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残業代が請求できない9パターン|雇用形態・業種別で徹底解説

更新日
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤康二 弁護士
このコラムを監修
残業代が請求できない9パターン|雇用形態・業種別で徹底解説

一般的に、労働基準法の定める法定労働時間を超えて働いたら「時間外労働の割増賃金(残業代)」を請求できます。しかし、中にはそのとおりに残業代を計算しない雇用形態があります。

表:残業代を請求できない労働者の例

事業場外のみなし残業代

外回り営業職 など

裁量労働制

専門職や経営企画に携わる労働者

フレックスタイム制

フレックスタイムを適用している労働者

固定割増賃金制度

適法な固定残業代を導入しているケース

管理監督者

経営者と一体的立場にある労働者

天候や自然条件に左右される労働者

農業や林業、漁業など

断続的業務の労働者

手待ち時間の多い運転手や事故待ちの業務など

公務員全般

地方公務員、国家公務員、公立の教員など

以下ではどういったケースで残業代請求できないのか、解説していきます。

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【雇用形態・業種別】残業代の請求ができない9のケース

勤務先に残業代の請求をしても払ってもらえないケースにはどのようなものがあるのか、みてみましょう。

労働基準法では、残業代を支払わなくても良いケースがいくつか定められています

つまり、法律に従った適正な運用が行われていれば、残業代を支払わなくても違法になりません

たとえば以下のようなケースがあります。

みなし労働時間制(事業場外労働)が適正に運用されている場合

外回りを行う営業職の方など、事業場外(会社の外)で勤務して労働時間の把握が困難な場合には、「みなし労働時間制」が適用できます。この場合、実労働時間に拘わらず、労働者の労働時間は一定時間とみなされます。

第三十八条の二 労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。

引用元:労働基準法 第四章 第三十八条の二

外回りの営業職に適応が多い

外回りを行う営業職や、営業職でなくても社外で働く人については、正確な労働時間を把握するのが難しい場合があります。

このような場合、労働時間を一定時間とみなすことを法は認めています。

この「一定時間」については、「所定時間分働いたとみなす」場合と「通常その業務を遂行するのにかかる時間分労働したとみなす」場合があります。

前者の場合は雇用契約等で決まった労働時間を意味し、後者の場合は当該業務を処理する上で通常ようすると認められる時間を意味します。

(この時間を労使協定で定めることも可能です。)

「みなす」の種類

労使協定

時間外労働手当

所定時間分働いたとみなす場合

不要

不要

通常その業務を遂行するのにかかる時間分労働したとみなす場合

不要(任意)

