労災保険とは、労働者が業務や通勤が原因となった傷病を負った場合の補償制度のことをいいます。
労災保険は、正社員、派遣社員、派遣アルバイトなど、原則として全ての労働者が保険給付の対象となっています。
なお、派遣社員が労災を受ける場合には、派遣元会社の労災保険を使うことになります。
第一条 労働者災害補償保険は、業務上の事由、事業主が同一人でない二以上の事業に使用される労働者(以下「複数事業労働者」という。)の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由、複数事業労働者の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。
引用:労働者災害補償保険法
派遣先で業務中に怪我を負った場合には、労災保険の請求は派遣先で行うのではないかと思う方もいるでしょう。
労災保険の制度はあまり身近な制度とは言えないため、派遣先と派遣会社のどちらで加入しているのかわかりにくいかもしれません。
派遣社員は、派遣元との間にのみ雇用契約が存在しますので、労災保険を利用する場合は派遣元会社で加入する労災保険を利用することになります。
弁護士
労災保険の申請は仕組みが少々複雑となっており手続きが煩雑です。
派遣社員が労災保険の申請をする場合には、雇用されている会社と実際に業務を行っている会社が異なるため、申請の手続きがより煩雑に感じられるかもしれません。
こちらの記事では、派遣社員が労災を申請するために必要な書類や、派遣元会社に労災申請を拒否された場合の対処法など、派遣社員が労災申請を行う際に留意すべきことについて解説します。
業務中や通勤途中に怪我をしてしまった方へ
- 「治療費は会社が負担するから内緒にしといて」
- 「派遣社員は労災申請できないよ」
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- 「こんなの労災とは認められないよ」
上記のようなことを会社に言われたら、労災隠しの可能性があります。
労災隠しは犯罪です。
あなたが泣き寝入りする必要はありません。
きちんと申請することで、労災認定されることもあります。
また労災隠しをするような会社は、素直に労災を報告できないような職場環境の可能性があります。
万が一会社が従業員に対する安全配慮を怠っていたら、会社側に損害賠償請求をすることが可能です。
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労災保険制度について
労災保険制度とは、業務や通勤に起因して傷病を負った労働者に対する補償制度であり、傷病を負った労働者の社会復帰を目的としています。
(参考:労働者災害補償保険法)
業務が起因となって発生した災害のことを労働災害、通勤に起因して発生した災害のことを通勤災害といいます。労働災害又は通勤災害として認められれば、労働基準監督署から法令に基づく給付を受けることができます。
では、具体的にはどのような災害が労働災害となり、労災保険の適用対象となるのでしょうか。以下で労災保険の補償範囲について解説します。
労災保険の補償範囲
労災保険の給付は、労働災害で傷病を負った労働者に行われます。
労働災害は、業務が起因となって傷病が発生する業務災害と、通勤が起因となって傷病が発生する通勤災害の2つに分けることが可能です。
第七条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
一 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
二 複数事業労働者(これに類する者として厚生労働省令で定めるものを含む。以下同じ。)の二以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡(以下「複数業務要因災害」という。)に関する保険給付(前号に掲げるものを除く。以下同じ。)
三 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
四 二次健康診断等給付
引用:労働者災害補償保険法
引用:業務災害と通勤災害
業務災害の例としては、
- 事務作業中に鋏で指を切る
- 社内で転倒して打撲した場合
などが挙げられます。
一方、通勤災害の例としては、自宅から派遣先へ向かう途中に交通事故に遭った場合や、仕事の帰りに転倒して怪我を負った場合などが挙げられます。
これらの例は、労災保険の適用として認められる可能性があります。以下、業務災害と通勤災害の判別について詳しく解説します。
業務災害
業務災害とは、仕事が起因となって発生する災害のことです。
具体的には、労働契約に基づいて派遣元会社に雇用されている「労働者」である派遣社員が、派遣就労中に派遣就労に起因して負傷したり、病気に罹患したような場合が業務災害にあたります。
弁護士
このように、業務災害として認められるか否かは、業務遂行中であり、かつ業務に起因するという場合です。
このうち前者については、実際に業務に従事している場合は固より、使用者の指揮命令下に置かれていたと評価される場合には、業務遂行中であると評価されます。
例えば、以下のような場合には、使用者の指揮命令下にあったと評価されやすいと思われます。
- 職場で業務を遂行している場合
(事業主の直接的な管理下で業務に従事している)
- 職場で休憩時間などの自由行動をしていた場合
(業務に従事していないが、使用者の管理下にある)
- 営業業務など事業場外で業務に従事している場合
(使用者の包括的な管理下の下で業務に従事している)
参考:労働災害・通勤災害のことならこの1冊(第4版)|人事労務・労働法|法律実用・学習書|自由国民社
弁護士
次に、業務遂行中であっても、業務に起因しない負傷、疾病は業務災害にはなりません。
すなわち、職場で負った怪我であっても、業務に全く関係のないことをしていたことによる場合は業務災害とはなりません。
例えば、職場で同僚と私的な喧嘩を行い負傷した場合は業務災害ではありません。業務災害として認められるためには、業務と傷病との間に一定の因果関係が必要となるのです。
参考:業務災害について
通勤災害
通勤災害とは、通勤中などの移動時に発生する災害のことをいいます。
具体的には、派遣元に雇用される「労働者」である派遣社員が通勤に起因して負傷したり、病気になったような場合が通勤災害にあたります。
ここでいう「通勤」とは、就業に関して以下の移動を合理的な経路及び方法で行うことをいいます。
(1)住居と就業の場所との間の往復
(2)就業の場所から他の就業の場所への移動
(3)住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動
引用:通勤災害について
ただし、通勤などの移動の経路を逸脱した場合や、移動を中断した場合には、逸脱または中断の間とその後の移動が「通勤」として認められません。
つまり、派遣先から帰宅するいつものルートの途中に事故にあった場合は通勤災害となりますが、そうではなくて映画を観に寄ったり、飲み会に出席したりして普段のルートを外れるようなことがあれば、通勤災害として認められる可能性は低くなります。
第七条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
○2 前項第二号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。
一 住居と就業の場所との間の往復
