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職場での残業が60時間にもおよぶ場合、その過酷な状況に「きつい」と感じる人も多いのではないでしょうか。実際、長時間労働は健康障害を招く恐れがあるとされ、日本では働き方改革による残業規制の取組みがなされています。
しかし、全ての企業で長時間労働が改善されているわけではなく、劣悪な環境で労働する従業員がいまだに存在しているのも事実です。
長時間労働をおこなっていると、自身の好きなことに費やせる時間はほとんどなく、精神的にツラく感じるケースも増えてくると考えられます。
ご自身の仕事と生活のバランス状況を改善させるためにも、残業60時間に問題がないかを法的観点から確認してみましょう。
この記事では、残業60時間の実態に触れるとともに、その違法性や支払われるべき残業代について詳しく紹介します。長時間におよぶ残業問題に悩んでいる人は参考にしてください。
残業時間は職種や業種によってさまざまであり、繁閑によって差が生じる可能性もあります。そのため、月60時間の残業に「働きすぎなのでは」と感じていても、周りと比べて本当に残業60時間が長すぎるのかわからないという方も多いのではないでしょうか。
とくに、残業60時間が常態化している環境に長くいると、ますます周囲との違いに気づきにくい傾向があります。そこで、調査データに基づき残業60時間が労働社会においてどの程度に値するのか見ていきましょう。
転職サイトでお馴染みの「openwork」が2021年12月に公表した調査結果によると、日本の労働社会におけるひと月の平均残業時間は24時間という回答が得られました。
これはあくまで平均値のため、繁閑によって大きな差が生じる業界もあると考えられます。しかし、たとえそれを考慮したとしても、残業60時間は平均値の2.5倍にあたり、それが毎月のこととなればあきらかな長時間労働です。
上位にランクインしている業界を見ても「コンサルティング・シンクタンク(40.7時間)」「建築・土木・設備工事(37.3時間)」「広告代理店・PR・SP・デザイン(35.1時間)」となっているため、月60時間を超える残業は極めて過酷な状況だといえます。
参考:openWork働きがい研究所|OpenWork残業と有休10年の変化
長時間労働が深刻化すればするほど、プライベートの時間が削られていくのも事実です。従業員は休む暇なく働くことを余儀なくされるため、そのような状態だといずれ健康障害を招きかねません。
また月60時間の残業は、1ヵ月20日間出勤したとすると、1日3時間残業をしていることになります。
以下のとおり、仮の労働条件を定め、月60時間(1日3時間)の残業を当てはめた1日のスケジュールを作成しました。これを参考にすると、長時間労働が健康にどのような影響を与えるのかが見えてきます。
【労働条件】
通勤の所要時間・・・往復2時間
所定労働時間・・・8時間
就業時間・・・8:00~17:00(休憩1時間含む)
1日の残業・・・3時間(1ヵ月60時間)
労働条件を踏まえ、1日3時間(月60時間)の残業をおこなった場合、好きなことに費やせる時間は1時間程度ということになります。
これではたとえ自宅で映画鑑賞しようと思っても、最後まで見終えることができません。ジムに行こうにも、移動時間を考えるとなかなか難しいでしょう。それどころか、スマホをいじっているだけであっという間に過ぎてしまうことも考えられます。
このような状況でプライベートタイムを確保しようと思ったとき、多くの人が削ろうと思う時間が「睡眠」です。しかし、安易な考えで睡眠を削るのは危険だと考えられます。
というのも、睡眠時間を削ることは眠気や意欲低下といった精神機能の低下を招くだけでなく、体内のホルモン分泌や自律神経機能にも大きな影響を与えることがわかっているからです。
月60時間という残業がプライベートな時間を侵食し、リラックスしたり趣味を楽しんだりという時間が取れないことでストレスを助長すれば、鬱病などの精神疾患にかかる可能性もでてきます。
このように月60時間の残業は、健康障害を招く可能性が十分にある労働環境だといえるでしょう。
参考:睡眠と生活習慣病との深い関係 _ e-ヘルスネット(厚生労働省)
月60時間を超える残業は、一般的に見ても非常に長いことがわかりました。そうなると、気になってくるのが残業の違法性です。企業が従業員に違法な長時間労働させているのであれば、適正に対処しなければいけません。
そもそも企業が従業員に残業させる場合、労使間で労働基準法第36条をもとにした『36(さぶろく)協定』の締結が必要となります。36協定でも、従業員の残業は「原則45時間まで」とされており、その範囲を超える場合、新たに『特別条項付き36協定』を締結すれば例外的に上限を延長させることができます。
