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雇用保険と社会保険の違いを保障と加入条件で解説【未加入時の対策付き】

更新日
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤康二 弁護士
このコラムを監修
雇用保険と社会保険の違いを保障と加入条件で解説【未加入時の対策付き】

労働者が雇われる上で、加入していなければならないものが、雇用保険と社会保険です。

通常、会社は従業員を雇う際の手続きで、雇用保険(社会保険)に加入させる義務があります。しかし、稀に雇用保険(社会保険)が未加入である会社があります。

率直に言うと、従業員の雇用保険(社会保険)が未加入の企業は違法の可能性があります。一見、労働者は手取りの給料がそこまで下がらず、気づかないかもしれませんが、後々になって問題が生じてきてしまいます。

今回は、雇用保険(社会保険)に未加入だった場合に生じる問題と、雇用保険(社会保険)未加入の企業で働いていた方への対処法を解説していきます。
 

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雇用保険と社会保険に加入させることは義務

冒頭でもお伝えしましたが、会社が労働者に雇用保険の加入をさせることは義務となります。会社が労働者を雇うと、会社は翌10日までにハローワークに届出を行わなくてはなりません。もし、これを怠った場合、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が設定されています。

また、社会保険も同じく雇用保険に比べると条件は緩いものの一定の条件を満たすと、加入の義務が生じます。同じく、未加入だった場合は、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金になります。

雇用保険と社会保険の違い

まず「雇用保険と社会保険はどう違うんだ?」と思っている方も多いのではないかと思います。

普通に給料を貰っているだけだと、なかなか意識しない部分ですからね。最初に、簡単に雇用保険と社会保険の違いをご説明します。後述で詳しくそれぞれ解説を行ないます。

取り扱っている保険内容が違う

労働保険も社会保険も一緒になって考えている方も多いと思いますが、実は雇用時に掛けられる保険は4種類あります。そして、それらを大きく2つに分けて労働保険と社会保険と呼ばれています。

労働保険

失業時の補償(失業手当てなど)をしてくれる雇用保険と、労働災害時の補償をしてくれる労災保険を総じて労働保険と言います。

労災保険は、加入が強制的で保険料も会社が全額負担ですので、「加入している」という認識が薄いのですが、労災保険もしっかりとした保険です。

社会保険

医療費負担や傷病・出産時の補償をしてくれる健康保険(いわゆる保険証での補償です)と、会社が半分年金を納めてくれる厚生年金保険の2つを総じて社会保険と言います。表にまとめると、以下のようになります。

労働保険

社会保険

雇用保険

労災保険

健康保険

厚生年金保険

補償

内容

失業時・休業時の補償

労働災害時の

補償

医療費負担

傷病・出産手当

年金

労働者

負担額

給与の0.3(0.4%)

(会社負担:

0.65~0.85%)

負担なし

(全額会社負担)

給与の約5%

(半額会社負担)

給与の約9.15%

(半額会社負担)

加入の条件が違う

雇用保険(労災保険は強制加入です)と社会保険では、加入の条件が違います。後述しますが、簡単に説明すると、雇用保険の加入は厳しい条件で義務付けられており、社会保険は幾分緩い条件になっています。

ですので、非正規社員の方には雇用保険には加入しているけど、社会保険には未加入ということもあり得ます。正規社員の方は、普通、どちらの条件にも当てはまるので、両方に加入していることが一般です。

以前の管轄が違う

なぜ、大きく2つに分けられているかと言うと、以前の管轄がそれぞれ違ったからです。労働保険は以前、労働省が管轄していました。一方、社会保険は、厚生省が管轄していました。

2001年に労働省と厚生省は、厚生労働省に統合されましたが、以前の労働保険と社会保険の管轄の違いが今も名残として残っているのです。

雇用保険と社会保険に加入させる義務が生じる条件

雇用保険・社会保険は、労働者がある一定の条件を満たしていれば、上記のように加入の義務が生じてきます。「労働者が加入を希望していない」「アルバイトだから」と言った理由で雇用保険(社会保険)を未加入にすることは出来ません。

雇用保険加入の義務が生じる条件

まずは、雇用保険の加入の義務が生じる条件からご説明します。雇用保険加入の義務が生じるのは、以下2点の条件を満たした場合です。繰り返しますが、これは義務になります。「申請しなければいい、労働者が加入を希望していないから大丈夫。」というわけではありません。

1週間の所定労働時間が20時間以上

通常の正規社員であれば、週に20時間超えて働くことは当たり前でしょう(1日8時間労働で5日働けば40時間)。一方、パート・アルバイトなどの非正規社員であっても、週に20時間以上働くようであれば加入の義務が生じます。