二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
三 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
引用:労働者災害補償保険法
しかし、合理的な通勤ルートから外れれば一切通勤災害にならないかというとそうではありません。
- 派遣先から帰る際に夕飯の買い物を済ませたり
- 子供を保育園に迎えに行ったり など
日常生活に必要な寄り道は、通常生じ得るものです。
弁護士
そこで、労働者災害補償保険法では、通勤の実態を考慮し、通勤途中で、日常生活上必要な行為であって、厚生労働省で定められるものを止むを得ない事由によって最低限の範囲で行う場合には、当該逸脱あるいは中断の間を除いて、合理的な経路に戻った後は通勤と認められることとされています。
厚生労働省で定められた日常生活上で必要な行為とは、以下のような行為をいいます。
- 日用品の購入など
帰途でクリーニング店に立ち寄る場合や惣菜などの購入をする場合
- 職業訓練など職業能力の向上に値するものを受ける行為
- 選挙権の行使
選挙権の行使や最高裁判所裁判官の国民審査権の行使など
- 病院などで診察や治療を受けること
- 要介護状態にある配偶者や子供、父母などの介護
(継続的に又は反復して行われるものに限る。)
(日常生活上必要な行為)
第八条 法第七条第三項の厚生労働省令で定める行為は、次のとおりとする。
一 日用品の購入その他これに準ずる行為
二 職業訓練、学校教育法第一条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であつて職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
三 選挙権の行使その他これに準ずる行為
四 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
五 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)
引用:労働者災害補償保険法施行規則
このように、通勤災害と認められるためには、通勤時に合理的な経路と方法を取っているかなど、労働者災害補償保険法における「通勤」の要件を満たす必要があります。
なお、休日の緊急出勤時の災害などといった業務の性質を有するものは業務災害として扱われるため、通勤災害には含まれません。
車通勤をしている派遣社員の場合
派遣社員に限らず、労働者が車通勤をする場合に職場に対する届出や職場からの許可を要する場合があります。
このような車通勤についてのルールが整備されている場合、当該ルールに違反して車通勤をし行い、その途中に事故にあったという場合には、合理的な通勤経路であることが否定されて、通勤災害と認められない可能性も否定できません。
そのため、車通勤について職場に一定のルールが有る場合には、当該ルールを遵守するべきといえます。
労災保険の補償内容
仕事中や通勤中の傷病で、労災保険によって受けられる補償の内容は以下のようなものになります。
- 怪我や病気になった場合の治療費
- 休業した場合の補償
- 労働者が死亡した場合に遺族に払われる一時金 など
労災において、業務災害と通勤災害で行われる保険給付の内容は変わりませんが、給付の名称が異なります。
業務災害における労災保険給付
業務災害においては、次のような労災保険給付が行われます。
- 療養補償給付
- 休業補償給付
- 障害補償給付
- 遺族補償給付
- 葬祭料
- 傷病補償年金
- 介護補償給付
第十二条の八 第七条第一項第一号の業務災害に関する保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
一 療養補償給付
二 休業補償給付
三 障害補償給付
四 遺族補償給付
五 葬祭料
六 傷病補償年金
七 介護補償給付
引用:労働者災害補償保険法
以下は、業務災害における労災保険給付の内容になります。
療養補償給付
怪我や病気をした場合に治療費が全額支払われる。なお、治療については、傷病が治癒(症状固定)するまでとされており、傷病を負う前の状態に戻ることを指していませんので注意が必要です。
参考:療養補償給付
第十三条 療養補償給付は、療養の給付とする。
② 前項の療養の給付の範囲は、次の各号(政府が必要と認めるものに限る。)による。
一 診察
二 薬剤又は治療材料の支給
三 処置、手術その他の治療
四 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
五 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
六 移送
引用:労働者災害補償保険法
休業補償給付
療養のために労働することができず、賃金が受けられない場合に、休業4日目から給付が行われる。休業補償給付の給付額は、1日につきおおよそ平均賃金の60%に当たる額となっています。
参考:休業補償給付
第十四条 休業補償給付は、労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第四日目から支給するものとし、その額は、一日につき給付基礎日額の百分の六十に相当する額とする。ただし、労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のため所定労働時間のうちその一部分についてのみ労働する日若しくは賃金が支払われる休暇(以下この項において「部分算定日」という。)又は複数事業労働者の部分算定日に係る休業補償給付の額は、給付基礎日額(第八条の二第二項第二号に定める額(以下この項において「最高限度額」という。)を給付基礎日額とすることとされている場合にあつては、同号の規定の適用がないものとした場合における給付基礎日額)から部分算定日に対して支払われる賃金の額を控除して得た額(当該控除して得た額が最高限度額を超える場合にあつては、最高限度額に相当する額)の百分の六十に相当する額とする。
引用:労働者災害補償保険法
障害補償給付
傷病の症状が固定してから障害等級表に該当する障害が残った場合に給付されます。
障害等級第1級から第7級に該当する場合には障害補償年金、障害等級第8級から第14級に該当する場合には障害補償一時金の給付が行われます。給付金額については、障害等級に基づいて決定されます。
第十五条 障害補償給付は、厚生労働省令で定める障害等級に応じ、障害補償年金又は障害補償一時金とする。
○2 障害補償年金又は障害補償一時金の額は、それぞれ、別表第一又は別表第二に規定する額とする。
引用:労働者災害補償保険法
遺族補償給付
遺族補償給付は労働者が死亡した場合に遺族の人数などに応じて遺族に給付されます。
遺族補償給付には、遺族補償年金と遺族補償一時金の2種類があります。遺族補償年金を受給することができる「遺族」がいる場合には年金、いなければ一時金が給付されます。
第十六条 遺族補償給付は、遺族補償年金又は遺族補償一時金とする。
引用:労働者災害補償保険法
労災保険における遺族とは、以下のような立場の者を指します。
なお、配偶者以外の者については、死亡した労働者の収入によって生計を維持していたなどの一定の要件が必要となります。
第十六条の二 遺族補償年金を受けることができる遺族は、労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であつて、労働者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していたものとする。ただし、妻(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。以下同じ。)以外の者にあつては、労働者の死亡の当時次の各号に掲げる要件に該当した場合に限るものとする。
