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割増賃金とは?残業代の仕組みと割増率の計算方法を詳しく解説

更新日
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤康二 弁護士
このコラムを監修
割増賃金とは?残業代の仕組みと割増率の計算方法を詳しく解説

割増賃金(わりましちんぎん)とは、残業(時間外労働、深夜労働、休日労働など)をした際に、労働者に対して基礎時給だけではなく、そこに一定割合を増額して支払う賃金のことです。

いわゆる「残業」をすると、会社(使用者)は「割増賃金(わりましちんぎん)」を払わなくてはいけません。

割増賃金の割合は一定ではなく、ケースによって異なっています。そこで残業代を計算するときには、「どれほどの割増率が適用されるのか」を正確に把握しておく必要があります。

相談者


私の会社(使用者)では、36協定の特別条項付き協定で1ヶ月の限度時間超えた時の割増賃金率は決まっていますが、1年間の限度時間を超えた時の(限度時間は960時間と決まっています)割増賃金率が決まっていません。

私の部署では数人が、平成22年より毎年1年間の限度時間超えて時間外労働をさせられています。会社(使用者)に1年間の限度時間を超えた場合の割増賃金率を決めて、過去にさかのぼって支払うよう請求したのですが、1年間の限度時間を超えた場合の割増賃金率を決めることは努力目標であり義務でないため、相当の割増賃金は支払わないと言われました。会社(使用者)の言うことは、正しいのでしょうか。

弁護士


残念ながら、支払義務はない可能性が高いです。ただ限度時間越えが恒常的であったり、超える時間が著しく多かったり、その他「時間外労働の限度に関する基準」に違反するようなことがあれば、監督署に申告などを行い、監督署に指導してもらい、場合によっては調査に入ってもらうべきです。

また、努力義務違反であっても、監督署に指導をしてもらうことは可能です。

引用元:あなたの弁護士

上記事例では、時間外労働に対応する割増賃金は支払われているようですが、いわゆるブラック企業と呼ばれる会社(使用者)の場合、この割増賃金を支払っていない(そもそも法律を理解していない場合も)ケースがあります。

本記事では、残業代の割増賃金の計算方法を解説するとともに、労働者の正当な権利である『残業代請求』をするための基礎知識をご紹介します。

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残業代の仕組み|割増賃金はいつ発生する?

まずは、『割増賃金』を理解するにあたって、『残業代の発生する仕組み』や『割増率』 について確認しておきましょう。

法定労働時間と36協定とは

会社(使用者)が残業させる、いわゆる『法定労働時間』を超えて労働者を働かせる場合、会社(使用者)と労働者の間で『36協定』という書面による協定を結び、所定の労働基準監督署への届出をしなければなりません。

割増賃金はきちんと支払っている」という会社の場合でも、この36協定の届出を行わずに時間外・休日労働に従事させる行為は「労働基準法違反」になります。

次に残業代の概念ですが、一般的には「法定労働時間(1日8時間以内1週40時間以内)を超えて働いた際に支給される残業手当」のことを指し、このような法定時間外労働に対して基礎時給に一定割合(割増率)をかけた割増賃金を支給する必要があります。

※特例が適用される場合には1週44時間

(労働時間)

第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

○2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

引用:労働基準法第32条

割増賃金が発生するのは、「法定労働時間を超えて働いたケース」です。そしてそれを超えて働いた場合には「割増賃金」が適用されます。その場合の基本の割増し率は1.25倍となります。

表:働き方で違う割増率

 労働時間

時間

割増率

時間外労働(法内残業)
※就業規則上の所定労働時間は超えているが法定労働時間は超えない

 1日8時間、週40時間以内

1倍(割増なし)

時間外労働(法外残業)
※法定労働時間を超える残業

 1日8時間、週40時間超

 1.25倍

 1ヶ月に60時間超

 月60時間を超える時間外労働

 1.5倍

 法定休日労働

 法定休日の労働時間

 1.35倍

深夜労働

22:00~5:00の労働時間

0.25倍

時間外労働(限度時間内) +深夜残業

時間外労働+深夜労働の時間

1.5倍

 法定休日労働 + 深夜労働

休日労働+深夜労働の時間

1.6倍

また、法定労働時間を超えた『時間外労働』には原則的な限度時間が定められており、『1か月45時間、1年360時間を超えないもの』とする必要があります。

参考:厚生労働省|法定労働時間と割増賃金について教えてください。

時間外労働の2つの種類|法定外残業と法内残業の違いとは?