ですので、1日4時間の短時間アルバイトであっても、週に5日以上働けば超えますし、週に3日出勤でも1日8時間働いているようでしたら、20時間は超えて、雇用保険加入の義務が生じます。

31日以上引き続き雇用される見込みがある

正規社員として雇われるとなると、31日以内の超短期で雇われることはまず無いと思います。31日以上雇用の見込がある場合は、加入の条件に当てはまります。

また、パート・アルバイトなどの非正規社員であっても、業務を教えたり、採用・求人を繰り返すと手間と費用がかかります。非正規社員も、イベントの手伝いであったり、シーズン毎の人員増員などでない限りは、31日以内の短期の雇用も少ないかと思います。

社会保険加入の義務が生じる条件

社会保険加入の条件は、雇用保険より若干緩めになります。そして、同じくこちらも義務になりますので、使用者・労働者の意向で未加入にすることは違法になります。

会社が社会保険の適用事業所である

「社会保険の適用事業所ってなんだ?」と思われる方も多いと思われますが、一般的な株式会社・有限会社は適用事業所になっています。ここで言う適用外は、個人経営のお店などになります。

正規社員のおおむね3/4以上の労働時間がある

正規社員の方は、必然的に満たしていることになりますね。一方、パート・アルバイトの非正規社員は、この労働時間に当てはまっているかを確認しなければなりません。

おおむね3/4以上とは、例えば、正規社員が1日8時間労働・1週間40時間労働であった場合、1日6時間以上、1周間30時間労働の場合加入の条件となります。また、”おおむね”とは、会社によって若干の違いがあります。

雇用契約期間が2ヶ月以上

雇用保険は31日以上でしたが、社会保険の加入条件は2ヶ月以上の雇用の見込がある場合になります。

なお、2022年10月1日に厚生年金保険法・健康保険法が改正され、社会保険の適用範囲が拡大されます。特定適用事業所で働く者の中で以下の要件を満たす場合、短時間労働者であっても社会保険への加入が義務となります。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 雇用期間が1年以上見込まれる
  • 月の賃金が8万8,000円以上
  • 学生でない

「特定適用事業所」とは、短時間労働者を除く被保険者数が501人以上の事業所を指していましたが、2022年10月1日の法改正以降は「101人以上」の事業所に変更されます。また、2024年10月からは「51人以上」の事業所も対象となることが決まっています。

参考:厚生労働省|年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました

雇用保険と社会保険に加入するメリット

以上のように、加入が義務付けられている雇用保険と社会保険。正規社員の方で加入条件に当てはまらない方は、まずいないと思います。

”保険”というだけあって、退職もせず、怪我・病気もせずに普通に働いていると、なかなかそのメリットを感じづらいかと思います。

むしろ、毎月手取りからいくらか引かれていて「また引かれているよ」と不満に思っているのではないでしょうか。上記の条件で雇用時に加入する保険の種類は4種類です。

それぞれのメリットをご説明します。デメリットは”手取りが少し減る”ということくらいでしょうか。

雇用保険加入のメリットは失業・転職の際の保障がしっかりしている点

雇用保険の大きなメリットは、失業時の再就職までの失業手当(7,000円前後×90~150日分)等が給付されることです。また、育児・介護休養の際の補償(給与の約67%)もしっかりしています。

労災保険加入のメリットは怪我や病気になった場合の補償がある点

労災保険は、上記の加入の条件には当てはまらず、雇用された時点で全従業員加入が義務付けられ、保険料も会社が全額負担になります。労働が原因となって怪我・病気になった際に補償がされます。

健康保険加入のメリット

病院での治療費が3割になる

保険証で治療費負担は聞いたことがあると思います。会社で加入する健康保険と、個人で加入する国民健康保険のどちらでも補償されます。

国民健康保険との違い

しかし、国民健康保険では補償されない部分も健康保険では補償してくれます。傷病により、仕事を休んだ際の傷病手当金(給与の約60%)、妊娠・出産時の出産手当金(給与の約60%)の補償は、国民健康保険では、補償がされません。

また、国民健康保険には、扶養という概念がないため、家族が増えれば増えるだけ保険料も上がっていく仕組みになっています。健康保険は、一律で扶養家族の治療費等もまかなえるのです。

