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会社の取締役は、会社の経営について責任を負う立場にあります。
会社の設立当初は、経営陣の中でコンセンサスが取れていたとしても、年月の経過とともに経営方針について見解に齟齬が生じてくることは、決して珍しいことではありません。
このような事態がエスカレートした結果、取締役が会社からある日突然「解任」されるということもあり得るでしょう。
この点、取締役は会社のために職務を遂行するという点では労働者と同じですが、会社との契約関係は一般的な労働者とは大きく異なります。結果、取締役の解任については労働者の解雇とは法律上の取扱いが異なり、会社側で履践するべき手続や責任の内容は全く違います。
今回は取締役の解任をテーマに、基本的なルールや手続の流れ、解任された場合の対応について解説します。
会社と労働者との契約関係は労働契約であり、労働者に対する「解雇」は会社が労働契約を一方的に解消する行為です。
このような解雇は、労働基準法や労働契約法の適用を受けたり、会社には解雇予告手当の支払いが義務付けられたり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は法律上効力を有しないなどの規律があります。
つまり、労働者に対する「解雇」については、これら労働関係法令による保護を受けるということです。
他方、取締役については、会社の株主総会決議により選任され(会社法第329条1項)、『会社法第330条』に「株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う」との定めがありますので、会社との契約関係は委任契約とされています。
そのため、取締役は「労働者」ではなく、取締役に対する「解任」には、上記のような労働関係法令による保護はありません。そのため、会社は、これら労働関係法令による規律に縛られることなく、取締役に対する「解任」を行うことができます。もっとも、取締役に対する「解任」については、別途、会社法に基づく規律がありますので、この点は留意しましょう(この点は後述します。)。
取締役の解任について労働関係法令の保護はありませんが、会社法の規律があることは上記のとおりです。
まずは、取締役を解任するための会社法の手続について知っておきましょう。
取締役の解任は、取締役会決議や代表取締役の決定ではできず、株主総会の決議が必要です。
この決議は、基本的には普通決議で足り、
ことができます(会社法339条1項、341条)。
もっとも、会社の定款で法令よりも厳格な基準を設けることも可能であるため、実際に必要な手続については、定款を確認する必要があります。
(定款で法令よりも緩やかな基準を設けることはできません。)
上記のとおり、取締役の解任については株主総会の解任決議が必要であるため、多数派の意見によっては取締役の解任が実現できないことは往々にしてあります。
この場合、少数株主保護の観点から以下の要件を満たす場合、少数株主は取締役解任の訴えを提起することができます。
(株式会社の役員の解任の訴え)
第八百五十四条 役員(第三百二十九条第一項に規定する役員をいう。以下この節において同じ。)の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき又は当該役員を解任する旨の株主総会の決議が第三百二十三条の規定によりその効力を生じないときは、次に掲げる株主は、当該株主総会の日から三十日以内に、訴えをもって当該役員の解任を請求することができる。
一 総株主(次に掲げる株主を除く。)の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主(次に掲げる株主を除く。)
イ 当該役員を解任する旨の議案について議決権を行使することができない株主
ロ 当該請求に係る役員である株主
二 発行済株式(次に掲げる株主の有する株式を除く。)の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主(次に掲げる株主を除く。)
イ 当該株式会社である株主
ロ 当該請求に係る役員である株主
2 公開会社でない株式会社における前項各号の規定の適用については、これらの規定中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とあるのは、「有する」とする。
3 第百八条第一項第九号に掲げる事項(取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役)に関するものに限る。)についての定めがある種類の株式を発行している場合における第一項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「株主総会(第三百四十七条第一項の規定により読み替えて適用する第三百三十九条第一項の種類株主総会を含む。)」とする。
4 第百八条第一項第九号に掲げる事項(監査役に関するものに限る。)についての定めがある種類の株式を発行している場合における第一項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「株主総会(第三百四十七条第二項の規定により読み替えて適用する第三百三十九条第一項の種類株主総会を含む。)」とする。引用元:会社法第854条
訴訟によって解任する旨の判決が確定すれば、取締役は解任されます。
もっとも上記不正行為等についての立証ハードルが高いことや、解任判決により解任された取締役を、会社が再任することまでは妨げられないことから、実務的にはあまり利用されていないのが実情です。
