。

 

例えば、会社の帰りに映画館に入ったり、居酒屋で飲酒したりという場合には「逸脱」又は「中断」に該当し得ます。他方で経路途中での公衆便所の利用や、タバコやジュースを購入するといった些細な行為を行う場合には直ちに「逸脱」あるいは「中断」とはならないでしょう。

 

しかし、会社を出てから夕食のための買い物をする、病院に立ち寄るという行為は一般的に行われています。

 

そのため、これについては例外が法律で設けられており、「日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるものを止むを得ない事由により最低限度の範囲で行う場合」には、「逸脱」または「中断」の間を除き、合理的な経路に復した後には通勤と認められることになっています。

 

日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものとは

「日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるもの」となる行為は以下になります。

 

  1. 日用品の購入。その他これに準ずる行為
  2. 職業能力開発促進法第15条の6第3項に規定する公共職業能力開発施設において行われる職業訓練(職業能力開発総合大学校において行われるものを含む)、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
  3. 選挙権の行使。その他これに準ずる行為
  4. 病院または診療所において診療または治療を受けること。その他これに準ずる行為
  5. 要介護状態にある配偶者、子、父母、配偶者の父母並びに同居して、かつ、扶養している孫、祖父母及び兄弟姉妹の介護(継続的にまたは反復して行われるものに限る)

参考:通勤災害|厚生労働省

 

これらは労災保険法施行規則第8条で定められています。

 

(日常生活上必要な行為)

第八条 法第七条第三項の厚生労働省令で定める行為は、次のとおりとする。

一 日用品の購入その他これに準ずる行為

二 職業訓練、学校教育法第一条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であつて職業能力の開発向上に資するものを受ける行為

三 選挙権の行使その他これに準ずる行為

四 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為

五 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)

引用:労働者災害補償保険法施行規則

 

また、「やむを得ない事由により行うため」とは、日常生活に必要なことを通勤の途中で行う必要が発生した場合のことを指します。「最少限度のもの」とは、例外に該当する「逸脱」または「中断」の原因となった行為の目的達成のために必要とする最少限度の時間や距離などのことを言います。

 

通勤災害の適用範囲と具体的な事例

通勤災害であるかどうかを最終的に判断するのは会社ではなく、労働基準監督署(企業による労働基準法等の違反行為を調査し、違反があれば是正のための指導・勧告・処分を行う行政機関のこと)です

 

通勤災害として認められるための用件は上記の通りですが、具体的にはどのような場合に通勤災害が認められるのでしょうか。以下で紹介していきます。

 

普段と違う経路で怪我をした場合

普段と異なる通勤経路で怪我をした場合にそれが通勤災害であると認められるかは、その経路が「合理的な経路」であるかどうかが重要であり、会社に届け出していた経路であったかどうかが決め手となるものではありません。

 

もっとも、「合理的な経路」であるかどうかの判断をするうえで、会社に届出のあった経路かどうかは考慮要素の一つにはなり得ます。

 

第七条

2 前項第三号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。

引用:労働者災害補償保険法

 

退社後に寄り道をして怪我をした場合

通勤途中に、「逸脱」または「中断」があった場合には原則としてそれ以降にあった災害は通勤災害として認められません。

 

しかし、上記の通り、「日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるものを止むを得ない事由により最低限度の範囲で行う場合」は、労災保険の保険給付対象となる「通勤」として扱われます。

 

この場合には、寄り道をした理由について、日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるものを止むを得ない事由により最低限度の範囲で行われていたかどうかが、判断のポイントになります。

 

したがって、定められた例外に該当する最低限度の寄り道は通勤災害として認められますが、映画や飲み会などといった行為は、通勤災害として認められる可能性は低そうです

 

日常生活上必要な行為の主な例

  • 夕食の食材(惣菜など)を購入する場合
  • クリーニング店に立ち寄る場合
  • 病院・診療所で治療を受ける場合
  • 選挙の投票に立ち寄る場合

 

