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固定残業代(みなし残業)とは?未払い分がある場合の対処法も解説

更新日
日暮里中央法律会計事務所
原 千広
このコラムを監修
固定残業代(みなし残業)とは?未払い分がある場合の対処法も解説

固定残業代とは、企業が一定時間の残業を想定し、あらかじめ月給に残業代を含めておく制度です。

 

「みなし残業代」とも呼ばれています。 残業をしなくても残業代がもらえる、仕事の効率化が望めるといったメリットが期待できる一方、この制度を悪用し、固定残業代に相当する残業時間以上の残業をしても残業代を払わない企業も残念ながら存在します。

 

今回は、固定残業代に関するトラブルを解消できるよう、固定残業代の知識や本来の残業代分を支払ってもらう方法も解説します。

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この記事に記載の情報は2024年11月21日時点のものです

固定残業代(みなし残業代)とは|仕組みと概要

固定残業代とは、どのようなものをいうのでしょうか。以下では例を挙げながら説明します。

固定給にあらかじめ残業代が含まれている

固定残業代とは、残業代があらかじめ固定給に含まれている場合の残業代をいいます。 固定残業代を導入するのならば守らなければならないルールが存在します。確認していきましょう。

従業員に周知する義務(就業規則で定める場合)

会社は、就業規則を作成する場合、賃金の計算方法等について定めなければならず(労働基準法89条2号)、固定残業代で給与換算していることを従業員に知らせる義務があります。

 

口頭での説明だけでは不十分で、以下のように書面できちんと周知させなければなりません。なお、就業規則の作成義務を負っていない小規模な職場で、作成もしていない職場の場合、個別の従業員との合意が必要となります。

【就業規則の例】

 (固定残業の定め)

第〇条 〇〇手当は固定残業手当として、あらかじめ設定した時間(〇〇時間)に対して支給し、実際の労働時間がこれを超えた場合は、法令に基づき割増賃金を加算して支給する。

固定残業代と残業時間を明確に記載する必要

固定残業は金額と時間を明確に記載しなければなりません。

 

たとえば「月給25万円(固定残業代を含む)」という記載だけでは、固定残業代に相当する分はどれくらいか、また何時間分の残業代に相当するのかわかりません。

 

固定残業代では、「月給25万円(45時間分の固定残業代5万円を含む)」というように具体的に固定残業代の金額と残業時間を明記する必要があります。

みなし時間と実労働時間の関係性

みなし時間が実際の労働時間よりも少なかった場合又は多かった場合には、以下のような給与計算になります。

みなし時間が実労働時間より多い場合

あらかじめみなし時間として定められた時間に満たなくても、固定残業代として定められた金額は全額支払われます。

 

つまり、残業時間が少ない月でも、残業代が減ることはありません。

みなし時間が実労働時間より少ない場合

実際の残業時間がみなし時間を超えた場合、残業代は超えた分について追加で支払われます。

固定残業時間の上限

あらかじめ決めておく固定残業時間に、上限はありません。

 

しかし、36協定によって残業が可能であるとしても、労働基準法上の上限(原則として1か月45時間、1年で360時間。労働基準法36条4項)を超えて残業させることはできません。

労働者からみた固定残業代のメリット・デメリット

固定残業代は、労働者にとってどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

固定残業代のメリット

固定残業代制は正しく運用されれば、労働者にとって有利な制度です。そのメリットとしては以下のようなことが挙げられます。

残業をしなくても残業代が支払われる

残業をしてもしなくても固定の残業代が支払われるのは、労働者にとって大きなメリットといえます。

 

特に繁忙期と閑散期の差が大きい業種では、時期によって給与の額が大きく変動し、労働者の収入額が安定しない可能性もあるでしょう。

 

固定残業代であれば、1年を通して同額の給料を受け取れるので、労働者にとって大きな安心へとつながるはずです。

仕事を効率化させても、収入が確保できる

残業をしてもしなくても同額の収入を確保できるのなら、残業は極力避けたほうが労働者にとっては得です。

 

仕事の効率化を目指せば労働者の能力の向上も期待できますし、残業をしないことで生まれた時間を自由に使えるため、ワークライフバランスの向上も期待できるでしょう。

 

さらに、心身の健康を保ちやすくなることで、生産性の向上も期待できるかもしれません。

固定残業代のデメリット

企業が固定残業代制を不正に運用すれば、労働者は大きなデメリットを被る可能性もあります。

 

