パワハラ・セクハラ・未払い残業代・過重労働・リストラなどの労働トラブルが起こった際に、専門家に相談したくても費用がネックになり、相談が出来ず泣き寝入りしてしまう方が多くいらっしゃいます。
そんな方々を、いざという時に守るための保険が弁護士費用保険です。
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パワハラ被害を受けていて、在職時はその余裕がなかったものの、退職してから被害を訴えたいと考えることもあるでしょう。
パワハラの被害は在職中だけでなく、退職後にも訴えることができます。弁護士に相談して、適切な準備を整えたうえで損害賠償請求などをおこないましょう。
本記事では、退職後にパワハラ被害を訴えられることができるかどうかや、訴える場合に必要な準備・手続き・弁護士費用などを解説します。
本記事を参考にして、退職後にパワハラ被害を訴えるのに必要な基本的な知識を押さえましょう。
「パワハラ(パワーハラスメント)」とは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えており、労働者の就業環境を害するものをいいます(労働施策総合推進法30条の2第1項)。
パワハラに当たる行為をした者(=行為者)および行為者を雇用する企業は、被害者に対して損害賠償責任を負います。
被害者が退職した後でも、損害賠償請求権の消滅時効が完成していなければ、行為者や企業に対して引き続き損害賠償を請求可能です。
パワハラの被害者に対して、行為者は不法行為、企業(使用者)は使用者責任または安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負います。
パワハラに当たる行為は、被害者の権利・利益を違法に侵害して損害を与える「不法行為」に当たります(民法709条)。
不法行為に当たるパワハラの行為者は、被害者が受けた損害を賠償しなければなりません。
パワハラの行為者を雇用する企業は、被害者に対して使用者責任または安全配慮義務違反の責任を負う場合があります。
使用者責任とは、事業のために他人を使用する者が、被用者が事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任です(民法715条1項)。
雇用する労働者がパワハラをして、別の労働者に損害を与えた場合は、原則として会社も使用者責任を負います。
安全配慮義務とは、使用者が労働契約に伴い、労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるように必要な配慮をする義務です(労働契約法5条)。
企業は職場におけるパワハラを防止する措置を講ずる義務を負っているところ(労働施策総合推進法30条の2第1項)、適切な防止措置を怠った結果としてパワハラが発生した場合は、企業が被害者に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負います。
パワハラに関する損害賠償請求権は、以下の期間が経過すると時効によって消滅します。
以下のいずれかのうち早く経過する期間(民法724条、724条の2)
(a)損害および加害者を知った時から3年※
※人の生命・身体を害する不法行為については、損害および加害者を知った時から5年
(b)不法行為の時から20年
以下のいずれかのうち早く経過する期間(民法166条)
(a)権利を行使できることを知った時から5年
(b)権利を行使できる時から10年
退職後であっても、上記の時効期間が経過するまでは、行為者や企業に対して損害賠償を請求可能です。
これに対して時効期間が経過してしまうと、退職しているか否かにかかわらず、パワハラの損害賠償請求ができなくなります。
早い段階で弁護士に相談して、内容証明郵便の送付や訴訟の提起などによって時効完成を阻止しましょう。
退職後にパワハラに関する損害賠償を請求する際には、あらかじめ以下の準備をおこないましょう。
パワハラの損害賠償請求に当たっては、パワハラに当たる行為を具体的に特定しなければなりません。
そのためには、パワハラの経緯を時系列に沿って整理することが役立ちます。
順を追って経緯を振り返ることで、パワハラに当たる行為を漏れなくリストアップできます。