一 夫(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。以下同じ。)、父母又は祖父母については、六十歳以上であること。
二 子又は孫については、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあること。
三 兄弟姉妹については、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあること又は六十歳以上であること。
四 前三号の要件に該当しない夫、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹については、厚生労働省令で定める障害の状態にあること。
引用:労働者災害補償保険法
葬祭料
葬祭料は、労働者が死亡して葬祭を行う場合に遺族に給付されます。
第十七条 葬祭料は、通常葬祭に要する費用を考慮して厚生労働大臣が定める金額とする。
引用:労働者災害補償保険法
葬祭料の給付額は315,000円に給付基礎日額(原則として労働基準法の平均賃金に当たる額)の30日分を加えた額となります。この金額が給付基礎日額の60日分に満たない場合には、給付基礎日額の60日分が葬祭料として給付されます。
参考:葬祭料について
傷病補償年金
傷病補償年金は、療養を開始して1年6ヶ月経過しても傷病が治っていない場合や、障害等級表に該当する場合に障害の等級に応じて給付が行われます。
なお、傷病補償年金の給付適用となるには以下の要件を満たす必要があります。
- 傷病が治癒していないこと
- 傷病による障害が障害等級表に該当すること
参考:傷病補償年金について
第十二条の八
○3 傷病補償年金は、業務上負傷し、又は疾病にかかつた労働者が、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後一年六箇月を経過した日において次の各号のいずれにも該当するとき、又は同日後次の各号のいずれにも該当することとなつたときに、その状態が継続している間、当該労働者に対して支給する。
一 当該負傷又は疾病が治つていないこと。
二 当該負傷又は疾病による障害の程度が厚生労働省令で定める傷病等級に該当すること。
引用:労働者災害補償保険法
介護補償給付
介護補償給付は、障害補償年金または傷病補償年金の受給者のうちで、障害等級が第1級の場合、あるいは第2級の精神・神経障害及び胸腹部臓器障害の者が、現在も介護を受けている状態の場合に給付されます。
ただし、医療施設に入院している場合や、生活介護を受けている場合など、施設で十分な介護サービスが提供されているものと考えられる場合には給付は行われません。
参考:介護補償給付
第十二条の八
○4 介護補償給付は、障害補償年金又は傷病補償年金を受ける権利を有する労働者が、その受ける権利を有する障害補償年金又は傷病補償年金の支給事由となる障害であつて厚生労働省令で定める程度のものにより、常時又は随時介護を要する状態にあり、かつ、常時又は随時介護を受けているときに、当該介護を受けている間(次に掲げる間を除く。)、当該労働者に対し、その請求に基づいて行う。
引用:労働者災害補償保険法
通勤災害における労災保険給付
以下は、通勤災害における労災保険給付になります。
- 療養給付
- 休業給付
- 障害給付
- 遺族給付
- 葬祭給付
- 傷病年金
- 介護給付
業務災害では労災保険給付の名称に補償という語句がついていますが、通勤災害の労災保険給付の名称にはついていません。これは、通勤災害における労災保険の給付については、労働基準法の災害補償責任に基づいていないためです。
第二十一条 第七条第一項第三号の通勤災害に関する保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
一 療養給付
二 休業給付
三 障害給付
四 遺族給付
五 葬祭給付
六 傷病年金
七 介護給付
引用:労働者災害補償保険法
なお、上記でも記載した通り、業務災害であっても通勤災害であっても、労災保険給付の内容は同一です。ただし、通勤災害の場合には一部負担金(200円)の支払いが必要な場合など、業務災害とは少々異なる点もあるので注意しましょう。
参考:通勤災害一部負担金
二次健康診断等給付について
上記の他に、労災保険給付には二次健康診断等給付というものも存在します。
二次健康診断等給付とは?
二次健康診断等給付は、労働安全衛生法に基づいて行われる定期健康診断のうち、直近に行われたもので脳・心臓に関わる異常が見つかった場合に二次の健康診断として給付されます。
(健康診断)
第六十六条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。
引用:労働安全衛生法
第二十六条 二次健康診断等給付は、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)第六十六条第一項の規定による健康診断又は当該健康診断に係る同条第五項ただし書の規定による健康診断のうち、直近のもの(以下この項において「一次健康診断」という。)において、血圧検査、血液検査その他業務上の事由による脳血管疾患及び心臓疾患の発生にかかわる身体の状態に関する検査であつて、厚生労働省令で定めるものが行われた場合において、当該検査を受けた労働者がそのいずれの項目にも異常の所見があると診断されたときに、当該労働者(当該一次健康診断の結果その他の事情により既に脳血管疾患又は心臓疾患の症状を有すると認められるものを除く。)に対し、その請求に基づいて行う。
引用:労働者災害補償保険法
二次健康診断等給付では、二次健康診断と特定保健指導の2つがあります。
二次健康診断では、脳血管と心臓の状態を把握するための検査を行います。特定保健指導では、二次健康診断の結果に基づいて、脳・心臓疾患の再発を防止するために医師や保健師によって行われる保健指導のことをいいます。
参考:二次健康診断等給付について
派遣社員の労災認定について
上記で紹介した労災給付は、労働者に対する保険制度です。そして、派遣社員も派遣元が会社に雇用される労働者です。
したがって、派遣社員が業務中や通勤中に負傷等すれば、労災保険の適用を受けられます。
派遣社員は非正規雇用であるから、労災が適用されないと思っている方もいるかもしれませんが、それは誤解です。
(なお、派遣ではなくてアルバイト・パートタイマーという場合でも労働者である以上、労災保険の適用があります。)
弁護士
もっとも、派遣社員は、通常の労働者と異なり、雇用契約は就労先の派遣先ではなく、派遣元にあります。
そのため、派遣社員が労災保険を利用する場合、派遣元が派遣先から必要な情報を得た上で申請手続きを行うことになります。
そのため、通常の手続きに比して労災の申請が煩雑であり、時間がかかる場合もあります。
以下で、派遣社員が労災申請で気をつけるべきポイントをご紹介します。
派遣社員の労災証明について
労災保険の給付を受けるためには、労災の請求書を労働基準監督署へ提出する必要があります。この請求書には、傷病が発生した経緯などを記載します。
労働基準監督署とは、企業の違反行為などに対して指導や勧告を行う機関です。
弁護士