時間外労働には「法定外残業」と「法内残業」の2種類があります。

法定外残業とは

上記でご紹介した「法定労働時間」を超えて働いた場合の残業です。この場合、割増賃金が支払われます。定められた基準は原則1日8時間以内、1週40時間以内です。

法内残業とは

法内残業は、会社(使用者)で取り決められている「所定労働時間」を超えて働いたけれども法定労働時間を超えていない場合の残業です。

例えば所定労働時間が7時間の方が8時間働いたら1時間の残業ですが、これは法定労働時間を超えていません。

すると法内残業となり、割増賃金の支払は不要です。ただ、契約で定められた以上の勤務がありますので、割増のない通常の賃金を超過時間分支払う必要があります。

深夜残業の場合の割増賃金は何時から発生する?

割増賃金は、「深夜労働」をしたときにも発生します。

具体的には午後10時から翌午前5時まで働いたケースでは、当該働いた時間について0.25倍の割増賃金が発生します。すでに表で説明していますが、法定外残業でかつ深夜残業の場合には、1.5倍の割増賃金が適用されることになります。

 労働時間

時間

割増率

時間外労働(限度時間内) +深夜残業

時間外労働が深夜まで及んだ場合

1.5倍

参考:深夜残業の定義と割増賃金|5つの誤解と深夜残業への対処法

固定残業の場合も深夜労働をすれば割増賃金は適応される

固定残業代制度とは、あらかじめ一定額の固定手当を割増賃金として支給する制度です。

あくまで一定額の割増賃金を先行して支払うに過ぎないものですので、仮に実労働時間に対応する割増賃金が固定支給額を超過するようであれば、当該超過分は当然清算しなくてはなりません。

よく誤解されますが、固定残業代制度は一定額の支給をした場合、それ以上の割増賃金の支払が不要となる制度ではありませんので注意してください。詳しくは「固定残業代の仕組み|適正な残業代の計算方法」をご覧ください。

休日労働の場合の割増賃金は?

休日に関して、労働基準法では『毎週少なくとも1回の休日または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならない』と規定しています。これを法定休日と言います。

(休日)

第三十五条 使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも一回の休日を与えなければならない。

○2 前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。

引用:労働基準法第35条

会社が『就業規則』で『この日は休日です』と定めていてもこれは『所定休日』の定めであり、必ずしも『法定休日』となるわけではありません。この場合、所定休日の労働は法定休日労働ではなく、時間外労働です。

法律上、法定休日を特定する必要がないため、会社において週1回の休日のうち任意の日を法定休日とするという取扱いも可能です。

なお、就業規則や運用において法定休日と定められた日に労働を行えば法定休日労働として1.35倍の割増賃金を支払う必要があります。

所定休日に労働を行った場合は、上記の通り時間外労働となりますので、これが1週40時間を超える労働となる場合は、1.25倍の割増賃金を支払う必要があります。

振替休日の場合はどうなる?代休との違いとは

振替休日

代休

  • 事前に休日と定めてある日を他の労働日と振り替えること
  • 前もって労働者との間で手続きが必要
  • 法定休日労働の後に、代わりの休日を与えること
  • 法定休日労働に該当
  • 休日手当は不要
  • その週において1週間の法定労働時間を超えた場合は、超えた分の時間外手当(1.25倍以上)が必要
  • 代わりの休日を与える・与えないに関わらず、労働させた法定休日について、休日手当(1.35倍以上)が必要

割増賃金の支払義務が発生する場合としない場合

法律により、法定外残業を行わせた場合には必ず割増賃金を支払わねばならないことになっていますが、法内残業の場合には法律上は割増賃金の支払いは要求されていません

しかし、会社が就業規則で法内残業についても割増賃金を支払う旨を規定していた場合は、法内残業についても契約上の権利として割増賃金を請求できます。一度、確認しておくとよいでしょう。

残業時間に応じた割増賃金と割増率の計算例

割増賃金は、単純に法定労働時間を超えたら1.25倍すれば良いというだけのものではありません。以下では基本的な残業代計算方法といろいろな割増賃金率について、解説します。