営業活動で営業先に直行している時に怪我をした場合

外勤業務に従事する労働者が担当する特定区域内にある数カ所の得意先を回って自宅との間を往復するような場合には、自宅から最初の用務地である得意先と、最後の用務地である得意先とが、それぞれ業務開始および業務終了の場所とみられます。

 

よって、自宅から最初の用務地及び最終の用務地から自宅までの間は通勤行為とみなされるため、営業活動で営業先に直行している時に怪我をした場合には、それが合理的な経路であれば通勤災害として認められる可能性が高いと言えます。

 

通勤途中で忘れ物に気がつき引き返して怪我をした場合

出退勤の途中で忘れ物を取りに引き返す場合には、何を取りに戻るかによって、通勤中であるか否かが判断されます。

 

通勤行為として認められるには、就業との関連性が重要であり、関連性があるか否かの判断基準は以下のように定められています。

 

関連性が認められる行為

  • 業務上必要な打ち合わせや引き継ぎなどを忘れていたために職場へ引き返す行為及びその後の帰宅
  • 就業する上で必要なものを置き忘れて住居または職場へ引き返す行為
  • 定期券や鍵などといった通勤に必要なものを置き忘れて、住居または職場へ引き返す行為

 

関連性が認められない行為

  • 退職後や休職中に、挨拶や私物の引き取りのために職場へ赴く行為及びその後の帰宅
  • 通勤や就業する上で必要のない忘れ物を取りに住居または職場へ引き返す行為
  • 体調が悪くなって住居または職場へ引き返す行為

 

就業に関する忘れ物を取りに引き返す場合には通勤災害として労災保険給付の対象となりますが、例えば、私用でしか使っていない携帯電話を取りに引き返す場合には、通勤災害と認められる可能性は低いと思われます。

 

居酒屋で飲酒した帰りに怪我をした場合

原則として、退勤時の飲酒などによる寄り道は、通勤経路を「逸脱」しているため、その後の災害については基本的に通勤災害として認められません。

 

業務上必要な飲み会の帰りの傷病については、就業に関係しているため通勤災害として認められる可能性はありますが、認められるケースはごく僅かであり、特別な事情がない限りは通勤災害として扱われません。

 

通勤災害で実際に起こった場合に判断が難しい事例

ここで、実際に起こり得るよくある通勤災害の事例をご紹介します。

 

出勤途中、タバコを買っていたところ、自転車に追突されて怪我をした

出勤途中、タバコを買っていたところ、自転車に追突されて怪我をした事例

工務店に勤務している従業員Aは毎日徒歩で通勤している。ある日、普段と同じように徒歩で職場へ出勤する途中、道端の自動販売機でタバコを購入していたところ、前方不注意の自転車が突っ込んできて衝突した。

 

タバコの購入という通勤とは直接関係のない行為を行なっていますが、通勤経路上での些細な行為は通勤経路の「逸脱」、「中断」としては扱いません。よって、この場合には通勤災害として認められます

 

なお、労働省によると、以下の行為は些細な行為として「逸脱」、「中断」として扱わないものとしています。

 

  • 線路の近くにある公衆便所を使用する場合
  • 帰途に経路の近くにある公園で短時間休息する場合
  • 経路上の店でタバコ、雑誌などを購入する場合
  • 駅構内でジュースの立ち飲みをする場合
  • 経路上の店で喉の渇きを癒すためにごく短時間、お茶、ビール等を飲む場合
  • 経路上で商売している大道の手相見、人相見に立ち寄ってごく短時間手相や人相を見てもらう場合

平成18.3.31基発0331042号

 

その他、上記に類似する行為であれば、「逸脱」、「中断」とはみなされず、被災した場合には通勤災害として認められます。

 

昼休みに昼食をとるため帰宅する途中で交通事故に遭い怪我をした

昼休みに昼食をとるため帰宅する途中で交通事故に遭い怪我をした事例

従業員であるBの自宅から会社の事務所までは自転車で5分ほどの距離のため、Bは毎日昼休みには自宅に帰って昼食をとり、再び同社の職場へ戻っている。いつも通り、Bが昼休みに自宅へ昼食を取りに戻る途中、対向車に接触して負傷した。なお、この日もBは昼休み後に勤務することになっていた。