派遣社員の場合、通常ですと、雇用主である派遣元会社が労災申請を行いますが、申請書に記載する事業主の証明は派遣元・派遣先の両会社が行います。
実際の処理は、派遣元会社が派遣先会社と連携しながら行うことになるので、派遣社員側で対応が必要となることは少ないですが。。。
万が一派遣元会社が対応しない場合には、派遣社員が自ら申請手続きを行わざるを得ません。
労災の請求書は厚生労働省によって書式が決められており、給付を受ける労災保険の種類によって様式が異なります。
請求書に関しての詳細は、以下の項目をご覧ください。
労災の請求書は給付内容によって請求書が定められている
労災保険の適用であるか否か(労働災害・通勤災害と認められるかどうか)は労働基準監督署の判断に委ねられますので、労災の証明を自ら積極的に行う必要はありません。
しかし、労災の請求書の内容に不備がある場合などには労災認定に余計な時間がかかる場合もありますし、労災として認定されたいのであれば労働者側で調査に積極的に協力するべきであることは間違いありません。
もし、労災の手続に不安がある場合や労災認定されるかどうか不安があるという場合には、申請に当たって弁護士に相談するべきでしょう。
派遣社員についての労災申請には時間がかかる場合がある
派遣社員の労働災害・通勤災害について、通常の場合よりも手続きに時間がかかる可能性があることは上記のとおりです。
これは、派遣社員の場合は、労災手続きを雇用主である派遣元会社が行う必要がある一方で、労働災害について的確に把握しているのが派遣先会社であり、両者の連携が必要となるからです。
弁護士
すなわち、派遣社員の場合には、派遣元会社に雇用されていても、実際の業務は派遣先会社の指揮命令下で行います。
そのため、発生した労働災害・通勤災害について、派遣元会社に情報はなく、派遣先会社に多くの情報があります。
参考:派遣労働者の労災責任について
そのため、派遣元会社は、派遣先会社に事実関係を確認しながら労災申請の手続きを行うことになりますが、当該事実確認に時間がかかることもありますし、労災の申請に関して派遣先と派遣会社の意見が割れることもあるかもしれません。
こういったことが重なるため、派遣社員の労災申請には時間がかかる場合があるのです。
派遣契約の維持・継続のために労災処理を進めてくれない可能性がある
労働災害が発生した場合、労働者を雇用している事業主は速やかに労働基準監督署へ労災の届け出(労働者死傷病報告)をする必要があり、派遣社員の場合には、派遣会社と派遣先の両方が当該報告が必要とされています。
(報告等)
第百条 厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
2 厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、登録製造時等検査機関等に対し、必要な事項を報告させることができる。
3 労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
引用:労働安全衛生法
(労働者死傷病報告)
第九十七条 事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第二十三号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
引用:労働安全衛生規則
この報告書により労基署は事業場の労働災害・通勤災害の状況を把握しますが、災害が多い事業所は保険料が増額されることがあります。
したがって、事業主としてはできれば労働災害・通勤災害が発生してほしくない(発生してもこれを報告したくない)という考え方が生まれやすいといえます。
特に、労働者派遣の場合、派遣先会社は自身が雇用していない派遣社員が原因で労災保険料が増額されることを良しとしない場合もあり、当該観点から派遣元会社に一定の圧力をかけることもあるかもしれません。
そして、派遣元会社は、派遣先会社から派遣契約を切られたくないという考えから、当該圧力に屈してしまうこともあるかもしれません。
弁護士
このように、派遣社員の場合には通常の労働者とは異なるパワーバランスが観念されるため、通常の労働者に比して労災申請がスムーズに行かないリスクが相対的に高いということができそうです。
(必ずしもそのようなケースばかりではないと思われますが。)
参考:労災保険のメリット制
なお、企業側が労働基準監督署に対して
- 故意に死傷病の報告をしないこと
- あるいは死傷病について虚偽の報告をすること
上記を一般的に『労災隠し』と言いますが、これは違法行為です。
ただ、労働災害・通勤災害となるかが微妙であり、会社と労働者の意見が分かれることもありますので、労働者が労働災害・通勤災害と考えているものを、企業が否定することが直ちに労災かくしになるわけではない点は注意してください。
参考:労災隠しは犯罪です
(報告等)
第百条 厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
引用:労働安全衛生法
(労働者死傷病報告)
第九十七条 事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第二十三号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
2 前項の場合において、休業の日数が四日に満たないときは、事業者は、同項の規定にかかわらず、一月から三月まで、四月から六月まで、七月から九月まで及び十月から十二月までの期間における当該事実について、様式第二十四号による報告書をそれぞれの期間における最後の月の翌月末日までに、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
引用:労働安全衛生規則
なお、労災隠しは法律違反であり、違反した場合には50万円の罰金に処されます。
第百二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
引用:労働安全衛生法
派遣会社が労災申請を拒否する場合には、労働基準監督署への相談あるいは弁護士への相談をお勧めします。労災隠しにあった場合の対処法の詳細は以下の項目を参考にしてください。
派遣社員の労災給付について
派遣社員の場合、雇用主は派遣元事業主(派遣会社)となります。そのため、労災保険の保険関係も派遣元事業(派遣会社)との間で成立しています。
よって、派遣社員の労災については派遣元会社を通して申請を行うことになります。
このような派遣社員の労災処理については、派遣元・派遣先の連携がうまくいかないことで、場合によっては困難になることがあるかもしれないことは、上記のとおりです。
また、それ以外の理由でも、例えば、派遣元会社が「うちは労災保険に加入していない」とか「派遣社員は労災保険の対象外である」などと不当な主張をしてなかなか労災処理を進めようとしないといういことももしかしたらあるかもしれません(考えにくいことではありますが。)。
弁護士
労働者を雇用している企業には労災保険に加入する義務がありますし、仮に雇用主が労災保険の届出をしていなかったり、保険料の支払いをしていない場合でも、労働者は自ら労災申請の手続きを行うことができます。
したがって、上記のように雇用主が労災処理に非協力的であるような場合には、所轄の労基署と相談しながら自ら労災申請を行うことを検討してみてください。
派遣会社または派遣先は労災保険の適用事業
労災保険は、労働者を雇用している会社は原則として強制加入となっています。