基本的な割増賃金の計算方法

残業代を計算するときには、以下のような計算式を使います。

【1時間あたりの基礎賃金】×【時間外労働の時間】×【割増率(1.25)】

1時間あたりの基礎賃金=【月給】÷【1ヶ月あたりの平均所定労働時間】

1時間あたりの基礎賃金は、月給から割増賃金の算定基礎とならない手当を控除した金額を月の平均所定労働時間で割って計算します。

この「算定基礎とならない手当」は、法律上、家族手当・通勤手当・住宅手当・臨時の手当などとされています。なお、固定残業代制度を実施している場合、そのような固定残業代も算定基礎からは除外されます。

基礎部分から除外する7つの手当

家族手当

扶養家族に応じて支給される手当

通勤手当

通勤にかかる費用に対する手当

別居手当

通勤などで家族と離れて生活し、生活費増加に対する手当

子女教育手当

扶養している子供の教育に対する手当

臨時の賃金

結婚手当など

ボーナス

―――

住宅手当

住宅費の負担を軽減するための手当

なお、上記の手当に該当するかどうかは賃金名目だけでなく実態から判断されます。そのため、名目的には「家族手当」「住宅手当」とされていても、実態として従業員の属性にかかわらず一律支給されるような手当は、除外賃金とはなりません。

1時間あたりの基礎賃金(基礎部分)の算出

時給の場合

時給1,000円であれば1,000円が基礎部分

日給の場合

日給8,000円の場合(8時間労働とする)

日給額÷1日の所定労働時間

=8,000円÷8時間=1,000円

月給の場合

1ヶ月あたりの平均所定労働時間で割った額

(月給24万円、1ヶ月の平均所定労働時間160時間の場合)

24万円÷160時間=1,500円

月平均所定労働時間は年間の所定労働時間を12ヶ月で割って計算

年間労働時間:2,052時間の場合

2,052時間÷12ヶ月=171時間

所定労働時間は、各会社(使用者)によって決まっていますが、だいたい170時間程度であることが多いです。残業時間を計算するときには、端数切り捨てが禁止されているので1分単位で計算する必要があります。

割増率の適応

 労働時間

時間

割増率

時間外労働(法内残業)
※就業規則上の所定労働時間は超えているが法定労働時間は超えない

 1日8時間、週40時間以内

1倍(割増なし)

時間外労働(法外残業)
※法定労働時間を超える残業

 1日8時間、週40時間超

 1.25倍

 1ヶ月に60時間超

 月60時間を超える時間外労働

 1.5倍

 法定休日労働

 法定休日の労働時間

 1.35倍

深夜労働

22:00~5:00の労働時間

0.25倍

時間外労働(限度時間内) +深夜残業

時間外労働+深夜労働の時間

1.5倍

 法定休日労働 + 深夜労働

休日労働+深夜労働の時間

1.6倍

法定外残業60時間/月を超える場合は割増率が1.5倍となることも

法定外残業の割増賃金は1日8時間、1週間に40時間を超えて働いたときに発生し、割増率は1.25倍です。

しかし、中小企業に該当しない事業主の場合、法定外残業時間が月に60時間を超える場合は、この超えた分の割増率は1.25倍から1.5倍に増加することとされています。

ただしこれは大企業に限られており、中小企業の場合、現状では1.25倍以上にとどまっています。中小企業の定義は法律に定められていますので、気になる場合は確認してみましょう。

参考:労働基準法が改正されます(平成22年4月1日施行)

法定休日労働をした場合は基礎時給の1.35倍

労働基準法によると、労働者を雇用するときには週に1日以上の「法定休日」を与える必要があります。休日労働の割増率は1.35倍です。

深夜残業をした場合は基礎時給の0.25倍

22時~5時の深夜帯に労働した場合、これが通常の労働時間でも、時間外労働時間でも、休日労働時間でも0.25倍の割増賃金が加算されます。

時間外労働と深夜残業の場合は1.5倍

時間外労働が深夜帯に食い込む場合には当該深夜帯の労働には1.25+0.25=1.5の割増率が適用されます。

休日労働と深夜残業の場合1.6倍

法定休日労働が深夜帯に食い込む場合には当該深夜帯の労働には1.35+0.25=1.6の割増率が適用されます。

大企業の場合は割増率が1.75倍になる可能性も

大企業では、月に60時間を超えて時間外労働をさせると当該超えた部分について1.5倍以上の割増賃金を払わねばなりません。この場合に当該超えた部分が深夜労働となるような場合、割増率は1.75倍にもなります。

【関連記事】時間外手当の正しい計算方法とは|未払い時の請求方法も併せて解説

時間外労働に対して残業代の割増賃金なしは正当?

