希望の会社に内定したことを喜んでいたのも束の間、突然内定が取り消されてしまったら、非常に困ったことになります。
昨今の新型コロナウィルス感染症の影響で、4月から入社予定だった方も内定取消しが起こるニュースが多かったのは、記憶に新しいのではないでしょうか?
「新型コロナウイルス」感染拡大は、「売り手市場」の新卒採用を一変させた。終息時期が見通せないなか、内定を取り消す企業も続出している。東京労働局によると、4月27日時点で、すでに全国33社で92名が新型コロナの影響による業績悪化などを理由に、内定取消しを受けた。
引用元:「新型コロナ」で内定取消し、上場企業20社が救済へ
一般的には、会社から内定を受けた時点で他の企業への就職活動をやめてしまうことがほとんどでしょう。そのため、内定取消しは採用予定者の人生設計を大きく狂わせる可能性があります。
しかし、会社からの内定取消しは、その無効を主張したり損害賠償を請求できるケースがあります。
この記事では、内定取消しが無効となる場合や、会社に対して損害賠償を請求できる場合について、リーディングケースとなる最高裁判例などに沿って解説します。
内定を取り消しされてしまった方へ
希望の会社から内定を貰えれば、他の会社の採用を受けていないという方も多いことでしょう。
内定の取り消しは、それ相応の理由がなければ認められません。
合理的理由がない場合、内定取り消しが無効になったり、慰謝料を獲得できたりします。
ただ学生の方が、一人で企業相手に戦っていくのは難しいでしょう。
内定を取り消された方は、弁護士に相談・依頼がおすすめです。
弁護士に相談・依頼すれば、下記のようなメリットを受けられます。
- 内定取り消しが不法なものか分かる
- 会社に対する交渉を代理してもらえる
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内定取り消しは学生の人生設計を狂わせることもあります。
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会社から一方的に内定を取り消すことは可能?最高裁判例の基準
会社から内定者に対して一方的に内定取消しが言い渡された場合、その内定取消しは法的に有効なのでしょうか?
この論点に関しては、最高裁判所が基準を示しています。
まずは基準となった最高裁判例を紹介しつつ、どのような場合に内定取消しが有効となり、どのような場合に無効となるのかについて解説します。
基準となった最高裁判例
内定取消しに関する最も有名な判例が、大日本印刷事件(最判昭和54年7月20日)です。下記で簡単に大日本印刷事件判決の判旨を紹介します。
事実関係
ある印刷業を営むX社に、学生Aが内定していました。
学生AはX社の内定を受けて、他の就活先企業に対して既に断りの連絡を入れていました。
学生Aは、内定に際してX社に対して、一定の場合には採用内定を取り消される可能性があることについて承諾する趣旨の誓約書を提出していました。
誓約書によれば、学生Aが入社後の勤務に不適当と認められる場合には、X社は採用内定を取り消すことができるものとされていました(X社の解約権)。
※解約権とは、契約存続期間の定めがない場合には、当事者また契約の相手方に解約原因があるときには、いつでももう一方の当事者に契約を解約する権限のこと。
X社は、学生Aの入社が間近に迫った2月半ばになって、突然学生Aに対して特に理由を示さず内定取消しの通知をしました。学生Aはほかの就職先企業への就活を取りやめていたため、就職が事実上不可能になってしまいました。
X社が学生Aの内定取消しの理由は、「グルーミーな印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかった。」というものでした。
判旨
まず最高裁は、採用内定通知の段階で、X社と学生Aの間に労働契約が成立していることを認定しました。採用内定通知後には、特段のアクションを起こすことなく入社へと進むという点を考慮して、
- 学生からの採用応募=労働契約の申込み
- 採用内定通知=申込みに対する承諾
と解釈され、契約の申込みと承諾の合致があると判断されたのです。
労働契約とは
「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意すること(労働契約法第6条)」と定められており、会社に使用されて労働し、賃金をもらう契約をさします。