第三条 この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする。
○2 前項の規定にかかわらず、国の直営事業及び官公署の事業(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)別表第一に掲げる事業を除く。)については、この法律は、適用しない。
引用:労働者災害補償保険法
なお、以下の事業については労災保険に加入できず、国家公務員災害補償等の適用を受けます。
- 国の直営事業
国有林野
印刷
造紙
- 官公署の事業
役所などの非現業の官公署事業
また、以下の事業については、労災保険への加入は任意となっています。
- 農業
- 林業
- 水産業 など
雇用主が労災保険の届出等を行っているか否かは労災申請ができるかどかとは直接関係する事柄ではありませんが、もしご自身が契約している派遣会社が労災保険に加入しているか否かを確認したい場合は、以下のリンクで確認することが可能です。
派遣社員は労災保険の対象となる
労災保険の給付は、適用事業所で働く全ての労働者が適用対象となります。
ここでいう「労働者」とは、労働者災害補償保険法の「労働者」の意味ですが、基本的には、労働基準法の「労働者」と同義です。
(定義)
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
引用:労働基準法
この点、代表取締役は使用者であって労働者ではありませんので労災保険の適用はされませんが、代表権を持たない取締役は労災保険が適用されます。
労災保険上の労働者であるか否かは、以下の2つの要点に基づいて判断されます。
- 会社から賃金の支払いを受けているか
- 使用従属関係にあるか
労災保険は正社員にしか適用されないと思っている方も少なからず存在しているかもしれませんが、法律は正社員と非正規社員を特に区別しておらず、両方とも雇用契約の当事者であれば「労働者」と評価されます。そのため、法的には日雇い、アルバイト、パートなどのプロパーの非正規雇用はもちろん、派遣社員のように派遣元で雇用される非正規雇用も「労働者」として労災保険が適用されます。
参考:労働保険の適用単位と対象となる労働者の範囲
- 原則として、雇用形態を問わず全ての労働者が労災の適用となり得る
派遣社員が労災請求する場合の流れ
派遣社員が労災保険を請求する場合の手続きの流れを解説します。
労災申請の手続きについては、労災指定病院を受診したか否かによってその後の流れが異なります。
労災指定病院の場合には労働災害・通勤災害と認定されれば医療費の支払いは必要ありません。
また、労災指定病院以外を受診した場合でも、一時的に医療費の支払いを要することがありますが、後日、労働災害・通勤災害と認定されれば支払い分は療養給付として支給されます。
労災指定病院とは?
労災指定病院とは、医療機関の申し出によって労災保険側が設定した医療機関のことをいいます。労災として認定されれば、労働者は治療費の負担を行わずに治療を受けることが可能です。
なお、労災保険を利用する場合には健康保険を利用することはできません。もし、受診した際に健康保険を使用してしまったという場合でも、後日、労災申請を行い、認定を受けることができれば、健康保険から労災保険への切替えが可能です。
他方、当初は労災として健康保険を利用せずに治療を受けたものの、後日、労働災害・通勤災害と認められなかったという場合は、健康保険への切り替えをすることも可能です。
(目的)
第一条 この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)第七条第一項第一号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
引用:健康保険法
派遣会社へ連絡をする
派遣社員の場合には、労災保険については雇用元である派遣元会社で労災保険の適用を受けることになっています。
派遣法第2条1号によると、派遣労働者は派遣元の事業主と雇用関係を有しています。よって、派遣社員の場合には派遣先で業務に従事していますが、派遣会社と雇用関係が成立していることになります。
(用語の意義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 労働者派遣 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。
引用:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
弁護士
実際に、労働災害が発生した場合、まずは派遣先の担当者にその旨を報告し、労災の適用を受けたい旨希望してください。
派遣先の担当者は、通常、労災事故が生じた旨を派遣元会社に連絡しますので、派遣社員は派遣元会社に対しても労災申請の処理を行うよう求めてください。
あとは、派遣先会社、派遣元会社、派遣社員が連携しながら、労災申請の処理を進めていくことになります。
なお、労災申請の処理は基本的には会社担当者が進めてくれますが、労働者自身も必要書類を適宜提出するなど当然協力は必要です。
当該協力を怠れば、労災申請の処理はスムーズに進みませんので、注意しましょう。
次に、労災指定病院とそれ以外の医療機関を受診した場合の流れについて解説します。
労災指定病院を受診した場合
ここでは、業務中に軽度の怪我を負い、労災の旨を派遣先と派遣会社に伝えた後に労災指定病院を受診したと仮定します。
手続きの流れは以下のようになります。
- 労働災害発生
- 派遣先の担当者と派遣会社へ連絡
- 労災指定病院を受診する
- 労災請求書(様式第5号)を作成
派遣会社には事業主証明欄を、派遣先には派遣先証明欄を記入してもらう。
- 受診した病院へ請求書を提出する
- 労働基準監督署によって労災保険の認定がなされる
業務や通勤が起因となった怪我などによって労災指定病院で治療を受けた場合、当該傷病等が労働災害・通勤災害と認定されれば、診察や検査といった医療サービスについては無償で受けることが可能です(当該費用は労働基準監督署が負担します。)。
そのため、当初から労災として治療を受けていた場合には、最初から最後まで費用負担が生じないことになります。
労災保険の申請をする際には、労災保険給付関係請求書を労働基準監督署に提出する必要があります。上記で何度も記載していますが、派遣社員が労災を利用する場合、派遣元会社の担当者が申請手続きを進めてくれるのが通常です。
もし、派遣会社側が労働災害・通勤災害ではないと判断して労災申請を進めない場合、労働者は単独で申請処理を進めることも可能です。申請に必要な書類は労働局、労働基準監督署でもらうことができます。
また、厚生労働省のホームページでダウンロードすることも可能です。
また、申請にあたっての不明点は、所轄労働基準監督に相談すれば親切に教えてくれるでしょう。
この場合、用意する書類は様式第5号(療養補償給付たる療養の給付請求書)となります。なお、通勤災害で労災指定病院を受診した場合には様式第16号の3(療養給付たる療養の給付請求書)の作成を行います。
引用:労災請求書
労災の申請書には、事業主の証明が必要です。派遣社員について労働災害・通勤災害が起こった場合、雇用主である派遣元会社と使用者である派遣先会社の両方が証明を行うことになります。
実際には、労働災害の状況や原因を明確にする派遣先の証明が行われ、これに基づいて派遣元会社が事業主証明を行うことになります。また、派遣社員の労働委災害については、労働者の死傷病報告書は派遣先の事業主が派遣会社の所轄の労働基準監督署長に提出し、その写しを派遣元会社に送付することと定められています。