固定残業代のデメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。

基本給が低くされる場合がある

固定残業代を支払う代わりに、基本給を低く設定する企業もあります。

 

基本給を低くくしてその分を固定残業代とすることで、固定残業代そのものを圧縮できるほか、固定残業代に相当する残業時間を超える残業についての残業代の額も圧縮できることになります。

 

そのため、基本給を低くする企業もあるのです。

超過した残業代を支払わない企業もある

固定されたみなし残業時間を超過しておこなった残業分については、追加で残業代を支払わねばなりません。

 

しかし、企業の中には、超過分の残業代を支払わないところもあります。

 

このような行為は違法であるため、もしそのような企業に勤めている場合は、是正を求めて専門機関や専門家に相談したほうがよいでしょう。

違法な固定残業代制(違法な残業代未払)を見分ける4つのポイント

固定残業代制が違法かどうか判断できるポイントがあります。これからは固定残業代制の違法性を見つけるポイントを4つ紹介します。

固定残業代の金額・時間が明確に記載されていない

曖昧な記載をされている場合は要注意です。採用情報で以下のような書き方をしていた場合は、注意したほうがいいでしょう。

  1. 「月給22万円(みなし残業手当42時間分含む)+交通費(上限3万円) 」
  2. 「月給21万3750円(一律残業手当含む)」

①はいくら分が残業代なのかわかりませんし、②に至っては、残業代の時間も金額も不明です。 採用されたあとは就業規則にも注意しましょう。

 

会社側が固定残業代制を採用していると主張しているのに、その金額や時間が明記されていないなら、固定残業代制が採用されているとはいえません。

超過した残業代が支払われない

たとえば、「残業手当5万円(月45時間分)を含む。」と記載されていたなら、45時間以上働いた月はその分の追加の残業代が支払われなければなりません。 固定残業時間を超過した分の残業代を支払わないのは違法です。

雇用側が固定残業代を周知していない

固定残業代制を取り入れる企業は、就業規則の作成義務がある限り、必ずそのことを労働者に周知しなくてはなりません。

 

雇用開始後に、途中で固定残業代制を採用する場合、個別に同意を得るか、就業規則を作成又は変更して、その旨を従業員に知らせなければなりません。

 

従業員に知らせないまま固定残業代制に切り替え、給与も一定のままにしているのと、未払残業代が発生している可能性が高いです。

残業代を請求するための方法

未払の残業代があるなら、次の手順で企業に請求しましょう。

適正な残業代を計算する

まずは、本来もらうべき残業代を計算します。

 

残業代の計算方法については、後述する「固定残業制の違法等を主張して適正な残業代を請求する計算方法」で紹介します。

請求書を送る

企業に対して、未払の残業代の支払を求める請求書を送付します。送付には、内容証明郵便を利用するのが一般的です。

 

内容証明郵便とは、郵便局が、誰が、誰あてに、いつ、どんな内容の郵便を送ったかを証明してくれるサービスです。

 

相手が受け取っていないなどと虚偽の主張をすることや、時効の完成を防げます。

 

ただし、書面の行数や1行あたりの文字数が定められているなど、独特の決まりに従わねばならないため、下記ページを参照して利用しましょう。

参考:内容証明 | 日本郵便株式会社

弁護士に依頼をする

請求書を送付しても企業が支払に応じないのであれば、弁護士に依頼することをおすすめします。

 

弁護士が代理人として交渉すれば、法的手段に訴えられることを恐れ、請求に応じることもあります。

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労働審判を申し立てる

弁護士が交渉しても企業が応じなければ、労働審判を申し立て、裁判所で争うことになります。

 

労働審判は、労働者と事業主との間のトラブル解決のために利用でき、通常の裁判手続よりも短期間での解決が期待できる手続です。原則として3回以内の期日、期間にして3ヵ月程度で終結します。

 

期日で調停が成立しなければ法的効力を有する審判が下されるので、解決が期待できるでしょう。

固定残業制の違法等を主張して適正な残業代を請求する計算方法

固定残業代制に関連して残業代を請求するには2つのパターンが有ります。

 

固定残業代制で定められた時間以上に働いた時間に相当する残業代を請求する場合と、そもそも固定残業代制自体が無効であり残業した分全てを請求する場合です。

 

現状で残業代の時効は3年間であり、3年前までさかのぼって計算することが可能です。(民法改正により、2020年4月1日以降に支払われる賃金の時効は当面の間「3年」となりました。)