みなし時間による

みなし労働時間制が適用されない3つのケース

みなし労働制は、あくまで事業場外の勤務により、労働時間の把握が困難である場合に限り認められる例外的な制度です。

そのため、事業場外の勤務であっても労働時間の把握が困難とはいえない場合は、同制度の適用はありません。

例えば、以下のようなケースが考えられます。

1:何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合

2:携帯電話やメールによって随時使用者の指示を受けながら事業場外で労働している場合

3:事業場において、訪問先・帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後、事業場に戻る場合

参考:都道府県労働局|事業場外労働のみなし労働時間制

裁量労働制が適正に運用されている場合

次に「裁量労働制」が適用されるケースがあります。

裁量労働制とは、高度に専門的な業務や企画立案を行う業務に従事する労働者に適用される制度です。

裁量労働制の下では労働力を労働時間ではなく、一定の成果で評価すべきであるとの考え方の下で実労働時間に拘わらず、労働時間を一定時間にみなすことが認められます。

実労働時間にかかわらず、労働時間は一定時間となるため、当該一定時間の範囲で時間外労働が生じない限り残業代は発生しません。

逆に実労働時間が短くても賃金が減らされることはありません。

もっとも、裁量労働制による例外的効果は時間外労働にしか及びませんので、休日・深夜の労働が行われた場合は、別途割増賃金が発生します。

休日・深夜労働についても一定時間とみなすことはできないということです。

労働制には2つの種類がある

裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」があります。

専門業務型とは、専門性が高く、労働者の自主性が重視されるべき業務を対象とする制度です(具体的には、下表で列挙したような業務を対象とします。)。

一方、企画業務型は、企業において企画、立案、調査、分析を行う業務で、労働者の自主性が重視される業務を対象とする制度です。

企画業務の場合は、専門業務のように対象業務は特に決められていませんが、その分制度実施のための手続きは複雑かつ厳格です。

裁量労働制の適用可否に注意

専門業務型裁量労働制は、対象となり得る業務が法令と通達によって限定的に列挙されています。

これら業務に該当しない労働者に、専門業務型裁量労働制を適用することはできませんので、注意しましょう。

1

新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務

2

情報処理システムの分析又は設計の業務

3

新聞、出版の事業における記事または放送番組、有線ラジオ放送、有線テレビジョン放送の放送番組の制作の取材または編集の業務

4

衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務

5

放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務

6

コピーライターの業務

7

システムコンサルタントの業務

8

インテリアコーディネーターの業務

9

ゲーム用ソフトウェアの創作の業務

10

証券アナリストの業務

11

金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務

12

大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)

13

公認会計士の業務

14

弁護士の業務

15

建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務

16

不動産鑑定士の業務

17

弁理士の業務

18

税理士の業務

19

中小企業診断士の業務

参考:厚生労働省|専門業務型裁量労働制

フレックスタイム制の適正な運用がなされている場合

適正な労使協定を締結することでフレックスタイム制を導入することができます。

フレックスタイム制度は労働時間を1か月以内の一定単位(1ヶ月であることがほとんどです。)で管理し、賃金精算を行う制度です。

このように、フレックスタイム制度ではあくまで一定期間単位で労働時間を集計しますので、「1日8時間、1週間に40時間」という法定労働時間を超過して働く日があっても、直ちに残業代は発生しません

最終的に集計した労働時間と法定労働時間を照らして、時間外労働があれば割増賃金の請求が可能となります。

もっとも、フレックスタイム制も休日・深夜労働については適用対象外ですので、休日・深夜の労働については別途集計して割増賃金の精算が必要です。

【関連記事】

フレックスタイム制とは|仕組みと制度のメリットデメリットをわかりやすく解説

固定残業制の適正な運用がされている場合

会社は一定の要件の下で、毎月一定の割増賃金を固定支給することが可能です。

このような適正な固定割増賃金制度が実施されている場合は、当該固定支給分については割増賃金の支払いをしたものとして処理されますので、固定支給分を超える割増賃金が発生しない限り、別途の精算を求めることはできません