また、派遣元会社は当該写しを基に自らも死傷病報告書を作成して、所轄労働基準監督処に提出する必要があります。
(派遣中の労働者に係る労働者死傷病報告の送付)
第四十二条 派遣先の事業を行う者は、労働安全衛生規則第九十七条第一項の規定により派遣中の労働者に係る同項の報告書を所轄労働基準監督署長に提出したときは、遅滞なく、その写しを当該派遣中の労働者を雇用する派遣元の事業の事業者に送付しなければならない。
引用:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則
なお、派遣先会社や派遣基会社が労災の申請に必要な証明を拒否した場合でも、労働者が証明なしで労災申請を進めることが可能であることは上記のとおりです。そういった場合の労災申請方法については、以下の項目を参考にしてください。
弁護士
労働災害・通勤災害となるかどうかは、第一次的には所轄労働基準監督が判断する事項であり、派遣先・派遣元の会社が判断する事項ではありません。
そのため、会社などから労災にはならないと指摘されても、自身では労働災害・通勤災害に該当すると考えるのであれば、事業主の証明を付さずに申請手続きを進めることも検討してみてください。
- 労働災害・通勤災害となるか否かは一次的には労働基準監督署が決める
労災指定病院以外を受診した場合
ここでは、業務中に軽度の怪我を負い、労災の旨を派遣先と派遣会社に伝えた後に労災指定病院以外を受診したと仮定します。手続きの流れは以下のようになります。
- 労働災害発生
- 派遣先の担当者と派遣会社へ連絡
- 労災指定病院以外を受診する
- 一旦、医療費(10割)を自己負担で支払う
- 労災請求書(様式第7号)を作成
担当医師に医師証明欄、派遣会社には事業主証明欄を、派遣先には派遣先証明欄を記入してもらう。
- 派遣会社に請求書を提出
- 労働基準監督署によって労災保険の認定がなされる
- 労災保険の認定後に指定した口座に医療費の給付(返金)が行われる
労災指定病院以外の医療機関を受診した場合には、一旦医療費を全額自己負担する必要があります。その後、かかった医療費について労災に請求することになります。
労災請求書には、担当した医師の証明、派遣会社の証明、派遣先の証明が必要になります。この場合、用意する書類は様式第7号(療養補償給付たる療養の費用請求書)となります。
引用:労災請求書
なお、通勤災害で労災指定病院を受診した場合には、様式第16号の5(療養給付たる療養の費用請求書)の作成を行います。
請求書は労働局、労働基準監督署でもらうことができます。あるいは厚生労働省のホームページからダウンロードすることも可能です。
なお、労災申請時に、病院を受診した際の領収書を添付する必要があるため、医療機関受診後にはきちんと保管しておきましょう。作成した請求書と病院受診時の領収書は派遣会社へ提出します。
労働基準監督署の調査によって、労災保険の適用が認められると、自己負担していた医療費が給付(返金)されます。労災保険の適用とならなかった場合には、健康保険への切り替え(3割負担)が可能です。もし、当初から自由診療の10割負担が困難な場合、一旦健康保険で治療を受けつつ、労災申請を同時並行で進め、労災認定がされた段階で健康保険から労災保険への切り替えを行うことも可能です。
上記ように、労災指定病院以外の医療機関を受診した場合には手続きがより煩雑となってしまいます。ですので、労働災害による傷病の場合には、あらかじめ労災指定病院を受診すると面倒が減るかもしれません。
お近くの医療機関が労災指定病院であるか否かは、以下のリンクから調べることができます。
- 労災指定病院以外の医療機関を受診した場合には、請求書を派遣会社へ提出する。
派遣社員が労災の申請をする際に必要な書類
派遣社員が労災保険の申請をする場合に必要な書類は以下になります。
- 労災請求書
- 領収書(費用請求の場合)
- 診断書(後遺障害などの場合)
労災保険の請求を行う場合には、労働基準監督署へ請求書を提出します。労災においてかかった費用を後日請求する場合には、領収書の提出が必要な場合もあります。
また、後遺障害などにおいては医師による診断書が必要となる場合があります。詳しくは以下の項目をご覧ください。
労災請求書
労災保険の請求書は、給付ごとに書式と提出先が定められています。
- 療養(補償)給付
- 休業(補償)給付
- 傷病(補償)年金
- 障害(補償)給付
- 遺族(補償)給付
- 葬祭料(葬祭給付)
- 介護(補償)給付
※( )内は通勤災害の場合
療養(補償)給付
労災指定病院を受診した場合
請求書
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様式第5号、様式第16号の3(通勤災害)
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提出先
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労災指定病院
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労災指定病院以外を受診した場合
請求書
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様式第7号、様式第16号の5(通勤災害)
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提出先
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労働基準監督署
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休業(補償)給付
請求書
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様式第8号、様式第16号の6(通勤災害)
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提出先
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労働基準監督署
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傷病(補償)年金
請求書
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傷病の状態等に関する届、傷病の状態等に関する報告書(通勤災害)
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提出先
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労働基準監督署
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障害(補償)給付
請求書
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様式第10号、様式第16号の7(通勤災害)
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提出先
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労働基準監督署
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遺族(補償)給付