むしろ、会社法第423条の「取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」という規定に基づいて、当該取締役に対して損害賠償を請求する代表訴訟を提起するケースの方が多いと思われます。
上記のとおり、取締役に対する解任は、基本的には株主総会の決議により行う必要があります。
そのため、当該決議が適正な手続で行われたかどうかは重要です。以下、株主総会決議の手続について簡単に解説します(ここでは取締役会設置会社を念頭に解説します。取締役会非設置会社は手続が若干異なりますので注意しましょう。)。
まず、株主総会が開催されるまでの手続は次のとおりです。
株主総会の開催は、取締役会の決議により決定される必要があります(会社法298条4項)。
(株主総会の招集の決定)
第二百九十八条 取締役(前条第四項の規定により株主が株主総会を招集する場合にあっては、当該株主。次項本文及び次条から第三百二条までにおいて同じ。)は、株主総会を招集する場合には、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 株主総会の日時及び場所
二 株主総会の目的である事項があるときは、当該事項
三 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
四 株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
五 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項
4 取締役会設置会社においては、前条第四項の規定により株主が株主総会を招集するときを除き、第一項各号に掲げる事項の決定は、取締役会の決議によらなければならない。引用元:会社法298条
取締役会の決議は、法令上は取締役の過半数が出席し、そのうちの過半数の賛成が必要です(会社法第369条1項)。
(取締役会の決議)
第三百六十九条 取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。引用元:会社法第369条
なお、取締役会を開催するためには、法令上は開催日の1週間前までに各取締役に対して招集通知が必要です。
(招集手続)
第三百六十八条 取締役会を招集する者は、取締役会の日の一週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各取締役(監査役設置会社にあっては、各取締役及び各監査役)に対してその通知を発しなければならない。
この通知は解任予定の取締役に対しても通知されていなくてはなりません。しかし、当該取締役は、決議内容について特別の利害関係があるため、決議そのものには参加できませんので注意しましょう。
取締役会で株主総会の開催が決定された場合、法令上は、開催日の2週間前(非公開会社は1週間前)までに株主に対して所定の事項を記載した招集通知を発送する必要があります。
このような手続を経て株主総会が開催され、取締役の解任の可否が審議されることになります。
上記の手続のいずれかに問題がある場合には、株主総会決議の効力に影響する可能性があり、結果、取締役に対する解任決議の効力が否定される可能性もゼロではありません。
そのため、解任された取締役側としては、解任に至るプロセスに問題がなかったかの検証は必要でしょう。
株主総会の決議が適法におこなわれていた場合、解任の効力自体を争うことはできません。
しかし、解任に正当な理由がない場合、取締役は会社に対して解任により生じた損害(任期満了までの役員報酬相当額)を賠償するよう求めることができます(会社法339条2項)。
(解任)
第三百三十九条 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。引用元:会社法339条
ここで重要になるのが解任について「正当な理由」があるかどうかですが、正当理由の有無は、解任に至るまでの具体的事実関係を踏まえたケース・バイ・ケースの判断が必要となるため、一概にはいえません。
例えば、以下のようなわかりやすい落ち度や事情があれば、正当理由があると評価され賠償請求は難しいと言えそうですが、そのような落ち度や事情が明確に認められない場合には、損害賠償請求が認められる可能性があります。
「正当な理由」の判断においては、
これらのことを総合的に考慮して、会社と取締役との間の信頼関係を維持することが困難と言えるものかどうかだったのか、職務を委ねることができないと判断することもやむを得ない客観的な事情があるかどうかが、慎重に判断されます。
裁判上は、会社側が、中途解任について「正当な理由」を基礎付ける事実関係を主張・立証しなければならないので、解任された取締役としては、会社側の主張に根拠がないことを反論していくことになります。
そのため、会社側は、取締役を解任する前に、「正当な理由」があるかどうかを弁護士に相談するなどして十分に検討するべきでしょう。
また、解任された取締役は、会社に解任理由を明示してもらい、これが「正当な理由」たり得るのかどうかを弁護士に相談するなどして十分に検討するべきでしょう。
「正当な理由」なく解任され損害賠償できる場合において、その金額はどのくらいになるのでしょうか。
会社法339条2項は、任期満了までに受け取る報酬への期待を保護するものです。したがって、取締役は、会社に対し、任期満了までに得られたはずの役員報酬相当額を損害として請求することになります。
また、退職慰労金についても、支給基準や支給額が明確であるような場合には、退任時に支払われるはずであった退職慰労金との差額も損害として請求する余地があると思われます。