厚生年金保険加入のメリット

「将来年金が支払われるか分からない」という話は置いといて、年金の種類も、会社で加入する厚生年金と個人で加入する国民年金の2種類があります。

厚生年金は、会社が保険料を半分負担してくれ、受け取れる金額も国民年金よりも多くなっています。将来のことまで考えれば、安く入れて多くもらえる厚生年金がお得だということが分かるでしょう。

雇用保険と社会保険はいくらぐらい引かれているのか

それでも気になる方は多いと思います。「一体給料からどれくらい引かれているんだ」と。こちらでは簡単にですが、雇用保険・社会保険に引かれている金額を解説します。

厚生保険料の労働者負担額

雇用保険料の労働者負担額は、給与の0.5%になります。農林水産業・清酒製造業・建築業の方は給与の0.6%です。この厚生保険の金額はもっと高く、実質会社が半額以上負担していることになります。

健康保険料の労働者負担額

健康保険料の場合、給与の約10%が健康保険料になり、そのうちの半分を会社が負担してくれるため、労働者負担額は、給与の約5%程度になります。

これは、都道府県や年齢などで若干パーセンテージが変わってきます。もう少し詳しく知りたい方は「令和4年度保険料額表」をご覧ください。

厚生年金の労働者負担額

厚生年金保険料の場合も、年々上がってきているため一概にいえませんが、約17.5%が厚生年金保険料になり、その半分を会社が負担してくれるため、約8.7%の保険料が月々引かれていることになります。詳しくは「日本年金機構 保険料額表」をご覧ください。

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雇用保険・社会保険に加入しているかどうかの確認方法

上記の補償内容や保険料は、あくまで、会社で雇用保険・社会保険に加入していた場合です。悪質な会社は、違法に雇用保険・社会保険に加入していない場合があります。「給与明細で確かに保険料引かれているし大丈夫」と思っていても安心してはいけません。

「保険料だけ天引きされていて、雇用保険・社会保険に加入していなかった。保険料はネコババされていた。 」という、非常に悪質な企業も過去に存在していたのです(この場合すぐ弁護士に相談して下さい)。

そこで、雇用保険・社会保険に加入しているかどうかの確認方法をご説明します。

雇用保険の加入確認方法

雇用保険の場合は、ハローワークで確認をとって下さい。身分書を持って、雇用保険被保険者資格取得届出確認照会票をハローワークに提出するだけで確認が取れます。

労災保険の加入確認方法

労災保険の場合、労働基準監督署の労働保険適用担当の方に確認をとってみましょう。

健康保険の加入確認方法

健康保険は、加入後に会社から保険証が配布されるので、そちらがあれば問題ありません。

厚生年金保険の加入確認方法

厚生年金の加入の確認方法は、年金事務所の相談窓口に年金証書と、年金手帳もしくは年金加入者証を持って確認が出来ます。また、自宅に日本年金機構から年に1度届く「ねんきん定期便」でも確認することが可能です。

雇用保険・社会保険に未加入だった場合の対処法

各保険の未加入が判明した場合は、それぞれの機関へ相談します。労働問題だからといっても必ず労働基準監督署ではないのです。また、いざ手当を申請しようとした際に未加入が発覚した場合も、過去の未払いをさかのぼり支払うことで加入していたことにも出来ます。

雇用保険未加入時の相談先

雇用保険未加入時の相談先は、ハローワークになります。「全国ハローワークの所在地案内

労災保険未加入時の相談先

労災保険未加入時の相談先は、労働基準監督署の労働保険適用担当です。「都道府県労働局所在地一覧

健康保険の未加入時の相談先

社会保険未加入時の相談先は、全国健康保険協会のサイトから「都道府県支部ページへ」を選択してもらい、各支部から相談ができます。

厚生年金未加入時の相談先

厚生年金未加入時の相談先は、日本年金機構の「ねんきんダイヤル」から相談して下さい。

まとめ

いかがでしょうか。会社員として働いていると、ついつい目の前の給料や労働環境に意識が行きがちですが、それ以外の会社からのバックアップがしっかりされているかを確認して下さい。

いざとなった時や、家族ができた場合、やはり「あって良かった」と思えるものです。雇用保険などが未加入の疑いがあれば、然るべき機関に相談をし、会社に改善を行ってもらえるように相談しましょう。

もし、保険料を会社に支払っていたつもりで実は未払いだったような悪質な場合は、労働問題を得意とする弁護士に相談してみてください。場合によっては、損害賠償を請求できる可能性も出てきます。

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この記事の監修者
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤康二 弁護士 (第二東京弁護士会)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。
編集部

本記事はベンナビ労働問題(旧:労働問題弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ労働問題(旧:労働問題弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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