請求書
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様式第12号、様式第16号の8(通勤災害)
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提出先
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労働基準監督署
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請求書
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様式第15号、様式第16号の9(通勤災害)
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提出先
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労働基準監督署
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葬祭料(葬祭給付)
請求書
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様式第16号、様式第16号の10(通勤災害)
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提出先
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労働基準監督署
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介護(補償)給付
請求書
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様式第16号の2の2
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提出先
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労働基準監督署
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参考:労災給付の請求書
労働者が記入すべき箇所については、基本的には派遣社員でも正社員でも変わりはありません。以下、派遣社員が労災の請求書を作成する際に注意するべき点について解説します。
派遣先事業主証明欄
労災保険の請求書によっては、派遣先の事業主の証明が必要なものがあります。例として、様式第5号(療養補償給付たる療養の給付請求書)には請求書の裏面に派遣先事業主の証明欄が設けられています。
この派遣先事業主の証明欄には、派遣先の事業主が派遣会社(派遣元)の事業主の記載内容について証明することとなっています。
参考:療養(補償)給付の請求手続
直接雇用の場合には、雇用主の証明のみが必要となりますが、派遣社員が労災保険を申請する場合には、雇用主たる派遣元会社の証明と派遣先会社の証明が両方必要となります。
医療費の領収書
労災指定病院以外で受診した場合など、医療費の証明として領収書が必要になる場合があります。
領収書がないことが原因で、労災保険の給付を受けられないという状態に陥らないためにも、労災に関しての領収書はできる限り保管しておくことをおすすめします。
診断書が必要な場合もある
障害(補償)給付や傷病(補償)年金など、労災給付の種類によっては医師による診断書が必要な場合もあります。診断書の取得料金に関しても労働災害・通勤災害と認められれば、費用は国が負担してくれます。
なお、労災手続きにおいて医師診断書が必要となる場面は限られています。手続きで必要のない診断書の作成(例えば、会社に提出する診断書や契約保険の処理に必要となる診断書等の作成)については、自己負担となりますので、注意しましょう。
派遣会社に労災申請を断られた場合の対処法
派遣会社が労災の申請に協力してくれないという場合もあるかもしれません。
以下、派遣会社に労災保険の申請を断られた場合の対処法について、わかりやすく解説します。
労働基準監督署へ相談してみる
労働基準監督署とは、企業が労災保険などについての労働関係の法令を守っているかを監督する厚生労働省の出先機関のことです。労働基準監督署は各都道府県に47局、全国に321署4支署存在しています。
労働基準監督署では労災保険についての監督を行なっていますので、派遣会社に労災の申請を断られてしまった場合には労働基準監督署への相談することも一つの手となります。
また、「自分の怪我は労災保険の対象なのかわからない」というような場合、傷病の種類や災害発生時の状況などと照らし合わせて労災保険の適用となるかどうかのアドバイスをくれることもあるでしょう。
相談料は無料ですから、労災保険について不明な点がある場合には、労働基準監督署へ相談してみても良いかもしれません。
労災関係に詳しい弁護士に相談する
派遣会社から労災の申請を拒否されてしまった場合、弁護士に相談してみることも一つの手段となります。法律の専門家である弁護士によるアドバイスは、少なからず有益となるでしょう。
もし、労災として認定された場合、怪我の治療などといった療養(補償)給付の場合には被災した労働者には治療費の全額が支給されます。休業した場合には平均賃金の80%が労災保険によって補償されることになります。
また、労働災害が発生した原因が派遣先の安全配慮義務(従業員が安全で健康に働けるように配慮する会社の義務)を違反したことなどに起因したものである場合には、損害について会社に対して損害賠償請求を検討できる可能性もあります。
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
引用:労働契約法
そういったことを見据えて、当初から弁護士へ相談してみても良いかもしれませんね。
派遣会社の証明がなくても労災の申請は可能
何度も繰り返しとなりますが、派遣社員の労災については、雇用契約関係である派遣元会社がその責任を負うこととなっていますので、労災の手続きは派遣元会社が行うこととなっています。
弁護士
しかし、派遣元会社が労災の申請書類の作成に協力してくれない場合もあります。これは派遣元会社において労働災害・通勤災害とは認めないという正当な理由による場合もありますし、派遣元会社が単に非協力的であるという正当でない理由による場合もあるでしょう。
しかし、このような場合にも、労働者が事業主の証明を受けることなく労災の申請処理を単独で進めることは可能です。
通常ですと、労災の請求には事業主証明欄と派遣先証明欄を記入する必要がありますが、企業側が申請を拒否している場合には空白のままにして、会社が労災として認めてくれなかった旨を所轄の労働基準監督署へ書類で提出します。
なお、この書類に関しての書式などは定められていないため、自らで作成する必要があります。文書内容などに迷った場合には、労働基準監督署や弁護士へ相談してみるとよいかもしれません。
参考:会社が労災申請を拒否した場合
派遣社員が労災申請する場合の疑問点
労災の仕組みや決まりは。実際に労災を申請するとなると、
- 「派遣社員が労災を申請したらクビになるかもしれない」
- 「うつ病は労災の範囲内かわからない」
などといった、様々な懸念が生じるでしょう。
以下で、そういった労災申請する際に生じる疑問について回答していきます。
派遣社員が労災の申請をしたらクビになる?