取締役の任期は公開会社(いわゆる上場会社)の場合は2年以内とされていますが(会社法第332条1項)、公開会社ではない株式会社は定款によって10年以内の任期を定めることができます(同条2項)。
(取締役の任期)
第三百三十二条 取締役の任期は、選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。
2 前項の規定は、公開会社でない株式会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)において、定款によって、同項の任期を選任後十年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することを妨げない。
3 監査等委員会設置会社の取締役(監査等委員であるものを除く。)についての第一項の規定の適用については、同項中「二年」とあるのは、「一年」とする。
4 監査等委員である取締役の任期については、第一項ただし書の規定は、適用しない。
5 第一項本文の規定は、定款によって、任期の満了前に退任した監査等委員である取締役の補欠として選任された監査等委員である取締役の任期を退任した監査等委員である取締役の任期の満了する時までとすることを妨げない。
6 指名委員会等設置会社の取締役についての第一項の規定の適用については、同項中「二年」とあるのは、「一年」とする。
7 前各項の規定にかかわらず、次に掲げる定款の変更をした場合には、取締役の任期は、当該定款の変更の効力が生じた時に満了する。
一 監査等委員会又は指名委員会等を置く旨の定款の変更
二 監査等委員会又は指名委員会等を置く旨の定款の定めを廃止する定款の変更
三 その発行する株式の全部の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを廃止する定款の変更(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社がするものを除く。)引用元:会社法第332条
もっとも、任期が10年とされる場合でも取締役が確実に任期満了まで同水準の報酬を受給し続けると言い切れない場合もありますので、必ずしも残存期間分の報酬相当額が直ちに損害と認められるとは限りません。
この当たりは、事案に応じた検討が必要ですので、実際にどの範囲まで損害と認められるかはケース・バイ・ケースといえます。
なお、特例有限会社(会社法施行前に有限会社として存在しており、株式会社に移行していない会社)の場合、取締役について明確な任期が定められていない場合もありますが、この場合も損害をどう評価するかは事案ごとの検討を要するでしょう。
上記のとおり、取締役の解任については、解任に至る手続が適正かどうか、解任に「正当な理由」があるか否かの判断について慎重な検討を要します。
とくにご自身が解任された理由が正当であるかどうかの判断は法的評価をともなうものであり、非常に難しい面があるため、弁護士に相談して見込みを確認するべきでしょう。
結果、「正当な理由」なく解任されたといえそうな場合には損害賠償請求を検討するべきでしょう。
その場合、最終的に法的手続で請求せざるを得ないことも多いと思われますので、弁護士への依頼を積極的に検討するべきでしょう。
なお、取締役が解任ではなく、辞任という形で自ら職を辞した場合には、上記のような損害賠償請求は難しいです。
しかし、辞任を強要された場合には、当該強要行為それ自体が不法行為となり損害賠償請求ができるケースもあるため、その場合も弁護士へ相談されるとよいでしょう。
取締役の解任については、労働者の解雇と異なる法律上の規律を受けるため、その有効性については労働者とは異なる観点からの検討が必要です。
当該検討は、事例的な検討となりますので、自身ではよくわからないという場合には、安易な判断はせずに早急に弁護士へ相談することをおすすめします。
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その際請求が出来るのは、解雇されたことにより受け取れなかった期待賃金になります。
ただし、解雇の不当性は弁護士を通じて正しく立証する必要があります。
不当解雇を防ぐために自己都合退職を迫る、「退職勧奨」の手口です。
会社から退職を勧められたとしても、それに従う必要はありません。今の会社に残りたいと考えるならば、拒み続けても問題ありませんので、安易に退職届にサインをするのは控えましょう。
それでもパワハラなどを絡めて退職を強要してきた場合には、損害賠償を請求できる可能性が生じますので弁護士に相談するのも一つの手です。
リストラ(整理解雇)を行うためには、選定の合理的理由や、解雇回避努力の履行など、企業側が満たすべき要件が複数あります。
上層部の私情によるものや、勤務態度や成績に依存しないリストラは認められないと定められています。
就業規則に明記されていない限り、会社が何らかの事由によって懲戒解雇処分を通知することは出来ません。まずは会社の就業規則を確認しましょう。
また、重大な犯罪行為や重大な経歴詐称など、著しく重要な問題に抵触しない限り懲戒解雇を受けることはありません。
会社の裁量基準に納得がいかず、撤回を求めたい方は早急に弁護士に相談しましょう。
前提として、企業は求職者を採用する際に長期契約を念頭において雇用契約を結ぶため、試用期間を設けられたとしても「向いてなさそうだから…」や「なんか気にくわない…」という理由で一方的に解雇することは出来ません。
もし解雇に妥当性がないと言い張る場合は、解雇の撤回を要求するか、解雇されなかった場合に受け取れるであろう期待未払い賃金の請求が可能です。