 

労働者と住居と就業の場所を往復する行為中に発生した災害は、就業との関連性が認められる限りは労災保険給付の対象となり、通勤災害として認められます。

 

ただし、昼休みを利用して自宅へ戻る場合にも、帰宅の目的が就業と関連していない場合には通勤災害として認められる可能性が低くなります。

 

帰宅途中に夕食をとった後、交通事故に遭い怪我をした

帰宅途中に夕食をとった後、交通事故に遭い怪我をした事例

従業員のCは一人暮らしをしており、夕食は毎日、帰宅途中の通勤経路上にある飲食店でとっていた。いつも通り、Cが当該店で夕食をとってから自宅まで帰り着いたとき、歩道と車道の段差につまずいて転倒し負傷した。

(昭49.8.28基収2105)

 

この場合には、帰宅途中に夕食をとる行為が日常生活上必要な行為であるとして、本件は通勤災害として扱われます。

 

また、同じ行為であっても、どのような人がその行為を行うかによって、それが日常生活上に必要な行為であるか否かが異なります。日常生活上に必要な行為とは、労働者個人の事情によって判断が異なる可能性があり、その判断は労働基準監督署が調査した事実に基づいて行います

 

帰宅途中、飲酒をしながら自動車を運転していたところ事故を起こした

帰宅途中、飲酒をしながら自動車を運転していたところ事故を起こした事例

従業員のDは車両通勤を申請しており、マイカー通勤をしていた。仕事帰りにコンビニに寄った際に缶ビールを購入し、運転しながらビールを飲んでしまった。走行中、ハンドル操作を謝って電柱に激突して重傷を負った。

 

この場合、被災した労働者Dの重大な過失による災害と判断される可能性が高く、その場合には労災保険の適用は制限されることになります。

 

労働者災害補償保険法では、労働者が故意の犯罪行為または労働者の重大な過失により、負傷、疾病、障害、死亡という結果を招いた場合、労災保険の給付の全部あるいは一部を行わないことが可能であると定められています。

 

第十二条の二の二 労働者が、故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となつた事故を生じさせたときは、政府は、保険給付を行わない。
② 労働者が故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、又は正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより、負傷、疾病、障害若しくは死亡若しくはこれらの原因となつた事故を生じさせ、又は負傷、疾病若しくは障害の程度を増進させ、若しくはその回復を妨げたときは、政府は、保険給付の全部又は一部を行わないことができる。

引用:労働者災害補償保険法

 

普段よりも3時間早く出勤する途中で交通事故に遭い怪我をした

普段よりも3時間早く出勤する途中で交通事故に遭い怪我をした事例

従業員であるEは、所属する社内サークルの打ち合わせのために通常の時間よりも3時間早く自宅を出て職場に向かった。会社へ向かう途中、横断歩道を渡る際に車にはねられ負傷した。

 

この場合、所定の始業開始時刻から著しくかけ離れているため、就業との関連性が認められません。出勤途中の災害が通勤災害として認められるためには、職場に向かう行為に就業との関連性がなければなりません。

 

遅刻しそうになって赤信号で横断歩道を渡って怪我をした

遅刻しそうになって赤信号で横断歩道を渡って怪我をした事例

従業員のFは遅刻をしそうになり、焦って赤信号を渡ったところを交差点に進入してきたバイクに接触して負傷した。

 

この場合、通勤が合理的な方法によるものかどうかが問題となります。赤信号を渡るということが合理的でないと評価されれば通勤災害とは認められません。この点の判断は非常に微妙なところです。

 

参考:労働災害・通勤災害のことならこの1冊(第4版)|人事労務・労働法|法律実用・学習書|自由国民社

 

通勤災害で休業補償はされるのか?補償内容と必要書類

以下は、通勤災害時に受けられる労災保険給付の内容になります。

 