残業代の計算方法

まず固定残業代制が正しく適用されているかを判断するためにも、現在、固定残業代とされている金額が適切な金額かどうか確認しましょう。

 

残業代の1時間あたりの金額は、基本的には月給から諸手当(注:例外あり)を引いた基本給の時給に1.25倍を掛けた金額です。

 

以下の計算式が月の残業代計算のベースになります。

(基本給)=(月給)-(固定残業代)-(その他手当) 

(基本給)÷(1年間における1か月の平均所定労働時間)×(1.25)×(残業時間)=(本来の残業代)

固定残業代以外の残業代の計算方法

固定残業時間を超えて働いた残業時間分は、未払残業代として請求することができます。

(本来の残業代)-(固定残業代)=(未払残業代)

固定残業代かどうか不明な場合の計算方法

固定残業代かどうか不明な場合は、会社が固定残業代であると主張する金額は全て基本給に含まれることとなり、残業代は払われていなかったことになります。

{(基本給)+(固定残業代)}÷(1年間における1か月の平均労働時間)×(1.25)

  =(固定残業代が無効の場合の1時間あたりの残業代)

  (固定残業代が無効の場合の1時間あたりの残業代)×(総残業時間)=(未払残業代)

たとえば月給25万円(内訳が基本給20万円固定残業代5万円45時間分)で1年間毎月30時間残業していたとしましょう。

 

固定残業代が正確に運用されていれば月収25万円で問題ありません。

 

しかし、何らかの理由で5万円の支給が固定残業代であると認められなければ、基本給は5万円分も含んだ25万円とされ、今まで残業した分の全額の支払を求めることができます。

の平均労働日数が21日とすると

基本給250,000÷(21×8時)=1,488円が一時間あたりの賃金で払われていことになります。

残業時間は1.25倍で計算するので1,488×1.25=1,860円が残業1時間あたりの割増賃金です。

月残業時間が30時間で、1年間続いたとすると   

 1860×30時間×12か月=669,600円を未払残業代として請求できることとなります。    

つまり、固定残業代である旨を明示しないであやふやに「特別支給」などとして毎月固定額を支払っているだけの会社は、それが残業代であるかどうか不明であれば、残業代などは一切払ってないことになります。

 

それまで発生した残業代を全て請求することも可能でしょう。

少し大変な残業代の計算

このように残業代計算は少々複雑です。このうえ、さらに各種手当や月の労働日数も加わってくるので、不慣れな方にはかなり難しく感じられるでしょう。

 

複雑な計算をすることなく、大体の金額を知りたい方は一度『残業代計算機』を利用してください。 あくまで簡易的なものですので、残業代について正確に知りたい方は弁護士へ相談することをおすすめします。

残業代を請求する際に必要な代表的な証拠

固定残業代制を会社が正しく運用していなかったため、本来の残業代を請求したいと考えているのであれば、まず証拠を準備する必要があります。

 

ここでは有効な証拠について説明します。

就業規則などの給料・雇用に関することが記載された書類

就業規則や雇用契約書は、雇用契約(労働契約)の内容を明らかにするために重要です。

 

そもそも固定残業代制が有効かどうかや、適正な残業代はいくらかを計算するのにも必要な書類となります。

タイムカードなどの実際に働いた時間がわかるもの

残業代を計算する際に必要です。タイムカードがないのであれば、実際の労働時間が分かるようなメールや日誌なども証拠として使えます。

給与明細などの残業代の支払についてわかるもの

毎月の給与明細も重要な書類です。紛失している場合には会社に再発行をお願いしましょう。

まとめ

固定残業代は正しく運用されていれば、労働者にとってメリットの多い制度ですが、中には悪用する企業もあります。

 

損をしないためにも、正しい知識を身に着けておくことが大切です。 少しでも怪しいと思ったら、弁護士に相談してみることをおすすめします。

 

違法に運用されているのかを見極めたうえで、正しい対処法を指導してくれるでしょう。

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この記事の監修者
日暮里中央法律会計事務所
原 千広 (東京弁護士会)
東京大学法科大学院修了。東京弁護士会所属。離婚・相続等の家族案件から労働・国際案件まで幅広く携わり、Yahoo!ニュース等の記事監修も手がける。(※本コラムにおける、法理論に関する部分のみを監修)
編集部

本記事はベンナビ労働問題(旧:労働問題弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ労働問題(旧:労働問題弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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