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代替休暇制度(だいたいきゅうかせいど)とは、月60時間を超える部分の時間外労働について、50%以上の割増賃金の支払いの代わりに有給休暇を与える制度(労働基準法37条3項)です。
割増賃金の代わりに有給休暇を与えることで、会社にとっては残業代の抑制に繋がり、労働者の健康にとってもプラスに働くというメリットがあります。
労働基準法では、時間外労働に関するさまざまなルールが設けられています。
「代替休暇制度(だいたいきゅうかせいど)」も、時間外労働に関する労働基準法上のルールの一つです。
企業は代替休暇制度を利用することにより、労働者に対して支払う残業代の金額を抑えられる可能性があります。しかし、代替休暇制度を利用するためには、労働基準法令で定められる手続きとルールを遵守することが必要です。
この記事では、代替休暇制度の概要や利用要件などについて、労働基準法の規定内容に沿って解説します。
代替休暇制度について解説する前に、まずは時間外労働に関する労働基準法上のルールをおさらいしておきましょう。
労働基準法の基本的なルールとして、労働者に時間外労働をさせることは原則禁止とされています。
使用者は、労働者に週40時間・1日8時間(法定労働時間)を超えて労働させることは、原則としてできません(労働基準法32条1項、2項)。
(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
○2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。引用元:労働基準法32条
ただし、使用者と労働者の間で時間外労働に関する労使協定が締結された場合には、使用者が労働者に時間外労働をさせることが例外的に認められます。
この労使協定を、条文番号からとって一般に「36協定」(労働基準法36条1項)と呼んでいます。
(時間外及び休日の労働)
第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。引用元:労働基準法36条
36協定に基づき、使用者が労働者に法定労働時間を超えて労働をさせる場合、超過時間については25%以上の割増賃金の支払いが必要です(労働基準法37条1項)。
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。引用元:労働基準法37条
また、
とそれぞれ割増率が定められています。
通常の時間外労働についての法定の割増率は25%以上ですが、1か月に60時間を超える時間外労働をさせた場合、その超過分については50%以上の割増賃金の支払いが必要になります(労働基準法37条1項但し書き)。
【関連記事】労働基準法第37条とは|休日・深夜労働の割増賃金規定を詳しく解説
ただし現時点では、中小企業に対する50%以上の割増率の適用は免除されています。中小企業の定義は業種によって異なり、具体的には以下のとおりとなっています。
業種 |
資本金の額または出資の総額 |
常時使用する労働者の数 |
小売業 |
5,000万円以下 |
50人以下 |
サービス業 |
5,000万円以下 |
100人以下 |
卸売業 |
1億円以下 |
100人以下 |
その他 |
3億円以下 |
300人以下 |
※「資本金の額または出資の総額」または「常時使用する労働者の数」のいずれかが上記の要件を満たす場合、中小企業に該当する
ただし2023年4月1日以降は、中小企業に対する猶予措置は撤廃されます。
したがってそれ以降は、1か月当たり60時間超の時間外労働に対しては、中小企業においても大企業と同様に50%以上の割増賃金の支払いが必要になります。
ここからは、「代替休暇制度」について詳しく解説します。
まずは、代替休暇制度がどのような制度なのかについて、基本的な知識を押さえておきましょう。
代替休暇制度とは、月60時間を超える部分の時間外労働について、50%以上の割増賃金の支払いの代わりに有給休暇を与える制度です(労働基準法37条3項)。
○3 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。
引用元:労働基準法37条3項
割増賃金の代わりに有給休暇を与えることで、会社にとっては残業代の抑制に繋がり、労働者にとってはお金の代わりに健康を手にするといった効果があります。
代替休暇制度の導入には、労使協定の締結が必要です。
労働者側については、労働者の過半数で組織する労働組合か、それがない場合には、労働者の過半数を代表する者が当事者となって労使協定を締結します。