上記の通り、労災保険の適用に雇用形態は関与しないため、派遣社員であっても労災保険の給付を受けることが可能です。
しかし、労災申請の手続きは煩雑であり、会社への引け目から申請が困難になってしまう場合もあります。
派遣で契約している労働者の中には、派遣社員が労災を利用したらクビになるのではないかと不安に思う方もいるかもしれません。審議は不明ですがツイッター上では、労災が起こった時点で派遣先をクビになってしまったという意見も見受けられます。
弁護士
派遣社員の派遣先での就労は、あくまで派遣元・派遣先の契約に基づくものですので、派遣社員が傷病により派遣就労が困難ということであれば、当該契約が解除されたり、別の派遣社員が派遣されるということは当然あります。それ自体は違法ではありません。
しかし、派遣元会社が労働災害により派遣就労ができない派遣社員との雇用を打ち切ることは、労働災害で療養中の労働者に対する解雇規制との関係で、必ずしも適法とならないこともありますので、慎重な検討を要すると言えそうです。
(解雇制限)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
○2 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
引用:労働基準法
(打切補償)
第八十一条 第七十五条の規定によつて補償を受ける労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。
引用:労働基準法
もし、派遣先での就労中に労働災害に遭って就労不可能となり、長年勤めていた派遣元会社からの雇用を打ち切られたという場合には、弁護士に相談することも検討した方が良いかも知れません。
パワハラが原因でうつ病になったら労災の対象になる?
労働災害の対象は、負傷だけでなく疾病も含まれ、この疾病には精神的な疾病も含まれます。
そのため、派遣先の就労での長時間労働、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント等の強いストレスを受ける状況にさらされ、結果、でうつ病等の精神疾患を発症したという場合は、労災と認定される可能性があります。
なお、労災保険において、うつ病などの精神障害については一定の認定基準が設けられています。また、精神障害は仕事だけでなく私生活の状況なども起因となって発生する場合があるため、労災適用の判断には慎重な見極めが必要であるとされています。
参考:精神障害の労災認定
何れにしても、労災保険の適用であるか否かは診断書や傷病発生の状況などの情報を元に労働基準監督署が下します。パワハラを受けて労災の認定を得るための要点などについては以下の記事を参考にしてください。
精神障害などの場合、労災申請に取り掛かるまでに時間がかかるケースがあります。労災保険は給付によって時効が設けられています。
労災給付
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時効
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療養(補償)給付
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2年
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休業(補償)給付
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2年
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傷病(補償)年金
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なし
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障害(補償)給付
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5年
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遺族(補償)給付
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5年
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葬祭料(葬祭給付)
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2年
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介護(補償)給付
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2年
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二次健康診断等給付
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2年
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参考:労災保険給付の時効
時効を過ぎてしまうと、労災保険の給付を受けることはできなくなりますので注意しましょう。なお、派遣会社を退職した後でも労災保険の申請は行うことが可能です。
- 労災保険の給付漏れがないように、時効内であるならば労災保険の申請を行うべき
派遣先や派遣会社に損害賠償を求めることはできる?
労災保険は、精神的な損害など、労働災害で被った損害の全てを補償する保険制度ではありません。例えば、休業損害の一部、慰謝料等は労災保険ではカバーされません。
このように労災保険でカバーされない損害については、企業側に負担するよう請求することを検討せざるを得ません。
弁護士
この点、企業には、安全配慮義務・職場環境配慮義務などの労働者の就労にあたって安全・安心な職場を確保するよう配慮するべき義務があります。
仮に企業が当該義務に違反した結果、労働者が負傷したり疾病に罹患したような場合には、企業には当該傷病に係る損害を賠償する義務があります。
派遣社員の場合、派遣元会社は雇用主として派遣社員に対して当該義務を負っていますし、派遣先会社も実際に派遣社員を使用する者として当該義務を負っています。したがって、派遣社員が派遣先の就労により何らかの傷病を負ったという場合には、派遣先・派遣元の両者に対して当該義務違反を主張して労災保険でカバーされない損害を賠償するよう求める余地があります。
この場合、
- 派遣元・派遣先が当該義務に違反したこと
- 傷病と当該義務違反との間に因果関係があること
などは、派遣社員側で具体的に主張・立証する必要はあります。
この主張・立証のハードルは非常に高いですが、もし労災認定がされている場合には、当該立証のハードルが大幅に緩和されます。このような場合は会社に対する損害賠償請求も積極的に検討してみても良いかもしれません。
損害賠償請求の意思があるならば、弁護士に相談することをお勧めします。法律の専門家である弁護士のアドバイスが役に立つでしょう。
結論|派遣社員でも労災は利用できる
労災保険制度は、雇用形態に関わらず全ての労働者が利用できる制度です。派遣会社などから「派遣社員は労災の適用ができない」と言われたとしても、そのようなことはありません。
派遣会社が労災保険の申請を認めてくれない場合にも、適正な手続きを踏めば保険給付を受けることが可能です。労災保険のことについて理解を深め、労災の給付漏れが発生しないように気をつけましょう。
業務中や通勤途中に怪我をしてしまった方へ
- 「治療費は会社が負担するから内緒にしといて」
- 「派遣社員は労災申請できないよ」
- 「うちは従業員が少ないから労災に加入していない」
- 「こんなの労災とは認められないよ」
上記のようなことを会社に言われたら、労災隠しの可能性があります。
労災隠しは犯罪です。
あなたが泣き寝入りする必要はありません。
きちんと申請することで、労災認定されることもあります。
また労災隠しをするような会社は、素直に労災を報告できないような職場環境の可能性があります。
万が一会社が従業員に対する安全配慮を怠っていたら、会社側に損害賠償請求をすることが可能です。
初回相談が無料の弁護士事務所も多数掲載しているので、まずはお気軽にご相談ください。