※なお、労働契約とは別に「雇用契約」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、基本的には同じ意味であり、違いを意識する必要はありません。
(労働契約の成立)
第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
引用元:労働契約法第6条
内定段階で学生の適性を判断するのは難しい
判例は、まず、内定段階では学生の適性に関する情報を十分に収集することができないということを考慮して、X社が解約権を留保(りゅうほ)すること自体は適法と判断しました。
しかし、一般的に企業は労働者に対して優越する立場にあるため、解約権を行使して採用内定を取り消すことについては下記のように判示し、一定の制限を受けるべきことを示しました。
「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認することができる場合にのみ許される」本件では、学生Aの内定取消しの理由は、学生Aがグルーミーな印象であったからというものでした。最高裁はこの点に関して、以下のように判示して、内定取消しを解雇権の濫用として無効としました。
「グルーミーな印象であることは当初からわかっていたことであるから、上告人としてはその段階で調査を尽くせば、従業員としての適格性の有無を判断することができたのに、不適格と思いながら採用を内定し、その後右不適格性を打ち消す材料が出なかったので内定を取り消すということは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用というべき」
「客観的かつ合理的」「社会通念上相当」という言い回しについて
裁判や判例ではよく出てくる用語ですが、明確な基準や定義がある訳ではありません。一般社会の常識、慣習、通例を考慮して決定するものです。
このように解雇等の有効性については、一定の法的・規範的判断が必要となり、一般人には判断・評価が難しい場合がほとんどです。したがって、解雇等の有効性を争いたいのであれば、労働問題に詳しい弁護士への相談をおすすめします。
内定の時点で労働契約は成立している
新卒学生の場合は、採用選考を通過した場合、企業から内定通知書や内定承諾書などの書類が送付され、これにサインして返送することで、正式採用となるというステップを踏むことが多いと思われます。
この場合、最高裁判例に照らすと、内定通知書が送付された時点で労働契約が成立していることになりますが、場合によっては内定承諾書を返送した時点で労働契約が成立したと評価する余地もあると思われます。いずれにせよ、企業が正式に採用する旨を「内定」という形で通知した場合には、内定者は労働契約の一方当事者として労働基準法や労働契約法の保護を受けるということを意味します。
例えば、労働者に対する解雇については、労働契約法16条が次のように定めています。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
引用元:労働契約法16条
内定者も労働契約の一方当事者である「労働者」として上記法律の適用があります。そのため、内定者に対する解雇は上記の解雇に対する法規制に従ってその有効性が吟味されることになります(この法規制を解雇権濫用法理(かいこけんらんようほうり)と呼びます。)。
内定取消しができる場合は限られている
特に新卒者に対する内定手続では、会社から内定取消事由について通知され、当該事由が認められる場合には内定を取り消すことがある旨説明させる場合が多いと思われます。
このような内定事由が認められる場合に内定を取消す権利を、判例は労働契約の「留保解約権」と整理しています。
この留保解約権の行使が、本記事で問題視する「内定取消し」です。
そして、留保解約権の行使が労働者に対する解雇であることも上記のとおりです。そのため、会社は、留保解約権を無制限に行使できるわけではなく、上記最高裁判例や労働契約法の規律に従って、これを行使しなければなりません。
判例の規範によれば、留保解約権の行使が許されるのは以下の場合です。
- 採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実を原因とすること
- 内定取消しに客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められること
内定取消しの有効性が認められる7つの具体例
