懲戒解雇とは、社内の秩序を著しく乱した労働者に対するペナルティとしておこなう解雇のことです。
公務員の場合は懲戒免職と呼びます。
日本の社会では労働者の立場は手厚く保護されており、会社側は容易に労働者を解雇することはできません。
また、労働者を解雇する場合、解雇予告や解雇予告手当の支払いなどの適正な手続きを履践しなければなりません。
本記事では、懲戒解雇になりうるケースや、懲戒解雇が不当かどうかのチェックポイント、不当に懲戒解雇された場合の対処法などを解説します。
自分の処分の重さに納得がいかない方へ
労働者を懲戒解雇するのは、もっとも重い処分です。したがって、懲戒解雇するには適切な解雇理由がなければなりません。
また懲戒解雇をされてしまうと、今後の転職活動も不利になることが予想されます。
少しでも自分の処分に納得がいかない方は、弁護士への相談・依頼がおすすめです。
弁護士に相談・依頼すれば、以下のようなメリットを得られます。
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この記事に記載の情報は2024年05月28日時点のものです
懲戒解雇の特徴と普通解雇との違い
解雇の種類は、以下の3つに大きく分かれます。
- 整理解雇:経営不振などの、経営上の理由による解雇
- 普通解雇:経営上の理由以外で、やむを得ない事由による解雇
- 懲戒解雇:会社から労働者に対する、ペナルティとしての解雇
整理解雇と普通解雇の場合、会社は30日前に解雇予告をするか、解雇予告手当を支払う必要があります。
ただし、懲戒解雇の場合、労働基準監督署長による解雇予告除外認定を受けることで、解雇予告手当を支払わずに即時解雇することができます。
懲戒解雇では退職金が支払われないことが多い
懲戒解雇の場合は退職金が支給されないケースもありますが、全てのケースで支給されないわけではありません。
まず、会社が退職金制度を実施しており、懲戒解雇の際に退職金を支払わないのであれば、就業規則に「懲戒解雇にあたる者には退職金の支給はおこなわない」という内容を明記しておかなくてはなりません。
また、一口に懲戒解雇といっても事案の重大さはケースバイケースです。
退職金の不支給や減額は当該事案の重大さや対象者の在籍時の貢献度などを考慮したうえで判断されるものであり、懲戒解雇だからといって「一律不支給」「一律減額」ということではありません。
懲戒解雇のチェックポイント
どのような場合に懲戒解雇が許されるのか疑問に思う方も多いでしょうが、明確な基準はありません。
もっとも、懲戒解雇が許されるかどうかのチェックポイントはいくつかあります。
就業規則上の規定の有無
懲戒解雇の事由については、就業規則に明記されている必要があります。
たとえば、横領のような客観的に誰が見ても企業の秩序を乱すような行為をしても、「犯罪行為をした者は懲戒解雇とする」といった内容が就業規則に記載されていなければ懲戒解雇にはできません。
大企業や社労士に就業規則の作成を依頼している企業でそのようなことが起こる可能性は低いものの、従業員が10名未満で就業規則の作成義務が無い企業などは、そもそも就業規則が存在しないこともあります。
就業規則にも雇用契約書にも懲戒解雇事由が明記されていない場合、どれほど悪質な行為をしたとしても懲戒解雇することはできず、普通解雇で処理することになります。
適正な手続き
懲戒解雇は労働者に対するペナルティであり、原則として処分をおこなう前に対象者に弁解の機会を与える必要があります。
このような手続きを履践しない場合、適正な手続きを踏まないものとして懲戒解雇が無効となる可能性があります。
解雇の合理的理由および社会的相当性
ここでの懲戒解雇の合理的理由とは「対象者の行為が企業秩序を著しく乱す行為であったかどうか」というもので、具体的には「規定された懲戒解雇事由に該当するかどうか」ということです。
また、たとえ懲戒解雇事由に該当する場合でも、「懲戒解雇という選択が社会的にみて適切かどうか」ということもポイントになります。
たとえば、企業秩序を乱したといえるものの会社に実損が生じていない場合や、解雇せずとも秩序の回復が可能な場合などは、懲戒解雇の社会的相当性は否定されます。
懲戒解雇になりうる6つの重大な問題
懲戒解雇になりうる重大な問題としては、以下があります。
業務上の地位を利用した犯罪行為
たとえば、経理の担当者が横領をしていたり、営業の担当者が架空取引をして利益を得ていたりする場合は、懲戒解雇になるのが一般的です。
これらが刑事事件として立件されるかどうかは別として、このような行為は会社に対する深刻な背信行為であり、かつ会社の損害も大きなものとなるため、懲戒解雇の理由として十分あてはまります。
会社の名誉を著しく害する重大な犯罪行為
業務とは関係ない私生活上の行為であっても、殺人・強盗・強姦などの重大犯罪や会社の名声を著しく貶めるような犯罪行為があった場合には、懲戒解雇が認められます。
経歴の重大な詐称