とはいえ、そのような『特別条項付き36協定』でも、残業時間には上限があり、最大でも月100時間未満、月平均80時間、年720時間未満、年6回までとされています。そのため、60時間の残業が毎月継続されているケースは違法となる可能性も否定できません。
そのような状態を踏まえたうえで、月60時間の残業におけるその他の違法性について、弁護士の意見を参考にしながら詳しく見ていきましょう。
参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|時間外労働の上限規制 わかりやすい解説
企業のなかには、従業員がいわゆる定時を過ぎて働いても、その時間に対して賃金を支払わない「サービス残業」を課しているところがあります。このとき、「定時以降は労働記録を残さない」といった方法で、従業員の残業をなかったことにしている可能性も考えられます。
サービス残業は「賃金未払い」という点で違法となり、企業側は処罰を受けなければいけません。また、今まで未払いだった残業代を従業員に支払う義務もあり、適正な対処が必要となります。
具体的には、会社がタイムカードなどで適正に労働時間の管理・把握をしているように装いつつ、従業員に対しては定時でタイムカードを打刻させたうえで、残業を命じるというものです。
このような場合、残業があってもタイムカード上は残業をした記録が残らないため、労働者側で残業行為の立証ができず、結局、残業代の請求ができない(サービス残業となる)というからくりです。
このような行為は、故意に残業代を支払わない行為であって悪質であり、当然、違法です。そのため、現在はここまで露骨な違法行為を積極的に実践している会社はほとんどないと思います。
もし仮にここのような悪しき慣習をいまだに実施しているような場合は、まともな会社ではないので転職も視野にいれるべきでしょう。
企業によっては、従業員の実労働時間に関係なく、一定の残業代をあらかじめ給与に計上しているケースがあります。このような支給制度を『固定残業代制度』といい、「みなし残業」「定額残業代」といわれることもあります。
固定残業代制度自体は違法のあるものではなく、適正に導入・運用されていればまったく問題ありません。しかし、一部の企業では給与に含んである残業代以上の時間外労働を従業員に課しているにもかかわらず追加分の残業代が支給されない場合もあり、制度が不適切に運用されているケースが見られます。
「残業を長時間しているにもかかわらず、残業代が追加支給されない」なら、固定残業代制度を隠れ蓑にしたサービス残業として運用されている可能性を疑う必要があります。
たとえば、固定残業代制度を実施するためには、雇用契約書等で通常賃金部分と割増賃金部分が明確に区別されている必要がありますし、固定支給分(割増賃金分)が残業(時間外労働や休日労働等)の対価として支払われている必要があります。
そのため、雇用契約書や就業規則を見ても割増賃金部分が明確でないような場合や、基本給等に比して割増賃金部分が過剰であるような場合は、適正な制度運用ではないと評価され、固定支給分が割増賃金の支払いと認められないことがあります。
この場合、1ヵ月単位では少額でも、積もり積もって高額の未払い残業代が生じている可能性もあります。
なお、当然のことですが、固定残業代制度はあくまで支払った範囲で残業代が精算されていると認められるに留まり、固定残業代を超える残業代の支払い義務を全面的に免除するような制度ではありません。
そのため、実労働時間に従って支払われるべき残業代が固定残業代を超過するようであれば、超過分は別途精算される必要があります。
企業のなかには「管理職だから」という理由で役職者に残業代を支払わないケースがあります。たしかに、労働基準法第41条では、管理監督者に対する割増賃金の支給を一部適用除外としています。しかし、対象者に部署の統括任務がなかったり企業の経営に関与していなかったりする場合、その対象者は「管理監督者」といえません。
すなわち、企業は管理職に就く従業員であっても、その職務内容次第では残業代の支払いが必要で、未払いの状態だと違法になる可能性が考えられるのです。
労働基準法は『管理監督者』に該当する労働者について労働時間や割増賃金の規律の一部を適用除外としています(労基法第41条2
号)。
これを受け、多くの企業は管理職=管理監督者という整理の下で、管理職に対して時間外労働・休日労働の割増賃金を支給していません。