労災の種類

支給事由

労災保険給付の内容

特別支給金の内容

療養給付

通勤災害による傷病により療養するとき

必要な療養の給付または療養費の全額

なし

休業給付

通勤災害による傷病の療養のために労働することができず、賃金を受けられないとき

休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額(労働基準法の平均賃金に相当する額)の60%相当額

休業特別支給金

休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の20%相当額

障害年金

通勤災害による傷病が治った後に障害等級第1級から第7級までに該当する障害が残ったとき

障害の程度に応じ、給付基礎日額の313日分から131日分の年金

障害特別支給金

障害の程度に応じ、342万円から159万円までの一時金

障害特別年金

障害の程度に応じ、算定基礎日額の313日分から131日分の年金

障害一時金

通勤災害による傷病が治った後に障害者等級第8級から第14級までに該当する障害が残ったとき

障害の程度に応じ、給付基礎日額の503日分から56日分の一時金

障害特別支給金

障害の程度に応じ、65万円から8万円までの一時金

障害特別一時金

障害の程度に応じ、算定基礎日額の503日分から56日分の年金

遺族年金

通勤災害により死亡したとき

遺族の数などに応じ、給付基礎日額の245日分から153日分の年金

遺族特別支給金

遺族の数に関わらず、一律300万円

遺族特別年金

障害の程度に応じ、算定基礎日額の245日分から153日分の一時金

遺族一時金

(1)遺族年金を受ける遺族がいないとき

(2)遺族年金の受給権者が失権し、かつ、他に遺族年金を受け得る者がいない場合であって、既に支給された年金の合計額が給付基礎日額の1,000日分に満たないとき

給付基礎日額の1,000日分の一時金(ただし、(2)の場合は、既に支給した年金の合計を差し引いた額)

遺族特別支給金

遺族の数に関わらず、一律300万円

遺族特別一時金

算定基礎日額の1,000日分の一時金(ただし、(2)の場合は、既に支給した特別年金の合計額を差し引いた額)

葬祭給付

通勤災害により死亡した者の葬儀を行うとき

315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分)

 

傷病年金

通勤災害による傷病が療養開始後1年6ヶ月を経過した日または同日後において次の各号のいずれにも該当することとなったとき

  1. 傷病が治っていないこと
  2. 傷病による障害の程度が傷病等級に該当すること

障害の程度に応じ、給付基礎日額の313日分から245日分の年金

(傷病特別支給金)

障害の程度により114万円から100万円までの一時金

(傷病特別年金)

障害の程度により算定基礎日額の313日分から245日分の年金

介護給付

障害年金または傷病年金受給者のうち第1級の者または第2級の者(精神神経の障害及び胸腹部臓器の障害の者)であり、現に介護を受けているとき

常時介護の場合には、介護の費用として支出した額(104,290円が上限)。ただし、親族などにより介護を受けており、介護費用を支出していないか、支出した額が56,600円を下回る場合には56,600円。

随時介護の場合には、介護の費用として支出した額(52,150円が上限)。ただし、親族などにより介護を受けており介護費用を支出していないか、支出した額が28,300円を下回る場合は28,300円。

 

参考:通勤災害の労災保険支給事由と内容

 

通勤途中で災害に見舞われて休業する場合、通勤災害の要件を満たしている限りは休業補償を受けることができます。ただし、労災保険の給付が行われるのは休業4日目からとされています。

 

なお、業務災害の場合には休業給付の待機3日間に対して会社(使用者)の補償義務があるため、平均賃金に相応する補償金が支払われますが、通勤災害の場合には補償義務がないため、補償金の支払いは会社(使用者)の裁量によります。

 

通勤災害において、労災保険給付を受ける際に必要な請求書、請求書の提出先は以下になります。

 

労災の種類

請求書

提出先

療養給付

様式第16号の3

労災指定病院・薬局

休業給付

様式第16号の6

所轄の労働基準監督署

障害年金

様式第16号の7

障害一時金

遺族年金

様式第16号の8

遺族一時金

様式第16号の9

葬祭給付

様式第16号の10

傷病年金

傷病の状態等に関する届

傷病の状態等に関する報告書

介護給付

様式第16号2の2

 