時間外労働をして残業した場合、会社(使用者)が割増賃金を支払ってくれなかったら違法になるのでしょうか?

就業規則で規定がある場合

たとえば就業規則において「割増賃金を支払わない」と書いてあったら、残業代に割増賃金が適用されなくても合法なのでしょうか?

そのようなことはありません。

割増賃金は労働基準法で決まっている雇用者の強制的な義務であり労働者の権利です。就業規則に規定したとか、労使間で合意したという事情があっても、法律に違反するような取り決め・合意は無効です。

したがって、法律で認められた変形労働時間制度や裁量労働制度を実施しているというような場合でない限り法定労働時間を超えて働かせたり、休日・深夜に働かせた場合、必ず法令で定める割増率に基づく割増賃金を支払う義務があります。

会社(使用者)から

  • 「就業規則で決まっている」
  • 「うちは残業代を払わないことになっている」
  • 「うちでは割増賃金は適用しない」

などと言われても、それが正しい主張であるかどうかは吟味する必要があります。どうしても気になるようであれば労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。

労使協定(36協定)を結んでいない場合の残業命令は違法

雇用者が労働者に法定時間外労働(1日8時間、1週間に40時間を超えた時間の労働)をさせる場合、必ず「36協定」を締結して労働基準監督署に提出する必要があります。

36協定とは、過半数労働組合や過半数代表者が会社(使用者)が締結する協定です。

残業させる場合や対象となる労働者、残業時間などを記載して、「どのような場合にどれだけ残業をさせる可能性があるのか」を明らかにします。

そして、これを労基署に提出しなければなりません。36協定を締結していても労基署に提出していなければ違法となってしまいます。

36協定の締結や労基署への提出が行われていない場合、割増賃金以前に「法定外残業」が許されません。また36協定の締結・労基署への提出をしていても、割増賃金の支払いは必要であり、支払っていなかったらもちろん違法です。

無制限に働かせてよいわけではない

36協定を締結しても、無制限に残業(法定外残業)させてもよいわけではありません。36協定で決めることのできる法定外残業時間には上限が設けられているからです。

具体的には、以下が法定外残業時間の限度となります。

期間

一般の労働者の場合

1年単位の変形労働時間制の場合

1週間

15時間

14時間

2週間

27時間

25時間

4週間

43時間

40時間

1ヶ月

45時間

42時間

2ヶ月

81時間

75時間

3ヶ月

120時間

110時間

1年間

360時間

320時間

36協定の「特別条項」をつけていれば上記の上限を超えて働かせることも可能ですが、特別条項には一定の手続きが定められていたり、特別条項の限界が定められたりしていることが多いです。

しかし、現実には特別条項の定めを守らずに違法な長時間労働を課しているケースもあるので、注意が必要です。

なお、繰り返しとなりますが、36協定の上限時間や特別条項の延長時間は「残業をさせてもよい」という意味であり、「割増賃金を払わなくてよい」という意味ではありません。

したがって、36協定の定めや内容にかかわらず、時間外・休日・深夜労働に対しては割増賃金の支払いが必要となります。間違わないようにしてください。

例外的な雇用形態もある

例えば、アパレルなどのサービス業では繁忙期と閑散期があります。「12月の年末商戦時期は時間外労働が増加するが、2月の閑散期は時間外労働が短くなる」という事態も想定できるわけです。

時間外労働をすれば時間外手当として、会社は残業代を支払う義務が発生しますが、人件費の面ではあまり効率がよくありません。その対策として、12月の所定労働時間を増やす分、2月の所定労働時間を減らす、といった『変形労働時間』を採用している場合もあります。

このように法律で認められた変則的な雇用形態もありますので注意してください。

未払い残業代を請求したい場合は弁護士に相談しよう

未払い残業代が発生している方はたくさんおられますが、具体的にどのような証拠を集めたらよいのか、またどうやって割増賃金を計算したらよいのかわからないので請求できないケースが多数です。

結局、残業代を請求せずに時効を迎えてしまいます。

そのようなことで終わらせてしまっては非常にもったいないので、弁護士に相談して割増賃金の請求手続きを進めましょう。労働問題に強い弁護士ならあなたの助けになってくれるので、勇気を出して相談してみてください。

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この記事の監修者
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤康二 弁護士 (第二東京弁護士会)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。
編集部

本記事はベンナビ労働問題(旧:労働問題弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ労働問題(旧:労働問題弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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