では、実際にどのような場合に内定取消しが認められるのでしょうか。
具体例に沿って解説します。
卒業できなかった場合
企業に入社する社員には、職務専念義務があります。そのため、内定時に学生である内定者については、入社時には卒業済みであることが前提となります。
しかし、企業の想定に反して学生が学校を卒業できなかった場合には、内定取消しをする合理的な理由が認められる可能性が高いといえます。
必要な資格を取得できなかった場合
入社後すぐに内定者が従事することが予定される業務に一定の資格が必須となる場合、この資格を取得できなければ、会社の業務に大きな支障が出てしまいます。
よって、業務上必要な資格を取得できなかった場合には、内定取消しをする合理的な理由が認められる可能性が高いといえます。
体に大きな障害を負ってしまった場合
内定者が入社前に大きな怪我などを負い、体に大きな障害を負ってしまった場合には、労働能力の全部または一部が喪失してしまう可能性があります。
内定当時の労働能力を前提として採用した企業としては、後発的な障害により内定者の労働能力が喪失してしまう事態は想定外といえます。
よって、内定者が体に大きな障害を負ってしまい、就労に耐えられない状態に陥ってしまった場合は、内定取消しをする合理的な理由が認められる可能性が高いといえます。
もっとも、企業内での配置次第では十分な労働能力を発揮できるような場合には、内定取消しが認められないケースもあると思われます。
健康状態が大きく悪化してしまった場合
内定者の健康状態が大きく悪化し、就労に耐えられない状態に陥ってしまった場合にも、企業が内定時に期待した労働能力を有しないことになるため、内定取消しをする合理的な理由が認められる可能性が高いといえます。
もっとも、健康状態の悪化が一時的なものであり、採用後短期間で労働能力を回復する可能性があるとか、企業内での配置次第では十分な労働能力を発揮できるような場合には、内定取消しが認められないケースもあると思われます。
経歴に虚偽があった
企業の採用選考では対象者の経歴は労働能力の有無や適正の有無を判断するための重要事項と位置づけられています。
そのため、内定者が申告した経歴に虚偽があったような場合には、労使間の信頼関係を毀損するものとして、内定取消しが認められる可能性があります。
もっとも、経歴についての虚偽が悪意のないものであったり、労働能力や適正に関わらない軽微なものであったり、企業の配置に影響しないようなものである場合には、単に経歴に誤りがあったというだけで内定取消しをすることは認められない可能性が高いでしょう。
刑事事件の被疑者として逮捕・起訴された
内定者が入社前に犯罪行為に及んだ場合、企業のレピュテーションや秩序に対して深刻な影響となる可能性がありますし、労働者としての適格性にも大きな疑問を持たれてしまうこともやむなしでしょう。
そのため、内定者が入社前に刑事事件の被疑者として逮捕されたり、起訴されたという場合には、企業側による内定取消しには理由があると判断される可能性は高いです。
もっとも、犯罪事実が軽微であり、逮捕後すぐに釈放されたような場合や、逮捕されても起訴まではされなかったような場合には、企業側への影響が少ないとして内定取消しが認められない可能性もあろうかと思われます。
経営が困難になりリストラを要する場合
内定を出した後に急速に経営が傾き、リストラによる立直しを要する状況となってしまった場合、当該リストラ措置の一環として内定者の内定を取り消すということはあり得ます。
このような内定取消しは整理解雇の一種と考えられており、通常の解雇よりもその有効性について厳格な判断をされることになります。
結果、整理解雇やむなしという状況であれば内定取消しは有効となるでしょうし、整理解雇までは必要ないとか整理解雇の処理が公正でないと評価されれば内定取消しは無効と判断されることになります。
※整理解雇とは
経営状態の悪化等企業側の事情により、労働契約を解消する行為。労働者側に責任がない解雇であるため、通常の解雇に比して厳格な有効性判断を受けるのが一般的。
参考:もし整理解雇されたら|整理解雇の条件と知るべき対応策
違法な内定取消しに遭った場合の対処法3つ
内定者が違法な内定取消しに遭ってしまった場合、大きく分けて以下の2つの対処法があります。
- 内定取消しの無効を主張する
- 会社に対して損害賠償を請求する
まずは会社と交渉する
いずれの方針を取るとしても、まずは会社に対して内定取消しの理由について十分な説明を求めましょう。