また、請求書は労働局・労働基準監督署でもらうことができます。厚生労働省のホームページでダウンロードすることも可能です。

 

関連リンク

労災保険給付関係請求書等ダウンロード

全国労働基準監督署の所在案内

 

 

通勤災害で提出する請求書の記入例

通勤災害において労災保険の申請を行うには、請求書や申請書といった書類を医療機関や労働基準監督署に提出する必要があります。

 

また、請求書は請求する労災保険の種類によってそれぞれ様式が異なり、請求する際にはそれぞれ請求書を用意して提出しなくてはなりません。

 

例として、療養給付を請求する際には医療機関に様式第16号の3を提出、休業給付を請求する際には様式第16号の6をそれぞれ提出します。

 

提出すべき書類の種類は把握していても、提出する書類の記入方法がいまいちわかっていない、という方は多いのではないでしょうか。

 

こちらでは、療養給付の請求時に必要な様式第16号の3の記入例をご紹介します。

 

様式第16号の3|療養給付(療養の給付)

様式第16号の3の記入例は下記のようになります。以下の項目で、記入する際のポイントをご紹介します。

 

様式第16号の3記入例

様式第16号の3記入例

参考:様式第16号の3|記入例

 

通常時の通勤経路はわかりやすく記入する

災害時の通勤の種別に関する移動の通常の通勤経路、方法、所要時間をわかりやすく記入する必要があります。

 

また、災害発生の日に住居あるいは就業場所から災害発生の場所に至った経路、方法、所要時間も記入します。

 

災害発生の状況や原因は詳しく記入する

災害発生日時は正確に記入する必要があり、災害発生の原因及び発生状況についても詳しく正確に記入する必要があります。発生状況を記入する上で重要なポイントは以下になります。

 

  1. どのような場所だったのか
  2. どのような状態だったのか
  3. どのような災害が発生したのか

 

負傷あるいは発病の年月日が初診日と異なる場合には、その理由も記載します。

 

災害の事実を確認した人の情報も必要

(ル)現認者の項目には災害の事実を確認した人の職名と氏名を記入します。

 

なお、該当者がいない場合には、災害発生の報告を受けた事業場の方の職名と氏名を記入します。

 

通勤災害に見舞われてから労災保険給付までの流れ

通勤災害が発生した後の流れは、労災保険指定病院(労災保険が指定した医療機関のこと)を受診する場合と労災指定病院以外の病院を受診する場合で異なります

 

これは、労災指定病院とそうでない医療機関では、行わなければならない手続きが異なるためです。

 

労災保険指定病院

基本的には支払い不要。通勤途中の怪我の場合には初診時のみ200円の負担がある。

それ以外の医療機関

治療費の全額を一旦負担する。後日、その金額を労働基準監督署に請求して払い戻しを受ける。

 

労災保険が指定した医療機関か否かは、下記のリンクで検索することが可能です。通勤災害発生後の手続きが異なるため、受診する病院が労災保険指定病院なのかどうか、予め把握しておくと良いかもしれません。

 

関連リンク

厚生労働省 労災保険指定医療機関検索

 

 

労災発生後の大まかな流れを以下で簡単に解説します。

 

労災保険指定の医療機関を受診した場合

労災保険指定の医療機関を受診した場合の、労災給付までの流れは以下のようになります。

 

  1. 通勤災害発生
  2. 労災保険指定の医療機関を受診(初診時のみ200円の負担。その他の医療費の負担なし)
  3. 治療を行なった病院に書類を提出(会社から請求書に証明を受ける。ただし、会社から証明を貰えない場合にも申請は可能です。)
  4. 労働基準監督署が書類を受理
  5. 労働基準監督署の審査(必要に応じて、労働基準監督署から聞き取り調査などの追加書類の提出を求められる場合あり)
  6. 給付金の支払い

 

労災保険指定の医療機関では、原則として無償で治療を受けること(現物支給)が可能です。治療とは、診察、検査などの医療行為のことです。

 