労使協定で定めておくべき具体的な内容については、後で解説します。
代替休暇制度は、あくまでも通常の割増賃金との差額の支払いを免除する制度です。
したがって、代替休暇制度による有給休暇の付与が行われる場合であっても、通常の時間外労働に対して支払われる25%以上の割増率による割増賃金の支払いは必要になります。
代替休暇制度が設けられている場合でも、労働者は代替休暇を取得するか、50%以上の割増賃金の支払いを受けるかを任意に選択できます。
よって、会社の側が割増賃金を支払いたくないからといって、労働者に代替休暇の取得を強制することはできません。
その逆も同様です。
代替休暇制度を利用して有給休暇を労働者に付与する場合、その日数をどのように計算すれば良いのかについて解説します。
代替休暇は、まずは時間数ベースで計算され、その後付与単位に応じて日数に換算されることになります。
代替休暇の時間数は、以下の計算式によって計算されます。
代替休暇の時間数=
労働者が代替休暇の取得を選択した月60時間超の時間外労働の時間数×換算率
換算率とは、60時間超の時間外労働に関する割増率(50%以上)と、通常の時間外労働に関する割増率(25%以上)の差に相当する率をいいます。
代替休暇を与える単位は、1日または半日とされています(労働基準法施行規則19条の2第1項第2号)。
一 法第三十七条第三項の休暇(以下「代替休暇」という。)として与えることができる時間の時間数の算定方法
二 代替休暇の単位(一日又は半日(代替休暇以外の通常の労働時間の賃金が支払われる休暇と合わせて与えることができる旨を定めた場合においては、当該休暇と合わせた一日又は半日を含む。)とする。)
したがって、上記で計算した時間数分の代替休暇を、労使協定の定めに従って1日または半日単位で与えることになります。
1日単位での取得の場合は、所定労働時間数分の代替休暇が消費されます。
一方、付与単位を半日とする場合には、労使協定において午前・午後で異なる時間数を定めておくことも可能です。
たとえば9時始業・18時終業(昼休み12時~13時)の会社において、午前休の場合は3時間、午後休の場合は5時間分の代替休暇を消費する取り扱いとするなどの例が考えられます。
なお、端数の時間がある場合、労使協定で定めていれば、労働者の希望により代替休暇と他の有給休暇と合算して付与することも可能です。
上記の説明だけではわかりにくい部分があるかもしれませんので、具体的な例を用いて代替休暇の日数を計算してみましょう。
上記の設例の場合、50%以上の割増賃金の支払い対象となる月60時間超の時間外労働は、90-60=30時間分あります。
この30時間分に換算率をかけることで、代替休暇の時間数を求めます。
換算率は、通常の時間外労働の割増率と、月60時間超の時間外労働の割増率の差になります。
この設例の場合、換算率は50-25=25%です。
よって、代替休暇の時間数は、30時間×25%=7.5時間となります。
この会社では、代替休暇を1日または半日単位で取得できますが、所定労働時間が8時間となっています。よって、代替休暇の時間数が不足しているため、1日単位で代替休暇を取得することはできません。
したがって、労働者が取得できる代替休暇は、午前休または午後休1回のみとなります。もし、労働者が午前休・午後休のいずれかを代替休暇として取得する場合、4時間分の代替休暇が消費されます。
このとき、もともと50%の割増賃金を支払うはずだった30時間分の時間外労働については、割増率が以下のとおり変更されます。
4時間÷25%=16時間(実際に取得した4時間分の代替休暇に対応する時間外労働)
30時間-16時間=14時間
代替休暇制度を実施するために締結が必要となる労使協定では、以下の内容を定めておく必要があります。
労使協定では、代替休暇の時間数の算定方法を明記しておくべきことが法令上要求されています(労働基準法施行規則19条の2第1項第1号)。
具体的には、前の項目で解説した時間数の計算方法を記載しておけばOKです。
代替休暇の取得単位は、1日または半日です(労働基準法施行規則19条の2第1項第2号)。なお、労働者がどちらか一方を選択できるルールとしておくこともできます。
代替休暇制度は、特に長時間の時間外労働を行った労働者の休息の機会を確保することが目的です。
そのため、月60時間超の時間外労働が行われた月から、一定の近接した期間内に代替休暇を与える必要があるとされています。
具体的には、労使協定において、60時間超の時間外労働を行った月の末日の翌日から2か月以内の期間で与えることを定める必要があります(労働基準法施行規則19条の2第1項第3号)。