パワハラに当たる行為を豊富に挙げることができれば、会社の責任が認められる可能性が高まります。
記憶と資料の両方を手掛かりとして、できる限り正確に時系列を整理しましょう。
パワハラの損害賠償請求を成功させるには、パワハラに関する証拠を確保することが非常に重要です。
証拠として用いることができる資料等は、パワハラの種類によって異なります。
以下の具体例を参考にして、有力な証拠をできる限り豊富に確保しましょう。
殴る、蹴るなど
<証拠例>
人格を否定するような侮辱、暴言など
<証拠例>
仲間外れにする、「追い出し部屋」に異動させるなど
<証拠例>
達成不可能なノルマを課す、不必要な雑用を担当させるなど
<証拠例>
管理職を経験した労働者に単純作業しか与えない、全く仕事を与えないなど
プライベートな事項を過度に詮索する、付きまとうなど
パワハラの被害について請求できるのは「慰謝料」というイメージが広まっていますが、実際にはさまざまな項目の損害賠償を請求できます。
以下に挙げるのは、パワハラに関して請求できる損害賠償の項目例です。
慰謝料に限らず、賠償を請求できる損害項目を漏れなく集計して、適正額の損害賠償を請求しましょう。
パワハラの被害を受けたことによって、実際に支出を強いられた費用です。
(例)
パワハラの被害を受けたことによって、将来にわたり失われた経済的利益です。
(例)
パワハラの被害によって受けた精神的損害です。
(例)
退職した後でパワハラ被害に関して損害賠償を請求する際には、以下の手順で対応しましょう。
パワハラについて行為者と会社の責任を立証するため、まずはパワハラ被害に関する証拠を確保することが大切です。
前述のとおり、パワハラを立証するのに有力な証拠は、パワハラの種類によって異なります。
対応する証拠例を参考にして、できる限り有力な証拠を確保しましょう。
弁護士に相談すれば、証拠収集の方法や着眼点などについてアドバイスを受けられます。
なお会社のメールなど、会社が管理している証拠については、退職してしまうとアクセスしにくくなります。
できる限り退職前の段階で、パワハラの有力な証拠を集めておくことが望ましいです。
パワハラを立証し得るだけの証拠が確保できたら、実際に行為者や企業に対して損害賠償請求をおこないましょう。
パワハラの損害賠償請求に当たっては、まず内容証明郵便で請求書を送付するのが一般的です。
内容証明郵便の送付には、損害賠償請求権の消滅時効の完成を6か月間猶予する効果があります(民法150条1項)。
内容証明郵便には、損害賠償の請求額や支払期限などを記載します。
行為者や企業の側から反論される可能性は高いですが、ひとまず労働者側として主張する金額等を記載しましょう。
どの程度の金額を請求するかについては、弁護士に相談しながら決めることをおすすめします。
内容証明郵便について返信を受けたら、パワハラの行為者や企業との間で示談交渉をおこないましょう。
示談交渉では、被害者と行為者または企業がそれぞれ示談金額を提示しながら、状況に応じて歩み寄って和解を目指します。
法的な観点から金額相場を見積もったうえで、その金額を基準として、相手方が提示する示談金額が妥当かどうかを判断しましょう。
早期解決を重視する場合は、一定程度の譲歩も検討すべきです。
解決の内容について合意できたら、合意内容をまとめた示談書を締結し、その内容に従って損害賠償金の支払いを受けましょう。
パワハラの被害者側と行為者・企業側の主張が大きく食い違っている場合は、示談が成立しない可能性が高いです。
その場合は、地方裁判所に労働審判を申し立てましょう。
労働審判とは、労使紛争を迅速に解決することを目的とした法的手続きです。
裁判官1名と労働審判員2名で構成された労働審判委員会が労使の主張を公平に聴き取り、調停(=話し合い)または労働審判(=強制力のある判断)を通じて労使紛争の解決を目指します。
審理が原則として3回以内の期日で完結するため、紛争の早期解決が期待できます。
労働審判の申立てに当たっては、労働審判委員会に対して、パワハラの事実や受けた損害などを法的根拠に基づき主張することが大切です。
審理の期間が短い分、初回の期日までの準備が結論を大きく左右するため、弁護士へ相談ながら慎重に準備を整えましょう。
労働審判に対しては、異議申立てが認められています。