もっとも、このような固定割増賃金制度が適法と認められる要件はかなり厳格であり、雇用契約や就業規則で固定割増賃金部分と基本給部分を明確に区別して定めていること。

客観的に見て固定割増賃金部分が時間外・休日・深夜労働などの残業の対価として支給されていると認められることが必要です。

このいずれもが認められる場合でない限り、固定割増賃金制度の適法性は認められず、固定支給分を割増賃金の支払いと評価することはできません。

残業代・割増賃金が適正に支払われている場合

会社が残業代や割増賃金を適正に計算してこれを支払っているのであれば、当然、追加での残業代請求は認められません。

残業代の計算式

残業代は、以下のような計算式で計算します。

1時間当たりの基礎賃金額×残業時間×割増賃金率

1時間当たりの基礎賃金額は、月額賃金から法令に基づいて除外される賃金を差し引いた金額を月平均所定労働時間で割って算定します。

割増賃金の計算

割増賃金率は以下の通りです。

・1日8時間以上、1週間40時間以上の時間外労働の場合…1.25倍

・午後10時から翌午前4時までの深夜労働の場合…0.25倍

・時間外労働かつ深夜労働の場合…1.5倍

会社が、労働時間、基準賃金、月平均所定労働時間を正しく把握し、適正な割増率を乗じて割増賃金計算を行い、これを支給しているのであれば、追加請求はできません

休日労働の適正な運用がなされている場合

休日労働した場合にも割増賃金が発生します。休日労働の割増賃金率は、1.35倍です。

休日に深夜労働を行った場合には割増し率が1.6倍となります。

労働基準法の管理監督者である場合

従業員が労働基準法の定める「管理監督者」に該当する場合も、時間外・休日労働に係る割増賃金の請求はできません

多くの企業は、管理職以上を管理監督者として取り扱い、割増賃金を支給していません。

しかし、管理監督者とは「経営者と一体的立場にある労働者」を意味するとされており、これに該当するかどうかは、会社での人事権限の有無・程度、経営の意思決定への参画の有無・程度、業務量・業務時間に対する裁量の有無・程度、職責に見合う待遇の有無など諸般に事情を総合的に考慮して判断されます。

そのため、「課長」「マネージャー」「部長」などのタイトルが付されているから、直ちに管理監督者に該当するというものではないのです。

実質的な考慮に基づき、管理監督者に該当するような場合は時間外・休日労働の割増賃金を請求することはできません(深夜労働に係る割増賃金は請求できます。)。

他方、これに該当しない場合はたとえ管理職とされていても実労働時間に応じた時間外・休日・深夜労働に係る割増賃金を請求できます。

法律で残業代の支給がない3種類の業務に就く場合

法律により、残業代の支給がない業種もあります。それは以下のようなものです。

天候や自然条件に左右される業務

農業や林業、水産業や畜産業など、自然の天候やその他の条件に左右される業種の人は、毎日同じ労働条件で働くことはできません。

繁忙期と閑散期もあり、労働時間の管理が難しくなります。そこで労働基準法上の法定労働時間の規定になじまないと考えられており、個別の残業代計算をしません。

自然条件に左右される業務の例は以下のようなものです。

  • 農業による農作物の栽培や刈り取り
  • 林業による植林や伐採
  • 土地の耕作や開墾
  • 動物の飼育
  • 漁業による水産物採取
  • 養殖業

監視業務を行う労働者

監視業務とは、専ら監視を業務とし、状態として身体・精神の負担が少ない業務に従事する従業員です。

これらの業務に従事する労働者については、時間外・休日労働の割増賃金は発生しません。

たとえば以下のような業務はこれに該当する可能性があります。

  • モニターやメーターの監視者
  • 守衛、門番

他方、交通誘導業務や危険・有害な場所で行う監視業務については、高度な緊張を強いられるのでこれに該当しない可能性があります。

もっとも、いずれの場合もケース・バイ・ケースであるため、監視業務に該当するかどうかは慎重な判断が必要です。

断続的に働く労働者

断続的労働とは、実作業が断続的に行われており、手待ち時間が多い業務です。この業務に従事する労働者についても、時間外・休日労働の割増賃金は発生しません。

たとえば以下のようなケースが断続的労働に該当する可能性があります。

  • 役員の専属運転手
  • 貨物の積み卸し業務
  • 警備業務
  • 事故の発生に備えて待機する業務

なお、監視業務や断続的労働者の業務で残業代を払わないためには労基署の許可が必要となりますので、実際これら業務に該当するとされるケースはほとんどありません。

公務員である

公務員の場合、そもそも労働基準法の適用外なので、個別の残業代は発生しません。

残業代が請求できるかどうかは適正な運用がなされているかが重要

このように、労働時間制は種々あり、残業について通常の労働時間とは異なる評価が必要となるケースも多々あります。

そのため、実際に残業代が発生しているかどうか気になる場合、労働法令に詳しい弁護士などに相談することをおすすめします。

まとめ

ふだん残業代をもらえていないと感じているなら、実際に不払いになっている可能性が濃厚です。

残業代を請求できないケースはそう多くはありませんので、疑問に感じているならば、早めに解消しておくべきです。お困りの方は、お早めに弁護士まで相談してみましょう。

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この記事の監修者
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤康二 弁護士 (第二東京弁護士会)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。
編集部

本記事はベンナビ労働問題(旧:労働問題弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ労働問題(旧:労働問題弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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