しかし、労働基準法の『管理監督者』に該当するかどうかは労働者の職務・職責や待遇を踏まえて厳格に判断されるものであり、企業が管理職と整理しているからといって直ちに『管理監督者』に該当するというわけではありません。
そのため、たとえ企業で部長、店長、支配人などの肩書を付けられていても、法令上の管理監督者に該当しないということはよくあります。
管理監督者と評価できる状況にないのに「管理職だから」という理由で残業代が貰えていない場合は、本来支払われるべき残業代が支払われていないということになります。
企業から残業代が適切に支払われているか判断するためにも、残業代の計算方法を知ることは大切です。また、月60時間の残業となれば残業代も相当な金額になることが考えられ、その額を把握するためにも正しい計算式を理解しておきましょう。
残業代は以下の計算式で求められます。
残業代=【※基礎時給】×【割増率】×【残業時間】 |
※「基礎時給」とは、1時間あたりの賃金であり、残業代を求めるにあたって以下の計算式で別途算出しておく必要があります。
また「平均所定労働時間」は、毎月の所定労働時間や企業の年間休日によって変化しますが、多くの企業で160〜170時間程度になると考えられます。
残業代を計算する際、残業代の計算から除外しなければならないものもあります。除外すべき手当は、以下のとおりです。
通勤手当
住宅手当(一律定額の場合を除く)
別居手当
子女教育手当
臨時の賃金(祝い金など)
ボーナス など(年俸制等の場合を除く)
上記の手当は、残業代の計算に含まないため、あらかじめ月給から除外しておかなければいけません。一方で、上記以外の役職手当や業務手当、調整手当は月給に含めてよいことになります。
たとえば、月給30万円(基本給20万円、業務手当7万円、住宅手当(除外する場合)3万円)という場合、残業代の計算に用いる金額は、基本給と業務手当の計27万円です。
残業代を計算するうえで重要となってくる「割増率」は、残業区分によって割合が変化します。具体的には、以下の表を参照してください。
残業区分 |
条件 |
割増率 |
|
時間外労働 |
1日8時間・週40時間を超過する労働 |
月60時間までの部分 |
25% |
(※)月60時間を超過した部分 |
50% |
||
深夜労働 |
22:00~翌朝5:00までの労働 |
25% |
|
休日労働 |
法定休日の労働 |
35% |
通常の残業であれば、割増率は25%(1.25倍)ですが、従業員に課せられる労働条件が重くなるにつれて、その割合も上がっていきます。
また、場合によっては「時間外労働+深夜労働」といったように条件が重複する可能性も考えられます。そうなると、上記に記載してある以上の割増率で計算することになります。
ちなみに、(※)月60時間を超過した場合の「割増率50%」というのは、現在推進されている働き方改革の施策によるものです。大企業では既に残業代の引上げが義務付けられていますが、中小企業では2023年4月1日から施行となります。
残業代の計算はややこしく感じるかもしれませんが、自分を守るためにも「おかしいな」と気づいたときに計算してみることが大切です。
ここまで残業代の計算方法について詳しく見てきましたが、実際に60時間以上残業した場合の残業代を計算してみましょう。より具体的な金額を確認するため、労働条件は以下のように設定します。
【労働条件】
勤め先・・・大企業
労働者・・・月給30万円(各種手当のぞく)
時間外労働・・・月65時間
平均所定労働時間・・・160時間
前述のとおり、まずは1時間あたりの賃金である「基礎時給」を求めます。
(月給)30万円÷(平均所定労働時間)160時間=(基礎時給)1,875円 |
※小数点以下は四捨五入
基礎時給は「1,875円」ということがわかったので、この金額に残業時間をかけます。ここで注意しなければいけないのは、60時間を区切りとして「割増率が変化する」という点です。
今回は「残業65時間」の条件で計算するため、残業代は「60時間」「5時間」と2つに分けて求める必要があります。
60時間分の残業代は以下のとおりです。
(基礎時給)1,875円×(割増率)1.25×(残業)60時間=14万625円 |
つぎに、5時間分の残業代を求めます。
(基礎時給)1,875円×(割増率)1.5×(残業)5時間=1万4,063円 |
※小数点以下は四捨五入
最後に、二つの計算で出た金額を合計します。
(60時間分)14万625円+(5時間分)1万4,063円=15万4,688円 |
労働条件によって金額は変動しますが、残業60時間を超える場合、残業代は10万円以上支給されるという結果になりました。
自身の残業代が適切か、給与明細や勤め先の所定労働時間を当てはめて計算してみてください。