その上で内定取消しを撤回してもらえないか、どのくらいの補償をしてもらえるのかなどについて、内定者側としての希望を会社に伝えて交渉しましょう。
どのように交渉を進めればよいのかについては弁護士がノウハウを持っているので、弁護士に交渉を依頼することがおすすめです。
従業員としての地位確認訴訟を提起する
「地位」とは、法律や契約によって決められた立場のもので、社会的な地位ではありません。
労働訴訟において「解雇」などの有効性を争う場合は「労働契約の当事者としての地位」を『確認』を求めていくことが一般的です。
内定取消しを撤回して欲しいけれど会社との交渉が成立しないという場合には、労働審判や民事訴訟といった法的手続を提起するほかありません。そして、この手続の中で解雇権濫用法理等に基づいて内定取消しの有効性を争い、その無効を主張して従業員としての地位確認を求めるという進め方がスタンダードでしょう。
不法行為に基づく損害賠償を請求する
まず、企業と労働者の間に内定関係が成立した場合、当該内定を一方的に破棄する行為は、違法な契約解消行為として、不法行為となる可能性があります。
あまりスタンダードなやり方ではありませんが、この不法行為責任を追及して損害賠償を求めるということも理論的にはあり得ます。
弁護士
しかし、損害賠償請求が活用されるのは、内定関係が生じたケースよりむしろ、内定関係成立前の内々定の状況であった場合の方が一般的と思われます。
日本の場合、内定に進む前に事実上内定が約束された「内々定」というものが通知されることがあります。
この内々定の通知を受けた相手は、企業に正式採用されることを当然に期待するでしょうから、この期待は法的保護に値すると考えられています。
この内々定の状態で、企業側が「やはり内定しない」と前言を翻した場合、この期待権侵害を理由に損害賠償を求めるということがスタンダードなやり方でしょう。
違法な内定取消しに対する損害賠償の金額の相場は50万円から100万円
内定者が違法な内定取消しに関して、会社に対して損害賠償を請求する場合、どのくらいの金額が認められることになるのでしょうか。
実際には、損害賠償額は具体的な事例に応じてケースバイケースで決定されますが、それほど大きな金額とならないことが一般的です。多くの場合は50~100万円の範囲に落ち着くように思われます。
違法な内定取消しの被害に遭ったら弁護士に相談しよう
内定者が違法な内定取消しの被害に遭ってしまった場合、労働問題に詳しい弁護士に相談するのがおすすめです。
内定者と会社の間には、金銭的にもマンパワー的にも大きな力の差があります。そのため、内定者がひとりで会社と交渉するのは非常に大変であり、現実的ではありません。
会社との交渉を行うにあたっては、弁護士を伴って交渉をする方が労力を大きく節約できます。また、法律の専門家である弁護士が味方についていれば、会社も交渉に応じてくれやすくなります。
さらに、交渉が決裂した際の訴訟などを念頭に置いた場合、当初から弁護士に相談しておくと手続きをスムーズに進めることが可能です。
違法な内定取消しの被害に遭ってしまったら、ぜひ弁護士に相談して見てください。
まとめ
以上に解説したように、企業が一方的に内定取消しを行った場合、その理由によっては内定取消しが違法無効となる場合があります。
違法な内定取消しに対しては、従業員としての地位確認訴訟を提起したり、債務不履行に基づく損害賠償請求を行ったりすることができます。その際は法的なポイントを踏まえた上で争う必要があるので、法律の専門知識が不可欠です。
ぜひ早めに弁護士に相談をして、内定者にとってより良い方向での問題解決を目指してください。
内定を取り消しされてしまった方へ
希望の会社から内定を貰えれば、他の会社の採用を受けていないという方も多いことでしょう。
内定の取り消しは、それ相応の理由がなければ認められません。
合理的理由がない場合、内定取り消しが無効になったり、慰謝料を獲得できたりします。
ただ学生の方が、一人で企業相手に戦っていくのは難しいでしょう。
内定を取り消された方は、弁護士に相談・依頼がおすすめです。
弁護士に相談・依頼すれば、下記のようなメリットを受けられます。
- 内定取り消しが不法なものか分かる
- 会社に対する交渉を代理してもらえる
- 不法行為に基づく損害賠償請求 など
内定取り消しは学生の人生設計を狂わせることもあります。
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