正しい手続きをとれば、基本的には医療機関に対して金銭の支払いを行う必要はありません。ただし、入院時のパジャマ代などの労災保険の給付対象外のものは自己負担となります。

 

なお、かかった治療費などは労災保険から医療機関に直接払われることになっています。

参考:労災保険|現物支給

 

通勤災害において労災保険指定の医療機関を受診した場合には、医療機関側が書類の提出などの手続きを行ってくれるため、被災した労働者は必要な請求書(療養の場合には第16号の3)を作成して医療機関に提出するだけで労災の申請は完了します。

 

ただし、労働基準監督署が労災として認定しなかった場合には、労災の給付金を受け取ることはできません。この場合には、調査を再度行うように労働基準監督署へ再審査を依頼することが可能です。詳しくは再審査についての項目をご覧ください。

 

労災保険指定の医療機関以外を受診した場合

労災保険指定の医療機関以外を受診した場合の、労災給付までの流れは以下のようになります。

 

  1. 通勤災害発生
  2. 労災保険指定以外の医療機関を受診
  3. 医療機関に治療費の支払い(一旦、全額負担する)
  4. 労働基準監督署へ請求書の提出(看護、移送などに要した費用があれば領収書などを添付。会社から請求書に証明を受ける。ただし、会社から証明を貰えない場合にも申請は可能です。)
  5. 労働基準監督署の審査(必要に応じて、労働基準監督署から聞き取り調査などの追加書類の提出を求められる場合あり)
  6. 給付金の支払い(指定された請求人の振込口座へ入金)

 

労災保険指定の医療機関以外を受診した場合には、一時的に治療費を全額負担する必要があります。なお、労災の場合には健康保険証の使用はできません。

 

(目的)

第一条 この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)第七条第一項第一号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。

引用:健康保険法

 

よって、医療費は3割負担ではなく、10割負担になります

 

また、労災保険指定の医療機関を受診した場合には、労働基準監督署に対して治療費の請求を自ら行うことはありませんが、それ以外の医療機関を受診した場合には、請求書に領収証を添付して労働基準監督署へ提出する必要があります。

 

治療費の全額を一時的に負担したとしても、返金が行われることになるため、結果として自己負担はありません。しかし、一時的に10割負担の治療費を立て替えなければならないことと、後日、治療費を請求する必要があることを踏まえると、少々面倒な手続きであると言えそうです

 

労災保険指定の医療機関では、10割負担の治療費を全額立て替える必要がある

 

また、労災保険が指定した病院以外を受診した場合であっても、労働基準監督署が労災として認定しなかった場合には、労災の給付金を受け取ることはできません。この場合には、調査を再度行うように労働基準監督署へ審査を依頼することが可能です。詳しくは再審査についての項目をご覧ください。

 

健康保険で受診してしまった場合

就業中や通勤中の災害が原因で負った傷病に関しては労災保険の対象となり、健康保険の使用はできません。

参考:労働災害に健康保険は使えません

 

(目的)

第一条 この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)第七条第一項第一号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。

引用:健康保険法

 

(他の法令による保険給付との調整)

第五十五条 被保険者に係る療養の給付又は入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、移送費、傷病手当金、埋葬料、家族療養費、家族訪問看護療養費、家族移送費若しくは家族埋葬料の支給は、同一の疾病、負傷又は死亡について、労働者災害補償保険法、国家公務員災害補償法(昭和二十六年法律第百九十一号。他の法律において準用し、又は例による場合を含む。)又は地方公務員災害補償法(昭和四十二年法律第百二十一号)若しくは同法に基づく条例の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない。

引用:健康保険法

 

もし、労災であるにも関わらず健康保険を使用した場合には、全国健康保険協会(協会けんぽ)が負担している医療費(7割)を返金した後に、労災保険へ請求する手続き、または、医療機関で労災保険に切り替えをする手続きのいずれかを行う必要があります。

関連リンク:全国健康保険協会

 

