会社が従業員を解雇するには厳しい条件があります。
たとえ会社が退職勧奨してきても、最終的に会社を辞めるかどうかは労働者側が判断します。
しかし、会社は人件費の削減などの理由で退職勧奨という巧妙な手口を使い、従業員が自ら退職するように仕向けたりすることがあります。
本記事では、退職勧奨のよくある手口や退職勧奨された場合の対処法などを解説します。
会社から退職勧奨を受けているあなたへ
会社から退職勧奨を受けているけど、どう対処すればいいかわからず悩んでいませんか?
結論からいうと、退職勧奨自体に従う義務はありません。
もし、退職勧奨がしつこく繰り返される場合、弁護士に相談・依頼するのをおすすめします。
弁護士に相談すると以下のようなメリットを得ることができます。
- 退職強要の証拠の集め方を教えてもらえる
- 依頼すれば、代理人として会社と交渉してもらえる
- 依頼すれば、裁判手続きを任せられる
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退職勧奨とは?会社が自己都合で退職させたい理由
退職勧奨とは、会社が従業員に対して退職を勧めることです。
退職の種類としては、主に以下の2種類があります。
- 会社都合退職:会社が解雇通知をして一方的に従業員を辞めさせること
- 自己都合退職:従業員が自らの意思で会社に辞表を提出して辞めること
自己都合退職は基本的に労働者の自由ですが、会社が労働者を解雇するにはさまざまな法律上の制限があり、簡単に解雇することはできません。
たとえ解雇したとしても、客観的かつ合理的な理由がなければトラブルに発展する恐れもあるため、会社によっては従業員が自ら退職するように退職勧奨してくることがあります。
会社が退職勧奨で使ってくる3つの手口
退職勧奨の手口はさまざまで、ここでは以下3つの手口を解説します。
- 直接退職を迫ってくる「直接誘導型」
- 従業員に「辞めたい」と思わせる「パワハラ型」
- 大手企業が社外の機関と連携して退職を誘導する「外部型」
直接誘導型(直接誘導してくる)
直接誘導型は、退職勧奨の典型的な手口のひとつです。
「辞めたらどうだ」「君はこの仕事に向いてないよ」などと咎めたりして、退職届にサインするよう誘導していきます。
- 「環境を変えてみたらどうだ?」
- 「クビになるより自分で辞めるほうが今後にとってもいいだろ?」
上司からこのようなことを言われたら、転職を意識してしまう方もいるでしょう。
パワハラ型(パワハラを利用してくる)
従業員が会社を辞めたくなるように、以下のように厳しく当たってくる場合もあります。
- 急にノルマを増やす
- 暴言を吐く
- 全く仕事を与えない
- プロジェクトから外す
大手企業のなかには、退職させようとしている従業員を集めて極端に仕事を減らしたり、逆に達成不可能なノルマを与えたりするようなケースもあります。
たとえば、ある企業では各部署からサポートチームとして50人以上が集められたものの、用意されたPCは3台しかなく、業務内容も「お客様の整列」や「商品棚の整理」といった簡単な業務しか任せてもらえないということがあったようです。
外部型(社外の機関を使う)
大手企業の場合、さらに巧妙な手口が使われることがあります。
たとえば、過去には大手企業に属する産業医と共謀して休業を打診したり、精神疾患という扱いにして解雇事由に当てはめようとしたりする事例も起きています。
傷害致死の公訴事実で起訴されて起訴休職中であった原告につき、起訴休職期間の上限を2年とする就業規則には合理性があり、起訴休職期間満了後に「雇用関係を維持しがたい場合」に当たるとしてされた原告に対する解雇は有効であるとして、原告の地位確認及び賃金等の請求が棄却され、当事者間に再雇用の合意があったとも認められないとして、原告の予備的な損害賠償請求も棄却された事例
引用元:大阪高裁 平成30年4月19日(Westlaw Japan 文献番号|2018WLJPCA04196010)
また、人材紹介会社と共謀して退職勧奨をしてくる場合もあります。
この場合、まずはスキルアップの名目で人材紹介会社に出向させ、そこで人材紹介会社の職員に「別の業界のほうが向いている」と診断させます。
そして、会社に戻ってくると上司から「スキルアップのためにチャレンジしてもいいんじゃないか?」などと転職を勧めてきます。
非常に手の込んだ方法ですが、このように人材紹介会社を使った巧妙な方法もあるようです。
まず会社側がリストラをしたい対象労働者を、業務支援やスキルアップの名目で人材紹介会社へ出向させます。そこで、適正検査や適当な名目でテストを受けさせ、ある診断結果を伝えます。要は、別フィールドでの可能性やスキルアップのためのアドバイスを伝えるのです。
「あなたには○○の才能もありますよ」「営業のスキルに加えて、PCスキルを身につけるために転職したらさらに可能性が広がりますよ」など自尊心をくすぐり、表面上ではプライドを傷つけることもありません。
会社側からは、労働者へ退職勧奨することなくノータッチで自主的退職を促すことができるのです。
引用元:人材紹介会社へ丸投げ「新リストラ方法」とは? │excite.ニュース
退職勧奨は労働者に拒む権利がある
会社から「辞めたらどうだ」と言われても、従業員にはそれを拒む権利があり、従う義務はありません。
理不尽に感じた場合は拒否して、退職を勧めた理由を聞きましょう。
一度退職届にサインをしてしまうと、書面上は自ら退職を願い出たものとして自己都合退職扱いになります。
今の会社で働き続けたいのであれば、惑わされないようにしましょう。
退職勧奨が繰り返されると退職強要になる
会社によっては、退職を拒んでも一筋縄ではいかない場合もあります。
退職勧奨を拒んだことを理由に、会社がしびれを切らして正当な理由なく解雇してきたり、さらにパワハラがひどくなったり、不当に部署異動させられたりする可能性もあります。