先ほど計算したように、月60時間も残業していると残業代だけで10万円を超えることも珍しくありません。ここまで高額となる残業代を企業から支払ってもらえない場合、直ちに未払い請求を検討する必要がでてきます。
ここからは、残業代が正しく支払われていない可能性がある場合の具体的な対処法について見ていきます。
残業60時間分の残業代が支払われていない場合、その事情を労働基準監督署に報告・相談してみましょう。企業に対して指導が おこなわれたり調査が入ったりする可能性があります。
厳重な指導や是正勧告を受ければ、企業は何らかの改善措置を講じなければなりません。結果的に残業代の支払いに加え 、残業自体が減少していくことも期待できます。
ただし、労働基準監督署に動いてもらうためには、長時間労働が起こっているという事実を証明しなければいけません。タイムカードや実労働時間がわかるような証拠を用意してから相談に行くようにしましょう。
未払い残業代を請求したいなら、労働基準監督署よりも弁護士へ相談した方がスムーズに解決できると考えられます。
もちろん、労働基準監督署も企業に対して残業代支払いの指導勧告をおこなってくれますが、具体的な交渉には至りません。企業から残業代が支払われるまでに時間がかかる可能性もあるため、早急に対処したい場合は弁護士への相談がおすすめです。
とはいえ「弁護士に相談すると高額になるのでは?」と思う人もいることでしょう。しかし、最近は無料相談を受けてくれる事務所も増えています。「そもそも未払いの残業代はあるのか?」「いくら程度なら請求できるのか?」といった簡単な内容から相談できるため、まずは弁護士事務所の検索からスタートしてみることをおすすめします。
残業代の未払いや長時間労働に苦しんでいるなら、今よりも労働条件が良い会社へ転職するのも一つの解決手段といえます。転職のタイミングで、現在勤めている企業に未払い残業代を請求するということも一つの手段として検討してもよいでしょう。
残業代請求にも時効があるものの、適切な手順を踏めば退職後でも請求可能です。必要であれば弁護士などに相談のうえ、対処するのがよいでしょう。
また、転職する場合は、安易な考えで転職先を決めてしまわないよう注意しましょう。長時間労働や低賃金を労働条件にしている企業はいくつも存在します。転職市場における事前調査と準備はしっかりおこないましょう。
たとえば、転職エージェントを活用しアドバイザーに転職先の待遇や内部事情を教えてもらうなど、込み入った情報もできるだけ確認して、良い会社に巡り合えるよう転職活動を進めることが大切です。
月60時間を超える残業は平均の2.5倍と非常に多く、36協定(原則)による延長の限度時間を超える過酷な長時間労働だといえます。
もし60時間の残業が毎月のように続くようであれば、そのような残業をさせることは違法である場合も十分ありますので、慎重に対処しなければいけません。自身の生活や健康を守るためにも、専門機関への相談は不可欠です。
また、長時間労働が横行する企業であれば、未払い残業代が生じている可能性も十分考えられます。企業で勤務する以上、従業員は残業代を受け取る権利があるため「おかしいな」と感じたらすぐに弁護士へ相談しましょう。
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確かに労働基準法では、「管理監督者」には残業代を支払わなくても良いと明記されておりますが、会社で定める「管理職」が労働基準法で言う「管理監督者」に当たらないケースもあります。
この場合は会社側が労働基準法違反となり、残業代を支払う義務を負います。このような名ばかり管理職問題についてまとめた記事がございますので、詳しくはそちらをご覧ください。
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固定残業時間を上回る残業を行ったり、会社が違法な固定残業代制度をとっていた場合はもれなく残業代請求が可能です。直ちに弁護士に相談しましょう。
残業代請求に対する企業からの報復行為は、そのほとんどが違法とみなされているため積極的にされることはありません。
ただし、少なからず居心地が悪くなる懸念もあります。一般的には在職中に証拠を集めるだけ集め、その後の生活を守るために転職先を決めてから残業代請求を行うのがベターと言えるでしょう。
残業代請求の時効は3年となっております。
退職してからゆっくり残業代請求を行う場合、どんどん請求可能期間が短くなってしまいますので、一早く請求に対して動き始めましょう。
また、弁護士に依頼して内容証明を会社に送ることで、時効を一時的にストップさせることが出来ます。