通勤災害であるにも関わらず、健康保険で医療機関を受診してしまった場合には、受診した医療機関に健康保険から労災保険への切り替えが可能か問い合わせてみましょう

 

問い合わせた後の流れは以下のようになります。

 

健康保険から労災保険への切り替えができる場合

この場合、病院の窓口で支払った金額が返金されます。

  1. 労災保険の様式第16号の3の請求書を受診した病院に提出する

 

健康保険から労災保険への切り替えが行えない場合

この場合、一旦、医療費の全額を自己負担した上で、労災保険に請求することになります。

  1. 全国健康保険協会へ業務災害または通勤災害である旨を申し出て、負傷原因報告書を記入して提出する。
  2. 全国健康保険協会から医療費返納の通知と納付書が届く。
  3. 金融機関で返納金を支払う。
  4. 返納金の領収書と病院に支払った窓口一部負担金の領収書を添付し、労災保険の第16号の5を記入して、労働基準監督署へ医療費を請求する。

参考:労災で健康保険証を使用してしまった

 

健康保険から労災保険への切り替えが行えない場合には、一時的に全額を自己負担となるため、被災された労働者にとっては大きな負担となり得ます。

 

そのため、医療機関を受診する場合には労災保険として受診することを予め伝えるようご注意ください。

参考:お仕事のケガには労災保険|健康保険を使用した場合

 

通勤災害と認められなかった場合の対処法

発生した災害が通勤災害であるか否かは労働基準監督署の判断によって決まります。労働基準監督署によって労災が適用であると判断されなかった場合には、労災保険の給付金を受け取ることはできません

 

もし、通勤災害であると認められなかった場合にはどのような対策法があるのでしょうか。こちらの項目では通勤災害として認められなかった場合の対処法をご紹介します。

 

不服申し立て

労災保険の給付は労働基準監督署が発生した災害の事実や原因などの調査を行い、その調査結果に基づいて支払われることになっています。

 

労働基準監督署の決定に不服がある場合には、不服申し立てをして再度調査を行うように再審査請求を行うことができます。

 

その結果にも不服がある場合、再度審査請求をすることが可能となっており、合わせて2度の異議申し立てをすることができます。しかし、審査請求やその後の再審査請求判断の結果が変わる可能性は極めて低いと言われています。

 

その後の判断にも不服がある場合には、行政訴訟を起こすことが可能です。しかし、訴訟には費用や時間などがかかるため、余程の不服が無い限り、良い手とは言えないかもしれません。

参考:労災保険審査請求制度

 

なお、審査請求を行うことができるのは以下の人に限られます。

  • 原処分を受けた者
  • 原処分に対し利害関係を有する保険加入者(事業主)
  • 行方不明による遺族補償給付などの受給権者の財産管理人
  • 原処分を受けた者が審査請求前に死亡した場合の相続人

 

弁護士に相談

通勤災害であると認定されなかった場合には、60日以内に審査請求をすることができます。その後再審査請求で下された判断にも不服がある場合には、訴訟へ移行することが可能です。

 

そういった場合には、手続きが重厚になるため、法律の専門的知識や経験を持つ弁護士にアドバイスを求めても良いかもしれません。

 

通勤時の災害が労災保険認定されるために知っておくべきこと

こちらでは、通勤時の災害が労災保険として認定されるために、予め知っておくべきことを簡単にご紹介します。

 

労災の申請には時効があるので注意

労災保険の給付申請には時効が設けられており、これは労働者災害補償保険法によって定められています。

 

第四十二条 療養補償給付、休業補償給付、葬祭料、介護補償給付、複数事業労働者療養給付、複数事業労働者休業給付、複数事業労働者葬祭給付、複数事業労働者介護給付、療養給付、休業給付、葬祭給付、介護給付及び二次健康診断等給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から二年を経過したとき、障害補償給付、遺族補償給付、複数事業労働者障害給付、複数事業労働者遺族給付、障害給付及び遺族給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から五年を経過したときは、時効によつて消滅する。

引用:労働者災害補償保険法

 