異議申立てがおこなわれた場合、自動的に訴訟手続きへ移行します。
また、パワハラに関する労使の主張が大きく食い違っている場合は、労働審判がおこなわれても異議申立てがなされる可能性が高いです。
その場合は、労働審判を経ずに、裁判所に対して直接訴訟を提起することも考えられます。
訴訟では、パワハラの被害者側が損害賠償請求権の要件を立証しなければなりません。
労働審判よりもさらに厳密な立証が求められるので、弁護士に訴訟代理を依頼することを強くおすすめします。
退職後にパワハラ被害を訴える際にかかる費用としては、主に弁護士費用と裁判費用があります。
弁護士費用は、弁護士に損害賠償請求などの対応を依頼する際の費用です。
具体的な費用の額や計算方法は、依頼先の弁護士によって異なります。
多くの場合、弁護士費用は着手金と報酬金の2段階に分かれています。
着手金は請求額、報酬金は獲得額に応じて計算されるのが一般的です。
「日本弁護士連合会弁護士報酬基準」(現在は廃止)を参考に、パワハラの損害賠償請求を弁護士に依頼する際の着手金・報酬金の目安額を紹介します。
実際の費用については、相談先の弁護士へ個別にご確認ください。
<着手金額の目安>
請求額が300万円以下の場合 |
請求額の8.8% |
300万円を超え3000万円以下の場合 |
請求額の5.5%+9万9000円 |
3000万円を超え3億円以下の場合 |
請求額の3.3%+75万円9000円 |
3億円を超える場合 |
請求額の2.2%+405万9000円 |
※着手金の最低額は11万円
<報酬金額の目安>
獲得額が300万円以下の場合 |
獲得額の17.6% |
300万円を超え3000万円以下の場合 |
獲得額の11%+19万8000円 |
3000万円を超え3億円以下の場合 |
獲得額の6.6%+151万8000円 |
3億円を超える場合 |
獲得額の4.4%+811万8000円 |
裁判費用は、労働審判の申立てや訴訟の提起にかかる費用です。
裁判費用には大きく分けて、申立書や訴状に貼るべき収入印紙と、送達などに必要な郵便切手(郵券)の2つがあります。
収入印紙の金額は、損害賠償の請求額(訴額)に応じて決まります。
裁判所が公表している手数料額早見表をご参照ください。
郵便切手の金額は、数千円程度となるのが一般的です。具体的な金額は、管轄裁判所にご確認ください。
退職後にパワハラ被害を訴える際には、以下の2点に留意して対応しましょう。
パワハラによって精神疾患(うつ病など)を発病した、休業によって収入を得られない時期があったなどの事情がなく、単に慰謝料だけを請求する場合の金額相場は50万円から100万円程度です。
この場合はパワハラ被害について損害賠償を請求しても、弁護士費用や裁判費用を差し引くとほとんど残らなかったり、費用倒れになってしまったりするおそれがあります。
本当にパワハラの損害賠償請求をおこなうべきかどうかは、コストとリターンを総合的に考慮して判断しましょう。
パワハラによって精神疾患(うつ病など)を発病した場合は、労災保険給付の対象となります。
労災保険給付は、会社に対して請求できる損害賠償の一部をカバーするものです。
たとえば精神疾患の治療費や、療養のための休業によって失われた収入などが補償の対象となります。
業務災害の要件を満たしていれば、労災保険給付は早めに受給できる可能性がありますので、請求可能な給付を漏れなく請求しましょう。
ただし、慰謝料は労災保険給付の対象外であるほか、その他の損害についても全額が補償されるわけではありません。
労災保険給付と実際の損害の差額については、会社に対して損害賠償を請求しましょう。
パワハラに関する損害賠償請求が訴訟に発展すると、解決に至るまでに多大な時間と労力がかかります。
長期間にわたる訴訟を戦うためには、弁護士によるサポートが欠かせません。
信頼できる弁護士を探して依頼し、粘り強い対応を通じて、二人三脚で適正な損害賠償の獲得を目指しましょう。
退職後にパワハラ被害を訴える際には、証拠収集や法的検討、示談交渉・労働審判・訴訟への対応に多大な時間と労力を要します。
円滑に損害賠償請求をおこなうためには、弁護士によるサポートが必要不可欠です。
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