会社の採用判断において大きな影響を与えるほどの経歴詐称があった場合には、会社の採用プロセスへの深刻な背信行為として、懲戒解雇が認められることがあります。
長期間の無断欠勤
長期間の無断欠勤は会社に損害を与えます。
たとえば、正当な理由なく1ヵ月以上無断欠勤を続け、度重なる出勤命令も拒否し続けた場合には、懲戒解雇が認められる可能性があります。
重大なセクシャルハラスメント・パワーハラスメント
セクシャルハラスメントやパワーハラスメントは、通常は一発で懲戒解雇となるものではありません。
しかし、強制わいせつや強姦に類似するようなセクシャルハラスメントや、恐喝や傷害に至るようなパワーハラスメントの場合は、事案の悪質性から懲戒解雇が認められる可能性があります。
懲戒処分を受けても同様の行為を繰り返す
軽度のパワハラやセクハラ・単純な無断欠勤・業務命令違反などについては、当初は注意指導や軽微な懲戒処分で済むことがほとんどでしょう。
しかし、このような是正措置を講じても、本人がこれを改善せずに同様の行為を繰り返す場合は、事案が悪質であるとして懲戒解雇が認められる可能性があります。
不当に懲戒解雇を受けていないかチェックするポイント
ここでは、懲戒解雇が正当かどうか判断する際のポイントについて解説します。
まずは就業規則を確認する
懲戒解雇をする場合、その該当理由が就業規則や雇用契約書に記載されていなければなりません。
まずは、懲戒解雇の理由が就業規則などにしっかり記載されているか確認しましょう。
なお、就業規則については、労働者に周知されていなければ効力が生じません。
たとえば、担当部署や上司に「就業規則を見せてください」とお願いしても断られた場合には、就業規則が周知されていないとして規則自体が無効になることもあります。
解雇理由証明書の発行を申請する
懲戒解雇にかぎらず、解雇された際は「解雇理由証明書」の発行を申請できます。
これは、のちに不当解雇を主張する際の証拠にもなります。
解雇理由が重大な事項ではなかった場合には、懲戒解雇が不当である可能性があります。
たとえば「会社の情報を漏洩させた」という理由であっても、競合会社に情報を伝えていた場合と会社のPCを家に持ち帰っていた場合では重大さが異なり、程度によっては懲戒解雇が適切ではないということもあります。
ただし、正当か不当かを争う際は客観的な意見も必要であるため、一度弁護士に相談することをおすすめします。
不当な懲戒解雇があった場合の対処法
もし不当な懲戒解雇があった場合は、以下のような対応を取りましょう。
会社に懲戒解雇か普通解雇か確認する
たとえば、社長や上司から「解雇だ!明日から来なくていい!」と言われたとしても、これが雇用契約を打ち切る解雇の意思表示であるのか、それとも単なる感情的な叱責であるのかは明確ではありません。
後者の場合は謝罪や弁解をすれば済む話であり、解雇云々の問題ではありません。
前者の可能性がある場合は、発言者に対して「それは雇用契約を一方的に打ち切るという意味ですか」と確認しましょう。
発言者が「そうだ」と答えた際は、「解雇するのであれば書面で通知してください」と求めましょう。
なお、解雇の意思表示でも懲戒解雇なのか普通解雇なのかによって取り扱いが異なるため、可能であればどちらなのかも確認しましょう。
弁護士に相談する
懲戒解雇は、会社での処分のなかでも最も重いものです。
会社から一方的に懲戒解雇された場合は、自分だけで戦わずに労働問題を得意とする弁護士に相談してください。
懲戒解雇されるようなケースでは、労働者側の言い分を会社側が聞き入れてくれず、社内での味方が少ないということもあるでしょう。
弁護士であれば、相談者の言い分を聞いたうえで今後の対応をアドバイスしてくれるため、不当な扱いをされて困っている方は相談することをおすすめします。
懲戒解雇されるとその後の転職活動も不利になる
懲戒解雇されると、その後の転職活動が不利になります。
賞罰の記入欄がない履歴書にわざわざ「懲戒解雇で退職」と書く人はいないでしょうし、面接時に前職の退職理由を聞かれなければ、わざわざ伝える必要もありません。
しかし、離職票には「重責解雇」と記載されてしまう場合があります。
離職票は雇用保険などの切り替え手続きでも必要になるので、転職先の企業から提出を求められることもあります。
離職票に「重責解雇」と記載されていると、「以前の会社で何か重大な問題があった」と知られてしまいます。
反省も大事
自分に非があって懲戒解雇された場合、自分の行動について反省することは大切です。
労使間のトラブルでは、どちらかが100%悪いというケースは少なく、どちらにもある程度の原因があることが大半です。
無反省のままでいると、いずれまた同じようなトラブルを起こしてしまう可能性もあり、トラブルを繰り返すとまともな職場では働けなくなってしまうこともありえます。
これまでの自分のおこないを真摯に省みる姿勢も大切なのです。
最後に
懲戒解雇は重大な処分であり、その後の転職活動にも大きな影響が生じます。
懲戒解雇という処分が正当なのかどうか疑問を感じた際は、労働問題に注力する弁護士に相談してみましょう。