例えば、療養給付には2年、障害給付には5年の時効がそれぞれ設けられています。時効を過ぎると労災保険給付の請求権が失効してしまうので注意しましょう。

 

労災保険給付の種類

時効

  • 療養補償給付
  • 休業補償給付
  • 葬祭料
  • 介護補償給付
  • 複数事業労働者療養給付
  • 複数事業労働者休業給付
  • 複数事業労働者葬祭給付
  • 複数事業労働者介護給付
  • 療養給付
  • 休業給付
  • 葬祭給付
  • 介護給付及び二次健康診断等給付

2年

  • 障害補償給付
  • 遺族補償給付
  • 複数事業労働者障害給付
  • 複数事業労働者遺族給付
  • 障害給付及び遺族給付

5年

参考:労災保険給付の請求の時効 | 茨城労働局

 

関連記事

労災の相談・申請は労働基準監督署へ!請求方法や時効についても解説

 

通勤災害であると想定されるにも関わらず労災を申請しない場合

通勤中に起きた災害が労災であると申請した場合、「会社に迷惑がかかるのではないか」と考えている方もいるのではないでしょうか。

 

業務災害の場合には労災給付の申請によってその年度の保険料が変動するため、なるべく労災給付の申請はしたくない、というのが企業の本音かもしれません。

 

しかし、通勤災害に関する労災保険の給付はこれに該当せず、申請したとしても保険料の上下はありませんので、「通勤災害」においては会社に迷惑がかかる心配は無用です。

 

あるいは、会社が労災保険の申請に協力的でない場合もあるかもしれません。

 

しかし、会社が労災申請に協力をしてくれない場合にも申請は可能であり、労働者から労災保険の申請を希望されて、明らかに労災であるにも関わらず労働基準監督署へ報告をしない、あるいは事実とは異なる虚偽の報告をするなどをした場合には、それは労災隠しとなります。

 

労災隠しは厳正に処分され、50万円以下の罰金に処されます。

 

第百二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。

引用:労働安全衛生法

 

何れにしても、発生した災害が通勤災害であるか否かを判断するのは労働基準監督署であるので、会社の顔色はさほど気にすることはないのかもしれません。通勤災害として認められるか不安だという場合にも、自己で判断を下さず、労災の申請を行ってみましょう。

 

交通事故の場合の注意点

通勤の途中で起きた災害のうちで交通事故であった場合には、補償に利用する保険は労災保険だけでなく他の保険(相手の任意保険など)からの補償を受けることができます。

 

労災保険と他の保険を併用することも可能ですが、両方から二重の補償を受けられるわけではありません。

 

例えば、通勤中に交通事故に遭い、自賠責で補償を受け取った後に、労災保険を受け取る場合には、自賠責で受け取った分の補償は労災で支払われる補償から控除されます。また、労災保険を利用して補填されなかった部分について加害者側の自動車保険で補填してもらうという処理も可能です。

 

交通事故にあった場合、自賠責と労災保険のどちらを先に請求するかという問題については、自賠責保険は損害賠償額の支払いが速やかに行われる可能性がありますが、相手が争う場合もあります。

 

労災保険は相手が争うということはあまりないものの、補償額に限界があります。いずれも一長一短なので、どちらを先行して利用するべきか迷った場合は弁護士に相談するべきです。

参考:自賠責と労災給付

 

まとめ

通勤中の事故が思いがけず発生し、労災保険給付をするには必要な書類を用意する必要があります。そのため、つい申請を敬遠してしまいがちです。

 

しかし、会社側が通勤災害であることを隠して健康保険などを利用させることは犯罪となりますし、被災した労働者にとっても後により複雑な手続きをとることになってしまうため良い判断とは言えません。

 

通勤災害の流れや決まりなどの知識を予め念頭に置き、労災保険の申請を適正に行えるようにしましょう。

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この記事の監修者
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤康二 弁護士 (第二東京弁護士会)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。
編集部

本記事はベンナビ労働問題(旧:労働問題弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ労働問題(旧:労働問題弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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