代替休暇の取得日の決定方法とは、具体的には労働者に対して、代替休暇を取得する意思があるかどうかの意向確認を行う手続きを意味します。
代替休暇の取得日の決定方法を労使協定で定めておくことは法令上ではありませんが、賃金の支払い額を早期に確定させ、トラブルを防止する観点から規定しておくことが推奨されます。
たとえば、
などの形で、労働者の意向確認に関するスケジュールを定めておくと良いでしょう。
によって、会社が労働者に対して支払うべき割増賃金の金額は変わります。
したがって割増賃金の金額決定は、労働者への代替休暇の取得に関する意向確認を済ませた後に行う必要があります。
意向確認手続きのタイミングと、割増賃金の支払日の兼ね合い・調整については、トラブル防止の観点から事前に定めておくことが推奨されます。
代替休暇制度については、労使協定においてルールを明確に定めておくことに加えて、就業規則にも明記しておく必要があります。
これは、休暇が就業規則の必要的記載事項とされているためです(労働基準法89条1項)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項引用元:労働基準法89条
細かいルールについては「労使協定で別途定める」などとしてもかまいません。
しかし代替休暇制度を採用しているということと、労働基準法に定められている基本的なルールなどについては、最低限就業規則に明記しておきましょう。なお、新たに代替休暇制度を導入する場合には、就業規則の変更手続きを取る必要があります。
この場合、労使協定の内容を添付したうえで、労働基準監督署に対して変更後の就業規則を届け出なければなりません(労働基準法89条、90条2項)。
(作成の手続)
第九十条 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。引用元:労働基準法90条
代替休暇制度は、長時間労働を行った労働者に対して、割増賃金の支払いの代わりに有給休暇を付与する制度です。
会社にとっては残業代の支払いを抑制でき、労働者にとっては健康の維持に繋がることから、労使双方にとってメリットのある制度として期待されています。
ただし、代替休暇を取得するかどうかは労働者の任意であることから、会社側が残業代をコントロールするという効果については限定的と言わざるを得ません。
また「代替休暇を付与すれば長時間労働をさせても良い」というわけではないので、長時間労働の抑制を含めた働き方改革への取り組みも、会社側が主導して引き続き推進する必要があるでしょう。
会社が代替休暇制度を導入する場合、労使協定の締結と就業規則の変更が必要になります。
どちらも法的な観点からの専門的なチェックが必要となりますので、弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。特に労使協定の締結にあたっては、労使の間で非常にセンシティブな交渉が行われるケースが多く見られます。
労使間での揉め事を避けるためにも、弁護士の視点からのアドバイスを受けながら交渉を進めるのが安心です。
代替休暇制度の導入などについて、不当な取得を強いられている場合は特に、弁護士にご相談ください。
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確かに労働基準法では、「管理監督者」には残業代を支払わなくても良いと明記されておりますが、会社で定める「管理職」が労働基準法で言う「管理監督者」に当たらないケースもあります。
この場合は会社側が労働基準法違反となり、残業代を支払う義務を負います。このような名ばかり管理職問題についてまとめた記事がございますので、詳しくはそちらをご覧ください。
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固定残業時間を上回る残業を行ったり、会社が違法な固定残業代制度をとっていた場合はもれなく残業代請求が可能です。直ちに弁護士に相談しましょう。
残業代請求に対する企業からの報復行為は、そのほとんどが違法とみなされているため積極的にされることはありません。
ただし、少なからず居心地が悪くなる懸念もあります。一般的には在職中に証拠を集めるだけ集め、その後の生活を守るために転職先を決めてから残業代請求を行うのがベターと言えるでしょう。
残業代請求の時効は3年となっております。
退職してからゆっくり残業代請求を行う場合、どんどん請求可能期間が短くなってしまいますので、一早く請求に対して動き始めましょう。
また、弁護士に依頼して内容証明を会社に送ることで、時効を一時的にストップさせることが出来ます。