損害賠償を請求できる場合がある
会社が退職勧奨を繰り返しおこなってきた場合は、退職強要として違法になる可能性があります。
この場合、損害賠償や不当に受けた扱いの撤回を求めることができます。
第七百九条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用元:民法第709条
何度も退職勧奨が繰り返される場合は、労働問題を得意とする弁護士に相談してください。
ひどい場合は強要罪にもなる
会社からの退職の強要があまりにもひどい場合、強要罪が成立する可能性もあります。
退職を迫られている証拠を集めたうえで弁護士に相談してください。
ただし、このような場合、このまま会社に残っていても居心地が悪く、退職を視野に入れて本格的に争うことになるでしょう。
拒み続けると解雇されるケースがある
労働者が会社からの退職勧奨を拒み続けると、会社から不当に解雇されてしまう恐れもあります。
「退職勧奨を拒否したら突如解雇された」という場合は、不当解雇にあたるのかどうか弁護士に相談し、不当解雇の場合は交渉や裁判手続きなどで問題解決を図りましょう。
退職勧奨での自己都合退職から会社都合退職にはできないのか?
退職勧奨をされて、すでに退職した方や退職届にサインをしてしまった方もいるでしょう。
ここでは、退職勧奨をされた場合に知っておくべきポイントを解説します。
自己都合退職よりも会社都合退職のほうがあとで有利になる
自己都合退職と会社都合退職では、失業手当を受け取る際の扱いが異なります。
自己都合退職の場合、会社都合退職よりも失業手当の支給開始日が遅かったりして、生活が厳しくなることもあるでしょう。
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会社都合退職
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自己都合退職
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給付制限
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なし
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あり
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給付日数
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90日~330日
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90日~150日
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支給開始日数
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7日後
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7日+2ヵ月後または7日+3ヵ月後
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国民健康保険料
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最大2年間軽減
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通常納付
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最大支給額
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約260万円
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約118万円
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なお、自己都合退職での支給開始日数については、2020年10月に失業等給付の制度改正がおこなわれたことで、5年間のうち2回の離職までは「7日+2ヵ月」、3回目以降は「7日+3ヵ月」となります。
退職届にサインをしてしまったら会社都合退職に変えることは難しい
一度退職届にサインをしてしまうと自己都合退職として扱われ、簡単には変更できません。
退職届の記入を強要されたり、本人の認識がないままサインさせられたりした場合は変更できる可能性があります。
ここでも重要になるのは「証拠」であり、「これにサインしろ」と言われたときの状況を記録したレコーダーや、繰り返しおこなわれた退職勧奨の状況をメモしたものやメールなどが証拠になります。
自己都合退職を会社都合退職に変える方法
自己都合退職を会社都合退職に変更するには、ハローワークに申請します。
これまで集めてきた証拠をもとに、ハローワークが会社に事実確認をおこないます。
報告内容と事実が一致すれば、自己都合退職から会社都合退職へ変更されます。
以下のような場合も変更が認められる可能性があり、失業手当の手続きの際にハローワークに証拠を持って相談しましょう。
- 「事務職で入社したのに営業に回された」
- 「60時間残業したら残業代が払われなくなった」
最後に
退職勧奨は、簡単には解雇できない会社が従業員を削減するために用いる手法です。
退職勧奨をされても簡単には応じずに、自身が働き続けたいのであれば拒み続けてください。
拒み続けたことで、パワハラ・不当解雇・不当な部署異動などがおこなわれた際は、できるかぎり証拠を集めて労働問題を得意とする弁護士に相談してください。